001
ぽつりと肩に雨粒が当たる。ブロッサムはキノコを採る手を止め、空を見上げた。
木々の隙間から見える空は、いつの間にか鈍色の雲に覆われており、見上げた鼻頭に更にぽつりと雨粒が当たる。
「これは早く戻らないとだなぁ…」
横に置いた籠に布をかけてから背負うと、フードを目深にかぶりなおした。
サァサァと雨の降りしきる森の中、くしゃりくしゃりと濡れた落ち葉を踏み分けていくと、森が開けた場所に出る。その向こうには、見上げるほど高い崖が左右に長く続いている。
ブロッサムは崖に向かって歩いていくと、少し手前で立ち止まり岸壁に手をかざした。すると岸壁の一部が陽炎のように揺らぎふっと消え、奥に続く洞窟が現れた。
ブロッサムが洞窟に入ると、入り口は閉じてしまった。
「お帰りなさい、ブロッサム」
どこからともなく声が聞こえてきた。
「ただいま、ナビ。変わりは無かった?」
ブロッサムはフードを外すと、姿の見えない声に答える。
「えぇ、平和なものでした。ライムが一生懸命ゴミ処理と、寝床の掃除をしていましたので、褒めてあげてください。あと、そろそろこの空間でも雨が降りますからテントへ入ることをお勧めします。ちなみに明日の朝まで降りますよ」
「あ、そうなの…わかったよ。今日はキノコが沢山取れたから、キノコのスープにしよっかな」
洞窟を数歩進むとすぐに、視界が明るくなる。そこには高く澄んだ秋の空が見える、綺麗に紅葉した木々が所々に植わった広いスペースだった。ブロッサムはそこをずんずんと進んでいく。
「ここにもきのこが生える森が作りたいなぁー」
「その項目はLv不足により、まだ解放されていません。また、チャージ金額が不足しています」
ブロッサムのつぶやきに律義に答えるナビと呼ばれる声。
「はいはい、そうでしたねー、もっと頑張ってレベル上げとお金稼ぎしますよー」
姿の見えないナビと会話をしながら歩いていると、真っ白な大きなテントが見えてきた。熊のロゴの描かれた白いワンポールテント。6人用なので中はとても広々していて、中央のポールの周りには専用の円形テーブルも置ける。
ブロッサムが地球で働いていた時、仕事で疲れ果てて帰宅しシャワーを浴びてさっぱりした後に、缶ビール片手に見ていたキャンプ動画に出てきたテント。見た目の可愛さに一目ぼれして調べたは良いが、一人での設営の難しさに購入を断念したのだ。
そう、ブロッサムは俗に言う「異世界転移者」なのだ。本当の名前は山野 樹という29歳の会社員だった。
こちらの世界に来たのは、数か月前。
ある日、残業続きでヘロヘロになりながら人通りの少ない真夜中の大通りを歩いていると、足元が突然光だし訳も分からないうちに真っ白な空間にへたりこんでいた。
「ここは何処…」
「ここは世界と世界の狭間じゃよ」
樹のつぶやきに答えた声の方を振り向くと、そこには真っ白な髭をたくわえた老人と、やけにお色気ムンムンの女性が居た。