七十七話 創造神、力(金)が入ると分かるとあいつらはやってくる。そう、宗教だ
「大丈夫ですかー」
びっくりしたが、周囲の人に合わせてこともシオンの弱体化に伴ってしっかりとした手加減ができている。
「問題ありませぬぞ! さすれば、あの魔符という魔道具について議論を交わしましょうぞ!」
しまった。一人で来てしまったから、人避けがいない。
「魔符については俺のスペースにある本にまとめましたが」
「読ませていただきましたよ。あれは本当に素晴らしい本です。メルクーア様が目を付けるだけはあります」
凄い巻き舌の老人が現れた。シオンに話しかけているようだ。
「ワタシは王国にて魔導具開発をしている、クリックと申します」
「実は一度お会いしとうございました! 魔剣の論文は実に見事なものでしたぞ」
あれは論文ではなく、試験問題だったのだが。
会長からあれについては何か言われていた気がするが、忘れた。覚えていないということはそれほど大切なことでもなかったのだろう。
「最近の若者にはない挑戦の精神を感じましたぞぉ! これを見てからというものあなたと話すことをいくら想像していたことか」
あ、鳥肌が。
そこからが長かった。よって、聞き流し&割愛。相槌は適当に。
「あの、そろそろ私もいいでしょうか?」
「そうそう。クリック博士、そんなに迫ってはシオン殿が引いてしまうぞ! 博士はもっと落ち着いているものですよ!」
優しく彼を諭す新しく来た人。
「おっと話し過ぎてしまったかな。では、私はこれにて。また意見を述べあいましょうぞぉ」
俺、何も言ってない。一方的にあんたが喋ってただけだろう。
「騒がしい人だったなぁ」
「それがあの方のいい所でもあります」
次に俺に話しかけて彼の話を止めてくれた女性がフォローを入れる。あれをどうやったら良い風に解釈できるのか?
「その良い所はどういったところなのかな?」
「ふふ。意地悪な質問をされますね。でも、そうですね。あのように誰彼構わずに知識を吸収しようとする姿は中々真似することが出来ないことです」
確かに。どこでプライドがそれを拒んでしまう。多くの者がそうだろう。
「それであなたは?」
「私はカノンと言います。王国の軍部に所属している者です」
「軍部か。学園で武具の先行発売をしていたな」
「その通りです。シオン殿は生徒会ですものね。でも、軍部と聞いて大人でも平然とはしてませんよ。随分と落ち着いていらっしゃいますね」
俺のことは事前に調べてきたか。こんなところで腹の探り合いか。眼を付けられると厄介だな。
「『殿』はやめてくれ。俺は学生だ。軍部に敬称を付けられるようなことはしていない」
「謙虚なんですね。でも、シオン殿は新たな可能性を引き出したのです。武具を扱う者としては学生であってもこのようにしています」
「わかりました。では、お話をお聞かせください」
「当然魔符のことです。あれを軍部で取り扱いさせていただきたいのです」
いきなりの核心。そして、馬車弱いなぁ。全然話に出てこないじゃん。
「もちろん、儲けはシオン殿有利で進めさせていただきます」
取引の内容を持ち出した騎士団に遅れを取るわけにもいかず他の商人や研究室からも申し出がかかる。
「ちょっと待った! 騎士団との取引をするのであれば、うちとも是非お願いします」
「私は馬車の方でお願いします。あれを商品化しませんか」
シャン。
錫杖を鳴らして現れた神官。学園都市のエカテリーナとはまた違う人か。
「皆さま、そんなに彼に詰め寄ってしまっては困らせてしまいますよ」
笑っているように見えるが、その目からは怨嗟の念が感じられる。
学園都市のことで根に持ってやがる。教会も一枚岩ではないということだな。
それでも大人しいものだ。以前神殿で協会側に出した不正の証拠は下を切れば良いだけの話。それからというもの紹介の回復薬のことはあったが、それ以外には無い。
「教会の方々は何をしに来たのですか?」
「棘のある言い方をしないでください。我々はただ見に来ただけなのですから」
怪しい。何を企む。
「これが俺の通常なもので」
「それはすみません。では、一つ助言を。過ぎたる力は己が身を滅ぼすこととなりますので。それでは、我々はこの辺で」
周りを止めてくれたのはありがたいが、その裏で何をやっているかは怪しいものだ。
怪しい繋がりで今話してるのも怪しい。
「我らは神に愛され、敬愛を祈る使徒。人の限界を超えて頂きに手を伸ばす者だ」
表立ってこんな勧誘とするなら、他に止められる。だから、あまり人のいない講堂の裏庭で。
「そのあなたたちは俺に何の用で?」
「君を囲っていた連中と同じだ。貴様の魂は我らの同胞になるに相応しい輝きを放っている。我らと共に来い。神に近づける力が待っている」
ほら、怪しい。
何で俺に目を付けたのか。ただのヒューマン如きに神の力を御しきれないのに。
「私どもが信仰するは、世界の解放を遠き神界より目指す神。真名は恐れ多い為に呼ぶことを避けさけてもらう。しかし、君も入る上で何も知らないままでは不安も多いだろう。せめて行いは話させてもらう」
入るなんて言ってないし、喋らなくともいいし。勝手だなぁ。ああ、それが人だった。
「そういうのは他を当たってくれ」
「そうか。残念だ」
そういった奴の手にはこの世界に無いはずの武器――拳銃があった。
「それをどこで手に入れた!?」
「ふふふ、これを知っているようだな。驚いてもらえて何よりだ。これのことが知りたいか?」
「いや、わかった」
驚きはしたが、冷静は保てている。
「勇者か」
この衰退した世の中で手っ取り早くこの世界には無い技術を手にしたとあれば、勇者くらいなものだ。
「さぁな。それを知りたければ我らの下へ来い」
当たりだな。これで勇者が三人目か。
摩耶の情報にはそんな能力を持った者はいなかった。
巧妙に隠していたのか、別の国がやった召喚なのか。やるとしたら、聖法国だな。やっぱりさっきの神官たちとは情報の共有でもしていたか。
奴らの言葉からして可能性は高そうだ。
「断る。それを持っているからと言って自分が絶対的有利だと思うなよ。それが通用するのは雑魚だけだ」
言うだけ言って勇者との闘いでやったように瞬間的に懐へ潜る。
シオンは拳銃の銃身と所有者の手首を掴み、銃を捻って奪う。太刀取りみたいなものだ。
人目の無い所で話そうと言われたので移動してよかった。拳銃を【空間魔術 格納庫】にしまう。
どんな教えでも間違いではないのだ。それがどんな言葉で拐かしていようと。
俺が許せないのは、俺をそれに巻き込むこと。俺に強要すること。
教えや他者に縋らないと生きていけず、いざ自分のやること成すことは神の責任。そんな愚物如きが俺に干渉できると思うな。
俺を煩わす者は全て等しく死ね。
シオンの早業に焦った男が、腰の拳銃に指をかけて構える。銃身の先端から銃弾が発射される。
だが、それはシオンからすれば攻撃とすら呼べない代物だった。
左右に身体を動かし、照準を狂わす。
銃で何が殺せる?
皮膚の硬くなく、人に近くて銃に反応できないであろうゴブリンやオーク。それもオークの場合は身体ではなく脳天を狙わねばならない。大型の魔物相手に小さな穴を開けても変わりない。
逆に殺せない例はゴーレムが一番わかりやすい。
痛覚が無い。硬くて核になっている魔石に届かない。
それに対応して対物ライフルという手もある。しかし、あんな大きい武器をたかだかゴーレムだけのために持っているというのは現実的じゃない。ゴブリン一体に対物ライフルは過剰だ。
空間魔術で持ち歩くという案もあるだろう。空間魔術の上位が珍しいのではなくて存在自体が珍しくなっているのだからこの時点で破綻している。
そもそも対物ライフルを取り出して・構えて・狙いをつけて・当たるように撃つ。これだけ大きな隙になってしまう。人相手にもならない。
数値で管理されているステータスがある世界だ。対人戦闘では、盾で防がれたり、弾丸は魔力が込められていないものなので魔術で守られたり、ステータスを生かして弾丸を斬ることも。
この世界で銃により強者を仕留めたいのなら躱せない速度で、逃れようのない規模で、一撃で葬り去れる威力で放つものだ。
しかも、彼らは俺を囲んでいる陣形だ。俺が躱せば、当然後ろの射線上にいた奴に当たる。
当たったということは、彼は強者では無かったようだ。
その一回で怯んだ隙に囲んでいる一人に接近して【固有スキル 形態変化:刃身】で首を掻っ切る。
「クソ! なんだ、こいつ」
仲間がやられ、やけくそになったか、発砲。新刊がそんな汚い言葉を発するものではないぞ。
もう俺は円陣から抜け出して後ろには誰もいない。
最短で潰す。
先程倒した奴の服を掴み、持ち上げて盾にする。そのまま突貫。
銃弾は盾に当たって俺まで届かない。
盾で防いでいる間に銃の撃つ間隔を計る。遅いな。目の前にある強力な武器に目が眩んだってところか。
ある程度近づいた瞬間、盾にしていた奴に魔力を大量に流して投げる。魔力が過剰重点された身体は暴発。身体が爆散した。
飛び散った血を目隠しに使って次の銃弾が来る前に掌で男の胸を打った。男はその場に崩れ落ちた。即死だった。
「見つけた! ……今度は怪しい連中と組んで悪だくみか」
俺はこれでも神だ。大体の事象が予想できる。が、ここまで愚鈍だと予測できない。したくない。
怪しい連中は勇者の姿を見るなりそそくさと銃を隠して何処かへ行った。自国とは違う勇者に会いたくないのか。
俺は俺で逃げる奴を追うよりもすることが出来てしまった。




