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24.久吾は、血に飢えた殺人鬼と感情を失ったプロの暗殺マシーンに挟まれたような顔をしていた。

「じゃ、始めよっか。さっそく、ほい。あたしをリコだと思って、あんたの思いの丈をぶつけてきな」


 そして想定通り、二人は華乃のベッドで告白練習を始めた。角度的にもここから表情までしっかり把握することができる位置だ。


「ではお願いします華乃先生」

「華乃じゃない。あたしはいまリコ」

「えー全然リコっちゃんぽくないです。もっとリコっちゃんらしさを出してくれないと練習にならないじゃないですか」

「しょうがないわね、この清純派美少女タレント海老沼紫子があなたに稽古をつけてあげるわ」

「ふっ、くふふ、悪くないですけど、もっとアホっぽくした方がリコっちゃんらしさ出ますね」

「だぁれがアホよぉっ!? アホってゆーほーがアホなのよぉ、このアホ久吾ぉ! ねぇえ、お兄ぃ! アホ久吾がいじめるのぉっ! ねぇ、ちゅうー。ちゅーして慰めてよ、お兄ぃっ」

「アハハハっ! それですそれですっ! もう完全にリコっちゃんです!」

「っしょー。じゃ、次のネタいきまーす。『マネージャーさんに電話してるときのリコ』。あ、あ、あ、あああのっ、ら、ららら来週っ、え? あ、来週っていうか、次の日曜日の……え? あ、リコです……い、いやっ、海老沼という者なんですけれど……はい……はい……いやそのっ、らいちゅっ、らら来週っ、あっ、じゃなくて日曜日のっ、オードュヒョ、オーディションなんですけどっ……え、ちちち違いますっ、イタズラじゃないですっ、海老沼っ、あなたの担当タレント……っ!」

「あーはっはっはっはっ! ちょっ、ちょっと待ってください華乃っ、クオリティ高過ぎなんですけど……っ、ふっ、ふははっ、あなたそれっ、絶対一人で練習してたでしょ、お風呂とかで……っ、ふふっ、アハハハっ!」


 右耳に両手を当て、大げさに目をキョロキョロさせる華乃と、それを見て腹を抱えて爆笑する久吾。


「ねぇ、お兄。たくさん面会に来てね。差し入れとお手紙も小まめにお願いね」

「やめろ殺すな。二人殺ったら出てこられないぞ。耐えてくれ」


 今にもクローゼットから飛び出さんばかりのリコを必死に抱きしめて引き止める。

 ブチ切れる気持ちはわかるが、ここは告白練習を監視するという本来の目的を優先してくれ。あと電話の真似は結構似てたし。


「じゃ、これであたしんことリコに見れるっしょ。はい、告白はじめっ」

「……あーリコっちゃん、オレ実はリコっちゃんのことが……ちょちょちょっ、ダメです、一旦ストップです、なにこれキツっ。中身がリコっちゃん・見た目が華乃な生物に告白しなきゃならないとか絶望なんですけど」


 久吾は、血に飢えた殺人鬼と感情を失ったプロの暗殺マシーンに挟まれたような顔をしていた。


「久吾あんた血に飢えた殺人鬼と感情を失ったプロの暗殺マシーンに挟まれたような顔してんだけど。好きな人に向ける目じゃないでしょそれ。あんたリコのことが好きなんでしょ? そんなんじゃ告白なんて成功するわけないじゃん。やっぱちゃんと練習しなきゃダメっしょ」


 なるほど。華乃が言外に示していることは何となくわかる。

 このまま行ったら久吾はリコへの告白演技で吐いてしまう。免疫をつけなければならない。

 だからこの「リコへの告白の練習という演技」で、本当に「リコへの告白という演技の練習」までしてしまうわけだな。自分で言ってて何言ってんのかよくわかんなくなってきた。


「ねぇ、お兄。わたしは血に飢えた殺人鬼と感情を失ったプロの暗殺マシーンのどちらなの? わたしプロの暗殺マシーンがいい。感情を失ったってところが格好いい」

「声でけーよアホ」


 リコの口を押さえて、告白練習観察を続ける。構ってほしそうな上目遣いをしながら手のひらを舐めてくるのが生温かくて心底気持ち悪いが、全部無視することにした。とても感情を失った人間の行動とは思えない。だいたいお前ついさっき感情に任せて幼なじみ二人殺めようとしてたじゃねーか。


「華乃はすぐそうやって正論言ってくるんですから……。わかりました、真面目にやります。いきますよ……」

「はよ」

「華乃、じゃなかった、リコっちゃん。オレ初めて会ったときからリコっちゃんのことが好きでできれば付き合いたいと」

「棒読みすぎ、全然響いてこない、もっと感情込めて。はい、テイクツー」

「オレ実は……っ、初めて会ったときからリコっちゃんのことが……その……すっ、好きだったんです……っ! こんなオレなんかじゃリコっちゃんとは釣り合わないのはわかってます、でも……っ、でもっ! 諦められないんです! はじめはお試しのつもりでも構いません! 付き合っていただけないでしょうか!?」

「目が死んでる。そもそもセリフがつまらない。そんなんでオーケーする女はこの世にいない。もっと工夫して。はい、テイクスリー」


 華乃の鬼監督っぷりに何とかついていく久吾。恋愛リアリティショーのシーンとしては極めて微妙だが、俺たちが幼なじみだとバレるようなボロを出しそうな気配もない。

 杞憂だったみたいだな。

 こんな所に隠れて二人を監視する必要なんてなかったんだ。こんな窮屈な空間で息を潜めて、立てる物音といえばクチュクチュクチュという水音だけで――


「ああぁっ、いつまで舐めてんだよ!? もう耐えられねぇ、人の手ベロベロベロベロ舐め回してくんな、気持ちわりぃ!」

「何で無視するのよっ、酷いわよお兄! わたしお兄に無視されるのがこの世で一番イヤっ! あと五秒無視されたら指の一、二本は食べてやろうと思っていたところよ!?」

「だから声でけーって! 今さら出て行くわけにはいかねーんだからな? このシーンは続けてもらねーと、『久吾と華乃がお互い好きになっちまう』って展開まで運べねーだろ」

「ねぇお兄、シコったあと手洗った? 変な味がしたのだけれど」


 リコを無視して観察を再開する。ビオレの味だろう、たぶん。


「工夫ってなんですか。リコっちゃんやお兄がやってたあほあほポエムみたいなやつですか」

「あほあほまで行くとダメだけど、ちょっとくらいポエティックなほうがキュンと来るっしょ」

「あー華乃が持ってるレディコミみたいな感じですね」

「おいお前か。リコだと思って殴っちゃったじゃん。てか何でカメラの前で言った」

「いやリコっちゃん経由で借りたんですよ。てっきり大っぴらにしてるものだと……隠れながらだったなら何かリアルになっちゃうんですけど。うわぁ、何か華乃のああいう趣味とか知りたくなかったです」

「読み物としての趣味だからっ! あたし自身の性癖とかじゃないからっ!」


 実の妹のそういう嗜好の話を聞くのはキツいので耳を塞ぐ。リコの唾液が耳にべっちょりと付着した。もっとキツかった。


「お兄も読む? わたしは気付いていたから驚かなかったけれど、華乃ああ見えて意外とマゾっ気あるのよね。引っ越し屋のイケメンに強引に迫られるやつがめっちゃエロかった。わたしもちょっと濡れた」

「なぁ俺が耳塞いでたの見てたよな? 何で言うの? 最初から最後まで全部」


 お前それ、自分のそういうのわざわざ俺に伝えて興奮するやつ人前で絶対やるなよ? てか生理中までムラムラしてんのかよ、別にいいけど。

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― 新着の感想 ―
[良い点] たくさん面会に来てね。のくだり好きです。 上手く言語化出来ないのですが今回の中で特にここ好き!ここ面白いな!って具合で。
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