八十二話 創造神、治療も越後屋の範囲内です
「傾注!」
越後屋従業員とオーランドたち以下訓練生たちはメネアの前に整列して掛け声に応じて敬礼する。
「今日の訓練をメニューを言います」
「教官からのお言葉だ。総員心して聞け!」
うるさっ。オーランドのナンパ話もうるさかったけどこれはこれで音量が。防音の結界張っておこう。
「今日は私との戦闘と対強力個体戦、それと塹壕作り。他は通常通りのものになります。対強力個体戦には付属として特殊訓練も行います。これは休憩時ですので休んで構いません」
訓練生たちの中には塹壕と聞きなれない言葉と突然言い出す子供の遊びのような訓練に疑問を抱いていた。
「質問は?」
「はい! 教官殿、塹壕とは!」
まぁ来る質問だな。
「魔術や砲弾をなるべく回避するための穴です。塹壕作りの訓練内容は穴を掘って埋めてを繰り返します。そして、妨害があります」
簡潔に言うと……限界まで鍛錬をして、倒れたり休んだら大怪我をしてもおかしくない攻撃を叩き込まれ続けて、苦しむか鍛錬を続けるかのどちらかを選ばさせられる。それを毎日続ける。
「…………ありがとうございます」
染まってきてるなぁ、変な方向に。長考の末に思考することを止めたようだ。
「他には?」
誰も言わない。聞きたいけど、聞けない。それを自分たちが熟せるのか不安になり、今直面したら心が折れる。
「無いようですので、訓練開始です」
「以上、解散。五分後、ランニングを開始します」
ちなみにこの訓練、参加しているのはオーランドたちはもちろん、俺が捕まえてきた使えると評価された闇ギルド員も参加。獣人の少女たちはまだか弱く子供ということで軽めの訓練をしている。
蛇足だが、闇ギルド員たちの再就職場所が決まった。前と変わらず場所は闇ギルド。以前より立派に綺麗に建ててやろう。
場所は同じだが、やることが違う。闇ギルドに依頼しに来た者を影で殺すことだ。
どうせ依頼しに来た奴なんてどうしようもない馬鹿ばかり。俺たちへの攻撃もあるだろう。
だから、こうしてわかりやすい窓口を立ててそこで集まる者を殺す。こうすれば簡単だ。これも暗殺。闇ギルドの仕事としては変わらないだろう。
そして、ギルド所属者には首輪と腕輪を付けてもらう。両方ともに魔術が組み込んである。条件式はこの都市から出ること・越後屋に歯向かうこと。この条件をどちらかを働けば即爆破。しかし、これをずっと付けていても反抗しなければ何もない。
それでは緊張感が足りない。なので、二週間に一人爆殺することにした。もちろん、メネアの育てた貴重な人材だ。無駄にしない。蘇生はする。
それでも今までにそれだけのことをしたのだからこれくらいの恐怖は味わってもらわねば理不尽で殺された者に示しがつかないというものだ。
さて、このランニング後に少しの休憩を挟んで対強力個体戦をするようだ。これは俺が呼び出す。
戦闘範囲は学園都市の四分の一に絞ってある。人に迷惑をかけないならどこだろうと構わない・戦闘を行わずに逃げてもいいというルール。逃げた場合は追いかけて来る。屋根の上も可。俺が呼ぶのは、ちゃんと加減も周囲への気の配りもできる奴で。
ただ何の枷も無しに始めてもこの時間を休憩に当てる者がいるだろう。休むのは良い。しかし、時間全てを休憩に当てられると訓練の意味がない。なので、倒した時の褒美として願いを一つ叶えることに。
「なんだ、シオンが召喚すんのか……」
オーランドが休憩時間にこの後の時間について考えて俺に声をかけた。
俺がその疑問に答えると学園でやった召喚魔術の授業を思い出しているようで悲痛な声が出ている。あの時召喚したのは、グラトニースライム種のネーヴァ。まぁ、暗くなる気持ちもわかる。
そして、詠唱風適当言葉を言って召喚陣を作成。一体の死霊系魔物の黒死の魂霊。ランクで言えばAランク。
研究対抗戦で俺の作成した馬車の材料になった素材と同じ魔物だ。ただ言葉を理解し、特殊個体だったこともあって収集した。初めて会った時は、森の中で彷徨っていたら小屋を発見し、そこで暮らしていたのがあいつなのだった。あの時貰った茶は美味かった。
訓練生たちが息を吞むのが分かる。
死霊系は低ランクでも厄介で面倒で脅威。なのに明らかに普通ではない幽体の魔物。生者を憎む一般的なアンデッドとは違い、その姿は慈しみに溢れているようにに感じさせる。
鎌だけを持った軽装備で現れた彼を強敵を悟ったのだろう。
「あのー、そのレイス? ですか? 見たことも無いタイプなのですが。いったいどのくらいの強さで……」
「秘密で。自分たちで考察した方が身のためになるだろう。レポートにでもまとめて提出したら、答え合わせぐらいはしよう」
「せめてどういった種族なのかだけでも」
「それも含めて考察したまえ」
「では、よろしく頼む。お前は上位スキルばかりだな。なら、ここからここまでと、あとこれは使って良しで。力は全体の二割程度に加減してあげてくれ。技術的なことはその場で任せる」
それだけ黒死の魂霊に伝えて隅で俺を待っているだろうカルナの下へ。
「私ノコトハ『ファントムサン』トオ呼ビクダサイ。ファン君デモトム爺デモ構イマセン。タダ『ファントム』ト呼ビ捨テヤ侮辱ノ言葉ハ殺シマスノデ注意シテクダサイ」
あいつが何を言っているのかは分からないが、一同がぎょっとしているのはわかる。
「ソレト私ハアクマデモ例外ナノデ、他ノアンデッドニ会ッテモ会話ナドシナイヨウニ。即座ニ殺スコトヲ薦メマス。私ハ同族意識ヲ持ッテイナイノデソコハ気ニセズ」
仲良く話し合っているようで何よりだ。また別の機会に魔王でも召喚しようかな。今回の魔族の領域をまとめる魔王は配下の統率や強化が上手いと【邪の神 ケイム】も褒めていたからな。
「ところで、シオン様。黒の聖女が再来したって知ってますか?」
聖女が増えたのか。聖女は聖法国に四人。リンからの情報に黒が当てはまる人物はいなかった。では、黒の聖女の再来と呼ばれる人物とはいったい。
伝えに来たカルナが口を隠してニマニマと笑みを見せてきた。
何その顔。
カルナの情報は『黒の聖女』の再来であった。
その誕生は最近で転生か、転移か。
違った。誕生した場所は森。なんでも魔物の大移動中に負傷兵を治癒したことが聖女再来の始まりらしい。その聖女は平民・貴族分け隔て無く治癒してお金を受け取らないヒーローだそうで。
そもそも黒の聖女とは、人の中の突然変異種の神聖魔術師。
かつてヒューマンと魔族の戦争が各地で蔓延っていた戦乱の時代。人類を導き、敵であるはずの魔族にも分け隔てなく慈悲をかけて世界をそれぞれの種族ごとに分けた。その後も彼女は各種族を取り纏め、世界を安定に導いた。
彼女が去った後の数十年は平和な状態が続いた。
しかし、実際の彼女は当時実に荒々しかった。お目付け役の神官が数人がかりで見張っていたので聖女としての活動はしていたのだが、少し目を離したら神官たちから脱走し、自分よりも強い者を見つけに行っていた。
俺もその被害者だ。
彼女は自分で体術を極め、その武術を聖女流とした。
俺も挑まれた一人。しかし、俺には届かず、彼女が駄々をこねて俺の家に居座った。勝つまでここにいる、と。神官たちも頭を抱えてはいたもののかなりの時間を彼女と共に居る所為か慣れてしまっていた。次第に彼らも一緒に居座ってその街でそれぞれ仕事をしていた。
時に獣人たちの国に赴いては獣人たちを軒並み倒していき、仕舞いには最も強いとされていた獣王を倒し、時に魔族の国に行っては魔王軍から出会ってはいけない人物と危険人物扱いされていた。それでも彼女の強者への嗅覚は凄まじく、軍隊が殴り滅ぼされかけていた。
それもあって魔王軍は聖女に対して降伏。
しかし、人類の国同士の魔王殲滅同盟に負けたわけではない。むしろ魔王軍の方がよっぽど強い。ただ聖女一人に壊滅させられたというだけで。
その聖女が異常に恐怖の象徴であったのだ。
よって、魔族は魔族、人類は人類。と、相互不干渉を取り決められた。
その黒の聖女の再来がいるらしい。世界が混沌とするぞ。時代が荒れるな。
「エチゴヤの応接室でシオン様のお客様がいらしてますよ」
は? 客? 面会のアポイントメントは受けてないが?
応接室に白髪交じりの渋いお爺さんがやってきていた。
「初めまして、黒の聖――失礼、聖人殿」
あ、俺を見てとっさに言い換えた。なんかもう髪切ろうかなぁ。
「それは俺ではございません。聖女なんて知りません」
「しかし、その場にいた人物の中での特徴ではあなた以外……」
なるほど、さっきのカルナの突然の話題はこういうことか。また増えた。称号付けたがるなぁ。まさか! 同一人物だとわからないまま名前が独り歩きしている! だから、多くなったのか。
結局は俺どれで呼ばれてるんだろうか。
それでどうしたら減らすことが出来るのだろうか? 俺はただ通常営業で気分的に好きなことを好きなように好きな時にやっているだけなのに。
「私はジークロン・カルマディア。先王陛下の弟であり、カルマディア公爵家の当主だ。こっちは我が領の魔術師のサイントス」
連れてきたカルナがそそくさと俺の側に立った。
「あの方は街の噂と先王陛下の紹介状を持って商会に来ました」
俺にしか聞こえないぐらいの音量でカルナがそうつぶやいた。
紹介状とかあるんだ。知らなかったよ。
「越後屋商会代表代理シオンでございます。代表であるヘルメスは各地へふらふらっとどこかへ行ってしまうので代理として俺を置いていきましたことご了承ください」
カルマディア公爵は厳しい表情で俺を見ていた。不安気。
なんか変なこと言った? ヘルメスのこと? 同時に二人は無理だし、分身のスキルを持っていたら可能かもしれないけど。一時だけ。
不思議に思っていると穏やかな表情だった彼の唇が突如震えだし、目から再び涙が溢れ始めた。
「頼む! うちの孫娘を助けてくれ! もう希望はここしか……」
叫び声が部屋に木霊する。張り裂けそうな声だった。
横目に見ていた俺のステータスの称号欄には、【黒の錬鉄】と正式認定されていた。これって唯一俺を嫌っている人たちが付けたっていうやつじゃん。微妙に変わってるけど。
称号を管理しているのって誰だっけか。
深く掘り下げていくと、俺は別に鍛冶を頻繁にしていないぞ。




