第1話 ステージ(熱狂)
色とりどりの巨大な照明の嵐が交差する琵琶湖湖畔野外コンサート。
ミッドナイト・ギャンブラーズのワンマンライヴも終盤を迎えようとしていた。
大きな叫び声を上げ、ステージ中央でギターを弾くボーカルのヒロシは
肩に掛けたストラップを外し、スリートーンサンバーストのテレキャスターのネックを両手に持つ。
頭上までテレキャスターを持ち上げると、ギターをツルハシのように
ステージにギターのボディを二度三度叩き付ける。
ギターのネックはその力に耐えきれず、10フレットの所から真っ二つに折れた。
ギターのボディはステージ上に転がった。ヒロシは残ったネックを無造作に手から放り投げる。
立ったままのヒロシは、
御辞儀するというにはオーバーなほど頭に膝がつくほど観客に深々と頭を下げる。
やがて顔を上げると、勝ち誇った右手でコブシを握り頭上に高らかに突き上げる。
その動作を見て、湧き上がる3万人を越す観客の叫びとも声援ともつかない声の渦の中。
ヒロシは、ステージ上の袖へと消えてゆく。
ステージに残ったミッドナイト・ギャンブラーズのメンバーたちもゆっくりと歩いてその後を追う。
ミッドナイト・ギャンブラーズのメンバーは、
ステージ上から降りると、仮設の楽屋へと消えていった。
その日の夜は、アンコールと何度も叫ぶ観客の声も空しく、
ステージ上にヒロシたちミッドナイト・ギャンブラーズの姿は戻って来なかった。
それでも観客はもう一度その勇姿を見ようと帰らない。
コンサートの終わりを告げるアナウンスの中、
ヒロシたちミッドナイト・ギャンブラーズのメンバーは
迎えに来た黒いリムジンに乗り込み、野外コンサート場を後にする。
ヒロシは闘い終わったボクサーのように目だけはギラギラしていた。
あまりの光景に他のメンバーは誰一人として声を掛ける者はいない。
一方観客の方は、何度も聞こえる終わりのアナウンスの中、誰一人として帰ろうとしない。
今ここであったことが、
幻だったのか、
現実とも思えない深い感動をよんだ夢のような夜に
それから一時間もの間、
灯りだけがボンヤリと点いていた・・・。