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七十四話 創造神、勇者という獣に会話を求める

「お前! 何をしている!」

 顔を真っ赤にしてスグルが飲食スペースの中に入ってきた。


「何をって、食事だよ。あれか? 勇者ってのは食事時に襲ってきて食事の邪魔をする汚い職業なのか?」

 今食べているスペースのテーブルには、他にメネアや摩耶たちもいる。

 俺がそう言うと、さらに顔を赤くしたスグルだった。これは怒りかな?


「なんで今なんだ!」

「今が昼時だから」

 俺は外にスグルと闘いをしに行ったが、ちょうど昼食の時間だったから屋台に移動した。


「それは今じゃなくたっていいだろ!」

「お前が俺の時間を決めるなよ。お前はそうやって他人の行動まで一々指図してくるのか。それが勇者様のすることですか。他人の世話までするなんて勇者ってのは大変ですね。世話をしてくれんなら、ここの代金払っといてね」


「ふざけるな! 僕は真剣に! ……くっ、食べ終わるまで待とう。うん……?」

「な、なんですの?」

 勇者、今度は違う意味で顔を赤くした。


「はっ! あなた、とても可憐だ。――君は僕の隣りが相応しい。僕のもとへ来ないかい? ……まさか、脅されて!」

 勝手に始まって勝手に完結した。これが勇者か。怒ったり一目惚れだったり忙しいやつだ。


「違いますわ。勝手な物言いをしないでくださる」

「こんな男についていても君は幸せにはなれない。さぁ、僕の手を取るんだ」

「あなたが私の幸せを決めないで頂戴」


ここで彼に従っていた王女様が口を挟む。彼女にも色々あるようだ。

「あまり親しくし過ぎるのも」

「僕は彼女と仲良くしようとしているだけだよ? 何かいけなかったかい?」

「それは……」

 もっともらしいことを言われ戸惑いだす王女。


「ふふ、あなたは少し嫉妬深いところがあるから。大丈夫だよ。僕は他の女の子を褒めたり仲良くしても君も愛するから」

「な、なな、何を仰るのですかスグルさま!? 私は別に……」

 彼らは彼らで自分たちの世界を作っているようなら別にもういいよね。昼食も終わったことだし、帰って仕事。


「そうか! わかった。まさかだとは思うけど――闇魔術を使った洗脳」

 勝手に彼の中で物語が出来ていくぞ。何これ。それよりも一緒にいる摩耶にはなんで気づかないんだろう? 視野が狭くなっているのかな。恋愛とは恐ろしいものだ。


「僕がその魔術を解いてあげるよ、お姫様。僕は彼のような扱いはしないから安心して。俺と共に行こう」

 気持ち悪くなってきた。こっちは食事中なんだよ。なんであんなセリフを吐けるのか、俺にはわからん。きっと彼にはこの場に花が舞っているように見えているのかもしれない。

 俺のような扱いはしないというと越後屋の逆だから相当なひどい扱いのことになるぞ。

 ほら、ゼノビアがすごい嫌そうな顔をしている。自分から酷い扱いをしてあげる、と言っているからな。


「さぁ、彼女を賭けて僕と戦え!」

 目的が変わっているぞ。

 直情だと惚れてからここまで展開が早いな。自分の善だと言って人を賭けの対象にしている。どんだ善人がいたものだ。

 もう食う気がしない。むしろ食べていたものが舞い戻ってきそうだ。食事を途中で終えて飲食スペースから出る。


「君たちもだ。これ以上、その男の元にいるべきじゃない。俺と一緒に行こう! 君たちほどの実力なら歓迎するよ。共に人々を救おう。ウルちゃんだったかな? 安心してくれて良い。頑張ったな。よく耐えたな。俺と共に来てくれるなら直ぐに奴隷から解放しよう」


「ところで、なんで戦うことになった?」

 どうでも良いことだったからつい忘れてしまった。


「は? いや、お前が彼女たちを解放しないからだ」

「……」

 どの世界にも主人公補正というのがある。言葉ややっていることは同じでも悪役と主人公では印象を変えてしまう。これは陽か陰かでいうと陽の者だ。この勇者もそっち側なのだろう。

 どんなことをしても周りから咎められることなく、善になる。

――嫌いだ。


 勇者のシステムは良い。それでもやはり嫌気がさす。どこかで言い知れぬ不快感がある。

 例を考えてみる。

 状況は勇者に挑まれたスラム育ちの転生主人公。スラム育ちの主人公、これからのし上がっていくのだろう。

 さて、これに立ちはだかるは勇者。スラムの主人公を見てきた第三者からは勇者を悪く捉える。

 どうせ性格悪いんだろう。主人公の邪魔してんじゃねーよ。さっさとやられろ。


 では、勇者側を転移主人公としたら?

 目の前にいるのは、主人公に反発的なスラムの子供。どんな言葉を主人公が口にしても嫌味に返してくる。

 生意気。主人公に反発してる(笑)。無様に負けるパターン。勇者見せ所。


 では戻ってこの状況。今、俺は勇者に問い詰められている風景。見ているのは何も知らない民。

 結局世界は、人は、自分の好きなように理不尽に受け取る。その相手にも何か事情があるかもしれないというのに。

 故に我は思う。

――勝てば良い、と。


 急すぎる答えか?

 世界どこにでも存在する主人公。皆、己というものを持っている。どんな対立であろうと勝者が後の世を決める。

 これもまた我が強者を求める理由。相手のどんな状況でもどんな状態でもどんな信念であろうとも相手を踏みにじった者にこそ主人公が相応しい。

 どんな主人公でもいい。憎しみに憑りつかれていようと救いに満ちていても。今最も強い主人公は何を潰してきた? 何が残り、何が淘汰されてゆくのか。人々の最後は何があるのか。それを知りたい。


「何とか言ったらどうなんだ」

物思いにふけっていると勇者に怒鳴られた。


「あー、お前が勇者らしく非力だと知って救ってやらねばと勘違いしてたんだっけか。でも、その彼女たちは解放を拒んでいる。つまり、お前がしているのは人の世で言う所の迷惑行為ということだな。なら、別に俺はお前と戦う必要が無く、衛兵に突き出せばいいだけじゃないか」


「なんだと! 僕はただ彼女たちを助けたいんだ! それを強制的に拒ませているのがお前なんじゃないか! だから、僕は君を倒して彼女たちを救う」

 一方的なんだよぁ。それにこれはそんな深いものじゃなかった。


「そうだったね。そうだった。どうでもいいから忘れてた。じゃあ、勝負方法は将棋でいい?」

「何を言っている! 勝負は――」

「勇者っていうのは暴力でしか解決できないのかぁ? 野蛮だなぁ。じゃあ、さっさとやろうか」

「……あぁ」

 これ以上話を引き延ばさないようにか、スグルはシオンに対する怒りを抑えた。


「おい! エチゴヤさんが勝負をするらしいぞ!」

「いいねぇ、それでこそ祭りだ」

「えっ、エチゴヤさんが戦うとこが見られるの! 絶対見逃せないじゃん」

「観客席を急いで作れ! 人が集まるぞ。売れ時だ!」

 俺と勇者を取り囲むようにして人が集まり、試合場を作った。


 彼は色々な所で迷惑を起こしてきたのか、彼に掛る言葉は罵詈雑言だった。何をしたんだ。

 あ、何か嬉しそうな顔をしてる?


 っ!?

 まさか、この大罵声を彼の耳には大歓声に聞こえているというのかっ!?

 彼の脳はそこまで退化して聴覚は壊れてしまったのか。こいつは不味い。幻覚の上に幻聴。本格的に病なのでは?


「お前みたいな外道! この聖剣で倒してやる!」

 そう言って彼は、腰の剣を抜いた。それと同時に自分の身体を光の鎧で覆う。


「来ないならこっちから!」

 俺が考えているのを戦意がないものと受け取った勇者が迫る。


「俺はね、絡まれたら即殺すことにしているんだ。でも、君は勇者だ。俺が君を助けてあげよう。よかったね、守られる立場の勇者であって」

【スキル 鑑定】で見た結果、彼の持つ聖剣という名の駄剣は神聖魔術を付与された普通よりの少し強力なだけの剣。


 彼のステータスは、それ相応に強いが、俺に全く届いていない。もしかしたら、摩耶にも届いていないんじゃないかな。

 同じ異世界人としてはどうなのかな?


「喰らえ! シャイニングブレード!」

 突如彼の剣が強烈な光を放つ。

 神聖魔術での目くらましか。なら、その名前は止めた方が良いんじゃ?

 ただの剣を光らせて横に薙ぐだけの攻撃、普通に避けられる。一応食後なのであまり動きたくない。

 シオンは身体を魔力で強化し、剣を手で摘まむ。


「ふっ、これで悪は去った。これで僕の勝ちだ。さぁ、君たちを解放してあげよう」

「こんな攻撃でやられるの恥ずかしいんだけれども」

「何! 僕の一撃が効いていないのか!」

 そんなあり得ないみたいな反応をされても。彼の場合、剣ではなく彼の元々のステータスが他の者より高いというだけだ。それでここまで来たんだろう。

 勇者にはレベルアップの補助が仕組まれているから。まぁ、当然かな。むしろなんでレベルが低いのか、問い合わせたい。


「なるほど、お前の正体わかったぞ」

 今ので何が判別できるというのだ。


「お前は……魔王だな!」

 彼の脳はヒューマン種ではなく、獣以下にまで劣化してしまっているようだ。可哀想に。


「あんな攻撃を俺が一回防いだくらいでよくもまぁ自信満々に言えるね」

 周りで見ていた見物客も彼を慈愛と哀れみの冷ややかな眼で見ている。

 余程彼が何かを仕出かしていたんだろう。


「否定しないということはやはりお前は魔王だ!」

 俺、今しっかりと否定したよな? ちゃんと違うと言わないと彼には認識できないのかな。


「ならば、僕の必殺の奥義で決着をつけてやる。メイリーン、援護を頼む」

「わかりました」

 えぇぇぇ。援護とかするんだ。この勇者も狂っているが、彼の周りの人物もそれ相応に狂っているな。いつか職業、狂戦士になるんじゃないか。


 メイリーンという王女は彼にバフをつけてアシストする。

「死ね!」

 それって殺害予告? 犯罪だよ。


「何故だ! なぜ、僕の神速の剣が当たらない!?」


「これが神速? ふざけるなよ、この程度で神を名乗るんじゃねぇよ。獣は獣らしく地べたでただ這いずっていればいいんだよ」

 さすがに発言が発言だけに彼にしか聞こえない音量で喋る。


「上から見下ろすのはお前じゃない。この俺だよ」

【スキル 威圧】のレベルが上がってしまった。今は【スキル 覇気】に進化した。

 勇者は俺に剣を振っている最中に下がってしまった。


「僕が……怯えた!? ありえない!」

 今まさにビビってんじゃん。


「いいだろう。僕のすべて見せてやる。奥義を超えた究極奥義、邪を滅するこの技で。喰らえ、【聖剣技 ホーリークロス】」

 今度は神聖魔術を使ったアシスト+王女の魔術アシストを利用した攻撃。考える脳を持つなら、もっとバリエーションを増やすべきだ。神聖魔術が効かないのであれば、火魔術を使う。そういったことをやっていかないと三流以下だ。


 彼はジャンプをして上段で兜割をしようとする。わかりやすい攻撃だ。一般人相手(Cランク)なら、この一撃で倒せるだろう。

 しかし、剣線がわかりやすい。

 先の行動が読めてしまう。


「最速には程遠いが、真に速いということを教えてやろう」

 魔術を使わずとも人は速くなれる。

 魔力によって一瞬のみ身体強化を自分の身体の耐えうる限りまで。


 後は体術だ。

 最小限の動きとスピードの流れるような動きによって相手の攻撃を回避しながらの接近。

 自身の存在を相手の無意識に潜り込ませ、相手の意識が途切れる瞬間を狙う。

 そして、自身の接近を相手の生命の危機に迫る直前にまで気づかせないので回避することは彼には出来ないだろう。


 貫き手で魔術の鎧ごとぶち破っても良かったのだが、とりあえず崩拳で。

 痛みに我慢して鎧を犠牲にカウンターでも狙ってくるかと思ったのだが……そのまま昏倒させていた。


 だが、起こす。

 胸倉を掴み、意識がないので勇者は立てない。だから、空中に放り投げる。

 気絶していてガラ空きになった鳩尾に一発。勇者の身体にシオンの拳が突き刺さる。悶絶して声も出せないのは良い気味だ。

 曲がる身体。曲げられたことで前に倒れて近づく顔面に膝蹴りを一発。

 仰け反る身体、弾ける鮮血、ゆったり地面に倒れていく身体。

 会場も盛り上がってきた。


「そこまでっ!」

 ここのギルドのマスターであるアレスの声で勝負が終了する。














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