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◆◆◆メリッサ・15歳・凍期間近 4





まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい



全身の毛が逆立つ。

汗が吹き出し、肺がしゃくりあげる。

足が悲鳴を上げてるけど、立ち止まるわけにはいかない。

止まれば死あるのみの、文字通り死に物狂いで洞窟内を駆け抜ける。



ギッシャーーーーーーーーー!!!!!



真後ろからは、魔獣の雄たけび。



逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろっっってーーーーーーーー!!!!




怖くて怖くて怖くて、後ろなんか振り返る余裕なんてないけど、本能の命じるままに、背中に感じる脅威から、前へ前へひたすら駆け続ける。



山でクマに出くわした時以上の絶体絶命のピンチに、暗い闇の中、灯りもない状態で、ひたすら直感だけを頼りに右へ左へと曲がりながら駆け抜ける。



ギッギャャーーーーーーーーー!!!!!



なんで、なんで、なんで、なんで!!!!

こんなとこにレベル30越えの魔獣が出現してんのよ~~~~~!!!!!






地下5階層へと直接続くらせん階段。


その奥底からの魔獣の咆哮に、怖いもの見たさの好奇心で覗きこんでしまった。

瞬間、目が合う老婆。

底の底からこちらを睨むギラギラとした紅い目。



ゾクウウウウウウウウウ・・・・・・



一瞬で全身鳥肌状態となる。

息が止まる。

心で思うより先に、本能が身体を動かしていた。


瞬間で、その場を離れ、杖を振り払うように戻して。

気が付けば、暗闇の奥にむかって全速力で駆け出していた。



ギャーーーーーーーゴォォォォーーーーーーーーー!



跳びかかるように穴から出現した手に後ろ髪を掴まれる前に、とにかく逃げれたのは奇跡に近かった。



一瞬ちらりと見えたのは、髪を振り乱した老婆の紅い目。

その皺だらけの顔と、ハゲ鷲の翼と、鋭い爪をもつ凶悪の魔獣、ハーピー。




深層階に住むはずの、狂った怪鳥が、なんで、こんなとこまでやって来てるのよ!!!!


生で見たのは初めてだったけど、吟遊詩人の唄に詠まれ、お父さんの話す武勇伝に出てくる通りの、想像通りの姿だった。と思う(うろ覚え)



たしか、ハーピーは目が悪かったはず。

鳥だから嗅覚もそんなになかったはず。

超音波も魔法も使えなかったはず。

羽が洞窟内で当たるのか、そんなにスピードが出ていないのが救い。

屋外なら、確実に狩られてた。


ぜんぶ、うろ覚えの知識だけど。


とにかく、相手が諦めるまで。

その爪の餌食にならないようただひたすら駆け続ける。

それしか生存の道はない。



「はぁっ・・・・はっ・・うっ・・・はぁ・・・」



体が悲鳴をあげ、足の筋肉が突然の全力疾走にこわばる。

それでも、ただただ視覚は目前を、聴覚は背後を、嗅覚味覚その他は無視して、流れる汗も涎もそのままに、走る。走る。走る。



止まったが最後、爪で裂かれ殺されて無残に喰い散らかされる自分の死体を想像すれば、さらなる加速も可能となる。




「野にある野獣ならば、恐れや怖さを知っているから無駄な争いは回避できる。が、魔獣はそれがない。レベルが高くなればなるほど手当たり次第に襲う。まるで憑りつかれたかのように眼前の敵をただただ殺しにかかる。森でそんな奴に出会ったらとにかく逃げろ、目の前からその身を隠せ。いいな?」



そう教えてくれたのは、魔獣ハンターでもある猟師の父さん。


でも、それって雪山で稀に出会うスノーファング(推定レベル10)だったよね?

まさか、こんな地上付近のダンジョンでレベル30以上のハーピーが出るって、ありえないよね?ね?



先生達だって、そんなこと言ってなかった。



そもそも、水圧と同等のダンジョン圧がかかる洞窟で、深層階は地上に住む生物には脳がやられて動きが鈍るぐらいの圧がかかる。だから70階以下に遠征する為には大部隊を組み全体で警戒しつつも要所要所で体を地下の重圧に慣らしながら長期遠征しないと命の危険がある。


数人の冒険者パーティーでの短期間クエストなら40階層撃破が限界って言われている。


反対に深層階の魔獣にとっては地上付近に近づくことは壊死を意味する。はず。

あれ膨張だっけ?収縮だっけ?えっと、とにかく圧の違う世界に生きる生き物にとって跳びぬけた上下移動は命の危険を伴うものだったはず。


なんで40階層前後のパーピーがやって来てんの?


10階層付近で遭難した上級生さん達、なんかもの凄い技でも使って召喚しちゃいました?それか、ものすごい技でもって興味を引いた?とか?どんなワザだよ!


こっちは、そのとばっちりですか?



この世界の地下ダンジョンは深層階で全てがつながっている。らしい。

行ったことないから、教えてもらっただけなんだけど、なんか、深層階は洞窟自体がまるで生きているように刻々とその姿を変えて融合しあい分離し続けるらしい。だから我が家の地下にあったダンジョンには階層ごとにしっかりと封印がされていて、子供はとにかく近づくなって言われていた。

冒険者のパーティーに必ず「ともしび」が必要とされる理由でもある。


学園内のダンジョン攻略が中等部以上のカリキュラムなのは、たま~にダンジョン試験中の学生パーティーがレベル上位の魔獣に遭遇することもあるからなんだけど。

それって裏山の10階層直通の時だよね?

なんで、学院地下2階層で、レベル30越えと遭遇しないといけないのよ?

これはないわ、この試練はいらないわ!!!



心の中では盛大に文句を叫び、不運を嘆きまくる。

ただ口からは熱い息を吐きだすだけで、音はなるべく抑え・・・ようとしてたけど、むり!相手の聴覚に捉えられないように・・なんて余裕もなく全力疾走で洞窟内に靴音を響かせ、

ただただ助かりたい一心で、ひたすら駆け抜ける。





蜘蛛の巣のようなダンジョンでよかった。

迷走するかのように右へ左へ駆け続けること数十分。

背後の雄たけびが遠くなり、迫りくる危機が遠ざかる気配がする。


目の前の三辻を右に入って、すぐ急ブレーキ。

勢いのままに地面に頭から突っ込む。



「がっ・・・・はっ・・・」



思わず声が出るぐらいの衝撃が胸を打つ。

止まる身体。

そのまま、伏せの態勢で周囲の気配を探りつつ、ポシェットに忍ばせている球状の丸薬を、水もなしにかみ砕いて無理やり飲み込む。



「ぐっふ・・・・にが・・・・・」



お兄ちゃんお手製のこの回復薬は、もの凄い苦みと渋みを対価に体の疲労を取り除いてくれる優れもの。相変わらず不変の不味さだけど、速効果でこわばる脚の筋肉が弛緩していくのがわかる。



うん、大丈夫。まだ走れる。



猟師の娘をなめんな。

こっちは吐く息さえ凍る雪原で雪豹に延々追われたことだってあるんだから。


同じくポシェットから、護身用のナイフと魔石アイテムも取り出して、じっと様子をうかがう。いつでも、逃げる準備は怠らない。

脱兎のごとく、文字通りの逃げ足だけは誰よりも速くて、体力があるのは、ちょっとだけ自慢できるとこ。

その足だって日々の学院生活で鈍らないようにって早朝の学院内自主ランニングは続けていた。昔からの習慣で惰性トレーニングだったけど、よかった~こんなとこで役に立ってるよ!


わたしを含め兄弟5人、子供の頃からしっかりと、父さんに生き残る方法を教え込まれていたのが幸いしたのか、単に魔獣相手に体力勝ちしたのか・・・・



しばらくそうやって潜んでいてもハーピーがやってくることはなかった。





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