入学編 2
とうとう主人公の創が私立 幻実館高校専門学校に行きます。
これからの青春を一緒に過ごす仲間に出会います。
陰キャの創の応援お願いします。
四月、大阪駅に私立 幻実館高校専門学校の制服であるベストを着た創が手紙を手にキョロキョロしながら歩いていた。そして、その手紙の通りに、大阪駅内のショッピングビルのエレベーターの前に辿り着いた。
「えっと、このエレベーターに乗る時の注意事項・・・。『エレベーター内で何が起こっても、絶対に話さないこと。エレベーターの外に出ないこと。』?」
創は首を傾げるも、手紙を握りしめたまま、エレベーターに乗り込んだ。エレベーターの扉が不気味なくらい静かに閉まった。
そして、創はまず4階のボタンを押した。エレベーターは静かに4階に到着し、扉が開いた。そこには、誰もいなかった。それ以降も、創は2階、6階、2階、10階のボタンを押し、エレベーターは下降、上昇し続けた。創は不安そうな顔でエレベーターの扉を見続けていた。創は、最後に10階に到着し、5階のボタンを押した。5階に到着し、扉が開くと、髪が長くヘドロを被ったような若い女性がエレベーターに乗り込んできた。創はその不気味な女性に恐怖を感じ、声が出そうになり、必死で口を手で抑えた。創は1階のボタンを押した。すると、エレベーターは下降するはずが、上昇していった。創はパニック寸前で、上昇するエレベーターの天井を見上げていた。そして、エレベーターは10階で止まり、扉が開いた。不気味な女性は扉が開いた瞬間に、霧のように消えた。
「お疲れさん。着いたよ〜。降りて降りて!」
そこには、以前、家に来た洞が生徒と同じベストに黒いブレザーを羽織った格好で立っていた。
「はあああああ。」
創は大きなため息をつきながら、エレベーターを降りた。すると、そこにはさっきまでいた騒がしい大阪駅とは一変した、静かな大きな天井の高い聖堂だった。
「お久しぶり!創!また、会えて嬉しいよ。」
「あ、はい。お、お久しぶりです。」
小さく礼をしながら、通り過ぎようとしたが、洞に止められた。
「ちょい、ちょい。どこ行くの?まだここに新入生が来るから待っててね。」
「あ。はい。」
創は猫背のまま、エレベーターの方を眺めながら、黙って立っていた。その創に話しかけ続けた。
「緊張してる?大丈夫だよ。僕は君たち一年生の副担任だから。担任の先生はちょっと厳しい先生だけどいい人だから。ん?」
洞は尻ポケットに入れていたスマホを取り出し、何かを確認した。
「もうそろそろだね。君の同級生がもうすぐくるよ。君の親友になるかもね。」
創は、黙ったまま眉をしかめ、もっと猫背になった。
エレベーターの扉が開き、さっきエレベーターで見た髪が長くヘドロを被ったような若い女性が降りてきて、霧のように消えた。そして、無邪気な笑顔な男子がエレベーターから元気に降りてきた。
「おはようございます!」
元気に挨拶をした。そして、その男子は洞とハイタッチをした。
「おひさ〜。千鳥。元気そうでよかったよ。」
「何言ってんねん、せんせー。俺はいつでも元気満々に決まってるやんか!」
創はこのハイテンションな男子についていけないと感じ、洞の後ろに隠れた。それを見たその男子は、洞の後ろに回り込んで、大きな声で声をかけた。
「俺、笑原 千鳥。よろしゅう!あんた、名前なんてゆうん?」
「ま、真琴 創で、です。よろしくお願いし、します。」
千鳥に小さく礼をした。その二人の会話を微笑みながら眺めていた洞だが、スマホが鳴り、顔色を変えた。
「やば!もうこんな時間か!二人とも!!挨拶はその辺にして・・・走るよ!」
洞は全速力で走り出した。それを見た創と千鳥も洞に遅れて走った。しばらく走ると、大きな扉が徐々に見えてきた。その扉の前に背の高い生徒と同じベストに白いブレザーを羽織った女性が腕を組んで、立っていた。
「遅い!」
女性の厳しい声が響く。
「真琴 創くん、笑原 千鳥くん。入学初日から遅刻する気ですか?」
「まあまあ、まだ5分前じゃん。全く新しい環境なんだから。」
洞はその女性をなだめるように話した。
「そんなことは言い訳にはなりません。新しい環境だから?それなら事前に調べるなり、早めに家を出るなり、できることはたくさんあるでしょう。それに、5分前なんてギリギリ過ぎます。せめて10分前行動を心がけて頂きたいです。」
創と千鳥はその女性の厳しい声と表情に膝がガクガクした。洞はその光景を見て、笑うことしかできなかった。
その女性は大きく深呼吸して、また話し出した。
「では早速、入学式が始まります。その前に・・・」
次の瞬間、清水は制服を着崩した千鳥の前に立っていた。
「完璧な身なりこそ、完璧な人間になる最初の一歩。普段から完璧を目指すことはあなたたちにはまだ難しいかもしれません。しかし、入学式くらいは完璧な身なりを心がけなさい。」
そう言って、清水は千鳥の崩れたネクタイを綺麗に結び直し、開いていたベストのチャックを閉めた。その時、清水の完璧な美しい顔が千鳥の顔に急接近した。長いまつ毛、緑の瞳、ミルクのように白く滑らかな肌。その美しさに千鳥は頬を赤らめた。
「これで、完璧です。先に二人が中で座って式の開始を待っています。」
大きな扉の前で、その女性は足を揃え、敬礼し、それに続いて、副担任の洞も敬礼した。
「三科。新入生の残り2名が参りました。」
そして、清水は大きな扉を押し開けた。そこは、大きな扉に似つかない狭い教会のような場所だった。奥の教壇には、40代の男性が立っていた。一番前の席に雪のように真っ白な肌で真っ黒なロングヘアの女子と体格の大きいメガネをかけた男子の二人の生徒が既に座っていた。創と千鳥はその二人の隣の席に座った。
「これで、全員揃ったね。では、始めよう。」
男性がパンパンと手を叩くと、左右の壁が透明になり、周りに他の生徒や教師がいた。六つの扉があり、ここは六角形の講堂なのだ。生徒たちはざわざわとした。創は、隣の透明の壁の向こうにいた黒髪のボブカットの女子生徒と目があった。
「静粛に!」
男性の大きな声が講堂に反響した。生徒たちはその声の迫力に驚き、口を閉じた。創も男性の方に目を向けた。
「これが今年の私立 幻実館高校専門学校の新入生だよ。そして、私は本校の校長 幻冥院 現太郎。よろしくね。ここには、日本中から才能のある選ばれし生徒が集まってくれたね。君たちは、未知なるものに立ち向かう力を持っている。その力をここで大いに育ててほしい。そのために教師陣は君たちを守り、育てていくことに尽力していくね。さあ、君たちには明るい未来が待っているよ!君たちの活躍を心待ちにしているよ。」
ニッコニコの笑顔で話していたが、幻冥院は真面目な表情で話し始めた。
「では、本校で過ごすために注意事項を伝えておくね。科間での移動、干渉は絶対に禁止とする。よって、この透明の壁も絶対に壊さないように。この講堂は、今日のような式典など特別な時に開けられる。また、この講堂は、各科の校舎の中心にあるので、緊急事態時は教師や私が判断した時だけここを解放し、透明の壁も取り払うことができる。まあ、そんなこと過去に一回しかなかったから、基本的にここは立ち入り禁止ね。以上!」
幻冥院がまた、パンパンと手を叩くと、透明の壁が元に戻り、隣の科の生徒が見えなくなった。そして、幻冥院もいつの間にか消えていた。
「入学式はこれで終わりとして、これから、教室に移動し、ホームルームをはじめます。」
「私についてきなさい。洞先生は最後尾でお願いします。」
その厳しい声に一年生は全員一斉に立ち上がった。
「りょ!」
緊張している一年生に対し、洞は清水に軽く敬礼した。
天井の高い校舎にコツコツと清水の靴の音が響く。その背後には前から、猫背でキョロキョロしながら歩く 創、周りを眺めながら笑顔で歩く女子、腕を組みながら不機嫌な表情でガリ股で歩くメガネの男子、後ろむきに歩き、最後尾の洞としゃべる千鳥。これからの、この幻実館での学生生活に不安と持つものと期待を持つ者、一年生たちの心境は様々だ。
読んでいただきありがとうございます。
次回は、創の同級生たちが自己紹介。個性的な同級生に陰キャの創は耐えられるのか。