閑話 屋敷の人や冒険者の噂話
長く執事の仕事をこの王国の城で一筋に生きてきた私が隠居を考え始めた時、イスタール先王陛下からある屋敷の管理をしてみないか、と誘われました。
その屋敷の主は聞くところによると、高位貴族どころか平民とのことです。
しかも、私以外にも執事・メイドそれぞれ数人い声をかけているそうです。
あのお方が多少の脅しに屈服するとは思えませんが、少々気になった私は長年培って築いた人脈を生かして情報を集めてみました。
集まってくる情報に驚きの連続でした。
近年、王国内で普及して街の景気が活気づいた商品の数々を開発して売り出した方の対外的な事全般を仰せつかるお役目だとは……。
しかし、どうしたことでしょう。
これから行く屋敷の前には多数のあの屋敷に仕えたいと希望する者が集まっています。
純粋にあそこで仕事がしたいという者もいるようですが、集まった八割が貴族の紐付き。碌でもない貴族が送り込んだのは明白。
どこかで先王陛下が誘っている様子を遠目で見ていた者がいたのでしょうか?
その多さから屋敷で既に働いている者から面接があるようです。
まったく先王陛下から誘われてきてその屋敷の主から了承ももらっている私がその他大勢が集まったお陰で私まで面接を受ける羽目になりました。
その面接ですが、不思議な面接でした。
面接官の座るテーブルに大きな白い狼と様々な色と柄の鳥がいました。唯一まともなのは、メネアという少女。
少女と言えど私は後から来た後輩です。仕事はちゃんとしますとも。
残ったのは、先王陛下に声をかけられた私たちのみでした。
面接にかける時間はほんの数秒。面接をしなければ、後から門前払いをされたと騒がれることも抑えたということでしょうか。
その数秒で聞かれたことは、戦闘経験の有無でした。
王城に仕えている者の多くは万が一に備えて自身をそれなりに鍛えています。
ここがどういうところなのかは調べが付きませんでしたが、これから自分で体験していくとしましょう。先王陛下が言った通りに私の残りの人生、中々に面白く過ごせそうと思います。
私の最近の趣味はエチゴヤ商会で売られていたチェスです。たまに先王陛下と手合わせしています。
・・・
私はしがない王城で働くメイドでございます。
さて、この度、私はある屋敷の主がメイドを求めておられるとの話を聞きました。
その方は王都で有名なエチゴヤ商会のオーナーの方です。私もあそこの商品は買わせてもらっています。特に美容関係を。美容商品は王妃様も買い付けるほどです。
これは是非とも応募しなければと何とかしようとしていたら、先王陛下に話しかけられました。驚きです。
話の内容は、気にしていたエチゴヤ商会オーナーの屋敷で働いてほしい、という誘いでした。
誘いであっても陛下が何かを要求したら断れません。
ですが、その話は私にとって都合がいいです。もちろん引き受けました。
面接がありました。
私以外にも大勢の人が来ていました。陛下はこんなにも誘われていたのでしょうか?
これだけの人数、面接を一人一人やっていくようです。これは長くなりそうですね。大変です。
しかし、私の予想に反して面接はポンポンと進んでいきます。
一人につき十秒くらいでしょうか。いったいどんな面接なのでしょうか? たまに長い面接もありますが、それの理由についてはわかります。最後の方は面接される側が怒鳴っているのでこの屋敷に潜入するために遣わされた人やプライドの高いボンボンでしょう。
わかります。貴族は多く見てきましたから。
ほら、今も……
「私の意欲とやる気をぜひ知って戴きたく――」
いやいや、意欲もやる気もなくここに来る人なんていませんから。みんな雇って貰いたい気持ちですから。中には違う方もいるようですが。
自分だけが特別か何かだと勘違いしているのでしょうか?
「以前は大きな商家で重用されておりまして……」
え、ならどうして辞めたのでしょう。重用されていたところを止めるような事情があったはずなのに。それなら、ここでも働くことは困難なはず?
面接官も私と同じような考えだったらしく。
「え、それは、いや……」
止まっちゃいましたよ。そんなことなら最初から言わなければいいのに。
「私は伯爵家からもお声をかけてもらった程の逸材なのです」
「では、その伯爵家に行ってください。以上。次!」
面接官のお気持ちお察しいたします。ここまで酷いものが続くと腹が立ちますね。聞き耳立てているだけの私でもムカついてきましたよ。
「ちょっとお待ちを! いいのですか、ここで私を手放しても!」
「損失はありません。邪魔です。早く次に代わってください」
こんな輩ばかりで私まで品格が疑わてしまうそうです。面接官の方がまだ集中力を保っていて欲しいです。
そんな感じで私も面接を終えて王城に帰ります。住み込みなので。
帰り道、私よりも先輩の執事のクラインさんに出会いました。
あの面接、どういった意図があったのでしょうね。
面接終了後、その場で合格が言い渡されました。
私たちのこともよく知っているようでした。私はともかくクラインさんが相手に調べられるようなヘマはしないと思います。でも、エチゴヤさんなら私は構いません。
どうやって調べたのかは気になりますが。
・・・
『Cランク昇格を祝ってー乾杯!!』
俺は今さっき、Cランク冒険者になったばかりだ。
冒険者は、F~SSSランクまである。
Fランクは駆け出し、Eランクが初心者、Dランク初心者を抜けたころで、Cランクは一人前、Bランクは一流、Aランクは超一流。
Sランクからは人外と呼ばれ、やり方次第では一人で国を相手取れるらしい。世界でも、5人程しかいないと言われている。
魔物も同じランクな訳で、SとSSランクは通称災害と呼ばれ、SSSランクは厄災と呼ばれる。それ以上は、測定不能と判断される。例えを言うなら古代の物語にでも出てくるような神龍だったり、天使だったり、または原初に破壊と再生を行った二人の男女もそうだろう。やってきたことを聞かされたら人とは考えられにくい。
この原初の話、誰が伝えてきたかは知らないが子供に聞かせる寝物語としては有名な話だ。破壊を楽しんでいた男には俺も怖がっていた。
冒険者のランクと違うのは同じランクだからといって、同じランクの魔物を一人で倒せるかというとそれは違う。基本、3~6人で組まれた1パーティーで当たれば倒せる基準だ。Sランクの魔物には、Sランク冒険者が最低5人は必要と言われるほど桁が違ってくる。
人と魔物では生体も変わってくるから納得できる。
今日は俺たちのパーティ【空の軌跡】でオークの討伐に行き達成したため、ランクが上がり晴れて一人前のCランクになれたわけでその祝勝会をしている最中だ。
「なあ、知ってるか?」
「んーなによー?」
「この王都で新たなSランク冒険者が生まれるらしいぞ」
「その実力はかの国王側近部隊の十一聖典も敵わずか!! ってやつだろ? ただの噂かガセの情報じゃないのかそれ」
タンク職のアルクは信じていないようだ。そういう俺も信じていない。なぜなら王国十一聖典は誰も彼が人を超えているからだ。そして、Sランクになるであろうその人物が少年なら尚更に。
「そんなことよりもここは居心地がいいわ。物の種類も潤沢だし、仕事はあるしで。なによりこの王都には乞食がいない。良い場所よ」
「それについても俺は情報を持ってるぞ」
「さっすが私たちの頭だね。でも、スラムがあったのならそれを無くしたのは国なんじゃないの?」
「それが違うから俺も最初は驚いたもんだ。なんでも最近になって支店を多く出しているあの商会だ」
そうなのだ。
街を散策していた時に一人も見なかった。子供の消えそうな目を見ていると気がめいってくる。でも、俺たちには何もできない。
ちょうど一人の少年が道で寝ていた子供に声をかけていた。
「お前は何のために生きたい?」
「ぁ……」
か細い声で少年の声に反応した。
「余程疲弊しているのだな」
そんなことを言ってる場合じゃないだろ。目のまで話しかけておきながら呑気にそんなことを言うな。その少年のもとに飛び出そうとした瞬間に少年は子供に何かを飲ませていた。
安楽死でもさせようとしているのか! 法で禁止されている行いだぞ! 見つかる前に。
「少年、この国でそれは禁止されている」
「? ……あぁ、これは回復薬だ。心配するな」
回復薬だと!? こんな死に掛けの子供にが決して安くはないはずの回復薬だって? この少年は貴族なのか? 貴族の道楽ってヤツか……まったく。
「この世界は何事も作用反作用が無くてはならない。この回復薬の分は働いてもらう」
貴族のオモチャか。哀れだが、それでもここで野垂れ死ぬよりは百倍マシだろう。目を付けられないようにすることだ。
「居心地がよければ、居座るが良い。そして、お前だ。お前の考えているようなことには絶対にならないので安心せよ」
年下の子供にそういわれて腹が立つものだと思っていたが、案外スッと俺の心に届いた。
これが散策中にあった出来事。
後から聞き込みをして集めた情報からあの商会がスラムを無くしたとわかってきた。それもただ潰すとかじゃなくて全員に職を与えて他よりもいい給金と来た。大きな商会のすることは俺たち庶民にはわからない。
「へぇー。ん? あの商会ってことは……シオン様!」
「おや、お前も情報を集めていたのか?」
「いいですよねーシオン様! すごく美しくてかっこいいです!」
「クルスは、そいつのことが好きなのか!?」
クルスはうちのパーティーの回復役だ。好きなのか聞いたのは剣士のシモンだ。シモンは前々からクルスのことが好きみたいだけど、そのことに気づいていないのは本人だけという。俺たちは、それを聞きながらニヤニヤしてからかっている。
「ううん。そうじゃないの、あの方にそのような不純な思いをぶつけちゃいけないと思うの」
不純、ねぇ。シモンにはクリティカルヒットしたな。クルスは近頃勢力を増してきているとあるファンクラブに加入したらしい。特にそのクランで仕事をするというのは無いのでただの趣味なのだろう。
「そうだ、Sランクになるってやつの名前もそのシオンだぞ」
そんなことを話していると、周りがざわざわとしていることに気づいた。
「あっ! ライオスさんだ!」
Aランク冒険者の竜殺しの称号を得たライオスさん。3人パーティーで全員がAランクというすごいパーティーだ。ギルドの仕事に面白そうなものがあると、学園都市にまで行っていたライオスさんが帰ってきた。
「いつか俺たちもAランクになってその上も行きたいな!」
「そうだな。でもまずはBランクに上がるところからだぞ」
俺たちの昇進とシモンの恋心を鼓舞して乾杯!!




