第五話 俺はここまで来た5
「なんじゃこりゃ」
全科目とも平均点ピッタリだった。良いとも言えず、悪いとも言えず。
そして俺自身が一言も言いださない内に、この結果はクラス中に知れ渡る事となった。
何でだよ……。
皆、自分の結果より俺の方を心配していてくれたかのように、ホッとしていた。皆もっと、悪い結果を予測していたらしい。
心配してくれていたことに、どう反応すりゃいいんだ。礼を言うのもおかしいしな。今まで通り、知らん顔でもしてりゃいいのか。
絶対そうするつもりだけど。
俺は俺で、皆の心配している場合じゃない。もっとできると思ってた。そうだこんなん全然納得できる結果じゃない。
だが行った努力に対して出た答えは、否定できない。
ではどうする。
努力が足りなかったんだ。もっとだ。もっと努力しないとダメなんだ。努力そのものが俺の実力。俺はもっと努力しないとだめなんだ。
それはいい。ただ、これ以上どう努力する。
勉強時間はもう限界だ。これ以上は睡眠時間を削るしかないぞ。いや、睡眠時間を削ると、返って勉強の効率が下がる。
効率? そうだな、残るは勉強の効率化だ。勉強の仕方の改善と勉強密度のアップだ。
う~む。言うのは簡単だが、具体的にはどうする? 一番単純にもっと集中するという精神論では、通用しないぞ。
環境の改善とか。家でやるより勉強がはかどる環境。それなら学校だな。だが放課後いつまでも学校に居座る訳にも行かんし。
学校に居残っていられる理由とかあれば。部活とか。
はっ! 勉強部発足――。無理だ。絶対、部員集まらん。くそっ。部室持ってるくせに、活動してない部活だって、この学校には多いのに。
あれ、じゃあそういう部活に入って、部室で勉強させてもらえばいいんじゃねえの。そう言えば、入部希望者の入部を断っていいという話しも無いようだし。
そこに潜り込んで、勉強すれば。
イケるぞ。さっそく明日から、活動実態の無い部活のリサーチだ。
翌日から俺は、クラスの連中にヒマな部活に関する聞き込みを始めた。何故かは分からないが皆一様に、濁った優しい目をして知る限りのことを教えてくれた。
放課後までにクラス全員から聞き出す。俺の目論見に一致する部活の候補がいくつか上がる。
さて、この中からどれを選んだもんか。
上手く行かなきゃすぐ辞めて、別の候補に再入部するだけだ、というのも不義理が過ぎるか。
元々、動機も不純だしな。入部を申し込むとき、先に俺の本当の目的を打ち明けておくか。それで断られるなら仕方が無いし、それを認めてくれるなら、気兼ねなく勉強が出来るしな。
と、放課後の教室で、帰宅の途に着く前に、考えをめぐらしていた所――。
「君、何か部活やりたいの」
えっ、誰?
って同級生に話しかけられたにしては、微妙に間違ったリアクションをとってしまったが、他人から見れば急に話しかけられて驚いただけという、それ程おかしくも無い反応だったらしい。
まだ教室に残っていたクラスメイツは、別の所に注目していた様だ。
おそらく話しかけられた人と、話しかけた人、そのキャスティングに。
この時期になってもまだ、クラス全員の顔と名前を覚えきれていない俺だが、この女子生徒の名前は知ってる。
「えっと、私の名前は春風亭 春斗。覚えといて」
どうやら俺が、このクラス全員の名前と顔、覚えきれていない事は、皆にも知られていたらしい。
皆、何でこんなに俺に詳しいのだろう。
午後九時頃、六話目投稿予定です。よろしくお願いします。