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八十三話 創造神、偶には良いことをしよう

 公爵のいきなりの頭を下げる態度に混乱したが、今も頭を下げている公爵に話しかける。


「まずは何があったのかをお話しください。話はそれからです。俺に出来ないことなのかもしれないのだから」

 ようやく公爵が顔をあげてくれた。断っても何度も押しかけられそうだし、面倒だ。


 ソファーに対面で座り、彼の所の執事とこちらは従業員がお茶を配る。その役目が終わると公爵が人払いをかけて部屋から従業員たちも退室していく。


「聖人殿に依頼があるのです。領の話から平民にも優しい聖人が現れたと聞いて参りました。もう希望はここだけなのです。どうか、どうか」


「あの、内容を。落ち着いて」


「そうですね。助けが必要なのは私の孫娘なのですが、身体が弱く寝込むことが多かったのですが、半年前からどうも様子がおかしいのだ」


 公爵の話では、半年ほど前から孫娘さんが寝込んでいるのだが、最初はいつものように軽い風邪にでもかかったのかと思っていたそうだ。だが、一ヶ月が過ぎても二ヶ月が過ぎても、一向に病状が回復する様子が見られないとの事だ。

 たまに症状が軽い時もあるそうだが、自力で立ち上がる事ができず、身体を起こすのが精一杯だそうだ。

 最近では手足の動きがさらに鈍くなってきており、王都の医者たちに見せたり、色々な薬を試してみたがどれも効果が薄いそうだ。


 そこで最近何かと話題の聖女に会いに来た、と。

 リンの方に行けよ。なんで俺なんだよ。

 その念が伝わったのか説明してくれた。


 今は越後屋の従業員でもいずれは教会に戻るかもしれない。なるべく教会の力は借りたくない。との要望らしい。その背景には教会に自らの弱い所を見せたくないという気持ちがはらんでいた。

 よく理解したよ。確かにあそこに借りは作りたくない。それも面倒だ。


「じゃ、行こうか。孫娘さんとこに」

 それでも頼みを了承する俺って優しいな。俺としても最近は殺してばかりだったから、時には人を救ってみるのも一興だ。


「なんと! 準備とかはいいのか!?」


「見たらわかる。早く治したのだろう。ほれ。あ、でも、ちゃんと対価は頂くから。ただ今の俺に欲しい物は無いから保留で」

 要求を早めに済ませて急がせるシオン。


「う、うむ。そうだな、恩ということにしておこう」

 公爵を急かすように馬車に乗り込み、孫娘さんがいる公爵の別荘に行く。公爵の別荘が学園都市にあるのは、孫娘さんを考えてのことらしい。

 馬車を降りると、公爵は早足で俺達を連れて玄関を通った。

 途中で数人の使用人とすれ違い驚かれたが、公爵が脇目も振らずに二階に上がるのを見て、何か納得したように作業に戻っていった。


「お爺ちゃんだぞ、入るぞ。ミラ」

 二階の角部屋に着くなり、碌にノックもせずドアを開く公爵。

 開かれたドアから見えたのは、ベッドに横たわりこちらを見ている少女と、その少女の世話係と思われるメイドであった。

 メイドは公爵を見て一礼をし、部屋を出て行った。


「どうしたのです、お爺様。慌てて、です?」 


「突然済まないな。実はミラの病気を見て貰おうと連れて来た者がいるんだ」

 そう言って、ドアのところで立っていた俺を公爵が手招きで呼んだ。


「ミラにも話した事があるだろう。彼が皆に優しい英雄だ。お前のことを見てもらいに行きもらったんだ。シオン殿、この子が私の孫のミラルカだ」


「初めまして、シオンだ」


「まあ! あなたが噂の……シオンさんと呼ばせてもらうわね、です。はじめまして、ミラルカです。みんなからはミラって呼ばれている、です。シオンさんもそう呼んで、です。お話では女の人って聞いていたけどその見た目ならそうなのかもね、です」

 幼くはあるが、しっかりと物事を考えているようで。語尾は何かおかしいが。それは人しれぞれの個性というものだ。


「同年代の子と比べると彼女はしっかりしているようですね」


「そうなのだろう。外に出れずに大人とばかり話していた弊害なのかもしれないな」

 公爵は悲しい顔を浮かべる。


「シオン殿、早速で悪いが見てもらえるか?」


「お願いね、です。シオンさん」

 俺は財務卿と場所を入れ替わり、ミラルカさんの脇に立った。


「出来うる限りの事はしますが、過度な期待はしないでくださいね」 

 点穴を習得するには、人体への精通していなければならない。軽い治療ならこれで何とかなる。俺は彼女の身体の触診を開始する。


「ミラルカさん、ここは触っているのがわかるか?」


「いいえ、です」


「では、これは?」


「いいえ、です」

 身体の各部を触り、少し強めに押して行ってみたが、かなり反応と痛覚が鈍っているようだ。。

 おまけに肌が少し固くなっていた。さらに、【疑似魔眼】で確認したところ身体全体に魔力をほとんど感じる事ができなかった。ただ感じなかったというだけで存在はしている。


「……恐らくですけど、ミラルカさんは魔力障害を起こしている可能性が高いです」

 魔力とは体中を血液のように巡っており、この世界では魔力の通り道を魔力回路と呼んでいる。

 そして、魔力回路の巡りが悪くなったり魔力が通らなくなる事を魔力回路障害と呼ぶ。

 偶に魔力を多く持ち過ぎる子供が不定期に具合が悪くなる。


 しかし、公爵の反応はイマイチ。この病気は現在では珍しいものとなっているようで、知らない人も多いらしい。そのうえ、俺がまたも噂されるようになった原因のあの森での回復の仕方ではこの障害に対してはより悪化させることとなる。


 その忘れられていった原因としては、魔術医学の発達にあった。昔の治療法は、薬と魔術を併用して治療するのが一般的だった。しかし、現在では簡単な怪我や病気くらいしか薬は使われずに魔術での治療が多くの割合を占めるようになっていた。


 この考え方は、『魔術の方が痛みが無くて早く治る』や『完治するまでの時間を考えれば治療費が安く済む』という利点から利用者が増えた為である。

 人は楽がしたい生き物だからな。


 そもそもこの世界では、医者という資格が無く、「回復系魔術が使えるので、今日から医者になります」と言う感じで医者と名乗ることが出来てしまう。通常名乗るだけならば、【スキル 鑑定】を使って職業を見極めることも可能なのだが、そのスキルを使える者が減ってきているこの世の中。中には確かに上手い者もいるのかもしれない。しかし、大多数がそうとは限らない。


 きちんと医者に師事して勉強し経験を積んでから医者と名乗る者もいるが、専門的な教育の場があるわけではないので、自然と医者の腕の差に開きができる。


 さらに言えば、魔力回路障害の場合は、魔術治療の技術のみならず身体の内側の技術が必要なので最近の医者では治療法を知らない者がほとんどである。


「それで、シオン殿はその治療法を知っているのか!」

 魔力回路障害の事を話すと、公爵は俺の両方を掴んで訊ねてきた。


「なんとかなりそうだ。だから、揺らさないでくれ」


「本当か! なら、それを――」


「ただ……」


「ただ、なんだね」


「この治療方法は毒にもなる。もしも、回復した魔力の流れに適応できなければ、流される魔力によって使われてこなかった回路がボロボロとなり、このままずっとこの状態になってしまう恐れがある」

 つまり、ミラルカさんは瞬発的に外部へ魔力を放出することが出来ない。


「……その治療法というのは?」


「やり方は簡単。外から魔力を与えて魔力の流れを作る。次に塞き止めている固まった魔力を融かしていき、今度は自分で魔力を回す。ゆっくりやっていけばなんとかなる」


「そんな、ミラは魔力の扱いなんて今までわからなかったんだ」


「だから、最初に外から流しすのは魔力を感じさせる意図も含まれている。ただ、本当にこの病は彼女自身にある。治るかどうか彼女次第だ」

 公爵とミラルカさんに施術の説明と手順を話し、一度退出する。

 家族二人で話すこともあるだろう。公爵の奥方には今ここのことを知らせていないみたいだ。給士が少ない気がする。彼女の父親と母親はいずこに。


 もう一度、部屋の中に入り、施術と魔力のサポートを始める。

 その際にミラルカさんにはうつ伏せとは言え、ほぼ全裸に近い格好になって貰う必要があると言うと、公爵が狼狽えた。

 肝心のミラルカさんの方は小さく照れているように見受けられるので、余計に公爵の態度が目立ってしまった。


 この病では、俺のスキルを彼女に渡すことが出来ない。

 スキルも魔力によって動いている。スキルを与えた場合、大量の魔力が流れて施術の前に回路が終わる。同様に【再生】も。再生を発動させる前に魔力が流れるために。


 まずは俺が彼女の背中に手を置き、魔力に波長を合わせる。少しずつ回路を馴染ませていく。回路の中に魔力が止まっている状態だが、少しずつなら通る。

 俺は深呼吸をしてミラルカさんをしっかりと見つめる。正確には中を視る。

 すると、徐々にミラルカさんの背中のいたる所から違和感のようなものを感じ出した。

 色がついているわけではないのだが、まるで川の流れがそこで淀んでいるかのように感じる違和感。


「魔力の感じはわかったか?」


「……はい、です」


「詰まっている部分は?」


「……はい、です」


「なら、後は少しずつ魔力を回して流していけば、治る」

 魔力回路障害は放出ができなくなってしまう。スキルも魔術も魔力を放つもの。解放された彼女はこれからスキルを取れるだろう。元からの魔力量が高いようでもあるし。


「もう終わったのか、シオン殿?」

 俺が部屋に入ると公爵が真っ先に反応して声をかけてきた。どうやら思っていたよりもかなり早かったらしい。


「ええ、治療自体は単純でしたから……かなり精神力は使いましたけど」

 公爵からかなり感謝され、報酬はどうするかと言う話になったが、ミラルカさんが回復するまではその話は保留すると言う事で話をつけた。


「ところで、シオン殿。私の所には王国叙勲式の招待状が来て、ここからですともうそろそろ王都に出発しなければならないと思うのだが、そこのところは大丈夫なのか?」

 だから、なんで俺に日程と場所を言わねぇんだよ。なに、招待状とか俺、貰ってないよ。あんの、そんなの。


「せっかくだ。一緒に行くかね、シオン殿?」


「いや、俺は俺でまだここでやることがあるから。それと、孫娘さんのリハビリなら今後の教育としては体術をおススメする」

 長く魔力を放出することがなかったなら、その逆に内包したままの戦闘が向いていることもある。

 同行の断わりを入れて公爵の別荘を去る。


 越後屋商会に帰還して。

「なぁ、王都からなんか書状とか来てる?」


「はい。つい先ほど」

 入れ違いか。


「読まないのですか?」


「内容はわかっている。すまないが、メネアを呼んでくれ」


「お呼びでしょうか、主様」

 どこからともなくメネアが現れた。いつものメイド服ではなく、俺が諜報部隊に渡した忍び衣装に身を包んでいる。


「諜報部隊の訓練中だったか?」


「はい」


「それはすまないことをした。早速で悪いが、王城より書状だ。あと一週間までに王都の城に召集命令。話は後――」


「では、私は同行するメンバーを選考しておきます」

 行動力が高いな。急がなくともいいのだが。


「話が早くて助かる。ただあの四人は連れていく」

 オーランドたちとはもう話を決めている。


「王都までの道を訓練に費やすとしましょう」

 馬車要る?











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