七十二話 創造神、料理を販売する
下町からの依頼だったので準備はすでにしてもらっている。
「シオンさん。屋台は我々の方で完成させておきましたので。外観を整える骨気味と垂れ幕、のぼりも手配しておきました」
仕事が速いな。屋台の先にもテーブルと椅子が用意されており、休憩の場になるらしい。
依頼通りにまたハンバーガーを作る。
その他にもメニューを用意してある。
「よーし、じゃあ、始めるとしようかな」
お手伝いに越後屋から二名借りてきた。
事前に用意しておいた焼く前の肉を鉄板に乗せる。
ただこれを生身で持ちたくはない。よって、ハンバーガーにした。
打ち合わせをして決めた量を売れ切れば、そこで終わりとなる。こんなに売れているのは料理スキルが働いているからかもしれない。
この後も自分の研究の解説がある。というか、やらないといけない。
だから、持ってきたハンバーガー1000個を早目に売りたい。
しかし、あんまり気分が出ない。ダメだな。なんでもかんでも過去の自分の集めたものを利用しては。これからは料理の素材はその時になってから取りに行くこととしよう。決定。
「今年はどっちから見て回ろうかしら? やっぱり中央を通ってから外周時計回り?」
「私はできるだけ早くパンケーキが食べたいから、中央に行くのは賛成かな~」
「私はお肉系が食べたいのだ」
目標補足、三人組の娘さんが中央通りに差し掛かった。
まだ司令が俺の中に残っている。
だいぶ良い所に街の人は俺の店を出したのだな。告知もしていないだろうに大勢の人が集まる。
越後屋多数発見。
自分たちで決めて通ったものだからな。そりゃ早くに来るだろう。
「なんだか香ばしい匂いがするわね」
「パンケーキの前だけどどうしよっか~?」
「お肉の匂いもするのだ」
さぁ、来いよ。速く売れるためだ。営業スマイルでもなんでもしてやんよ。
「どうです、お嬢様方。本日最初のお客様になっては頂けないでしょうか?」
自分で言っていてブルーな気持ちになる。自己嫌悪だ。
大丈夫かこれ、口元引きつってないか俺。悲しくなるんですけど。
が、多少効果はあったのか、三人組の一人が少しだけ表情を崩して歩み寄ってきた。
「美味しそう、これはなんなのだ」
「軽く焼いた白パンに、肉や野菜に色々なソースを挟み込んだ料理です。商品名は『ハンバーガー』です、どうでしょう?」
俺の屋台では、ハンバーガーの他に屋台に合わないロールケーキも売っている。買った者は近くのベンチで座って食べている。
俺のメニューの組み合わせもおかしいが、このメニューのに違和感を感じていない様子の客たちもおかしい。
「聞きなれない名前なのだ。一ついくらなのだ?」
「350CLとなっております」
値段設定は安めにしておいた。打ち合わせの時にサンプルとして食べさせた者には、そんなに安くてもいいのか、と言われてしまったが。そこらの店で買った大した食材でもないものを使っているのでこの位が妥当だと俺は感じる。
一応作ったハンバーグは元値がかなりの値になりそうだったので変更を。作っていた時、ふと手に持つ肉を見て、これ売ったらどうなるんだろう。とか、考えついてしまったからだ。今度商会で売ってみよう。
「あら、結構安いわね。じゃあ私も頂くわ」
「二人共買うなら私も買おうかな~」
そして、複数人で固まっている人間を狙うことで、このように連鎖的に売れる。
「うっわ美形! マジで料理してるよ」
「でしょ~? 味もちょっとかわってるけど、癖になるんだ~」
「さっき二つ買ったけど安かった。まだ食えるのだ」
女性は耳が早いな。流石は女性のグループ。
どうやら最初に来てくれた娘さんたちが、女の子の知り合いに声をかけてくれたらしい。違うところからも。
でも、おかしいな。どちらかというと越後屋から借りた女性スタッフ二名の力で男性客を捕まえようと思ったんだけど。
……女性がここまで集まると、今度は男性が近寄りがたくなってしまうんじゃないかな。
だがそれでも、すさまじい勢いで店頭に用意していた第一陣が売れていく。
「五つほどくださいな」
越後屋の従業員がロールケーキを買いに来た。
「仲間内で食べるのか?」
「いえ、メネア様がお一人で」
そんなに甘いものが好きだったのか。昔から好きだったのは知っていたが、そんなにまでとは。
先ほどの女の子が二つ買ったように、価格を低めに設定しているのでまとめて買う子が多いからだ。
よくもまぁ、そんなに入るものだ。
……これは、思いもよらない効果まで生みそうだな。トラブルにならないと良いのだが。
だが、順調だった屋台に水を差す奴らが現れた。
「おうおうおうおう! 不味そうな物売ってるなぁ!」
「こんなパンの出来損ないみたいな食い物、売ってんじゃねーよ!」
分かりやすい妨害だ。他の参加者が雇ったチンピラなんだろう。
念のためステータスを確認すると、凄まじく弱い。厳つい外見なので一般人相手には威張れるんだろうが、冒険者相手だったら駆け出しレベル何じゃないだろうか。。いや、普通の料理人相手だったら十分か。
「おらおら、とっとと消えろ!」
「どうせクソ不味いんだろうが! 見てるだけで吐き気がするんだよ!」
「なんなら俺たちが手伝ってやるよ!」
そう言って棍棒のような物を取り出すチンピラたち。お客さんからキャーという悲鳴が上がる。
「じゃ、お願いしまーす」
「はっ」
借りてきた従業員のドロップキックがチンピラに入った。
俺の視界にスローモーションで空中を流れていく。
そわそわ。
「シオン様もどうぞ」
自分のところが不味いことになってきているってもんで慌ててこういった邪魔を他のライバルたちが雇っているのだ。もちろん越後屋情報。
「よし」
もう一人のチンピラに殴り攻撃を連打。からの蹴り。そして、チンピラの顎目掛けて――アッパー!!
「どぅわ」
コンボ決まった!
ふっ、俺には見えるぜ。
コンボ数と『YOU WIN』の文字が。
「じゃあ、私たちは彼らを裏に」
二人のチンピラを引きずって人の眼の見えない場所へ。彼らはこの後、何かをされるのだろう。終わった後、精神が無事であることに健闘を祈る。
「あのすみません。もう一度、お嬢様って言ってくれないかしら」
あれをもう一度言えと!
無理、無理、無理。精神に思わぬダメージを受けるんだぞ! それにしてもタフだな。
「シオンさん、一度交代してもらっても良いでしょうか?」
「ああ、お願いしようかな」
「では、裏に。着替えも用意してありますんで。それに着替えてください」
「助かる」
火の近くにいたから汗が。惜しまれつつも、バックヤードへ引っ込むことに。
「何してくれてるんですかっ!」
俺の後ろから声が。俺は助かったと思っている。
「少々お待ちを。シオンさんがもうすぐ新しい服で出てこられますから」
「あぁ、なるほど。ありがとうございます」
なんで礼を言っているんだ、あの子は。何を理解したというのだ?
………。
着替えって、これ?
なんで屋台で執事服? さっきのはこれだったのか?
でも、これに着替えてくれと言われてたら、何か訳があるのやもしれんし、一応着るけど。
今の自分の姿は見てないし、見たくもない。が、何となく摩耶がこの場にいたなら――
「ショタ執事だ!」
と言われ……る。
「何故ここに?」
少しの間俺の時が止まった。間をあけて摩耶に問う。
「屋台開くって聞いたので食べに来たら裏に着替えに行ったと言われて見に来た。新たなジャンルが広がった」
「またセクハラか! そいっ!」
「いだだだだだーー!!」
アイアンクローで罰を執行する。
結局、今日のお客の九割九分は女性客だったが、この屋台は明日も続くことになった。
翌日。会場である広場には同業者がひしめき、各々が開店前の準備に追われていた。
俺たちも今日の分を用意し、のぼりを出したりと開店準備をしていると、二人組の男性と女性がこちらへと歩み寄ってきた。
どこぞの経営者の人かな? 文句なら受け付けない。
「このお店の責任者は誰なのかしら?」
「責任者でしたら俺ですが」
話しかけてきたその女性の元へ。
「随分と荒稼ぎしているようね、なかなかやるじゃない、貴方」
「ええ。このような場所に店を構えさせてくださった街の方に感謝しています」
「それだけじゃないのは、あたなも分かっているでしょう」
語気を強め、忌々しそうに彼女は言葉をぶつけてくる。
おぉ、怖い怖い。でも、今の俺の発言を皮肉に捉えたのかな?
「さてさて、俺はここで頼まれた料理をしていただけですので」
「ちっ……」
「――まぁ、まぁ。それぐらいに。うちの者がすみませんでした」
隣に控えていた男が女のフォローに入る。
「それであなた方は一体何をしに?」
「我々は王国の城で料理をしている者なんですが。一つ頼みがございまして」
「この料理のレシピを教えろ、というのは、無しでお願いします」
「いえ、私たちもそこまで非常識な行いをするつもりはありません、貴族様じゃありませんから。ははは」
この人、結構ぶっちゃけるな。
「それでですね。今度、王国叙勲式が王城で行われるのですが、そこに神の一族がいらっしゃるそうなのです。知っていますか、今度男爵位を得ることになるのは子供のようですよ。しかも、領地まで与えられるみたいで」
話が見えん。その叙勲式なら、今言われたように俺も参加するが。気になるのは、神の一族と呼ばれている者たち。正確には、神の下へと召し上がった者の末裔らしい。
「あなたのこの料理食べさせていただきました。そこで、あなたには王国叙勲式後に行われる会食パーティーの料理を作っていただきたいのです」
「しかし、……」
「躊躇されるのもわかりますが、国王からの問い合わせで是非とも様々な方に食べてもらいたいと」
そこまで言われると嫌な気はしない。やってもいいかなぁ。
「私はこんな奴は入れたくないね。万が一失敗すれば問題になる。私たちも危ないかもしれない」
「俺はいいのですが、そっちの女性の方は不服なのでは?」
「いえ、彼女はこういう性格なので」
そこから彼女の性格に関する説明を受けることに。
彼女があのような言動になったのは、仕方のない事だった。
料理人それぞれにプライドがあり、女性の料理人を頑なに認めようとはしなかった。だから、ああして自分を強く見せて男性料理人にも言い負けないようにしているようだ。小娘の言うことなど素直に聞く気がなかったらしい。
それを長くやってきたことで身に沁みついてあのような性格に。
「で、どうですか?」
「いいですよ」
どうせ俺も王城へは行くわけだし、いいだろう。
話を承諾して王城で提供することが決定した。
値段については適当なので適切な金額をお教えいただければと思う次第でございます。




