表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/58

◆◆◆メリッサ・15歳・凍期間近 3





「火ネズミさ~~~~ん、どこですか~~~?」



薄暗いダンジョン内に響くわたしの声。

ここは学院所有の地下ダンジョン2階層。

中等部からしか入ることの許されていない禁忌の場所に、現在こっそり忍びこんでます。


探すのは、お友達の火ネズミ一家さん。


そろそろ越凍の季節だから、何匹かいると思ったんだけどな~。

今日はなかなか遭遇しません。

出てきてほしいな~って思いのままに、ふらふらと地下を彷徨う。


中等部生の実践訓練で使用するのは地下5階層。

講堂横の出入り口こそが、直接伸びる正規のルート。

当然、生徒や先生の往来はあるはずだから、できれば近づきたくないんだけどな~。

このままの流れだと、あこそに行き着いちゃうな~。


先生に見つかると面倒なんですけど~。

地下層から魔獣が出てきても困るし~。


な~んて思いつつものんびりしている。

基本的にここらの階って単なる通過ポイントだから、先生の見回り監視はない空間なんだよね~。

自分の杖を灯りがわりに掲げて、他人を気にせず火ネズミさんに大きな声で呼びかけてるのもそういう理由から。

う~んなんて大胆な行動。

それもこれも経験則のなせる技。

今までここで他の人に出会ったことも、地下層から凶悪な魔獣が上がってきたこともないから、ダンジョンっていっても、つい油断してしまいがちになる。


初等部生にとってはここは立ち入り禁止区域。

違反冒して、こっそり侵入するたびに疑問に思うことが1つ。

ここ地下2階層って、ほんとかわったダンジョン構造だよね~?


図書館の地下倉庫の秘密の出入り口からこっそり入れるこの層だけが、なぜか、ほぼ学院の地下を網羅するような網目状の作りになっていて、魔獣徘徊を阻止する結界あったり、薄暗い洞窟の中でも歩けるようにってうっすらと光源が埋め込まれているとこまである。

だれかが整備した?のかな?

でもなんで?って場所。

秘密の通路?っぽいのよね~。


実家の地下ダンジョンも、家族や知り合いが話してくれるダンジョンも、こんな通路じゃなくて、地下へと穿つような直穴式だっけ?竪穴式だっけ?真っすぐ地下に伸びる構造だった。


事実、学院地下1階も3階もこういう横広がりはなかった。

ドキドキで探検したから間違いない。

地下4階からはさすがに一人で攻略なんてしていないけど、講堂横の正規ルートからなら地下5階まで直通になっている。

それが普通の姿なんだと思う。

そんなへんてこなダンジョン構造だからか、この地下2階層は、野生のウサギをはじめ、野獣レベル3ぐらいの火ネズミ、ちょっと警戒しなきゃダメな野獣レベル5の吠え猫たちの絶好の越凍場所になっている。


雪と氷で覆われる地上に比べたらここって天国みたいに温かいものね。

そりゃ、入れるなら越凍するでしょ?わたしが生き物ならきっとする。



1年生も残りわずかな凍期終わりに、休日返上で再再再提出課題レポートに取り組み、心身ともに疲弊したわたしを見かねて、相棒がこっそり案内してくれたのがこのへんてこな場所だった。



もうね。初めて来たときは、天国かと思いました。マジで。



モフモフパラダイス!!!

モフ最高!!モフフェチと呼んでくださ~い!。

ほ乳類系の毛がふっさふさした生き物って大好きなんです。

大好物なんです!


美しい方をこっそり拝見させていただくことも好きだけど、それよりなにより毛並みをもっふもっふするのが好き。



「はうわ~~~~~~~~!!!!」



って、突然の侵入者に逃げまどい、威嚇する野獣の群れの中で萌え死にそうになっているわたしを、相棒は生温かい目で見守っていてくれた。



それから、こっそりと、何度も何度も禁止されている場所に忍び込んで、モフさん達を餌付けしたり、アンツ(魔獣レベル2~3、集団で来ると危険)等の虫系魔獣を駆除したり、浄化したりと、見つかれば停学処分確定なぐらい地下空間に通いつめて住環境を整えてたら、アラ不思議、モフさん達とすっかり仲良しになってました。



どうかお願いです、火ネズミさん!出てきて下さい。そしてわたしに力を貸して下さ~い!




あの後、ギルがし~ぶしぶ教えてくれた裏技は、



「とにかく、火の魔法で的を燃やせばいいってだけだろ?なら何も杖にこだわらなくてもいいんじゃねぇ~?」



目から鱗の新発想だった!!!!!



「だいたいさ~、俺ら1・2年って、一般教養講座と野外生き残りのための実践練習、それと属性魔法の強化が主軸だろ?中等部になればそれぞれ専門分野開発と地下ダンジョン攻略。高等部ならさらなる実践強化に修練って流れの中でさ、上の学年になればなるほど、ど~したって自力でクリアー出来ねぇ~属性課題も出でくんだよな~。で、そんな先輩方が頼るのが、錬金ギルド商会の優れ物アイテムや、自身で所有する使い魔ってわけだぁ~。2年のただ単に的を燃やせって課題にさぁ~、やれ使い魔召喚だ~、高額魔導具使用だ~ってバカはいねぇ。呪文ひとつで杖から火を出せば、はい完了、はい低コスト。ってわけ。でも、使ってはいけませんっなんてしばりはないよな?メーメーは自力発火パターンがそもそも無理なポンコツ魔法使いだからさぁ~、いろいろコネも利用して別の方法試してみるってありじゃねぇ~?」


ところどころ引っかかる単語を挟みつつも、教えてくれるギルはまさに救いの神さま!



「ギル!すごい!!!天才的発想!マジ神だわ!ありがとう!」



って、両手掴んでうるうる見上げたら固まってた。



「やめろ、天然!」



って、どういう意味?


で、昼休みが終わって、クラスに帰ってみると午後の授業は全部自習になっていた。


どうやら裏山から入る地下ダンジョンに課題で入った生徒達が時間になっても戻らなかったらしい。あっちは地下10階層直通の上級者ダンジョンだから高レベルの凶悪魔獣(推定レベル15以上)が出ることもある。

今回は出た、らしい。

これは大変だって先生方がチームを組んで救助に向かうそうで、必然的に放課後居残りもなしになった。


いきなりの自習時間に初等部では、男子達は裏山ダンジョンのすごさや出現しそうな高レベル魔獣の話しに花が咲いている。女の子たちも集まって恋バナとかのおしゃべりをはじめ、う~ん、自習じゃなくて自由時間?そんなザワつく雰囲気を嫌って図書館や空き教室で勉強するために早々に移動する学生たちもいる。


そうやってこっそり移動する生徒を眺めていて・・・・思いついた。



そうだ、火ネズミさん達に的を燃やしてもらえばいいんじゃない?って。




錬金ギルド商会の目が飛び出るような高価アイテムなんて絶対持っている知り合いはいない。もしいたとしても、貸して下さいなんて、言えない。

・・・って、いうか、もともとコミュニケーション能力に問題があるわたしにとって、噛まずに普通に話せる学生なんて、寮の同室相棒かギルしかいないもん。

ド辺境育ちとしては年の近い子との友情育むドキドキ学院生活って憧れるけど・・・・・・・ハードルが高いです。


まあ、ねぇ~。

入学当初にいろいろとやらかした身なんで、本当、自業自得の身から出た錆なんですけど、寮でもクラスでもちょっと壁がある。寂しい。


そんなわたしのお友達は火ネズミさん(さすがに悲しい気持ちになる)

だけど、まあね。

彼らとならコミュニケーションもばっちりだし、きっと小娘のお願いなんてちょいちょいって叶えてくれることだろう。

もちろん報酬がわり対価、餌も持っている。

とにかく、まずは交渉だよね?。


そう思ったら、居てもたってもいられなくて、勝手知ったる庭みたいなダンジョンに入っていた。


たしかに大した装備もしてないし、無謀なチャレンジだったかもしれないけど。

そこはそれ、通い慣れたヘンテコダンジョンだし、なにより、猟師の娘だから、水の入った水筒と片刃の短剣は護身用に常時携帯してる。

さらにはギルがらみのおねーさま方による校舎裏呼び出しに備えて、逃げるための必須アイテムも完備していた。


なにより今日はギルがおごってくれた絶品クラブサンドの残りをハンカチに包んでお持ち帰りしたから、火ネズミさんへの貢物もばっちり。


杖を呼び出して灯火魔法をかけたついでに、制服と靴にも汚れ防止の不浄魔法を念入りにかけたから、薄暗闇の砂っぽい洞窟でも快適に進むことができた。



あとは、もう、火ネズミさんのご登場を待つばかりなんだけど・・・・・。


おっかしいな~~~~~。

なんで、今日に限ってこんなにいないわけ?


ずいぶん歩いたから、そろそろ講堂近くの直階段付近に差し掛かかってしまうんですけど~。





13歳の時に、かっこいい女猟師になる夢を諦めた。

それまでは猟師になるつもりで修業に励んでいたけど、適正じゃないって気付いてしまったのよね。弟達の一言で。


で、将来設計を見直した。真剣に考えた。


ギルには思いつきだろうなんて言われるけど。

自分の出来ることを本当に考えた。

光属性って奴は、火属性や水属性に比べ攻撃系がてんでダメダメ。

ヒューマン種だからいくら光属性特化でも、無学習でエルフ達みたいに治癒魔法が使えるわけじゃない。男子なら神官職研修で治癒魔法を使えるようにしてくれるらしい。女子は巫女だから歌の研修がほとんど。


もともと、魔力は気力。


脆弱なヒューマン種は、自分の中の精神力を、いかに上手く具象化できるかを学んで初めて魔法使いとなる。

エルフとか有羽人族とかの生まれながらに強力な魔力を持つ種族なら、息をするぐらいの感覚で具現化できる。

それが出来ないなら、この世界を飛び交う精霊に対価を払って代わりにしてもらう。

それが魔法の基礎。


神がまだ地上に残るこの世界は、あらゆるところに精霊が存在し、創造している。

精霊を感じて意志疎通できる種類の魔法使いもいる。


わたしは生まれた時から光属性特化だったけど、他の属性の精霊も感じることができた。


今も、この世界の大半を占めるエアーの精霊はもちろん、杖の周りの光の精霊や闇の精霊も見えるし、風の精霊や水の精霊などを感じることができる。

火の精霊には何度呼びかけても無視されるけど。なんでだ?

だから、将来、もし魔法使いになれるとしたら、「ともしび」の職業になりたかった。

なれると思った。



―――――――――――「ともしび」は、地下や森の案内役。導き手ともいう。



決して戦士や魔法剣士みたいにかっこよくはない職業だけど、安全なルートを導くためには必要なポジション。まあ、エルフや神官、旅商人が兼務できるんだけど、優秀な「ともしび」専門職が過去にいたこともある。そんな職業。


求められるのは、地図を読み、精霊の話を聞いて、安全なルートを選択する。

優秀なら斥候としても生きていける。

魔法をもっと学んで、攻撃も武術も鍛錬して、学院を卒業できたら、「ともしび」として生きていこう。そう思った。



猟師の娘だし、猟師目指していたし。

方位は地下でも夜でも体感でわかります。

なので、蜘蛛の巣のように張りめぐらされた地下2階層ダンジョンでも地上ならどのあたりか無意識にわかっちゃう。

変質者さんや誘拐犯、クマや魔獣、学院に来てからは貴族のおねーさま方に追っかけられても振り切って逃走し、安全地帯に帰還できる便利な特技。


あとは、できたら回復魔法なんかも覚えて、クエストで役に立つようになりたい。

立派な「ともしび」の女魔法使い・・・みんなの導き手・・・に・・・なれたらステキ。



ギッシャーーーーーーーアァァァァーーーーーーー!!!!!



そんなうっとりとした理想像なんて吹っ飛ばす勢いで、魔獣の声が響いた。



それも前方、近く。

地下直通通路から。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ