第三話 俺はここまで来た3
俺の通うことになった高校について、説明しておこう。
まず制服は、男子学ラン、女子セーラー。全校生徒数は六百人あまりだ。
学校の周りにあるのは、一面の水田。田んぼの真ん中に、突然、校舎が存在する様は実に不自然だ。
例えば田舎に建てられた、郊外型ショッピングセンター。あれ、平日行くと客より従業員の方が多いんだけど、どうして経営が成り立っているんだろうな。
建物としてはそれと似た感覚だ。
学校から駅前まえの繁華街まで、徒歩四十分ほど。ちと遠いけど、自転車使えば然程でもない。学校と繁華街の間に住宅地があって、そこから通う生徒も多い。
俺の家は、駅前方面からは、学校を挟んで反対側にある。これまた不自然に公園の多い緑化地域。
要するにここら辺一帯は、地方都市の、そのまた地方の市町村ってことだよ。気にしてるヤツもいるみたいだけど、田舎者呼ばわりされても、俺は平気だぜ。
同じ中学から、この高校に進学して来たヤツも多いけど、元から交流は無い。うんうん、もう人間関係に豊かさを求めるのは、あきらめたよ(遠い目)。
俺は自転車で通学している、そして十分もあれば着いちまう。万歳地元だ。
自転車は、チ〇リの六十年物とかいう、祖父さんのお下がり。よく知らないけど、未だに新品に見える。結構いい自転車なんだろうな。
この高校は、三学期制を使っている。
保守的というよりは、遅れているだけだろうけど、俺にしてみれば二学期制よりテストの回数が多い分、ありがたい。
それだけチャンスも多いって事だからな。
皆が新生活に、慣れるだの、慣れないだのと言っている間に、俺は勉強を開始したね。
やり方は中学と同じ。その日の授業で習った所を復習して、教科書と参考書を手繰って予習。買ってきた問題集をひたすら解いていく。
完全なる進学校へのランクアップを狙う学校側の方針と、俺の生活態度は、完全なる一致を果たしていた。
初日から八時間授業に皆は、中学時代との違いを痛感していたが、土・日には十二時間勉強が当たり前の俺にしてみれば、さしたる苦でもないな。
どうやら俺ほど勉強して、この学校に来ている者は、一人もいないようだった。
それこそ当たり前かもしれないが、さすがに俺はもしかして、かなりの○○なのではないかという、疑念がわいてくるのを、防ぎきれなくなりつつある。
言わなくてもいいかもしれないが、伏字の中身は、動物を表す漢字二文字だ。
普段からの俺の授業態度と、中学時代の俺を知るヤツ、また、そいつ等から話を聞いたらしい連中などから、俺に話しかけて来る同級生は皆無だった。
頭の片隅で、将来の俺は、この時期の事を思い出す度、どんなことを想うんだろうな、などと考えたりするが、今が好けりゃあ、それで好いじゃねえか、と納得することにしている。
ッつうことは、俺にとって勉強は、もう明るい未来の為の手段ではなくて、今を生きる為の目的と化していやがるのか、と家に帰ってから、一人、笑い転げたりしている。
本気でそろそろ、ヤバいかも知んない。
四月はアッと言う間に過ぎ去る。今という時間は恐ろしく長いのに、過ぎ去った時間は一瞬のように感じる。
毎日の勉強で、常に新しい知識を吸収しているはずなのに、何日も何日も同じことを繰り返している様な日常。
果たしてこれが、一般的な青春という物なのだろうか。
友達もつくらないで勉強ばかりしている俺って、そりゃあ、つまらない青春時代の過ごし方しているのかも知れねえけど、じゃあ、他に何したら幸せになれるんだよ。
っと、それこそつまんねえ一人怒りを始めてしまった。
やっぱり自分でも、これこのままの人生でいいのかって思いがあって、それを納得させる為に、怒りだしてしまったんだろうな。
落ち着いて考えてみよう。
例えば、もしこの先、何十年も今と同じような生活が続くとしたら、俺はその時を苦痛に感じるだろうか。
今、現在、俺は勉強に対して、もちろん苦痛もあるが、それに優る楽しさもある。
一生勉強し続ける訳じゃないが、将来することになる労働ってヤツも、これと同じようなモンなんじゃないか。
つまり結局、今の様な生活を、一生続ける事になるのだろう。それはつまらない人生だろうか。むしろそれ以上幸福な一生など無いのと違わないか。
究極的には、自分がそれでよければそれでいいという、ごく普通・一般的な幸福論なのだが。
だから俺は普通の幸せな青春を過ごせているのだろう。
これだけ毎日勉強しといて、思いつくのがこんな小学生が考えた哲学みたいな、浅~い理屈っていうのも情けねえなあ、とは思うが、俺は頭を良くしたいために勉強しているんじゃなく、テストでいい結果を出したいために勉強しているんだから、別に頭なんか○○でもかまわねえよ、としておこう。
実際こんな、完全な進学校でも無い高校で、こんなに必死になって授業受けてる俺みたいなヤツって、どう考えても優等生なはずがないと、誰でも分かる話だろ。
うん、同じクラスの皆もそう思っているらしく、「アイツって、よっぽど成績悪いのか?」とか、俺と同じ中学だったヤツに訊ねているのを、目にとめた事がある。
ただ、何か俺、嫌われてはいないらしい。
こんなガリ勉を友達にしたいと思う物好きは、さすがにいないみたいだが、俺のこの学校での態度は、周囲の人に不快感を与えてはいない様だ。
それは俺も、好かったなあと思う所だよ。
勉強の邪魔された日には、この教室ぐらい制圧してやらなけりゃならねえ。
かつて、三百万英霊召喚を繰り出して来た呪術師を、両祖父母と一緒に倒した時ほど、手間は掛からないだろうけど、俺の方でも彼等にウラミは無いからな。
お互い、波風立たぬ学校生活を送りたいモンだ。
明日も午前10時頃に投稿できるよう頑張ります。遅れたらすみません。
よろしくお願いします。