DESPEDIA-4
鏡に映った人間と、覗く人間は同じではない。
性格という意味ではなく。
容姿という意味ではなく。
存在という意味ではなく。
鏡は、現実しか映さないから。
必然、見たくないものしか映さないから。
覗く人間が、映った人間を否定する。
だから、同じではない。
姉さんの病気は緩やかに進行していく。
緩慢に近づく姉の死は、私には待ち遠しいものだった。
姉さんの顔を覆う包帯は大体一週するごとに、その面積を拡大していた。
左半分を完全に包帯で覆った姿の姉さんは、それでもまだ
綺麗だった。
見た目だけは。
姉さんは、私が居ることにも気づかず、私のあげた鏡を必死に見ていた。その姿には、切羽詰った狂気が浮き沈みしている。
私はそれを見て、唇を歪めて冷笑する。
惨めね、姉さん。
鏡を覗き、映った自分を否定して鏡から目を逸らし、少ししてまた鏡を見る。姉さんの最近の一日はそれで過ぎて行っていた。
この病気は、こんな症状を引き起こさない。
単純、姉さんが弱いだけ。
そう思うと、笑いがこみ上げてくる。
姉さんは、弱い。
私が姉さんの所に行くのは週初めと真ん中、終わりの日。
特に初めの日は、包帯がどれだけ増えているのかが分かるので楽しみだった。
緩やかに増えていく包帯。
死の印。
壊れていく姉さん。
楽しい。嬉しい。
けれども、最近は包帯が増えない。むしろ減ってきた。
姉さんも、また私と話してくれるようになった。
何で?
何で何で何で?
何で?
姉さんが笑いかけるたびに、私の心は荒れ狂った。
姉さんは弱いのに。
包帯は減らないはずなのに。
増えていくだけのはずなのに。
初めのうちはたまたまだと思った。そういうこともある、と。けれども今では、包帯は左目のあたりを隠すのみ。
これではここに来たときより少ないくらいじゃない。私はイラついた。
「もうすぐね、治るかもしれないって先生が今日教えてくれたのよ」
「本当?よかったね、姉さん」
「うん。これも、上月ちゃんがいつもお見舞いに来てくれたおかげよ」
「そんなこと、ないよ」
「ううん。そうよ」
姉さんはそう言って、やっぱり綺麗に笑った。
私は耐え切れなくなって、その日姉さんにしばらく帝都に戻ることを言って、次の日帝都に向かって出発した。