前編
『優斗君……小さな頃からずっと好きでした! 私と付き合ってください!』
『加奈……実は俺も、加奈の事がずっと好きだったんだ』
『えっ、ほ、ホントに?』
『ああ、だから――こちらこそ宜しくお願いします!』
中学校を卒業したあの日、私は思い切ってずっと好きだった幼馴染の前原優斗君に告白して、見事OKを貰った。
懐かしいなぁ。もう心臓がバクバクで、息をするのも辛かったのをよく覚えている。でもあの時勇気を出したからこそ、今の幸せに繋ぐ事が出来たんだよね。
それはそうと! なんでいま、そんな事を思い出したかというと――もうすぐ付き合ってから一周年が経とうとしているからなの!
お互いに気持ちを伝えあって、付き合った日が近づいているというわけです!
優斗とはキスをする関係までは何とか進んだんだけど、その先が中々難易度が高くていけないの。そこで一周年イベントの出番というわけなのです‼ 甘い雰囲気の中、いるのは好き合った男女の二人だけ……当然何も起こらないはずがなく。
普段は優しくて奥手なゆーくんが、野獣のような勢いで私を押し倒し。
そして……‼
「キャー! ついにゆーくんと一線を超えちゃうんだ!」
「加奈……大丈夫か? 朝からヤバい顔してるけど」
「きゃうっ!? き、聞いてたのゆーくん!」
「そりゃ、一緒に登校してるんだから聞こえてるって」
「あうう、恥ずかしいよぉ」
「はは、いつもの事だから気にしてねーよ」
そっか、いつもの事なら大丈夫だね。気にしてなくて良かった。
……あれ、何か引っ掛かるけど、まあいいや。
えへへ、ゆーくんと二人きりの一周年デート‼ 本当に楽しみ‼
一緒の高校に進学したけど残念ながら違うクラスだし、常時ゆーくんとイチャイチャできる機会って意外と少ないから、当日は一日中離れないくらいの心意気でいきたいなぁ。
学校に着いてから、教室に行くまでの間はゆーくん成分を補充するために引っ付いている私ですが、流石に彼の教室までは行けないのでしばしのお別れ。
自分のクラスに入ると、友達と挨拶し今日も雑談に花を咲かせる。
何の話題かって? そりゃもう、恋の話題ですよ‼
当然、私は幼馴染にして人生最高の彼氏と言っても過言ではないゆーくんについて熱く友達に語っていきます。ゆーくんは優しくて、カッコ良くて! ちょっとだけ……私が誘っても、中々手を出してくれない意気地なしだけど、そんなところもやっぱり素敵なんです。
ゆーくんとのラブラブ話をしていると、友達はゲンナリした顔を私に向けてきた。そう言う顔をなんでか毎回されるんだけど、どうして?
「はいはい、加奈は相変わらず優斗君ラブってことでしょ。もう付き合っちゃいなよアンタたち!」
「も、もう付き合ってるもん‼ ゆーくんは、私の彼氏さんだよ!?」
「じゃあ結婚しちゃいなって! 正直熱すぎて見てられないっての」
「け、結婚……そりゃ、したいけど、まだ学生だしその」
「まあ、結婚は冗談だけどさ。ヤることくらいさっさとしてもいいんじゃない? 出し惜しみしてると、別の女に取られちゃうぞ~」
いじわるにそんな事を言ってくるけど、私はいつでもゆーくんなら大丈夫なんだけどね。ただ、ゆーくんがキス以上の事をしてくれないから困ってるのに‼
「ゆーくんは、私だけを愛してくれてるもん……」
「ちょ、ちょっとそんな拗ねないでよ。冗談だってば」
すぐに彼女は謝ってくれたけど、言っていい事と悪いことがあるよ。
私にとって、ゆーくんの存在は全てと言っても過言じゃないんだから、そういう性質の悪い冗談は好きじゃない。
ゆーくんが、浮気するなんて絶対にあり得ないんだから。
***
放課後になると、やっぱり心が軽くなる気がする。
一日が終わったなあって実感できるからかな? 何なんだろ、この感覚。
それはそうと! ゆーくんと一緒に帰りたい気持ちが治まらない!
だけど、ゆーくんはサッカー部に入ってるから今日は練習で一緒に帰れないって言われてるの!!
もぉ~~~! 部活と彼女、どっちが大切なのって言いたい‼ ぶちまけたい! でも我慢よ、だって私――最高の彼女だからッ‼ だけど、こっそり練習覗き見するくらいはいいよね? カッコいいゆーくんを見たいと願うのは、生物として至極当たり前の事なのよきっと!
欲望に負けた私は、そのままサッカー部の練習を見に行く事に決めた。
自販機でゆーくんの好きな飲み物を買って、ご機嫌を取る準備もバッチリ‼ いざ行かん、彼氏の元へ。
練習場へと着き、みんなが汗を流して頑張っている姿をさっと眺めた。だけど、その、なんか……ゆーくんの姿が見えないんだけど。
「ゆーくん、どこぉ? ジュース温くなっちゃうよ……」
いくら探しても、ゆーくんが見つからない。
「あれ? 加奈ちゃん? 珍しいね、サッカーの練習を見に来るなんて」
キョロキョロしてると、爽やかに話しかけられた。
一度聞くと忘れられないようなこの声を、私は知っている。
声のした方向を見ると、予想通りの人物がそこにいた。
ゆーくんからとっても慕われている、優しいサッカー部の先輩である隼人さんだ。
『すっげー良い人でさ! 俺には才能があるって褒めてくれたんだぜ!』
とっても良い笑顔で、目の前にいる先輩を褒め称えるゆーくんを思い出すと、嫉妬の炎が燃え上がりそうになる。いくら男でも、私のゆーくんを取らないで欲しい。
そう言う事もあってか、あんまり私はこの人の事が好きじゃない。
友達が隼人先輩を一目見た時、「なにあのイケメン、一目で惚れそうになったんだけどッ!?」などと言ってたけど、正直ゆーくんの方がカッコいいと思う。
まあ、丁度いいや。
ゆーくんが慕っている先輩なら、ゆーくんがどこにいるか知ってるだろうし‼
「先輩! あの、ゆーくん見ませんでしたか?」
「ゆーくん? ああ、優斗君のことかい?」
「はい、練習するって言われたので……応援しようかなって」
本当は先に帰っていいよと言われたけど、見に来るなとも言われてないし嘘はついてないよね! だってすごく会いたくなったんだから仕方ない。
「あー……優斗君は、ちょっとね」
「?」
そんな難しいことを聞いたわけでもないのに、急に隼人先輩は気まずそうな顔をして私から目を逸らした。なに? なんなのその意味深な態度?
「ゆーくんが、どうかしたんですか?」
おチャラけた雰囲気を出すことも出来なくなった私は、真剣な表情で先輩を問い詰めた。ゆーくんに関して、隠し事をするなんて許せない。
「…………はぁ」
しばらく見つめていると、先輩は観念したように溜息を吐き、小さくゆーくんに謝っていた。なんだか、胸騒ぎがした。嫌な予感が、したの。
「優斗君は今日、サッカー部の練習に来てないんだ」
「……えっ?」
なんで? サッカーの練習するって、私に言ったよ?
ゆーくんが私に嘘を付くなんてあり得ない。そんなこと、あるはず。
じゃあ練習に来てないなら、どこに――――
「言うなと言われたんだけどね。実は、優斗君は今、別の女性とデート中なんだ」
「……へっ? はっ? な、なにいってるの?」
「多分、同じクラスの女子じゃないかなあれは。仲良さそうに歩いて行ったよ」
なに、言ってるのよこの人。
ゆーくんがそんなことするはずないじゃない。
だって、ゆーくんはずっと私の事好きだって言ってくれて。
何度も、何度も好きだってお互いに伝えあって――彼の唇は、とても暖かくて。
そんな彼が、浮気なんてするはずない。
「うそよ……」
「ホントだよ、加奈ちゃん。優斗君にどんな考えがあるのかは分からないけど、君は裏切られたんだ」
「ゆーくんがそんなことするはずないッ!!」
「これを見ても、それが言えるかい?」
そう言って、先輩がスマホの画面を私に見せた。
するとそこには――仲良さそうにゆーくんと一緒に歩いている同じ学校の女子生徒の姿があった。
「あっ……えっ?」
……なんで? もうすぐ、一周年も近いのに。
二人で、忘れられない思い出を作ろうと思ってたのに。
どうして、私以外の女の子と――楽しそうにしてるの?
「ひっぐ、うぅ……うそ、だよ……こんなの、いやぁッ!」
視界が歪み、立つことも出来なくなっていた。
ゆーくん、ゆーくん、ゆーくん……どうして? こんなに、好きなのに。
何がダメだったのかな? 私、ウザかった? ホントは一緒にいるの嫌だったの?
私の事、好きなんじゃっ……なかったの?
あ……ああああ…………。
「加奈ちゃんは、これで良いのかな?」
悲しんでいると、先輩が怒りの籠ったような声で告げてくる。
「……なにが、ですか?」
「正直、今回の優斗君の行動は僕も怒りを覚えてるんだよ。加奈ちゃんみたいに、可愛くて素敵な彼女がいるのに浮気するなんてね」
「隼人、先輩」
「だからさ、加奈ちゃんもやり返してあげればいいんだよ」
「……え?」
泣き崩れていた私を優しく起こしてくれた先輩は、そのまま耳元まで近づき、こう呟いた。
「ねぇ、加奈ちゃん……僕と浮気して、優斗君に仕返ししないか?」
不定期ですが、凄く短いです。