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エピローグ 前

「ひっぐ……ぅあぁ、ゆーぐん、ごべん゛なざぃぃ……」

「そんなに泣かないでよ、加奈ちゃんだって途中から気持ちよさそうにしてたじゃないか」

「してないもんッ‼ 気持ち良くなんてなってない!」


 嘘だった。ホントは途中から段々痛くなくなってきて――ゆーくんを思いながら、先輩で気持ち良くなっていた。


 こんなはずじゃなかったのに。

 一時の感情で、私はなんてことをしてしまったんだろう。


 ゆーくん、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。


「浮気するって言うのは、こういう事だって加奈ちゃんも分かっていたはずだろう? それに、優斗君に仕返しできたんだし良かったじゃないか」

「ッ……わかってたけど! だけど……」

「まあ、加奈ちゃんは優しいからね。罪悪感を覚えるなと言っても無理か」

「こんな事したのがバレたら……ゆーくんに嫌われちゃう」

「大丈夫、僕は口が堅いから心配しないで? それに、あっちも浮気してるんだから僕たちの事を責める資格なんてないよ」


 先輩から優しく慰められると、乱れた感情も少し落ち着いてきた。

 よく身体の関係を持つと情が湧くと言うけど、ホントかも知れない。


 何故なら、ゆーくんを裏切ってしまった自分の事は嫌いになっても、先輩の事は嫌いになれなかったから……。ううん、むしろ――


「ホントに? ゆーくん……私の事許してくれるかな?」

「許すもなにも、優斗君には内緒にすればいいんだけなんだから、加奈ちゃんが怒られる心配なんて全くないよ」

「ぜ、絶対内緒だよ!? ゆーくんに言っちゃダメだからね」

「絶対に言わないから少し落ち着こうよ。加奈ちゃんは心配しすぎだ。こんなのちょっとした仕返しなんだから」

「でも、私ッ……先輩と、こんな事しちゃって」

「今時、処女かどうか気にする男なんていないさ。まして加奈ちゃんくらい可愛かったら、経験してるって思うのが普通だよ。優斗君もきっとそう思ってるんじゃないのか?」


 そう、なのかな。ゆーくんも思ってるなら心配ないけど。

 でも、それはそれでちょっとショックだよ。だって私がゆーくん以外の人とシてるって思われてたって事でしょ? 結果的にシちゃったけど、ゆーくん一筋な気持ちは今でも変わらないのに……。


「それに、万が一バレても――僕が全部悪いことにするからさ」

「えっ、先輩?」

「加奈ちゃんを誘ったのは僕だ。なら、優斗君の怒りは僕が全部受け止めるべきだろ? だからさ、加奈ちゃんは何も心配しなくて良いんだ」

「そんな……! 先輩だけ悪者にするなんて、出来ません」

「いいんだよ。あと、今更だけどごめんね? 僕の事なんて、好きでもなんでも無いのに……仕返しのためとはいえこんな事、嫌だっただろ?」


 悲しそうな顔で下を向く先輩を見ると、何故か胸が締め付けられるような気持になってしまう。確かに、ゆーくんを裏切るような事をしたのは嫌だった。


 でも、先輩は最初からずっと私の事を大事に扱ってくれて。

 ゆーくんの事抜きで考えても良いなら――とっても、嬉しかったの。


 優しい先輩に、そんな顔をしてほしくなかった。

 それに、間違いなく先輩は私の初めての人だったから。


 だから――


「先輩」

「なんだい加奈ちゃ―――んん!」


 ごめんね、ゆーくん。

 一度だけ、先輩とキスする事を許してください。


 先輩に心変わりしたわけじゃなくて、これはあくまで元気付けるためのもの。

 最初で最後、だから。


「ちゅ……ぷは、加奈ちゃん……? キスはしないんじゃ?」

「……はい、嫌いな人となんか絶対にしません」

「えっと、それって」

「だ、だから……ゆーくんには悪いとは思ってるけど、先輩とシた事自体は……その、嫌じゃなかったっていうか」


 嫌だけど、嫌じゃない。私にも既に良く分からないけど、これが本心だった。

 ゆーくんを裏切るのは嫌――なのに、先輩に優しく抱かれるのは嫌じゃなかった。


 何て説明して良いのか、自分でもサッパリわからない。

 これじゃ、浮気を楽しんでる最低な女にしか見えないかも知れない。


 でも、先輩は分かってくれた。


「そっか、つまり。僕の事が嫌いって訳ではないんだね」

「は、はい。そういうことです」

「加奈ちゃんからキスしてくれる位には、好きって事でいいんだよね?」

「それは、先輩が落ち込んでたから……もう、キスはダメなんですから」

「嬉しいよ。加奈ちゃんが僕の事をこんなに思っていてくれたなんて!」

「きゃっ……‼ あっ、ダメです、先輩!」


 先輩が明るくなってくれたのはいいけど、私は再びベッドへと押し倒されてしまう。そのまま迫ってくる彼を咄嗟に手で押し止めた。


「ダメ、です。これ以上ゆーくんを裏切るわけにはッ!」

「まだ深夜になったばかりだ。それに……仕返しも十分じゃないと、僕は思う」

「せ、先輩……?」

「頼むッ……今夜だけでいいから、僕に身を委ねてくれないか?」


 苦し気なそんな声でお願いされてしまうと。

 そうやって切なそうに私を求める姿を見てしまったら、どうしていいのかわからなくなってしまう。


 悩んでたら、突然着信の音がした。

 画面を見ると――ゆーくんからだった。


「あっ……ゆーくん」

「こんな深夜に電話か……優斗君もあの女の子とタップリ楽しんだんだろうね」

「えっ……?」

「まあ出てみなよ、嘘だらけの言い訳が待ってるさ」


 先輩はそう言うけど、私はそうは思わなかった。

 ゆーくんも私と同じように、罪悪感があるに違いない。


 だから、これはきっと――謝罪の電話だって信じてる。

 先輩には悪いけど、ゆーくんが謝るなら私も本当の事を話して……謝ろうと思った。


 二人共、少し失敗しちゃったけど。

 ゆーくんとなら、乗り越えられるはずだから。


 そう決意して、私は電話に出た。


「もしもし……ゆーくん?」


『加奈、こんな遅くにごめんな。友達の家に泊まるって加奈のおばさんから聞いたんだけどよ、ちょっと伝えたいことがあってさ』


 ……やっぱり、浮気してた事を話すためにゆーくんは電話をくれたんだ。

 まだ許せない気持ちはあるけど、それでも誤魔化さずに話そうとしてくれたのは嬉しい。


 深呼吸して、ゆーくんの告白に備える。

 ゆーくんの次は、わたしの番のはずだった。


『実はさ、明日……俺の家に来れないか? ちょっと、渡したいものがあるっつーか……』


 だけど、私が期待してた謝罪など無くて――素知らぬ声で、私を家へと誘う声だけが頭に響いた。どう、して……? どうして、誤魔化すの?


『ダメ、か? なんか用事あったりとかするなら、無理にとは言えないけど』


「ゆーくん……その前に、一つだけ聞いてもいい?」


『ん? どした加奈』


「ゆーくんは、今日の放課後。部活に行ってたんだよね?」


『えっ!? あ、ああ~~……そ、そうだな‼ シュートの練習してたかな……』


 信じてたのに。

 正直に、言ってくれるって……信じてたのにッ‼


『そ、それで部活がどうしたんだ加奈……?』


「ううん、なんでもないから気にしないで。あと、明日行くのはお昼過ぎになるけどいいかな?」


『おう、勿論だ! じゃあ、昼頃準備して待ってる。あと、加奈のために――』


「ごめん、もう眠いから切るね。明日楽しみにしてるから」


『あ、ああ……こんな遅くに電話しちまって……ホント悪いな。それじゃおやすみ、俺も明日楽しみにしてるから!』


「……おやすみ。ゆーくん」








 先輩の、言う通りだった。

 ゆーくんは……嘘ばかりついて、浮気を誤魔化そうとしていた。


 そうなんだね。ゆーくんも、私と先輩みたいに……あの女の子とシちゃったんでしょ?


 なら――――もう、いいかな。

 我慢なんて、しなくても……いいよね。


「加奈ちゃん……やっぱり、優斗君は」

「……先輩も、聞いてましたよね? 今の会話」

「ああ……平気で浮気をして誤魔化すなんて、ホントに最低な男だ」

「もう、そんな事どうでもいいです。それよりも、ゆーくんの家に行くの――お昼過ぎからなんですよ?」


 先輩とするのは、あんなに気持ち良かったのに。

 ゆーくんのために、我慢しようとしてたんだよ? 声も必死に抑えたりして、頑張ったんだよ? だけど、我慢するのは終わり。


「だから、ね? 朝まで、愛してください」

「……分かったよ、加奈ちゃん。優斗君では、二度と満足出来ないくらい愛してやるからな!」

「来てください先輩……ッ! 今だけは、ゆーくんの事なんか忘れさせてッ」





 それからは、ひたすら先輩と愛し合った。

 一度受け入れてしまえば、どこまでも気持ち良いのが続いて。


 言葉通り、ゆーくんの事なんか忘れて大きな声で喘いでいた。

 一度しかしないと決めたキスも、数えきれないくらい先輩として、最後辺りになると蕩け切った私の方から積極的に――しました。


「はやと、せんぱぁい♡ すきっ、すきです」

「加奈は僕の事が好きなんだね? じゃあ優斗君と、どっちが好き?」

「ゆぅくんも好きだけどぉ! 今だけは、せんぱぁいの方が――すきぃ‼」


 何度も何度も快楽に身を委ねたからか、愛するゆーくんのことより、目の前にいる隼人先輩の方が愛しいと……その時の私は本気で思ってしまっていた。


 そして私が覚えているのは、この辺りまで。

 途中で失神してしまったのか、気が付くと朝になっていた。




 結局、何度ゆーくんを裏切ってしまったのか覚えていないくらいやっちゃった。

 ――ごめんなさい、ゆーくん。でも、おあいこでしょ? ゆーくんだって、私を裏切ったんだよ?


 だからそう、これは仕返しなの。

 私に嘘を付き、裏切り、傷つけた幼馴染(ゆーくん)に対しての――仕返しなんだから。





 朝になり、目を覚ました私は先輩と一緒にシャワーを浴びてからホテルを出る。

 別れ際にどちらからともなく恋人のように口付けを交わし、しばらくの間見つめ合った。


 例えゆーくんと仲直りできたとしても、先輩との一夜は忘れられない思い出になっただろう。ゆーくんと先輩を比べてしまう……そんな未来が必ず来ると思う。


 だけどね? それも全部、ゆーくんの所為なんだよ?

 ゆーくんが浮気なんかしなきゃ、そうやって比べられる事なんてなかったのに。


 比べたくなんか、なかったのにっ……ゆーくんの、バカ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] オチがなんとなく想像できてしまって… 何故だろう笑みが止まらない(歪笑) [一言] 更新に気がつかなくて、一気ち中編から此処まで読んだわ〜 こりゃ…先輩ヤりましたね?『分かってて』ヤりま…
[良い点] 先輩、見事な騙しっぷりですね。 実際にこういう子がいるかどうかは分かりませんが、ありえないことはないんじゃないかな?と思います。現実にはこうなる前に誰かがストッパーになるのかな。 [一言…
[一言] 予想される今後の展開として。 ゆーくんの浮気が誤解だったと判明。 取り返しがつかない事をしてしまったと気付き先輩に口止めお願い。 気を失っている間に写メか動画撮られて、ゆーくんに見せると脅…
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