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俺に出来るのはコレくらいだ  作者: 雨白 滝春
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第四話 俺はここまで来た4

 迎えて、ゴールデンウィーク。


 もう一学期中間テストまで、間が無い。なんとしても、ここで追い上げねば。


 ある限りの時間を全て、勉強につぎ込むぞ。と思っていたのだが、祖父母達があんまりせがむので、一日だけ祖父さん祖母さんズに、つき合ってやることにした。


 俺って優しいなあ。


 正直言うと、最近、勉強のしすぎのせいかどうか知らんけど、妙な頭痛がするもんだから、こりゃ、たまには勉強以外の事もするのも必要かなあ、と考えた次第。


 っつってもおかしな怪物なんかとバトルとか、ごめんだからな。せいぜい日帰りのハイキングぐらいだぞ。と釘を刺しとく。


「けっ、偉そうに」

 とは、父方の祖父。


「お祖父さん、やっとかまってくれるんですから、機嫌を損ねてはいけませんよ」


「そうじゃよ。そうじゃよ。ウシシッ。やっと孫が引っ掛かりおった」


 また何か、企んでんじゃねえだろうな。


「なあに、ただの日帰り登山じゃよ。ウシシッ」


 こう見えても、父方の祖父の方が、母方の祖父より年上だ。と言っても俺以外のヤツに、この二人がどう見えてんのかは、分かんねえけど。


 あと、祖母さん二人はさらに若い。見た目はさらに若い。


 最近、保険の勧誘の人に、四十歳に見えると言われたと、はしゃいでいた。


 それで俺は何用意すりゃいいんだ?


「大きめのリュックと、タオル何枚かと、Tシャツの着替えと水筒。食料は途中コンビニで買っていきますから、それくらいですかね」


 ふうん。あとはトレッキングシューズでも履いて行けばいいか。まったく、すっかり騙されたよ。この時の俺。




 ゴールデンウィークに高校生が、ジジババのお供をして、ハイキングとはねえ。やはり友達を作っておくべきだったか。今さら無理だけど。


 などと思いながら、車に揺さぶられてる俺。ドライバーは二人の祖父が、交替で務めるらしい。


 地元から県の中心地を通過し、バイパスに乗ってさらに北上。ここまで二、三時間。それでも車は止まることを知らず、山道をぬって県境を越えて他県へ。


 さらにさらに山また山。走ること七、八時間。もはや日帰りハイキングは不可能。本格登山コースだ。


「久しぶりに来たのう」


「日本を代表する、国定自然公園だ」


「謀ったな」


「今回はおかしなバトルは、ありませんよ。ただの登山です」


 未だセリフは無いが、母方の祖母もちゃんといる。


 この高度だと、五月初めはかなり寒い。Tシャツだけでなく、防寒着が要る。


「はい、防寒着用意しときましたよ」


「ふん、人のワイフに世話掛けさせやがって」


 ワイフって何だよ。祖父さんドイツ人じゃなかったのかよ。


「それ、急がんと山小屋に着く前に、日が暮れてしまうぞい」


 しかし、なんでだろうな。恨みごとなど考えながら歩くかと思いきや、山道を登る間に、気持ちはすっかり晴々と、朗らかになってしまう。


 認めたくないのに、心の底の方から、来て良かったという気分が、ユラユラと湧いて出てくる。人は何故、山に登るのか。そこに山があるからである。


 いや違うだろ。山歩きが楽しいからじゃねえの。


「なあ、学校ってたのしいか?」


 唐突だな、祖父さん。


「ああ。楽しいよ」


「ふん……」


 今、祖父がどんな気持ちでいるのか、俺には想像がつかない。ただいつも通りの後ろ姿だ。


「勉強ばかりで、友達もおらんのにのお」


 もう一人の祖父さん。


「自分で選んだ生き方だ」


 言ってから少し考える。この祖父さん達は自分の生き方を自分で選ぶことが、出来ただろうか。


 でもこの人達が、自分の生き方を自分で決めることが出来る今の社会を、作ったんだよな。


 心なし頭が下がる。


 頂上を目指すのではなく、山小屋から山小屋を繋いで行く、周回コースだ。


 確かにこの方が尾根を縦走して進むより、俺好みの山歩き。何と言っても森林の中を歩けるのがありがたい。


「なあ小僧」


 なんだよ


「お前さん、クラスに好きな娘とか、いないのか」


「いるわけねえだろ」


「おかしいですね。私の占いだと、そろそろ運命の人に出会うはずなんですけど」


 余計なこと言われると、クラスの女子を変に意識しちゃうから、やめてくれ。


「自意識過剰じゃのう」


 ああそうだよ。俺はキモいガリ勉だよ。


「いえいえ。昭和の男子は皆そうでしたよ。まっ、全部冗談ですけどね」


 勘弁して下さい。


 俺は本来、黙々と歩く方なんだが、実はもう学校でも放課後でも会話をする機会が、ほとんど無くなっているんで、これだけ話すのも久しぶりではあるんだ。


 変な話ばかりだが、気持ちのガス抜きにはなっている。


 午後四時を少し過ぎた頃に、宿泊予定地であったらしい山小屋に着く。明日もう半日歩いてから、帰路につくそうな。


 騙して連れて来なくても、よかったんじゃねえの。


 

 それで次の日には、予定通りの進行で山歩きを終え、夜ごろ自宅に着く。


 それからそのまた次の日には、元通り勉強に打ち込む生活が始まる。あの二日の外出が、ゴールデンウィーク中の唯一の外出となった訳だ。


 祖父母の思惑が何だったか分からんけど、確かに俺にとってはいい結果になったんだよな。


 気分転換、体調転換が出来て、問題だった妙な頭痛はすっかり治っちまった。


 素直に祖父母に感謝してもいいけど、ホントに何で騙して連れだす必要があったんだろうか。


 お前が日帰りでなければだめだと言ったからだ。そう言われるのは分かるので、敢えて尋ねないが。


 それよりいよいよ一学期中間テストまで間が無い。高校入学後、最初のテストだ。今の俺の実力が明らかになる瞬間。


 これからは本気の本気。全人類のド胆を抜いてやるぜ。

午後も四時頃に投稿予定しています。よろしくお願いします。

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