002
彼等は自分たちの事を異世界の神だと言った。
お爺ちゃんがグラームス様、女性の方がミルス様と言うらしい。
「…神様ですか。という事は、私は死んだのでしょうか?」
「いいえ、死んではいないわよ」
「死んではいないという事は、何かしら召喚されたとかそんな感じでしょうか?」
死んでいないのなら、良くある異世界召喚とかいうパターンだろう。
「ほう、そなたは聡いの。その通り、お主はあの周辺に居た人間達と共に、わしらが作り上げたフォンティーという世界にある、グラム国の王に召喚されたのじゃ」
「あの国、ちょっとでも国民が王家に不満を持つと、すぐに異世界から人間を召喚して隣国の魔王討伐しようとするもんだから、私たちもそろそろ止めなくちゃと思っていたの。そんな矢先にあなたを含めた幾人かが召喚されちゃったのよ」
「そこで、慌ててお前さん達をこの世界の狭間に引っ張り込んだのじゃ」
「とりあえず呼ばれた人間達を、別々の所に呼んで一人一人とお話してるの」
なんだか得意げに話す神様たち。
「えっと、お話っていうのは…?」
「あなたにスキルを上げようと思ったの」
ミルス様曰く、今までは空間の亀裂に落ちてしまった人間とは面談をし、本人の希望に沿ったスキルを与えていた。
しかし、召喚された人達とは特に面談などせず、何でも調べることのできる「鑑定」と、時間停止と無限に収納が出来る特別製の「アイテムボックス」、ランダムで与えるスキル一つ、の3スキルを与えていた。
これは、召喚された人は、召喚した国が面倒を見るからある程度放り出しても大丈夫だろうという判断だそうだ。
今回はたまたま召喚が出来ないようにする作業中に召喚が行われた為、とりあえずこの空間に引っ張り込み、グラム国では今後召喚出来なくなるので、召喚された人間にスキルの大盤振る舞いしてやろう。という事らしい。
「今回は10人召喚されてね、貴女で面談は最後なのよ」
「さあ、欲しいスキルを言うのじゃ」
「…あの、お断りしても良いですか」
「「え?」」
「いや、これって小説とかで良くある異世界転移とか異世界転生とか言うやつでしょう?」
「そうじゃよ、とても幸運な事じゃぞ?」
「いや、いきなり連れてこられて幸運とか無いですし、むしろ迷惑です。大体、私冒険とか痛かったり危険な事したくないんですよ」
だから、帰りたい。
「「いや、帰れないから」」
「人の心を読まないでください」
「元の世界には帰れないけど、別に冒険しなくても大丈夫だから!!」
一度、召喚した国に行かないと帰れないのか、単純に帰れないのかどっちだろうか。
「「後者です」」
「だから、心を読まないでください」
さて、困ったぞ。どうやら異世界で生活をしなければならないらしい。
とはいえ、両親は既に他界しているし、兄弟も恋人も居ないペットも飼っていない天涯孤独の私。
魔王討伐とか命がけの冒険しなくていいのであれば、帰ることに固執する必要もない。
「あなたはフォンティーで生きるしか無いの。だから少しでも充実した生活が出来るように、欲しいスキルを差し上げるわ」
目をキラキラさせるグラームス様とミルス様。
「とりあえず、ちょっと考えさせて貰っても良いですか?」
「構わんよ、この空間以外は時間が停止しておるからの」
さて、好きなスキルを貰えるらしいので、慎重に考えなければ。
樹は考え込むのだった。