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DESPEDIA  作者: 黒葉
4/9

DESPEDIA-4

 鏡に映った人間と、覗く人間は同じではない。

 性格という意味ではなく。

 容姿という意味ではなく。

 存在という意味ではなく。

 鏡は、現実しか映さないから。

 必然、見たくないものしか映さないから。

 覗く人間が、映った人間を否定する。

 だから、同じではない。

 


 姉さんの病気は緩やかに進行していく。

 緩慢に近づく姉の死は、私には待ち遠しいものだった。

 姉さんの顔を覆う包帯は大体一週するごとに、その面積を拡大していた。

 左半分を完全に包帯で覆った姿の姉さんは、それでもまだ

 綺麗だった。

 見た目だけは。

 姉さんは、私が居ることにも気づかず、私のあげた鏡を必死に見ていた。その姿には、切羽詰った狂気が浮き沈みしている。

 私はそれを見て、唇を歪めて冷笑する。

 惨めね、姉さん。

 鏡を覗き、映った自分を否定して鏡から目を逸らし、少ししてまた鏡を見る。姉さんの最近の一日はそれで過ぎて行っていた。

 この病気は、こんな症状を引き起こさない。

 単純、姉さんが弱いだけ。

 そう思うと、笑いがこみ上げてくる。

 姉さんは、弱い。

 私が姉さんの所に行くのは週初めと真ん中、終わりの日。

 特に初めの日は、包帯がどれだけ増えているのかが分かるので楽しみだった。

 緩やかに増えていく包帯。

 死の印。

 壊れていく姉さん。

 楽しい。嬉しい。

 けれども、最近は包帯が増えない。むしろ減ってきた。

 姉さんも、また私と話してくれるようになった。

 何で?

 何で何で何で?

 何で?

 姉さんが笑いかけるたびに、私の心は荒れ狂った。

 姉さんは弱いのに。

 包帯は減らないはずなのに。

 増えていくだけのはずなのに。

 初めのうちはたまたまだと思った。そういうこともある、と。けれども今では、包帯は左目のあたりを隠すのみ。

 これではここに来たときより少ないくらいじゃない。私はイラついた。

「もうすぐね、治るかもしれないって先生が今日教えてくれたのよ」

「本当?よかったね、姉さん」

「うん。これも、上月ちゃんがいつもお見舞いに来てくれたおかげよ」

「そんなこと、ないよ」

「ううん。そうよ」

 姉さんはそう言って、やっぱり綺麗に笑った。

 私は耐え切れなくなって、その日姉さんにしばらく帝都に戻ることを言って、次の日帝都に向かって出発した。

 



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