七十六話 創造神、足を運ぶ
スグルが再起に震えている頃。
シオンはメルクーアの屋敷に来ていた。
「久しぶりだな、創造主様」
アリシアもメルクーアもよくもまぁ俺の存在に気づけるものだ。俺は元気に過ごしている姿を見たら、忘れていても別にいいのに。
「呼び方はいつも通りでいい。口調は変わらんな、メルクーア。身長しかは変わったようだがな。当時の俺と同じくらいか?」
彼女の口調は元は普通だった。俺の影響でこのようになった。
「ご主人も中身はお変わりないな。ところで、別室に待機させているあの学生たちは一体?」
「あぁ、すまないが、彼らにも付き添ってもらうことになったんだ」
「それはどうして?」
「彼らにもアリシア同様に賢者と呼ばれているお前に会ったら、幾分か成長させられると思った。と言えればよかったのだが、俺の言動や行動で失礼に当たるからだとかなんとか、言われてな」
年代はメルクーアの方が上なので比べられないほどの知識量の差があるが、凡人にとっては大賢者も賢者も変わりなく見えるということだ。
「ああ、なんとなく理解したぞ。ご主人にとっては貴族や国王でさえも自分よりも下の者。ご主人の態度はご主人には普通のことでも周りからしてみたら、少年が貴族に文句を言っているような図になっているということでしょうな」
「理解が速くて助かる。俺はいつも通りにしているだけなんだよ」
「ご主人のことを分かっていなければ、それも理解されないだろうな。それでも、時代には適応していかねばならないぞ。この世界の者からしてみれば、異世界人同様に部外者なのだから」
「そうだな。まぁ、そんなことより俺を呼んだ理由は、俺の確認なのだろう」
俺が久しぶりに顔でも見ようと俺が行こうとしているのになんか普通に出会っちゃうんだよな。アリシアもこの王国から離れなかったみたいだし、この研究対抗戦でメルクーアが噂を聞きつけてきたみたいだし。
「そうだな。気づいたのは、殺気を送った時だった」
そんなことしてたのか。メルクーアがその時の話をする。
殺気を送った瞬間、私の胸を何かが貫いていた。
……幻覚だ。
しかし、その幻覚は私がもう一歩踏み出したら現実になる。
それを嫌でも理解できる。私の周囲には誰もいない。数歩先にあの少年がいるだけだ。
少年の手に武器は無い。
幻覚で見た私の身体を貫いて空洞にしたのはいったい?
わからない。
でも、私が悪意を持って動けば殺されるのは理解した。そして、こんなことができる者を私は知っている。
神々なら。
「あの時の感覚。久々でした。それに喧嘩を売られた時の短気さ。すぐにわかったぞ。はぁはぁ。それで、あれ、もう一度いいか」
変わってないなぁ。変わっていてほしかったなぁ。真剣に話しているときはちゃんとした大人の感じなのに、こういった話になるとマゾ癖が出てくる。懐かしい。なんでこんな性格になったんだ?
「断る。だが、これの頼みを受けるかどうかで考えなくもない」
明言はしていない。いざとなれば、誤魔化せる。
「おお! で、その内容とは? できることなら何だって応えましょう」
急にやる気を出すな。
「彼らが研究対抗戦で出したのは、精霊魔術についてだ。そこでせっかく学んだのだ、精霊を彼らについてみようと考えついてな」
「なら、ご主人だって精霊を呼べるだろう? ひと声かければ、きっと大勢来るではないか。選びたい放題というやつだな」
「それが問題なのだ」
俺が精霊を呼んだ場合、多くの精霊どころか精霊王まで来てしまう。過去にそういうことがあったのだ。
多くの精霊が集まれば、見える者も出て来始めて王国で騒ぎが起こる。
精霊とは生命体ではなく、言ってしまえば魔力が溜まった場所に形が形成されて自我が宿ったもの……つまりある程度時間が経つと霧散してしまう。
それに自我といっても人格と呼べるほどご大層なものではなく、かろうじて自分とそれ以外の区別がつく程度の幼稚な自我で、大抵の下位精霊は後先考えずに力を使って消えてしまうか、何をすればいいのか分からないまま無為に力を使い果たして消えてしまう。
精霊が術者に宿ることで力を術者に管理してもらって生きる。もっと言ったら宿すではなく記録をしている。魔力の薄すぎる場に移動すれば、精霊は形を残せずに消える。しかし、術者に精霊の形を記録したことで魔力が再び集まり精霊の形が定まる。
ただ例外もある。最もな例が王位についた精霊やその次の階位である上位精霊などだ。
王位についている精霊は神としての俺と繋がっている。旧友だ。
「そこで俺よりはお前の方が適任なのだよ」
ついでに未だ精霊のいないエルフのゼノビアとテスタロッサも一緒にやることに。両名とも精霊がついていたかった。二人も困っているのだろうか。
「了解したぞ、ご主人」
このことをルーファスたちに説明して精霊を宿すことになった。
ただゼノビアたちも一緒にすることからまた後日ということに。
「私からも頼みごとがあるのだ。ご主人の確認も取れたことだしな」
「それが目的か。して、頼み事とは?」
「賢者の塔について」
「あぁ。研究一筋で頑張っているようだな」
「私は私でやっているが、他がな」
メルクーアの口ぶりから何かがあったようだな。
「賢者の塔は現在一つしか稼働していないのだ。その一つには私がいるために起動している」
ふむふむ。それで?
「他の賢者の塔も稼働させてほしい。賢者の塔で待っている守護者たちのためにも」
自分で行けばいいだろう?
「私が他の賢者の塔を知るとでも?」
一つ目的の場所が出来てしまえば、他は気にしないな。
「恐らくまだ覚えている。時間があれば、寄るとしよう」
「助かる。それとクォルツが私の元を訪ねてきたぞ」
「クォルツ? 誰だ、それは」
「ははは、報われんやつよ。ご主人の子であろう。そして、私の弟でもある」
? エル、『クォルツとは』で幻想の書ラーグリフに検索かけてくれ。
≪クォルツがヘイムダルの息子であることは正しいです。現在の職業は神官です。種族はハイエルフです≫
神官・男・ハイエルフ・クォルツ。
シオンはそれら単語を頭の中で繰り返す。
「なんとなく思い出してきた気がする。クォルツか」
クォルツもそのうち会いに行くことを決めてシオンは屋台の片づけに戻る。
結構生きているものだとシオンはメルクーアの話を聞いて思ったのであった。通常もう寿命を向かえて死んでいるメネアは俺の管理下に置かれていて遂に上位種族になろうとしている。
しかし、今この世にいる俺の子供? すっかり忘れているけど。とかがまだ居るんだろう。長生きし過ぎでは? 神界に来て仕事手伝えよ。
最終日、この日は注目を浴びた研究の学生に声をかける日だ。
今日も俺は屋台で稼いでいる。
学生たちは研究の発表が終わり、開放感を味わって祭りを楽しんでいる。残すは結果発表を残すのみ。
あれから勇者とは顔を合わせていない。会いたくもない。もうこれ以上面倒な客は来てほしくない。
なのに、……
「貴様か。おい! メルクーア様がこの店の評判を聞いて興味を持たれた。直接作ってもらえないかとお声がかかっている」
「おお、メルクーアが。構わんぞ、そろそろ店を閉めようとしていたのだ」
思わず呟いてしまうと次の瞬間、目の前に二振りの突剣が突きつけられる。
……なるほど、狂信者って奴か。どこにでもいるな、こういうのは。
バタッ。
「誰か倒れたぞ。あ、起き上がった。大丈夫か?」
「まぁギリギリ耐えました。ここって今日でもう閉めるんですか!?」
「そうしようかと。俺も行くところがありますし」
「そ、それは今日の予定ですよね。明日、明日は? 開くのでしょう。ね? こでだけ繁盛していたのですから閉めないでください」
よく見るとこの人以外にも精神にダメージを負っていそうな人がちらほらと見かけるぞ。
「そ、そうだ! エチゴヤさん、閉めないでくれ! 俺はこの店で食べることが生きがいになっちまったんだ。頼むよ!」
「そうです、そうです。明日は一体何に希望をもって生きていけばいいんですか!」
えぇ、俺もう終わりにしたいんですけど。この面倒そうな人を最後に。
「ふん、メルクーア様が待っていらっしゃるのだ、こんな者共に時間を割くな!」
また行くのか。
「メルクーアはこんなことで腹を立てたりしないぞ。少しの時間待て」
「なんだと――ぐあっ!」
「主様が待てと言ったのです。待ちなさい。それとも両足を切断されたいですか?」
物騒なことを言うなぁ、メネア。でも、助かる。
「今後は越後屋商会で販売しますのでそう騒がないでください。この屋台は商会で売る前の調査ですから」
街から頼まれて引き受けたことだが、安心させる良い言葉が見つからなかったのでそういうことに。
「じゃぁ、行こうか」
迎えの男の魔車に乗せられ、学園都市の中心部へと進む。
「おい、そろそろ用意しろ」
こっちはいつでも下りられる。荷物は【空間魔術 格納庫】に全て収納済みですから。
そうして昨夜と同じ部屋に案内されて、扉の前で立ち止まった男。
ノックを四回、先ほどまでの不機嫌そうな声色が嘘のような嬉しさ全開で扉へ声をかける。
「メルクーア様、ハンバーガーという食料を売っていた店主を連れてまいりました」
「どうぞ、入ってください」
連れてこられたのが俺と知って眉を上げ、地味に驚いているメルクーア。
「ご足労感謝致します、本来であれば私が足を運ぶべきなのですが――」
「そうだな。店を閉めようとしたのにギリギリで来やがって。来るなら、昨日頼んでおけよ」
「貴様! 申し訳ありません、まさかこのような男だったとは知らずをこんな場所まですぐ帰らせますので」
「……下がりなさい」
「しかし!」
「下がりなさい! こんなことを何回も言わせるな!」
「はっ!」
親の仇でも見るようなを視線をこちらに向けた後、すごすごと退出する姿を見送る。
「申し訳ありませんでした。まさかあんなにも使えない者だとは……」
「俺じゃなくても呼び出そうとすんなよ。迷惑だぞ」
「弁明をさせてもらうなら。私が『エチゴヤで人気の食べ物があるのか。今度行ってみようかな』とふと呟くと、あの者がそれを聞いており、そのまま呼び出していき、こうなりました」
「あの者の性格を把握していなかったのか?」
「ええ。私は普段賢者の塔にいるのですが、ご主人のことを聞きつけてここまで来ました。そこで待っていたのが、貴族の応対だったのです。それから、挨拶ばかり。やっと休めると思い、宿に泊まろうとしたのです。しかし、勝手に用意されたのがここです。それと付属であれやあれに追随する者が何故か」
大変だったんだなぁ。引きこもりには辛いか。
「ところで、メルクーアよ」
「なんでしょう」
「あの者の名は?」
「あれに名など必要ですか?」
疑問に疑問で返された。やっぱり分かっていなかったか。アリシア同様に人に興味零か。
「いらないな。それは別にいいとして、ほれ」
店で作って後で食べようとしていたハンバーガーをメルクーアに渡す。
「久々ですね、ご主人の料理を食べるのは」
「またには神界に来てもいいんだぞ。何とかかつての伝手を利用したら来れるんじゃないか?」
「それは面倒ですから。次にご主人が神界に戻るときにでも便乗させてもらいますよ」
結構長い間下界に留まっていたからな。
「お前のところに渡していた武具や回復薬で足りないものはあるか?」
「どうしたんですか、急に?」
「何千年も下界に居ると、素材だって補給しきれていないと思って」
「そうですねぇ。確かに昔よりは幻獣が減った気がします」
「じゃあ、これくらいをお前の方に渡しておこう」
そう言ってシオンは数かすの種類の素材を宝物殿から出しては、メルクーアがそれを自分の所の【空間魔術 格納庫】に仕舞っていく。
「もう食ったわけだし、いいよな。帰っても」
「精霊の件は任せてください。それと還るとはエチゴヤにですか?」
「ああ、屋台の片付けがあるんだ」
金も越後屋に入れて、この屋台で働いている間に増えたし仕事もやらなければならない。
「今頃はエチゴヤ商会も学園の方にいると思いますよ。メネアさんも」
「じゃぁ、今越後屋に行ってもあまり意味が無いか」
「そもそもご主人は学生ですよね。なら、尚更行かないといけませんよ。私はこうして話してご主人のことが知れましたから、もうあまり行く意味がありませんけど。ご主人を待っている人は結構いるんだから」
研究、地味なのにすればよかった。
俺は講堂へと向かう。
俺の腕にはメルクーアからもらった魔道具が装備されていた。
『ご主人の力はここでは強力。ですから、この魔力を一定量吸収してくれる一般人にはとても触らせられない指輪を渡しておこう』
その言葉に俺は反論した。
『これでも【スキル 限定】でかなり弱体化させているんだけど』
『一般スキルでは、神たるご主人を抑えるのは無理があるぞ』
ということで、更なる弱体化。魔術がほとんど使えない状態に。この状態では、上級魔術が23発しか撃てない。禁呪級なんて膨大に魔力を消費するから一発だけ。
物足りない気がしたので、メルクーアからもらった指輪ドラウプニルだけでなく、対大罪スキルの鎖ドローミと対美徳スキルの鎖レージングル。それから神性を封じる鎖グレイプニルも。そういえば、グリフォンが俺を見て慌てて立ったのって俺の神気が漏れ出ていたからかな?
「シオン殿!! ぐふっ」
あっ、すごい勢いで近づいてくるものだからつい蹴り飛ばしてしまった。




