七十一話 創造神、研究を講じる
俺が当時の俺の血から創り出した眷族。眷族? 親の方が近いかな?
種族は龍人。
進化はこんな感じ。龍人←竜人←蜥蜴人。
蜥蜴人は、鱗の色ごとに分かれて集まり集落を作っている。また、他色との戦闘もしている。別種族と思われている蜥蜴人だが、全て同じ種族だ。
進化の過程がある中ですべてに共通しているのは、龍や竜に対して信奉があること。信奉、強者への尊敬。
だが、彼女にはそれがない。
なので、竜人の住まう所へ行っても求婚はされるものの全く響くものがない。種族は同じでも告白の仕方やその告白内容がピンときていない。
昔は彼女よりも強い龍人がいた。
彼らの瞳にも彼女の姿は絶世の美女に見える様で強者からも求婚されていた。
まぁ、俺が生み出したんだから何の遜色もない完璧な肉体になっている。
無病息災怪我知らずの健康体。溢れんばかりの生命力を宿すその身体は、まさに完全健康優良児。
だが、やはり彼女にはまた何も響かなかった。
告白に来ては毎回撃墜されていく哀れな死体、もとい、自信にありふれていたり、勇気を振り絞って来たりしてはフラれていく男たちをたくさん見てきたので興味本位で聞いてしまった。
彼女の反応は俺を指さしていた。
後ろを確認したが、誰もいない。
そこで俺は理解した。
彼女もまだ精神的には若い。きっと「お父さんと結婚するぅ」と言うような年頃なのだと。
その後数日間は口をきいてくれなくなった。
当時の仲間であったアインツはまだ小さかったから覚えてないだろうが、俺はアインツに正座させられて怒られていた。
まぁ、とにかく俺の創る身体は完成されたもので他種族にもその魅力が伝わっている。
となると、世界の初期に創った人種たちも完成された肉体で美しいということになるが、こちらは違う。
違うこともないが、特別な一個体よりは多少劣化している量産型。それが長い月日を経ててより劣化したのが今の人類だ。個体ごとの中身の劣化もそれなのかもしれない。
龍人と言っても姿はヒューマン種と変わらない。違いと言ったら、身体のどこかに鱗がある位なものだ。あとは、【特殊スキル 竜化】が使える。
「この展示は余程の人気を博しているのだな」
人だかりができて中々前に進めていない様子。
「作成者を呼んできましょうか?」
「そうだな。できれば、会いたいものだ」
うわっ、こっちに来る。俺、そろそろ魔道具の方に行きたいのに。担当の人、気は利かさなくていいのに。
今更だが、俺特製の馬車を持ってくるのは非常識だったと思い直す。小学生が自由研究にトラック引っ張ってくるみたいなものだろう。その光景は異様だな。トラックを組み立てる小学生がいても面白くなりそうだが。
「メルクーア様、こちらが製作したシオンです」
引っ張り出されてメルクーアの前にまで連れてこられた。
「おや、君は選抜対抗戦にも出ていなかったか?」
あの場にいたか?
「録画されていた映像を見たのだ」
俺が疑問に思っていたことに回答をくれた。録画の魔道具か。
「君の魔術は素晴らしい。作品も楽しみにしていたのだよ。しかし、……君の出展作品は魔道具ではなかったか?」
「俺は二つ出しているんだ」
「こら、敬語で喋れ!」
些細な言葉使いにも注意を加えられる。
「ところで、君はここに居たままでいいのか?」
「え?」
「魔道具の方にも人が大勢いたぞ。そちらも説明をしなければならないのではないか」
今から行くところだという思いを伝えて魔道具の所へ行く。
「そうか。ならば、私も一緒に行こう。私もこれから行くところだったのだ」
懐かしさはあるが、今は忙しい。語らいは後日にしてもらいたい。メルクーアは俺の存在に気付いている様子は無いが。
というか、お前も来るんかい。こいつ、戦闘では魔道具を利用して戦っていたっけ。で、そのうちに魔道具の開発までするようになって今は賢者の塔に引きこもっていると。
アシュタロト時代の俺と一緒にいた時は研究を始めたら、成功できるようになるまで子供の頃のアリシアと籠っていたメルクーアが部屋から出てくる今日この頃。
そんな二人に浮いた話があれば良かったのに。しかし、現実は上手くいかないものだ。二人は同じ部屋に長時間共に居て、女同士で話したいことでもあるのかと思ったら両方が魔道具にしか興味が向いていない。
しかし、いつまでも下界に残っていたとは。俺はそれでも構わないが、魔道具研究なら神界でもできるだろうに。我が血族ながらわからん。
「ところで、君はヘイムダルという馬鹿を知っているかな?」
「!」
びっくりしたぁ。いきなりすぎるだろ! それ、ここで話す話題か!? 暴言混ざっているし。
「さぁ、シオンくんよ。君は誰なんだい? 君から匂うその魔力には懐かしさがあるのを感じる」
そういえば、こいつは五感が異常なまでに鋭いんだった。そのうちの嗅覚には、いつも困らされていた。
「それは今話すことですか?」
「シオン! すみません、メルクーア様」
後をついてくる教師が俺を窘める。
「それもそうか。なら、この話は後ほどとしよう。ほれ、着いたぞ」
俺の製作した魔道具の目の前に到着した。
「待たせた。これからこの魔道具の紹介をいたします」
俺の魔道具出展エリアに到着し、すでに待っていた観客たちは俺の後ろにいるメルクーアを目にしてざわめいている。当の本人は気にした様子は見られず、笑みを浮かべて俺の挨拶の言葉を聞いている。
「こちらが私が作成した魔道具、名を魔符と申します」
という感じに解説を進ませていく。
しかし、ここで、俺は一つの失敗に気づいた。
俺の説明は丁寧にしていたのだが、魔道具の詳細を言われても中々理解できずにいる者や人の話を聞くことが面倒な研究者たちにとっては退屈極まりないものであったようだ。
そのせいでか、退屈そうにしている人が出始めたのである。
その気持ちは分からなくもない。成果には興味があっても出来る過程はどうでもいい、という考え方もわかる。俺もそんな感じだ。
「ふむ、小難しい内容の話は退屈な方もいる様子。それでは、趣向を変えまして幾つか私の方でサンプルを作った。この場で披露したいと思います。私一人で使うのもなんですので、どなたか実験に協力してくれる方はいらっしゃいますか?」
寝惚け眼になって聞いていた観客も一瞬で目を覚まして、すでに手を上げて自分に自分にと小競り合っている研究者の中に飛び込んで行っている。
「では、せっかくですのでメルクーア――様にやってもらいましょう」
「ん? 私か。いいとも。私は何をすればいいのだ?」
「ここは室内ですので、効果は小さめのを選びました。『トーチ』と喋ってもらえれば、それだけで」
「それだけか?」
「それだけです」
「トーチ」
メルクーアの目の前にわずかな火が灯った。
「皆さん、不思議そうな顔をしていますね」
多くの観客が『それがどうした?』『誰でも使える魔術だぞ?』と怪訝な顔をしていた。
俺の説明をあまり聞いていなかった証拠だな。
「メルクーア様、魔力消費はありましたか?」
「いや、なかったぞ! どんな手品だ!? 魔力消費を抑えたのか? それとも、この紙が私に何かの効果を?」
「違います。今やったのは魔術の発動です。しかし、詠唱はしていません」
再度説明をする。
今回は【火魔術 灯火】だったから魔力消費はなかったということも含めて。札には、周囲の魔力を吸収する役割も組み込んでいた。だから、元々消費魔力の少ないトーチは術者の魔力から消費されなかった。人が周囲から魔素を吸い、魔力を回復させていくことからこのことに繋がった。
しかし、それだと弱い魔術しか使えない。放置していればその内中位も使えないことも無いけど、実用的ではない。といったところをここから試行錯誤して強化を図るとした。その他にもデメリットはある。
それ以外に【無魔術 魔力の矢】【風魔術 風弾】といった下級魔術や特別に作った【火魔術 追炎鳥】という中級魔術を込めた魔符を発表して締めくくった。
「これは闘い方が変わるぞ。魔術研究界に革命だ」
「ああ、魔術の概念そのものも大きく変化することじゃろうて」
流石に研究員。これの次の可能性を考え付いたようだ。
「信じられない……。精密な魔力操作が可能になるのか!」
「魔力の消耗も軽減されているぞ」
「中級魔術も込められるとなれば、戦士職でも数に限りはあるものの魔術が使用できることに」
今言った彼のように戦士に持たせれば、魔術師の補助が要らなくなるかもしれないが、魔術師には魔術師の利点がある。それは魔符でもできない利点だ。
「大発明ではないか!」
「これほどの技術、……学園ではまだ手も付けていないようなものだぞ。彼はこの技術力をどこで……」
「誰か彼に論文を書かせろ! すぐに学会に発表だ! 魔術の発展を支えている魔術国アカデミアも黙ってはいないのではないか! いや、これはもしかすると賢者の塔も動き出すぞ。くははは、素晴らしい!」
最終日の結果を待たずして俺に勧誘を掛けようとした人もいたが、近くにメルクーアが居るお陰か踏み入ってこようとはしなかった。
しかし、この研究は俺にとってそこまで騒がられると恥ずかしい。俺がやったのは、今は見かけない巻物と同じようなもの。魔術を収納しておくだけのもの。これで騒がられても困るものだ。この研究にメルクーアも驚いてはいたが、彼女は元から巻物なんて使ってこなかったから存在すら知らないのだろう。
使い方が似ている巻物と魔符。似てはいるが、運用方法が違う。
スクロールは一つに複数が収納可能で、魔符には出来ない。
だが、魔符にも利点がある。スクロールのように正面から使い捨ての魔術を放っても防がれる恐れがある。魔符では、罠として使うことで効果を発揮する。
例えば、椅子の裏に魔符を貼っておいても暗殺は簡単にできる。スクロールとは違って大きさもさほどないので隠密性もある。魔物の目の届かない場所に貼り、巣に戻った時点で他を巻き込むように発動するのもいい。
「シオンくん。私はここの宿屋にいるから、最終日の日に来てくれ」
紙切れを渡され、メルクーアは去っていった。やることも終わったので、シオンは他の作品を見て回る。
少し先に見えるシオン様行動録の発表有りの看板は見ないことにしよう。
俺に他の出展を見ている時間は無かった。俺の出店がある。そちらに行かなくては。




