第二話 俺はここまで来た2
高校受験は少し無理をして、平均より少し高めの所を受けた。
教師も不安そうだったが、今までの俺の努力を目の当たりにしていては、難しいから無難な高校に下げろとは、とても言い出せなかったのだろう。
授業というモノも、あんまり真剣に、全力で受けられると、返って進行させづらくなるモノの様で、元々薄っぺらかった俺の友人関係と同じように、教師たちも俺から遠のく様になって行ったが、悪感情が芽生えたという事ではなかったらしく、心の内では応援してくれていたようだ。
俺はどうも、人の心が分からない男ではあるようだが、クラスの連中の態度が冷え込んだ分、教師からの受けが悪化していない事は、感じ取れていた。
迎えた高校受験当日。朝から何もかも絶好調で、人生最高のコンディションで、試験を迎える事となった。
今にして思えば、テンション上がり過ぎて、ハイになってるコトを自覚できなくなっていただけだろう。
そのせいでなのか何でなのか知らんが、試験中から合格発表までの記憶は、今ではほとんど残っていない。
合格したと知った時にも、完全燃焼から少しも回復出来ておらず、呆けた顔で、薄らボンヤリしていたと、これは曖昧な記憶が残っている。
そのまま無気力人となって卒業式を終え、流されるままに高校入学の準備を果たし、燃え尽きた灰の中から、チロチロと埋み火が燃えぶり返したのが、入学式の頃だったか。
高校最初の授業を受けた時には、俺は完全に復活していた。
俺の通うことになった高校は、確かに平均値よりは少し高めの学校なんだが、つまり本当に少し高いだけでしかなく、本格的な進学校って程ではない。
自由な校風という以外、謳い文句の無い特徴に乏しい学校だが、それでも、個性も特色も無くても、それでもここは俺が努力して入った、誇るべき高校だ。
まあ、そんな風に思っているのは、三学年通じても俺だけだろうな。入学初日に見た同級生の顔つきは、いずれも屈託なく気楽そうだ。
「小僧、お前さんには、学校なんざ行かんでも、自然の中で生きて行ける、個性的な人生を歩ませてやろうと考えていたんだがな」
と、これは、苦み走った顔なのに、まるで屈託の見当たらない表情をした、父方の祖父の弁だ。
「俺は将来、野生の猿になりたいつもりは無いんだけど」
ずいぶん勝手な言われようだったんで、これくらい言い返しても悪かないだろ。
「学生なんざ、檻で飼われてる猿みてえなモンだろ」
何だと! さすがにカッチーンときたが、思い返して我慢する。
この祖父は己の青春時代を戦争に費やし、学校教育が受けられず、戦後も三十年くらい苦労を重ね、やっと落ち着いて祖母と家庭を持った時には、四十代半ばを過ぎていたという、経歴の持ち主だ。
高校に通って勉強できる、恵まれた環境の俺が、言い返せる言葉は無い。
「お祖父さん、この子をいじめてはいけませんよ」
父方の祖母だ。この人は連れ合いの父方の祖父も、アカの他人の母方の祖父も、同じくお祖父さんと呼ぶ。
「勉強したっていいじゃない。人間だもの」
相〇君のファンだったりもする。
って祖母さん、俺の勉強、応援してくれるのかよ。
「たまには私とも、遊んでくださいよ」
ああ、うん、すげえ嬉しいっスよ、祖母さん。
「ちっ、色気づきやがって」
いや、それはねえよ、祖父さん。しかし勉強する俺に味方してくれる人が、初めて出来た事は大いに励みになった。
そう。高校入学はゴールじゃない。まだこの先に、大学受験がある。俺はここでの三年間も、勉強一本に懸けるつもりだ。
時代が現代とは若干ズレてます。主人公の苦悩はもうしばらく続きます。
今日、もう一話投稿します。よろしくお願いします。