第9話FMラジオ。
発売されたシングル、アルバムともに売り上げは好調で、連日の雑誌のインタビューに答えている。
全国ツアーの間の、少しの休みでもファンサービスは忘れていない。
ヒロシはメンバーと、この日も朝から、
FM局を回り、地方放送の大江戸レインボー放送局の出演を終え、
午後にBAY-FMの生放送に出演すると、スタジオにラジオを聴いたファンが集まって応援してくれた。
ヒロシは、一人で次の出演する放送局、J-WAVEに向かって移動していた。
J-WAVEは、地球環境を考えたエコ的な番組の放送が多く、ヒロシはわりと好きな放送局だった。
ラジオ局に入ると、もう放送は始まっていて、DJがゲストを紹介すると、ヒロシは登場した。
ニューアルバムの話と、今までのアルバムのエピソードを聞かれて、ヒロシはあることを話す。
今から2年前のこと、ヒロシたちミッドナイトギャンブラーズは、その年発売される、
ニューアルバムの中の1曲に、オーケストラをバックに録音する。
そういう案が飛び出した。
来日中の外国オーケストラにオファーを取った。
話は順調に進み、録音に参加してもらうことになった。
彼ら外国オーケストラのコンサート会場に向かい、リハーサルの合間に
ミッドナイトギャンブラーズの曲を録音することになった。
当時を振り返り、ボーカルのヒロシはラジオのインタビューに答える。
「外国オーケストラと一緒にオレたちの曲を録音するんで、
アルバムの録音に立ち会っていたときのことだった。」
「そのオーケストラに参加している日本人の女性ギターリストがいてね、」
「リハーサルをしてる時だった。オレたちの曲になると、彼女は座っていた席を離れて」
「オレのところに来て、ロックミュージックを演奏すると、」
「自分のクラシック音楽が崩れるので、
オレたちの曲を演奏するのを断ります。と言ってきたんだ。」
「変わった女だなと思ったが、彼女は確かにそう言った。」
「あるクラシック音楽家が、ロック音楽を認めないと言っていたことがあったが。」
「その彼女も、クラシックギターを人一倍練習して、コンクールなんかで入賞し、」
「外国人よりもギターは上手で、クラッシックのスタンダードを弾きこなして、
優秀な技術を持っていても、」
「現代の音楽やロックミュージックとは全く係わりのない演奏生活をしている。」
「それは、日本の音楽技術教育の欠陥なんだよね。」
「だって、外国のオーケストラは、
オレたちの音楽を認めて参加してくれたんだからね。」
「後日その彼女に会う機会があって、君は技術水準は高いけど、型破りな個性がみられない。」
「そう言ってやったんだ。
そうしたら、彼女は怒ってオレの頬を叩いたんだ。」
「それから2日後に連絡があって、
確かにあなたの言う通りだと言って、録音に参加してくれた。」
「アルバムは、売れて、彼女が参加してくれた曲は、評価が高かった。」
「あんなことがあったけど、
今彼女は、オレのガールフレンドの中では、一番の理解者なんだ。」
ヒロシがそう言うと、
発売中のニューアルバムの中から、CMで掛かっているシングル曲と、
アルバムからのナンバーを3曲ラジオで流した。
ラジオの最後に、ミッドナイトギャンブラーズの初のベストアルバムの発売日が告げられた。
それは、ヒロシたちにとって、発売日までにミックスダウンと、
曲の選曲を終えなければいけないことを意味していた。
新しく曲を録り直すことはしないまでも、
どの曲をアルバムに入れるかは、まだ決まっていない。
ベストアルバムだが、昔の曲の焼き回しのようには、したくなかった。
リスナーが、ニューアルバムを始めて聴いた時のような新鮮な感覚を大事にしたい。
ラジオ局を出ると、
ミッドナイトギャンブラーズのメンバーが待つ都内のミキシングルームに向かう。
今回の音楽プロデューサーは、サイドギターの騎龍京一が担当する。
彼は、今回のベストアルバムをシングルコレクションのように、シングル曲だけで作るのか。
メンバーたちが、それぞれ選んだ曲を入れて作るのか決めかねていた。




