079
サクラちゃんの居る部屋に案内されながら、そういえば、バートがウッドさんの事を部下と呼んでた事に対して後で話すって言ってたの聞くの忘れたなと思った。
『多分、マスターの事を尾行させてた事じゃないですか?』
(あー、そうか。でもさ、冒険者同士ランクの差はあっても上司と部下っていう関係にはならんよね…)
『気になるなら後でもう一度聞いたらいいんじゃないですか?』
(いや、気になるけど聞いたらなんか面倒くさそうだからやめる)
『そうですか』
ナビとそんな会話をしていると、サクラちゃんの居る2階の部屋へ到着した。
どうやらお茶会はサクラちゃんの私室でやるらしい。
「ブロッサムさんいらっしゃい!!」
「どうも、お邪魔しますー…」
サクラちゃんの部屋に入ると、そこはもう可愛い。
白に統一された家具類に、桜の花が散りばめられた模様のカーテンやベットカバーなど、とにかくふんわりと可愛い部屋だった。
って、え桜?
「え、何で桜柄のカーテンとかあんの!?」
「あははは!!流石ブロッサムさん、突っ込むところが桜なのが日本人!!」
「いや、え?何で?」
「その答えは…こっち来てください!」
混乱している私の手を引いて、サクラちゃんはバルコニーへ出た。
するとそこには、もう見られないだろうと思っていた景色があった。
「うそ…桜…」
「びっくりしたでしょ?私もここに連れてこられた時、びっくりしたんですよー」
何と言う事だろう。広い庭の中央に大きな八重桜の木が生えており、その枝に満開の花をつけているのだ。
サクラちゃん曰く、この桜の木はグラム国が出来る前からある物だそうで、一人の聖女が手に持っていた苗をここに植えたらしい。それがこの地の魔力と相性が良かったのか、もう3千年近くこの地で花をさかせているそうだ。
今は5月下旬なので、桜の時期からは随分すぎてしまっているのだが、ラオッタの辺りは1月遅れで春が来て、1月早く冬が来るらしく今が見ごろなんだとか。
「それって…八重桜の苗を買うか何かして手に持った状態で、こっちに召喚された人って事だよね…多分」
「だと思います…」
私達は、大きく開けた窓の前にテーブルと椅子を移動し、そこでお茶にすることにした。
ライムにも、お皿にお菓子を沢山盛ってあげた。魔力の足しにはならないけど、腹の足しにはなるでしょう。
「そうだ、改めまして、私はサクラです。19歳の元大学生です。薬調合っていうスキルでポーションが作れます。よろしくお願いします」
「私はブロッサム。えーっと19歳の無職デス。一応スキルはスライムテイムで、お菓子食べてるスライムが私の従魔のライム。よろしくね」
改めての自己紹介の後は、しばらく桜を眺めながらお菓子を食べた。
「そうそう、こんなお菓子もあるんですよ?」
そう言ってサクラちゃんが手に持った箱を開けると、色々な花を使った砂糖漬けが入っていた。
「これって桜と…まさか藤の花?」
「おお、正解ですー!藤の花もここの敷地に植わってるんですよ」
薔薇や桜、スミレの花にまじって、藤の花まであるよ!?
「藤の花まで…」
グラームス様…日本の事を思い出すなとか言っておいて、かなりの頻度で日本を思い出す物にぶち当たるんですけど?
「この藤の花は、小さな聖女様が持っていた丸くて平べったい種から唯一1株だけ育ったそうです」
「…多分、小学生が学校とか公園にある藤棚から拾ってきた奴だよねぇ…」
「えぇ、その通りだと思います…」
「なんていうか、地球から連れてこられる人多くない?この世界…」
「多いですよねぇ…」
ちなみに、この二種類の木は、挿し木でも種子からも増やす事が出来ず、子爵の屋敷に1本ずつしかないらしい。
この砂糖菓子も、この屋敷に訪れたり泊まったりした客にのみ提供されているとか。
「桜の花は…塩漬けにしてほしいなぁ…」
「あ、わかります。桜茶にすると美味しいですよねあれ」
「うん、桜の香りがして美味しいんだよねー」
サクラの塩漬けは、桜茶だけでなくクッキーに乗せて焼いたり、おにぎりにしても良いのだ。
「と言う事でして、実は私のアイテムボックスに、八分咲きのあの桜の花が沢山入っていたりします」
この屋敷に来た時に、思わず少し取らせてくれとお願いしたそうだ。
「え、サクラちゃん、もしかして自分で塩漬け作るつもり?」
「その通りでございます。実は日本に居る時も作ってたんです。もしよかったらお花、半分持って行きます?ついでに作り方もお教えしますよ?」
「おおお…それは欲しいかも…」
なんだろう、サクラちゃんと妙に打ち解けてしまった。
さっそく、桜の花を受け取るとアイテムボックスにしまった。
桜の塩漬けの作り方も紙に書いてもらう。
「ありがとう、落ち着いたら作ってみるね」
「はい」
作り方の紙を受け取ると、それもアイテムボックスに収納した。
「そう言えばブロッサムさん」
「うん?なにかなサクラちゃん」
「バートさんの事どう思います?」
「ん?バートの事?」
「はい。カッコいいと思います?」
「んー…まあ、顔はイケメンだと思うよ?体も鍛えててがっしりしてるし」
「じゃあ、恋愛対象になります?」
ここでも恋愛話かーい!
「いや、ならんよ。バートって見る限り20代前半くらいでしょ?私年下に興味ないんだよねぇ…」
「年下…?ブロッサムさん19歳でしたよね?」
「あっ…」
しまった。
『マスター…』
ナビの呆れた声とため息が脳内に響いた。
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