七十三話 創造神、会話を試みる
スカウトだ、執事の格好をしてくれだ、あってもなんとか昨日の業務を終わらせて越後屋に帰ってきた。
そして、今日も色々あるのだが、朝から問題が来た。朝ぐらいはゆっくりさせてくれ。でも、今日はちゃんと起きている。
越後屋にとある訪問客を迎えた。
従業員から来客を聞かされた時は知人だと思ったのだが、初対面の相手だった。
従業員を連れて客人を待たせているという応接室へと入る。
「黒髪……和服……」
彼は俺の顔を見るなりに呟く。
「初めまして。僕は黒羽 優。って言ってもこっちの人はわからないかな? 僕たち以外には居ないはず。スグルっていいます」
摩耶の話では、この世界に召喚されたのは五人。うち二人は勇者と聖女。あと二人がどうしているか。
「そうですか。そちらの要件は何でしょう」
その片割れの勇者か、彼は。摩耶の言葉を疑いはしないが、鑑定スキルで確認。確かに勇者となっている。
異世界産の勇者か。
RPGならここで商会の協力を求める場面だが? 何の接点も無い相手にああだこうだ要求されても応えるつもりはない。恩義とかもないし。
そもそも勇者って嫌いなんだよね。別世界からの生物を勇者にして、つけあがらせると、腹が立つ。
「ちょっと! スグル様が名を名乗られたのだからあなたも名乗りなさい」
「彼が勝手に喋っただけですよ。それにアポイントメントも無しにいきなり商会に来て目の前で怒鳴り散らす。こちらの迷惑を考えてください」
店頭でメネアが丁寧に応対している。けれど、明らかに不機嫌を匂わせている。
「知らないわよ、あなたの迷惑なんて。ともかくスグル様を煩わせないで。それとも勇者であるスグル様に逆らうの?」
いきなり怒り心頭な女性をスグルが宥めつつ、俺に問いかける。
「……まぁいいじゃないか。僕たちは、越後屋商会は奴隷たちに無理矢理に仕事をさせていると聞きました。その是非について聞きに来ました。その前に、せっかく同じ日本人に会えたんだし、どうです? 一緒に食事でも? あなたの事情も聞いてみたい」
相手の言葉を聞く理性は持っているようだが、勝手に来といて俺の都合まで勝手に決めんなよ。だいたいなんでお前と食事に。不満がたくさん出る。
お前のような奴はなんとなくわかるよ。
自分が一番正しい、自分は神に選ばれた。
そう思っているため他人の話は聞くが、自分のルールを相手にも強要して話の内容も無視する。話したことを都合のいいように曲解する、自分が正しいと疑わない、一度決めた事は諦めない、そのためにならある程度の法すらも犯す。なにより正義感が強すぎる。
さらには、自分が出来なかったことで他人が出来てしまえば、妬みに走って人を恨む。そして、聞こえのいい言葉で人心を惑わし、自分が一番になろうとする。
無自覚だからこれは社会を混乱させる可能性がある。
執務室から降りてメネアに代わりシオンが応対する。
「俺は仕事がありますので。それであなた方の要件は何だ? 俺の髪が黒かったらなんなんだ?」
「そうですね。あなたの持つ奴隷を解放してくれませんか?」
は? このバカ、急に何を言い出すんだ?
「どういうつもりだ? 勇者様なら救おうとするその気持ちもわかるが、お前だって奴隷を三人連れてるじゃないか。その論法で攻めるのはおかしいんじゃないか?」
「これは彼女達の意志です。僕は三人が望むならいつでも彼女達を自由にするつもりでいます。あなたは、どうなんです? 日本人としての道徳があるのですか!?」
そう言って、シオンは後ろに立つ三人を一瞥した。
修道服を身にまとった女性。
長剣を持つ剣士の女性。
そして、一番背の低い、ぬいぐるみを持った少女。
全員が隷属の首輪を付けている。
三人の職業は視た感じ【神官】【剣士】【呪術師】だ。まぁ、バランスのいいパーティーだな。壁役がいれば。ああ、彼がその壁なのか。勇者は頑丈だ。いい肉壁にはなるだろうな。
結局お前が奴隷を連れていることに変わりはないだろ。
「あなたたちは何故彼に?」
「良いでしょう。どうしても聞きたいというのであれば、話しましょう。私はとある国の王女なのですが、悪人に捕まっていたところを助けて頂きました」
身の内の話は要らない。興味ない。
「そして、勇者であるスグル様の崇高なるお考えを聞き、スグル様に付いていくと決めたのです」
彼の言葉とは、彼の目標とする所。彼が行おうとするのは、全奴隷の解放と争いの無い世界を作ること、だそうだ。
「勇者なんてただの飾りさ。僕は僕の正義を為すだけだ」
なんかカッコつけているけど、お前が勇者の称号に文句を言うな!
「俺は、まぁ、剣術大会で剣闘士代表として参加したんだけど、スグルに負けてな。無理言って買ってもらったんだけどな。この首輪が外すのは、スグルに勝った時って決めてるからな」
「私は、村を救ってくれた、スグル兄ちゃんに、ついていくってもう決めたから!」
それぞれがシオンにスグルへの自分の思いを言う。思えたちの思いなどどうでもいいが。
「お前はどうなんだ! 彼女たちに何かやましいことをしているんじゃないだろうな!」
うるせぇ。一々うるせーな、こいつ。
「何もしてねぇーよ」
「嘘よ、嘘に決まってる」
「あ゛?」
つい声にでてしまった。
少年の後ろで腕を組んでいた剣士の女性が俺を睨め付けながら否定をする。
「おい、俺の言葉をお前如きが否定してんじゃねーよ」
「ほ、ほら、そうやって脅してんでしょ」
俺の威圧に反応して怯えながらも女剣士は言う。
「君らは解放と越後屋の辞職を望むか?」
俺は後ろに控えていた従業員の三人に呼び掛ける。
「ずっと居続けます」
「嫌ですわね。お給金もここはかなり良いですから」
「離れたくないよー。お願いだから見捨てないでくださいよー」
三人は首を横に振る。摩耶、茶化すな。
「また強制的に言わせてんでしょ」
今度は女剣士だけでなく、王女も加わる。
「それ言葉も彼が強制的に言わせているのでは? ほら、隷属の首輪だって何時までも付けてるみたいだし。なんだったら、そっちの方が怪しいんじゃないか? あれ、お前ら、そうやってうちを潰しに来た奴か。君たちは衛兵を連れてきてくれ」
「わかりました」
そのうち、こいつの勇者の称号も剥奪しよ。
そもそもこの国では隷属の首輪は特に禁じられていない。ワイバーンを飼いならすことのできない国なんかは使っている。個人的には嫌悪感は出るが、この世は弱肉強食。捕まったそいつが悪い。
人では、合法的な奴隷だってある。犯罪を犯した者、借金が返せなくなった者等。その者らに反逆されないように抑えておくため隷属の首輪には能力値の制限がある。
王国で奴隷商会をやっていく際に国からの許可を貰うことで初めて奴隷を扱うことが可能になる。
扱う隷属の首輪に関しても主となった者の強制的に従わせる行動に対する反発が出来るようにすることが義務付けられている。
そういう風にした。
ただ、その隷属の首輪を悪用する者もいる。前に俺が討伐した盗賊がリンたちに付けていたように。
それをちゃんと説明したのに。
「合法とか非合法とかそういう問題じゃないだろ! 人としてどうなのかっていう話なんだよ!」
近くで吠えられた。うるさい。
「今すぐにでも奴隷たちを解放しろ!」
「なんで俺なんだよ」
「は?」
「だから、俺じゃなくてもそれ以外にそれを言えばいいじゃないか。俺に関わってくるなよ」
「いずれ言ってやるさ。僕は全ての奴隷を解放して見せる!」
「どうやって? 所有者から奪うのか? それとも買うか?」
それを実行した段階でお前はお前が下に見る俺や合法奴隷商人と同じ存在になる。
「そんなこと、僕の正義の前には関係ない」
「関係あるよ。お前のしようとしていることが強奪や恐喝なんだから。それが正義っていうなら詰所行こうか」
「本性を出しましたね。僕の正義を否定するなんて。やっぱり女性に言うことを聞かせて自分のものにしているんだ。同じ男として到底許せる行為ではありません。どうやら情報は正しかったようですね」
「……あぁ、なんで俺にこういった輩が集ってくるんだ。言っておくけど、俺はお前と戦うつもりはないんだが」
「僕も戦いは望みませんが、あなたが彼女たち、そして、ここで囚われている方を解放しないなら仕方がありません」
そう言って、スグルは剣を抜いた。どう言葉を取り繕っても好戦的にしか見えない。
「わかったよ。でも、こんなところで戦ったら俺の迷惑だ。外に出な。相手をしてやろう」
心を圧し折る。
「そうですね……その通りです。外で続けましょう」




