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俺に出来るのはコレくらいだ  作者: 雨白 滝春
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第六話 俺はここまで来た6

「君の名前は知ってたよ」


 とでも答えようかとも思ったが、普通に、


「よろしく」


 と、これもよく考えたら妙な返事を返してしまった。なんでこの人を知っていたか。高校初日の自己紹介の時に記憶していたからというだけだ。


 俺よりこの人に問題あるな。印象に残る特徴が具わっている。


 まず一番目につくのが長いサラッサラの銀髪。自己紹介の時、「この髪は天然です。原因は分かりません」と、自分で解説していたから、その通りなんだろうな。


 どうやら本人も気にしているらしいし、気にしている事を隠そうともしない。


 それから他の特徴は、表情だ。


 きついくらい綺麗な顔より、その表情の方が強い印象を与えて来る。泣き出しそうに眉根を寄せて、困っている様な顔をいつもしている。


 休み時間中、勉強の傍らで聞こえて来た噂によると、一部の男子の間ではこの顔を、『嫌だけど無理やりやらせれているの、って顔』と、評されているらしい。


 きついくらい綺麗な顔と重なると、悔しそうな表情にも見える。どうやらこれが、この人のスタンダードな表情の様だ。


 少なくとも俺は、この人が他の顔をしている所を見た事は無い。


 これも小耳に挿んだ男子の噂だが、この顔で少し上目遣いに見上げられると、どんな男でも頼みごとを断れなくなるらしい。


 しょうも無い噂だな。


「あのさ、君、何か部活始めるつもりなの?」


 二度聞かれた。そうだな、どうせ俺の入部の理由もすぐに知れ渡るだろうし(自意識過剰)、ここでもあらかじめ言っておこうか。


「ほとんど活動してない部活に入って、空いてる部室で勉強させてもらうつもりだ」


「勉強なら自宅ですればいいじゃない」


「学校でした方が集中出来るんだ」


 何故この人がこんなことを訊いて来るのか。


 部活動と縁が無さそうな俺が、一日かけて部活について聞き回ったんで、罰ゲームか何かで動機を探らされた、とかいう行動なんだろうな、とは頭の中で言語化するより速く、直感的に理解した次第。


「そっか、勉強の為の部活か」


 謎が解けて良かったね。そう思った次の瞬間


「それなら一つ、私からいい提案があるんだけど」


 初めてこの子の笑う顔が見れた。完全な不意打ちだ。


 トドメを刺したと思ったドラゴンが、不意に起き上がってドラゴンブレスを放ってきた時でも、ここまで驚かなかったぞ。


「私と一緒に新しい部活始めない?」


 連続不意打ちか。もはや俺の過去の体験の中から、例えを引き出す事の出来ない事態だ。


 ここで俺が「はい、やります」と言ったら「ぷふー。冗談だよーん」とか言って来るんじゃないだろうな。


「ダメ……、かな?」


 トーンダウンした口調。だが相変わらずの笑顔だ。


 まあ待て。始めるって一体どんな活動をする部活を立ち上げようってんだ。勉強部か。


「うん、実は私も放課後、学校でやりたいことがあるんだけど、既存の部活に入って勝手な事したら迷惑かかるじゃない。それだったら最初から、自分たちでやりたいことやるための部を作ればいいんじゃないかな、と……、思ったんだけど……、どう?」


 やりたいことって? 何をするつもりなんだ。


「今はまだちょっと言えないかな。部室さえ手に入れたら、後はお互い不干渉で」


 そんないい加減な理由で、設立許可下りるのか?


「表立っては、勉強部という事にしとけばいいじゃない。君がいれば十分な説得力になるよ」


 この学校で新しい部活始めるための、設立条件みたいなもんはどうなっているんだ。


「部員三名確保すればいいみたい」


 ぬるいな。やる気のない部がいくつもある原因はそれか。でもって、三名ってことは、もう一人引っ張ってこなけりゃならないのか。


「実はもう、一人目星つけてる人がいるの」


 確かに悪い話じゃないな。むしろ余りに好都合だ。


 ただ、この期に及んでもまだ俺の中では、からかわれているだけなんじゃないかという懸念、いや、はっきり言っちまえば、被害妄想があったのだ。だが、


「ダメ……、かな?」


 そこには笑顔が消え、いつもの表情で少し上目づかいに見上げて頼んでくる、噂通りの顔が。


 ええ。断れませんとも。

明日も朝十時に投稿予定してます。遅れるかも知れませんが、よろしくお願いします。

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