第一話 俺はここまで来た
学生の本分は勉強だ。
いや、なにもこれから説教を聞けって言うんじゃない。毎日の勉強が、どれだけ重要かつ困難かは、のび太のママがよく語って聞かせてくれている通りだからな。
さすがの俺も、高校入学以降は、あの番組を見る機会も減ったが。
俺の名前は、矢岳 竜爪。高校一年だ。まずは俺の、今までの生き様について話させてくれ。
今さら言うまでも無い俺の人生を語る上で、まず一番に来るのは、祖父母のことだろうな。父方の祖父母、母方の祖父母、両親と俺という、変わった家族構成の下で生まれ育ったんだ。
今でこそ俺は二組の祖父母に対して、あまり好印象は懐いていないが、小学生くらいの頃は、中々に懐いて甘えていたもんさ。
山遊びに誘われて、渓流を沢登りして、羆と魚を奪い合うなんて、可愛い遊びと思っていたからな。
しかし、元、叡山の護法童子だった悪鬼の生首なんて化物どもを退治したりしている辺りで、これはマトモじゃ無いんじゃないかと、遅まきながら理解するに至った訳だ。
両祖父母たちは、すわ反抗期か、などと言っていたがそうじゃない。うん、もちろんそれも有ったかもしれないが、それだけじゃ無いだろう。
そう、俺の祖父母達は、ちょっとシャレにならない位の変わり者だったんだ。
俺はその年齢の若者的な発想で、こう思った。
この異常な成り行きは、克服すべき障害だ。何をもって、この障害を乗り越えん。常識とそれを理解する知性をもって。
それは即ち学問だ。
え、え~と、俺は実はもうちょっと即物的な人間なんで、勉強できればイイとこ進学出来て、それなりのとこ就職出来るはずだなあと、思い始めた中2の夏休み。
つまりは、勉強するからという口実で、祖父母から持ち掛けられる遊びの誘いを、断ろうとしていたんだな。
あと、念のため言っとくが、祖父母以外にかまってくれる友達が、全くいない訳では無いぞ(ちょっと涙目)。
祖父母たちの誘いを断っちまったら、途端に暇になるもんだから、勉強でもして時間を潰さないと、長すぎる放課後を消化しきれないと言う事情もあった。
ホント全く友人がいない訳では、なかったんだぞ(もはや半泣き)。
そんな訳で(改めて考えてみると、実に大したことの無い理由で)、中2にの夏休みを境に俺は、勉強に励むことにした。
中2の夏休み以前の俺の成績は、大体、平均点前後だった。
ほとんど勉強せず、それ程頭を使わなくても、この程度にはなれたんだ。本格的に勉強を開始すればどうなる事か、と一人余裕を噛みしめていた……、のだが。
中3の前期試験後、もう既に余裕は消えていた。
おかしい。いくら勉強しても、全然結果に反映しない。相も変わらず、勉強を始める前と同じ、平均点前後だ。
もしかして、学年が進んだ分、勉強内容も難しくなって来ていて、追い着くだけで精一杯だったとか? いや、そんな手応えでもなかったんだが。
「それはアレじゃ。ヘボ同士が一生将棋指し合っていても、全く上達しないのと同じ理屈じゃよ」
祖父さん黙っていてくれ。最近ツレなくしてるからって、それは言い過ぎだぞ。
いや、だが本当にその通りだったらどうする。というか、それは全体どういう理屈なんだ。
「ホッホッホッ。わしゃ知らんぞ~」
チクショウ。こうなったら、後には退かんぞ。今までの勉強量で、追い着くのに精一杯だったなら、さらなる勉強量増加で、一気に追い抜いてやる。
それからの俺は、勉強一筋に徹し抜いた。授業態度のみならず、学校生活全般において、勉強の鬼と化した。
元より少なかった上辺だけの友人達は、完全に俺から離れた(もう涙は見せないぜ)。何としても高校入試までに、目に見える成果を叩き出してやる。
家での学習も抜かりはない。他所の家より少なかった俺の小遣いは、全て参考書と問題集の購入に充てた。生活時間と睡眠時間を除く、総ての時間をそいつに注ぎ込んだ。
その日の授業で習ったことも、きちんと復習したし、教科書と参考書をたどって、予習も抜かりなく熟した。
やれるだけの事は、全てやり尽くしたんだ。
なのになぜ――――。
中学時代を通じて俺のテストの成績は、ずっと平均点前後に止まった。
ヒロイン登場は六話辺りからです。
午後も投稿します。よろしくお願いします。