DESPEDIA-2
「なあに、姉さん。退屈だからって、謎々遊び?いいよ。付き合ったげる」
そう言って、私は花の水を変える手を止めて、姉さんに振り向いた。洋風の、べっど、という寝具に横たわっている姉さんは、薄くて白い着物を着ていて、そのまま棺桶に入っていけそうだった。
「違うわよ。鏡って、不思議なものでしょ?神様が宿っていたり、悪霊を封じたり、色々出来る。私達の姿だって映す。だから、誰も見ていない鏡には何が映っているんだろうって、思わない?」
顔の左半分を包帯で覆った姉さんは、それでも綺麗に笑って言った。大弐本帝國暦XXX年の文明開放以降、神やら悪霊やらの迷信は消え去り、洋風文化がこの国を侵食しているのだが、帝國首都より遠く離れているこの地では、まだそんな風潮は微塵も知られておらず、侵食されていないようだった。
唯一入ってきた洋風文化と言えば、この建物。ええっと、ほすぴたる(?)のみ。ここを出れば、文明開放以前そのままの風景が広がっている。
帝都から戻ってきた私は、向こうに居たのがたった三年とはいえ、この風景には何とも言えない、違和感と言ったらおかしいけど、もどかしさ?のようなものを感じている。
生まれたときから、時が止まっているかのように何も変わらない故郷。郷愁に欠片も吹かれないのは、何も変わらないからなのかもしれない。
「どうしたの?」
私は姉さんの問いに、薄い笑みで答えた。ぼんやりしているように見えたんだろう。考えが横道にそれたせいだ。
「それで、どう思う?」
姉さんは再度私に尋ねた。
興味もないことなので、大して考えず、口に答えを任せた。
「さあ、分からないわ。鏡の神様にでも聞いたらどう?」
「そうね、それが一番ね。この病気を治したら、村の神降ろしの人に聞いてみないとね」
私のぞんざいな返しに、姉さんは名案を聞いたかのように喜んだ。
各地では神降ろしの人はイカサマ師として次々に追放されているのだけれど、姉さんもこの地域に住んでいる人も、そんな事は露とも知らない。
「でも待ちきれないわ。神降ろしの人をここに呼ぶわけにもいかないし」
「そんなに気になるなら、鏡をあげるから、姉さんがどうにか して確かめてみればいいじゃない」
どうやって?私は言いながら心の中で笑った。誰も見ていない鏡がどうなっているのか、見るのは不可能だから。矛盾してしまうから。
それでも、私は姉さんに帝都で買った漆塗りの朱色の手鏡と黒色の手鏡の二つをあげた。
姉さんは朱色の方をとても気に入って、毎日毎日眺めて、鏡に自分を映していた。姉さんは顔に包帯を巻いていたとしても綺麗で、あげた手鏡と、櫛でその長い髪を梳いている姿を、うっかり構えず見てしまうと、妹の私でも思わず赤面してしまうほどだった。
本当に、綺麗。
本当に、××ばいいのに。
私はいつも思っている。
姉さんなんて。
本当に。
×ねばいいのに。