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八十四話 創造神、王都へ行こう

「失礼します!」

 従業員が一人慌てて駆け込んできた。


「あの! シオン様……お、お、お客様が――」


「はい?」


「け、賢者様がいらっしゃいました!」

 どこかで俺の王都への移動のことを聞きつけたな?


「いない、と言ってくれ。今はこっちが忙しいんだ」


「いや、しかし……」


「おぉーい! シオン! いるのはわかっている! 少し頼みがあるんだがー!」


「はぁ」


「ため息!?」

 俺はメネアに指示を入れてから席を外す。

 越後屋商会の前には、メルクーアが立っていた。


「いやはや、すまないご主人」


「構わんともさ。で、用件は」

 長らく放っておいて所為か心苦しく思い、甘く接してしまう。


「ご主人は王都で表彰されるのだろう。私も参加しようと思ってな」


「ああ、わかった。同行をしたいということでいいな」


「その通りだ、ご主人。理解が速い」


「賢者の塔は暇なのだな」


「そう言うな。この私がこうしてわざわざ外に出てきたんだ。その内にでも賢者の塔に来てくれよ」

 俺じゃなくてアリシアを連れていけよ。あいつも賢者なんて呼ばれてるんだ。どれかの賢者の弟子になれるだろうよ。


「あれってメルクーア様ですよね」


「そうなの?」

 メルクーアの普段は賢者の塔に引き籠っているため姿を現すことが滅多にない。たまに本には出てくるが、記者がメルクーアの欲しいものでも持ってこない限り話にも乗ってこない。さらに、賢者であり、長い時を生きるメルクーアにとっての珍しき物というのも中々に存在しないから難しい。


「ええ、そうですよ。私は賢者様の追っかけをしていた時期もありましたから」


「あなたそんなことしてたの?」


「ノベライズもしていますし、ファンブックも毎回買わせていただいています」


「そんなのあるんだ」


「皆さん、魔術陣の紹介もあって綺麗な陣なのですが、魔道具で撮られた写真も掲載されていてお姿も大変お綺麗で」


「シオン様と良い勝負?」


「……そうですね。でも、これは使える」


「何に?」


「うちでもシオン様の本でも作ったら売れる」


「そっか。じゃあ、今度の会議の時にでも話せば」

 高い確率でメネアによって阻まれることを知っている従業員は聞き流した。この従業員、以前に同じようなことを会議で言ったことがある。今回も却下されるだろうと理解していた。



 シオンは足音を殺してそっと扉に近づき、一気に扉を開けたことで、張り付いて聞き耳を立てていた従業員が転がり込んでくる。

「こらこら、盗み聞きとはいい趣味とは言えないぞ」


「あれま、バレちまいましたか」

 こんな会話が出発前にされており、メルクーアも同乗することとなった。


 忘れていたが、越後屋で働いているアリアとイニシアは休みを取り、ご家族の下へ。その後、王都に向かう予定らしい。今まで連絡をしていなかったのだ。無事叙勲式に出席できることを祈っておこう。越後屋からはアリアたちに出会った後、それぞれの家族にしばらくは『越後屋で身を預けたい』というアリアたちの願いを書き記して手紙を出しておいた。ヘルメス名義で。


 出発の日。

「各自、武装確認」


「完了であります。教官殿」


「今は訓練中ではありませんよ。あなたたちの上司です」


「申し訳ありません、メネア様」

 このテンションが続くのか。仕事に差しさわりが無いといいのだが。

 王都までは四日間の距離にあるが、訓練の効果で三日でたどり着くことになっている。

 貴族ともなれば各街や村に泊まることにより、金を落とす必要があるが、俺はまだ貴族ではない。すっ飛ばして王都に向かう。


 今回同行するのは、メネアは当然としてオーランド、アルマ、ルーファス、ルウ、摩耶、ゼノビア、ウル、テスタロッサ、リン。おっとファントムもついてくるようだ。もう皆慣れてしまったが日光の下を揺蕩って俺の影へと静々と入っていく。そして、給士として数名も。全員がメネア式の訓練を受けている。

 越後屋商会の転移魔道具で王都から学園都市に俺たちが抜けた穴の救援に、代わりにカルナやその他数名が王都に転移する。

 それでも摩耶たちを連れていくのは、最低限の護衛という形が必要なためだ。面倒なことに。


「それでは、出発」


「イエッサー」

 これいつまで続くんだろうか。王都で綺麗な女性でも見つけたらオーランドあたりが復活してくれるだろう。そう願うしかない。このテンションに吞まれていないのが、ルーファスとアルマのみ。ルウもオーランドと共にメネアを教官と呼ぶ魔の手に掴まれた。


 荷物は馬車に入れてオーランドたちはさすがに馬車の中になるのだが、摩耶たちは訓練も兼ねて馬で駆けるのではなく、自分で走る。リンも越後屋に染まってきたようだ。

 メネアは少し鍛え足りない、といった顔をしていた。過度に緩んでさえいなければそれで十分ではないか?

 そんなメネアは御者をして摩耶たちを見張るようだ。


 出発までの成果としてエチゴヤ従業員たちが行進と戦闘演習を見せてくれる。

 歩いたり、走ったり、集まったり、散ったり。

 弓を構えて大きい的に一斉射撃。ところにより貫通。

 盾を構えて集団防御陣形。

 剣を構えて白兵戦の演武。

 魔術唱えて爆撃。


「どうでしょうか、シオン様、メネア様」

 どこで間違えたのだ。俺は越後屋商会の従業員たちを軍隊にするつもりはないぞ。……それも悪くはないか。


「中々のものだな」

「まぁ、いいでしょう」

 メルクーアの評価とメネアの発言で訓練生、元い、従業員たちは涙を流し、歓喜を叫び、お互いを抱き合った。

 そんなにもメネアの訓練は辛かったのか。もう少し自重させておこう。


 メルクーアはメネアと隣に座り、何かを話している。同じ俺の眷族同士語り合うことでもあるのだろう。

 そして、身体を持ったエルはというと越後屋学園都市支店で待機となった。落ち着いてきてはいるのだが、一斉に主力が消えると立ち行かなくなる。遊びたくなれば、王都の本店とも転移門で繋がれているのでいつでも一瞬で行くことが出来る。


「王都まではこれで行く。ほんの片道三日程度の道のりではあるが、この馬車で。では、紹介行きます。一、何故か疲れというものを知らない謎の馬。魔物の脚にも負けない速度を持つ。二、――」


「すげぇ、中は広い」


「はは、私はわからなくなってきた」


「甘いよ、アルマ。私は考えることを既に放棄しているからね」


「そう、何故かこの人数でも余裕に入れる馬車の内部。三、この馬車の上に謎の砲台。他にも仕掛けは様々」

 謎がいっぱいの謎馬車。


「シオン、これって馬車? 馬の車? あれ、馬車ってなんだったの?」

 ゲシュタルト崩壊? ある程度のことは深く考えてはいけないぞ。


 こんな感じに始まった馬車道中。

 学園都市アヴァントヘルムから王都に向けてシオンたちは発つ。

 道に一台の馬車。それを囲んで走るゼノビアたち。今は知っているのは、平原。特に注意する必要もないためのんびりしていた。

 他にもいるのだが、今は視界にいない。道中も先行して障害物を排除してくれているのを【固有スキル マップ探査】で確認している。


「ところで、シオンさんは家名どうするの?」

 馬車を一通り見回してルーファスは俺に男爵としての家名を決めてあるのか、と問うてきた。


「いるのか? おそらくは一代だけになるぞ」


「必要ですよ。確かに一代だけですけど、意外に何代も続けて一代の貴族に叙される家は多いんですよ。それが十代も続けば、普通に士爵や准男爵あたりに叙勲されるからね」

 気の長い話だな。人種からしてみれば。


「どうせならカッコいいのにしようぜ」


私的わたしてきには、シイナなんておすすめなんですけど。どうでしょう」


「それは遠慮する」

 外から話に入り込んだのは、摩耶だった。そのまま自分の苗字を提案してきやがった。

 さて、家名か。シルファリオンも考えるの辛かった。


 妥当なところで神関連から考えるのが簡単かな。

 神、かみ、ゴッド(神)、アッラーフ(神)、シェン(神)、シェンロン(神龍)、ロン(龍)、ロン(麻雀)、ツモ(麻雀)、かっこいいかぁ? 国士無双?

 本来の所からずいぶんと離れてしまった。


 仕切り直しで。

 新しい生を歩むってことで新生。生を変えて星。新星に。さらに言い方を変えてノヴァ。さらにさらに足してノヴァウラヌス。


「どうよ」


「どうよ、って言われても。お前がそれでいいなら、良いんじゃないか」


「私はジラストなんて良いと思うけどね」


「それはアルマの家名だろう。なんだ俺は婿に行けばいいのか?」


「な! べ、別にそうとは言ってないでしょう!」


「物語の英雄の名前なんてどうかな。大英雄ヘイムダルとか賢者アシュタロトとか」

 それはもう使った名前。


「遠慮しておこう」


「あ、皆さん。そろそろ休憩する街が見えてきたそうですよ」

 結局、段々とわからなくなってきて自分で言ったやつにした。


 ノ、ノバ、ノヴァ…、ノヴァウラヌ…、ノヴァウラヌス。

 でも、ちょっと言いにくい。

 あ、領をもらうことになっているんだった。

 じゃあ、ノヴァウラヌス領ってことになるんだ。

 それは――きついな。

 面倒だ。もうこれで良いや。









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