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後編

 結局、私は先輩に誘われるまま――()()()()事をするホテルまで来てしまった。


 制服だと不味いからと言われたので、一回家に帰って服を着替えてから先輩と合流し入りました。お母さんには、友達の家に泊まりに行くと嘘を付いたので……朝まで大丈夫。


 何度も迷ったけど、楽しそうに他の女性と話すゆーくんの姿を思い出すと怒りが再び湧き上がり、僅かにあった迷いも吹っ切れた。そうよ……ゆーくんが先に浮気したのが悪いんだから。


 とはいえ、こんな所に来たのなんて初めてで……。

 緊張を和らげようかと思ってテレビを付けたけどすぐに後悔してしまった。でも、こんな過激な事を今から私もしちゃうんだ。


 一方の先輩は何だか随分慣れてる様子だった。お金の方も全て出すからと押し切られてしまい、申し訳ない気持ちになりました。


 そんな気持ちもすぐに消えましたけど。


「悪いと思ってるなら、一緒にお風呂でも入らない?」


 そんな事を先輩から言われた時は変な声が出てしまった。申し訳ないとは思ってるけど、そういうのを求められても困る。


 私はあくまで、ゆーくんの彼女なんだから。心まで裏切るのは嫌。


 当然、断った。確かに、浮気するとは言ったけど私が愛してるのはゆーくんだけだもん。これは仕返しなんだから、先輩とイチャイチャする気なんて全くない。

 私が好きなのはゆーくんだけだし、ゆーくん一筋なこの気持ちが変わる事なんて絶対にないから。


 だけど――しちゃうんだよね?


 ゆーくんともまだしたことないのに、私。

 ホントに、いいのかな? やっぱり……こんなの、間違ってる気がする。


 心まで委ねなければ――ゆーくんも許してくれる、のかな。

 もう、わかんないや。頭の中がグチャグチャで、ゆーくんに会いたい寂しさと、ゆーくんに対する怒りが混ざり合って……。


 なんでなのよ。なんで……ゆーくんは浮気なんて、したの?

 酷いよ。ゆーくんがそんなだから、初めてを先輩に捧げる事になっちゃったんだよ? ゆーくんにあげたかったのに、ホントはゆーくんと……。


「うっ……うぅ……ゆーくん」

「加奈ちゃん、待たせてごめん。早速はじめて……泣いてるの?」

「……っいえ、泣いてないです」


 思い出し泣きをしてるところを先輩に見られてしまったけど、急いで涙を拭い嘘を付いた。仕返しするために先輩の案に乗ったのに、ゆーくんの事で悲しんでしまったら何にもならない。


「大丈夫だよ。加奈ちゃんの心も身体も、僕が癒してあげるから」


 耳元で囁かれた後、身体に巻いていたバスタオルをゆっくりと脱がされた。


「綺麗だよ、加奈ちゃん……優斗君には勿体ないくらいだ」

「あ、あまり見ないで下さい。恥ずかしいです」

「そう言う反応も、慣れてなくて可愛いね」


 顔が熱くなるのを感じる。

 いま私、先輩に全部見られちゃってるんだ。ゆーくんにもまだ見せた事の無い身体を……全部。


「先輩っ……あの、私、初めてでその」

「大丈夫。僕に全部任せてくれれば、何も心配いらないから」


 安心感のある言葉に、固くなっていた身体の力が抜ける。

 そして優しくベッドに押し倒された。


 先輩が私の顔にゆっくりと近づいてくる。キスされてしまうのだと分かった。

 唇と唇がもうすぐ触れ合おうとした瞬間――私は咄嗟に間に手を挟んでしまう。


「加奈ちゃん?」

「ごめんなさい……キスは、ゆーくんだけのものだから」

「……そっか、分かったよ」


 ゆーくん以外とキスするなんて嫌だった。何だか、ゆーくんと初めてキスしたときの幸せな思い出を塗り替えられてしまう気がして……怖かった。

 ゆーくんに対する罪悪感が、彼とのキスを拒ませたのかもしれない。


「大丈夫、怖くなんてない。最高の思い出にしてあげるよ」


 私の心を見透かしたように、先輩はニッコリと笑顔で笑いかけてくれた。





 ***





 それからしばらくの間、与えられる強烈な刺激に自分でも今まで出したことのない様な声を上げてしまう。先輩に触られると、とっても気持ち良くて……身体と一緒に、心まで蕩け切ってしまうのを感じた。


「あっ……♡ 先輩、そんなのダメ!」

「ダメじゃない。気持ち良いなら、それは良い事なんだよ」


 そうなのかな? 気持ち良いのはダメじゃなくて良い事なの?

 先輩が言うなら、きっとそうなんだ。私――気持ち良くなってもいいんだ。


 僅かにあった抵抗の気持ちが飲まれてしまう。

 先程まであったゆーくんに対しての罪悪感も薄れ、与えられる快楽の虜になっていた。ただ、まだ心のどこかでゆーくんに謝り続けている自分もいた。


 ゆーくん以外の男性で気持ち良くなってごめんなさい。

 ゆーくんにも聞かせた事の無い声を、はしたなく出してごめんなさい。


 ゆーくんを愛する心が、自分の裏切りを咎めているようだった。

 だけど快楽がそんな心すら押し流し、私は先輩からされるがままとなる。





「はぁ……はぁ……」

「大分、良い感じだね」


 何度も何度も気持ちよくなり、息が乱れ意識がおぼつかなくなってきた。

 あれ、私……どうしてこんなところにいるんだっけ。


「じゃあ、いいよね? そろそろ……加奈ちゃんの初めてを貰うよ?」


 先輩が何か言ってる。初めて……なんの? あ、そうだ、思い出したぁ。

 ゆーくんが裏切ったから、先輩に初めてをあげるって言って、それで。


 ……それで、本当に良いの?


 私の初めてを、先輩にあげていいの?


 ゆーくんが裏切ったからって、そんなことしていいの?


 私の初めては――ゆーくんにあげるんじゃなかったの?


 思考が冷静になると、自分のしていることが最低の裏切り行為だと気づいた。

 なに、やってるの私……いますぐ、やめないと。今ならまだ、間に合うから!


「先輩ッ! あの、やっぱり私、こんなことやめッ――」


 思い直して、やめたいと告げようとした瞬間――痛みが走った。


「……へっ?」

「ごめんごめん、我慢できなかったよ――卒業おめでとう、加奈ちゃん♪」

「ひッ! いやぁあああああああッ!!」



 あまり痛くないのが、何だか無性に嫌な気分だった。

 ああ……ごめんね、ゆーくん。


 ゆーくんにあげたかった私の初めて。




 先輩に、とられちゃった。

もう少しだけ続きます

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― 新着の感想 ―
[一言] いやぁ…いいですね。ほんと。ラストがすごい気になります…
[一言] そっかー、ばっどえんどかー パイセンのばっどえんどもほしー
[一言] いやいや ド直球で来ましたね。 もう涙でバットが振れねっす! あとちょっとがワクワクです!!
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