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DESPEDIA  作者: 黒葉
5/9

DESPEDIA-5

「どうしようもないな」

 おそらく階段があるであろう場所は、板によって封鎖されていた。

 隈なく探した結果、理科室脇の壁が他の腐った木の壁と比べて、不自然に形を保っているということに気づいた。

 叩いてみて、どうやら向こう側があることが分かった。まではよかったのだが。

 どうやっても壊せない。何枚かの板を重ね合わせているみたいだ。

「この封鎖を、どうにかしないといけないわね」

 上月は、こちらをちらちら見ながら言った。

「もうやらんぞ」

 痛む肩、足をさすりながら俺は返した。

 さっきまでタックルさせられていたので、体が痛い。

 椅子をぶつけたりもしたのだが、残骸をぶつけても意味がない。活路はあれども、通れず。

「なんとかしないとな」

 また理科室に入る。

「何もないんじゃないの?」

 上月は自分が部外者のような感じで言った。

「理科室なら、マッチ位はあるだろ。焼く」

「へえ、焼死がお望み?」

 上月はそう言いながらも、探すのに協力してくれた。

「大丈夫。いざとなったら、体で消す。それに、そこまで一気に燃えるものでもないだろ」

 正直、自分でもどうだか、と思っているのだが、上月は特に反論せずうなずいた。

 しばらく探していると、マッチの小箱を見つけた。

「あったぞ」

「こっちもいいもの見つけたわ」

 上月が持っていたのは、瓶入りのアルコールだった。

「少しは燃えやすくなると思うわ」

 準備は出来た。

 不安がないわけじゃない。むしろ不安しかないが、板の前に立つ。失敗したら大惨事。焼死コース。成功したら、下に。

 それにしても、上手く周囲の壁に偽装してある。

 ここは、どんな所だったんだろうか。封鎖された窓。御札。朽ちた椅子や机も、時間が壊す前に人が壊した後があった。植木鉢も投げ込まれたものだろうし、極め付けに降りられないよう、封鎖された階段。

 どこからどう見ても、怪しい建物だ。

「早く、やってみましょ?」

 上月は、瓶の中のアルコールを、全て板にかけてしまっていた。

「マッチを貸して?擦りたいわ」

 言う通りに上月にマッチを渡す。

 十本程度のマッチが入った小箱を持って、上月がマッチを擦る。

「あ。折れちゃったわ」

 どうやら、脆くなっているらしい。大丈夫か?

「……もう。ゆうなぎが擦って」

 三本ほど折って、上月は俺にマッチを返した。

 一本擦ってみるが、あっさりと折れた。

「相当脆いな」

「でしょ?」

 上月はなぜか嬉しそうだった。

 次々と折ってしまって、後一本。

「マッチを擦るのが、こんなに難しいと感じたのは初めてだ」

 擦る。

 何とか成功した。小さな火が、指先で輝いた。

 俺はそのまま、マッチをアルコールで濡れた壁に押し当てる。

「っ!」

 火が、炎となる。

 瞬く間に火が燃え広がり、一瞬にして、封鎖していた板のみ燃える。

 嘘の様な光景だった。

 正確無比に、一瞬で、板のみが燃え尽きる。

 灰も、残骸も残らず。

 思わず、呆然となる。

「ゆうなぎ?」

 上月に呼ばれて、ようやく我に返る。

 今のは、一体何なんだ?何から何まで、怪しく、妖しい建物だ。

 板が燃えた後には、確かに階段の手すりが見えていた。

 が。

「壊されているわね」

 木造だったろう階段は、手すりのみを残して、完全に壊されてしまっていた。

 これでは、降りることなんて出来ない。手すりだって、ぼろぼろだ。

 ためしに握ってみると、あっさり砕けた。

「一難去って、また一難」

 思わずつぶやいた。下に飛び降りるのは、この廃墟では危ない。

 床板が崩れるから。

「また探索ね」

「いや、確かカーテンがあっただろ。あれを繋げて降りる」

 言ってから思う。中々いいアイデアだ。

 口をついて出てきた言葉だが、悪くはない。

 マッチの空箱を放る。さっき、御札で作った紙飛行機の近くに落ち、転がっていった。

 早速カーテンを集めに行く。

 どこの部屋のカーテンも汚かったが、逆に言えば汚いだけだ。

 最初の部屋まで戻り、カーテンを集める。

「これだけあれば十分ね」

 上月と俺の両手は、カーテンで一杯になっていた。

「え?」

 部屋から出たとき。

 階段のあたりに、人影が見えた。

「どうしたの、ゆうなぎ」

「そこに・・・」

 消えた。どれだけ眼を凝らしてもいない。飛び降りた?音は?

「なんでもない」

 なんだったんだろう。

 幽霊?見間違い?

 カーテンを抱えて、階段まで戻る。そこで、見つけた。

 踏まれた、紙飛行機。

 マッチを放ったときには踏まれていなかった。

 カーテンを集めに行くときも、俺も、上月も踏まなかった。

 じゃあ。

 誰が。

 踏んだ?


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