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七十五話 創造神、勇者の愚かさに嘆くことも無いのかもしれないと思わない

「救護班、早くそいつを運べっ!」

 彼の言葉に応じてギルドの救護班が彼を連れていく。

「最後にこれだけ言っておく。お前らが俺を下に見るんじゃない。俺がお前らを蔑むんだ」


「スグル!」

 救護班が運ぶ勇者に王女らがどたばたと駆けていく。

 さて、彼には未来があるのか。いったい幾つの損傷を受けているのでしょうか。必見です。


「おい! シオン!」

 そういってズンズンとこちらへ歩いてくるアレス。

 残された俺は周囲の観客たちに見つめられていた。


「どうでしたか、皆さん! これはお題こそありませんが、真の勇者が名を騙る偽物を倒した劇だったのです! これは祭り、皆さんご存分にお楽しみ頂けましたでしょうか!」

 観客たちは俺の大声に反応してノリ良く楽しく騒いでいた。やはり【スキル 詐術】は強力だ。


「あんたの飯美味かったぜ。今度うちのも食いに来てくれ!」

「祭りだ、祭り!!」

「騒げや、歌え! まだ日は浅いが宴だぁ!」

「あんた、もう! まだ店をやるんだから飲むんじゃないよ!」

「若様ぁ。今度お店に来てねぇ! あたし、サービスするから」


 これで多くの観衆の前で勇者だと言ってしまった王女の言葉もなかったことに。なってくれるといいな。そこんとこお願いしますよ、【スキル 詐術】の旦那。

 アレスの顔を見ると、微妙な顔になっていた。

 勇者完全敗北が帳消しになったんだ。良いじゃないか。


 ギルドで話し合いをすることに。

 王女は一辺倒に国際問題にするとだけ言っている。

「なぁ、王女様。俺はお前らが嫌いになったよ。こいつのことも気にくわないが、お前らも」

 地面で転がる勇者をギルド長の下へ蹴り飛ばして言う。元から好意なんてものはないが、マイナスへと落ちた。


「勇者を頼りにするのは構わないがな、……甘えるなよ」


「え……?」

頼ること自体は別段悪いことでもない。家族や友達、仲間というのは支え合い、頼り合う関係性で成り立っているからだ。人と人は支えあって生きている、とも言うし。


「頼るのと依存するのは別物ということだ。一度くらいは良いだろう。しかし、それが形骸化していくのは違う。他人に依存したままで向上心を忘れて弱体化。それでいて力の重みや世界の道理を理解してすらいない典型的な選民思想を持つ上流階級の貴族が一端に理想論を口にする。自分の意見が通らなければ、癇癪を起して他人に怒りを向ける。―――虫唾が走る」

 周囲に甘えて依存している。自分では何もせず、一方的に頼るだけというのは間違っている。


「そして、それらの頼りの結果がこれだ。無様なものだな」


「―っ!」


「お前は俺を殺すべく勇者に力を付与した。なのに、逆に彼が追い詰められたらこちらを糾弾。いいか。殺すつもりで来たなら殺される覚悟を持て、なんて言うつもりは無い。一方的に殺せばいいだけのことだからな。だがな、相手が殺そうとしてきたから自分の生存のために殺す。これは当たり前の理だ。それを否定するお前は自分の大切にする者の行動なら無抵抗にそれを承諾すべきと考えていることと同義だ」

 彼女たちは今も俺を目の敵に睨む。俺の言葉など一割も入っていれば十分か。


 彼の目標、世界の救済だったな。まったく、ふざけているとしか思えないな。この世界はこれで正常なのだ。魔王に国が滅ぼされる? 貴族に非力な子供が虐待? それらを含めて世界の理。そこに救いが現れるというのもまた運命。救われずにそのまま死んでいく者もまた運命。そういう巡り合わせだったというだけ。

 世界は、神は、何もしない。それがその世界の正常な運命なのだからな。


「別にお前たちの思想を馬鹿にしているわけではない。何だったら尊重だってしよう。それによって救われる人だっているのだろう。だが、俺には許せないことがある。それは、俺の邪魔をしたこと。俺の気分を下げたこと。どんな者が敵に回っても許そう。それがその者の選んだ道の果てなのだから。しかし、俺を止めることは許さん。それがお前たちの断罪される理由だ」


 彼や摩耶の元居た星――名は地球だったか。あそこのことも俺は知っているよ。ここよりは武力の衝突が少ない様だけれども、争いは頻発している。

 その世界で彼自身がその争いを何とか出来たなら俺も僅かな期待は出来た。しかし、彼はただの元学生。そんな今まで平穏に暮らし、何も成し遂げてこなかった者に世界など救うことは出来ない。


 まぁ、救われる星なんて元からないんだけど。

 だって、彼が起こしているのは、彼がこの世界を気にくわないから変えようとしているのだから。


「なら、こちらの行動で示そう。今から勇者を殺す」

 彼女たちに言葉が通じて愕然としている。言葉の理解にはまだついていけていないのか。


「なに、君たちと同じことだ。それでは彼の死を受け入れろ」

 気絶し、寝ている彼の首に剣を振りおろす。


「ふむ。何の真似だ、それは?」

 剣士がシオンの剣の前に飛び出した。

 椅子から立ち上がりようやくこちらに王女と呪術師が来た。剣士の彼女が速いのは当然か。


「因果は巡る。お前たちのその傲慢、いずれ大きな災いとなって還ってくるだろう。そのことを肝に銘じておけ」

 俺? 俺は大丈夫だ。災いが来ても蹴散らせるから。


 これで彼女たちが収まってくれたらいいのだが、最後に見た顔から察すると反省もせずになんか俺が恨みを買った気がするんだよなぁ。敵増えちゃったよ。面倒。


 最後にアレスに娘のアリアが越後屋で働いていることを伝える。王都からの情報以来長い間心配していただろう。

 俺はギルドを出て屋台に戻り、売り上げを上げた。これが祭りと見世物効果か。金の消費どうしよう。

 越後屋の利益からすれば微かだが、増えてしまった。


 王国と敵対するのであれば、このまま金をため込んでいてもいいのだが、別に敵対なんてしないし。けれでも、最終日まで屋台はやることになった。

 さてさて、ルーファスたちの研究でも見に行こうかね。


 後で聞いた話なのだが、彼には相当な問題が出ていた。

 ある街で女性の奴隷を可愛そうと思い、助けたそうだ。そして、奴隷から解放した。

 しかし、その奴隷は曰く付きで、殺人鬼だった。称号にも殺人鬼と付いていたらしい。

 その解放された元奴隷の女性はさらに殺戮を起こして大事件になったそうだ。かなり苦労して捕まえ、奴隷という身分に落としたのだが、勇者と名乗る子供があっさりと市街へ解き放ってしまったのだという。

 その責任問題には、勇者と名乗る子供は本当に勇者で国が召喚した国がもみ消してしまったらしい。

 そんなことが何件も。

 だから、苦情が言いづらい。逆に罪に問われたなんて人もいたらしい。


 そんな勇者に怒った者もいた。国の方でも易々と裁けないその街のギルド長だった。

 しかし、彼には通じなかった。


『守ってやる』『僕は正しい』

 その基本理念が根付いているためそんなことを言っても彼は変わらなかった。

 まぁ、直接的に犯罪にかかわっている訳ではないため公的に捕らえるのも難しい。



 ・・・



 ルーファスたちの研究内容は、精霊魔術についてだった。

 内容は要約すると、詠唱魔術よりも陣の展開が速く、消費魔力の軽減があるというメリット。

 それから、デメリットの方は、体力的疲労や対話をして精霊を仲間にするまでの時間が普通に修練するよりもかかること、その時の精霊の機嫌によって効果が変わってしまうこと。

 それらを人前で発表していた。


 精霊に関する書物は少ないというのによく調べたものだ。

 精霊を使役している術者は昔から少ない。多くの者が精霊を視えず、そのせいでか、人はもう精霊が絶滅したものだと考えている。

 ヒューマン種はエルフの国とほとんど国交が無い状態だ。無理も無いのかもしれない。

 その後、色々な見解を集まった者に話し、研究の説明は終わった。


「どうよ、シオン」


「良かったぞ」


「おう。結構頑張ったからな。ところでよ、研究は精霊魔術にしたけど、精霊は本当にいるのか?」

 オーランドよ、その疑問は今更なのでは?


「調べた書物に書いてあったじゃない。それに賢者アリシア様だって賢者メルクーア様も二人とも精霊を使役してるんだからいないはずがないの!」

 アルマは良く知っているな。

 今はあいつらどうなっているのだろうか。かなりの月日が経って成長したんだろうなぁ。


「アリシアには僕も王城で精霊魔術っていうのを見せてもらったんだけどね。あんまり分からなかったよ。通常の魔術との差は内側的なものだからね」

 ルーファスは剣ばかりに関わっているのかと思ったが、意外にちゃんと学んでいたな。


「ねぇねぇ、シオンはどんな研究をしたの? 噂ではかなりの人を集めたとか!」


「そうね。ルウの言う通り、私も見てみたいわ」


「説明は出来ないが、それでもいいなら」

 この後、一つ目に見せた馬車でルーファスたちは言葉を失い、次に見せた魔符であまり理解できずに呆けていたら有名なのかはわからないが多くの学者に俺が囲まれて魔符について話している姿を見て天井を見上げ、乾いた笑いをしていた。

「あぁ、天井が見えるなぁ」



 ・・・



 もうじき新たなSランク冒険者に認められることになると噂のシオンとの闘いの後、目が覚めたのはその日の夜だった。

「スグル様!」

「スグル!」

「お兄ちゃん!」


「メイリーン、マルカ、クルル……」

 ベッドで横になって、シーツを掛けられていた僕は、自分の敗北を理解していた。

 身体が痛い。たぶんメイリーン(王女)が神聖魔術で治してくれたんだろう。それでも、痛みまでは完全に消せない。


「起きるな、スグル。お前は強く身体を痛めつけられたんだ」

 そうなのか。

 僕のあの鎧で防御していたはずだ。それなのに……。


「どうせあいつが何か卑怯な事でもしたんだわ! うるさい小言ばかり言ってそれを誤魔化そうとしていたのよ!」


「そうか? あの男、とんでもない実力の持ち主だと俺は思うが?」

 僕の次に強いマルカが身を震わせながらそんなことを言っていた。

 勇者である僕が見えないほどの動きで気絶させられた。まるで実感が湧かない。


「予知はしていたんだけどなぁ」


「そんな! スグル様の予知のスキルが外れたの!?」


「ああ。確かに使った。そして、その予知通りの結果にはならなかった。どうして絶対のはずの僕のスキルが外れたのかは分からないが、メイリーンも言う通り何か細工をしたのかもしれない」

 僕の予知スキルは普通スキルよりも強いスキルのはず。

 その特殊スキルに何かしらの干渉するあいつは一体何者だ?


「それじゃあ、スグル様はどうすれば良かったんですの?」


「そうだな。スグルは油断していたんだろう。予知のことをどうしていたのかは俺には分からない。それにあいつははっきり言って強い。だから、今度はいつも強敵と戦うように魔術も固有スキルも制限なく使うというのはどうだろう?」


「そうね。このままスグル様があの男にやられっぱなしのイメージは消したい。全部使っちゃえば、スグル様が負けるはずないもの!」

 メイリーンは僕を弁護してくれる。実際、慢心が僕にあった。軽く見ていた。それにあいつは強かった。

 でも、僕の次にだ。

 二人の言葉はいつも僕を支えてくれる。


「でも、全部使っていいのか? 固有スキルはかなり強力だけど、隠しておくべき力なんじゃない? こんなところで」


「でも、ずるいじゃない。あの男は手の内をほとんど見せてないのよ。少しは焦らせたいじゃない!」


「メイリーン、そんなこと言ったら、僕だってあんまり明らかにはしてなかったんだけど……」

 僕が弱いからみんなに恥をかかせて心配させてしまった。

 涙を流している呪術師のクルルをそっと抱きしめて誓う。


「みんな、ごめん」


「スグル様?」

「スグル?」


「今度こそ勝って見せるから。名誉挽回だ。僕の正義は負けないことを証明してみせるよ!」


「「はい!」」


 シオンへの恐れは忘れ去られて勇者一行は再び愚を犯すらしい。やはり、理性を持つ人ではなく、その場の感情で動く獣か。

 自分を律することも出来ない者に人を名乗る資格無し。










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