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メイドのアンナさん視点です。
「おはようございます、ブロッサム様。昨夜はゆっくりお休みいただけましたか?」
「アンナさんおはようございます。おかげ様で疲れも取れました」
「それは良かったです」
私がブロッサム様を起こしに来た時には、既にお目覚めになりお着替えも済ませておられました。
昨日こちらで用意したワンピースは皺だらけにしてしまったと、とても恐縮されておりましたが、元々皺のできやすい素材でしたのでお気になさらないで下さいと、何とか落ち着いていただきました。
それにしても、やはりブロッサム様は磨けば光る原石でございます。
手足もすらりと長く、首もほっそりとされている。
今着ている物は、ご本人がお持ちになっていたワンピースのようで、生地も仕立ても良くブロッサム様に非常に似合っておりますが、惜しむらくは櫛を通してそのままの御髪でしょうか…。
黒々と艶やかな髪を、ただ流したままというのは何とも野暮ったい。
ワンピースに合わせて、もう少しアレンジを加えたくなりました。
「お食事の前に、少し御髪を整えさせていただきますね!!」
「えッと…?」
「お召しになっているお洋服はとても似合っておりますが、御髪を整えればもっと素敵になりますので、さ、ドレッサーの前へ」
少々強引ではありますが、ブロッサム様を鏡の前に座らせます。
ブラシで梳くと、やはりサラサラで艶やかで綺麗な御髪でございます。
編み込みをしたり毛先に軽くカールをつけたりしてアレンジし、綺麗な襟足がしっかり見えるように少し高く結っていきます。
最後に、バルコニー付近に咲いていたネモフィラとマーガレットに保存魔法をかけ、髪飾り代わりに飾らせていただきました。
「ついでに軽くお化粧もさせていただきますね」
「えっ!?そこまでしなくても…」
「昨日は到着直後で仕方ありませんでしたが、お食事の後は子爵様にお会いしていただきますので、流石にすっぴんで。という訳には行かないのでございます…」
「そ、そうなんですね…」
「はい。そうなのです」
屋敷の中で多くの調合士を抱えるガイドーン家では、すっぴんに作業着の女性が普通にうろついているので、子爵様も女性の身なりを気にするような方では無いのですが、そこはあえて秘密にしておきます。
とりあえず、納得していただけたようなので、鏡の前に自前の化粧道具を広げていきます。
もともとお顔立ちの整った方ですので、本当にうっすらとお化粧するだけにしておきました。
髪を整え、薄く化粧をしただけですが、ワンピースを着ただけよりもグッと華やかな印象になりました。
元々整った顔立ちをされているブロッサム様ですから、夜会用のドレスとお召しになれば会場の視線を釘付けにすること間違いなしでしょう。
「アンナさん、ありがとうございます。私、髪型をいじるの苦手で…。いつも後ろで縛るかそのままだったので…こんなに綺麗に整えて貰えるのは久しぶりです」
「いえ、私もブロッサム様の綺麗な御髪を整える事が出来て嬉しく思います」
ガイドーン家のお嬢様方も美しい方達ではありますが、私はお嬢様たちの専属ではございませんので、身なりを整えるというお役目をする機会がございませんでした。
今回、お客様であるブロッサム様の御髪を整える事が出来て非常に満足しました。
自分の欲望を優先した事は褒められた事では無いと自覚しておりますが、自分の仕事に満足をした私は、手早く朝食をテーブルに並べていきます。
ブロッサム様の横では、従魔であるスライムのライム様も、勢いよく山盛りになっている薬草を食べています。
そんなライム様をニコニコと眺めながらお食事をされているブロッサム様は、平民とは思えない優雅さでカトラリーを扱っております。
先ほども、過去には髪や身なりを整えてくれる人が居たというような事をおっしゃっていましたし、やはり何か理由があって市井で暮らしておられる貴族の方なのでしょう。
無闇に詮索は致しませんが、色々と妄想が膨らみます。
ブロッサム様が食後のお茶を飲まれたのを見計らい、子爵様との面会についてお伝えしました。
「しばらくしたらお迎えに上がりますので、それまでお寛ぎください」
そう言って、私は食器などをサービスワゴンに乗せて退室いたしました。
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