第九話 俺はここまで来た9
微妙におかしな言い回しだった。
容姿も変わっている。一言で形容するなら『野暮ったい』という事になる。制服の着こなし(特にスカート丈)から髪型(なんと、襟足を刈り上げている)まで、全くあか抜けない。
そしてそれは俺にしてみたら、かなりの好印象ということになる。ハッキリ言って、タイプだ。あか抜けないとは悪口では無い。それが似合っていればかまわんのである。
どれも小振りな顔のパーツも、モンペに似合いそうなおカッパも、似合ってさえいれば今時でも、それ程異質には映らないだろ。
「一緒にどこかの原っぱで、四葉のシロツメクサを探しに行きませんか」
と誘おうとして、二方向からの冷たい視線に気づき、我に返る。何の話だったかな。そうだ、入部希望者だ。
「実はこの部、勉強部と言いつつ、勉強しようっての俺だけなんだけど」
「アタシも、ここは部員が勝手にやりたいことをやるトコのつもりで入ってんだけど」
真相を打ち明けられた一文字さんは、逆に目を輝かせて、
「はい。私、そのつもりで来ました。私は皆さんのお手伝いがしたいんです」
と、のたまった。その言葉に喰いついたのは、意外にも春風亭さんだった。
「本当! それはすごく助かるな。是非入部して」
どういうこと? だが春風亭さんは、俺とラクさんに思惑を説明したりはしなかった。
「こっちがペン軸で、こっちがペン先。ペン先は、Gペン、丸ペン、スクールペン、かぶらペンとあるけど、とりあえず丸ペンを試してみようか。
インクはこの製図用インクで。この原稿用紙に真っ直ぐな線を、入りと抜きに気をつけて引いてみて。まずは十本。入りと抜きっていうのは…………」
俺は段々と春風亭さんのやりたいことってのが分かって来たよ。ラクさんはまだ全然分かって無いらしい。小林〇文とか詳しそうなのにな。
後で俺が説明しとくか。
そうすると春風亭さんはこの部の設立にあたって、何故、ラクさんを誘ったんだろうか。ミリタリーマンガでも描きたいのかな。
さらにそうすると、俺は何故誘われたんだろうな。勉強部って建て前のためだけなのか?
「二人を選んだ理由? この学校で一番やりたいことのある人を選んだんだよ。私はやりたいことのある人が、やりたいことをやれる部活が欲しかったんだ。でなければただの漫研でもよかったはずだからね」
じゃあこの一文字さんは、アシスタント希望者?
「えっ、私は知らないよ」
「あ、あの、私、皆さんがそういう部を創るって噂を聞いて、何か関わりたくて」
また噂か。学校ってとこでは、学校内で起こった事は全て噂になって知れ渡るもんなんだろうけど。
それにしたって、今朝、設立が認められたと通達されたばかりの部活の内容まで、知れ渡ってんのかよ。
「い、いえ、こ、この部のことは一昨日から話題になってまして、その、矢岳さんが勉強をあきらめて、やる気のきのない部活に入部する気だとか言われてまして。
皆で心配していたんですけど、そしたら今日、矢岳さん達が作った部が勉強部だったって聞きまして。
私もう、居ても立ってもいられなくなりまして、だから、つまり、あの、ごめんなさい」
「へぇー。よかったな、竜爪」
俺の下の名前を呼び捨てにして、気持ちの悪いニタニタ笑いを浮かべるラクさん?
ラクさんのセリフを聞いて、青ざめて、今さらに動揺を重ねる一文字さん?
それと、何故か一瞬、いつもの表情の上に、面白くなさそうな顔というフィルターを重ねる春風亭さん。
「あの、ごめんなさい。それから昼休みに、その勉強部にラクリミウスさんも入部するようだから、勉強するためだけの部じゃなくて何かやる気だ、って聞いたので、それで、その、ごめんなさい、私もこの部で何かをやりたいんです」
最後の一言だけは、動揺の無い、はっきりした口調だった。
「私としては是非、入部して欲しいかな。二人はどう?」
「アタシも歓迎だ。その内、ジオラマ制作、手伝ってもらいたいし」
「俺もかまわないよ。手伝ってもらうことは無いけど」
こうして四名の部員からなる勉強部は、建ち上がったのである。
明日も午前十時に投稿する予定です。遅れたらすみません。
よろしくお願いします。