七十話 創造神、再会する
「久しぶりだな、グランバルト」
正門では迎えていた学園長はやってきた女性に頭を下げる。
彼女を見ようと多くの生徒が正門に集まっていた。
「メルクーア様はしばらく見ないうちにより綺麗になられましたな」
メルクーアの姿は昔から何一つとして変わっていない。
「グランバルト。『様』なんて敬称付けなくていいぞ。昔のように先生でいい」
「いえいえ、もうそんなことできませんよ」
学園長が苦笑する。
「さて、研究を見せてもらう前に注目の学生の情報でも聞こうか」
「それは構いませんが。どうしてメルクーア様は今年来たのですか?」
「なんだ、私が来たら不味いのか?」
「いや、そういうことでは……」
「すまんな。少し悪い質問であったな。答えは、噂を聞いたからだ」
「噂、ですか?」
「ああ、とても優秀な者がいると、な」
彼女の言う優秀の中には、どれだけの情報が入っているのやら。
・・・
研究対抗戦が始まった。『武』を着そう親善大会と双璧をなす『文』の対抗戦である。発表された論文や作品が全く新しい物や新たな解であったなら、賢者の塔の新たな見解に加えられたりすることもあるのだという。
そんな文のイベントなのに俺は今、司令官をしている。
貴族には招待状を送ったが、招待状が無ければ学内に入ることが出来ないということと同義ではない。貴族の慣習で招待状をわざわざ書かねばならないだけで、商人たちも学内に入って参加している。商会や研究機関の者も。
しかし、人が増えると発生する問題も増える。
「エリアA3、パターン黄、タイプ4、ナンバー4」
これはA3と区切った区画に言い争い程度の事件が起きていること。タイプ4とは、引き抜きをその場で行おうとした者のこと。ナンバー4は、数。四人が言い争っているということだ。
「近くにいる者はヘルプに入ってくれ。イエローなら、多少時間は掛かっても大丈夫だ」
「聞いていたな。落ち着いて対処を。まだ始まったばかりだ」
伝達班の生徒が俺の声を聞いて、対処班に伝える。
連絡手段は学園にあった念話を可能にする魔道具を使っている。なんか倉庫の奥に埃をかぶっていたのを発見した。
そこでこれを使えると思った俺は生徒会に行き、リリスに報告。生徒会と放送部の員を借りてこうして問題を対処している。
「報告! 講堂にて、魔道具の暴発、救援を求められています!」
敬礼して起こったことを正確に述べる。
「ただちに魔道具を破壊せよ。製作者には、その魔道具の紹介を紙に書き、自分でスピーチしろ、と伝えろ」
研究の結果は講堂に置かれている。製作者もそこに居て、説明を求められた場合、それを行う。
来客に被害があってはいけないので魔道具の鎮圧化を最優先事項としている。暴走しては、止められない。魔道具側に不備があったのだろう。
「シオン、先ほどのレッドはクリアしました」
「よくやった。少しばかりの休息を与えてやれ」
レッドは、危険や面倒事。
今行われていたレッドの内容は、話の聞かない老人の貴族が我儘を通そうとしていた。老害が。
おっと、少し毒づいてしまった。
「エリアE7、パターン黄、タイプ2、ナンバー3」
痴情のもつれか。
「生徒を四人仲裁に入れます。許可を」
基本は各自で判断だが、どうしても不安な場合やわからない場合は俺に聞くように言い聞かせている。
「よろしい。即時殲滅、じゃなかった。仲裁に入れ」
間違えちゃった。
「エリアB4、パターン赤、タイプ8、ナンバー7。不味いです! 騒ぎ立てているようです」
「生徒と訪問者の揉め事か。それに数が多いようだな。あの部隊を向かわせろ。それで片が付く」
「正気ですか!?」
あの部隊というのは、周りでもっと大きな音で騒ぎたててうるさい祭り状態してその問題となっている両者の声を強制的に掻き消して無かったことにする部隊のことだ。
面倒な手合いにはこれでだいたい解決する。
中には、もっと面倒な手合い。研究対抗戦の情報を狙う相手もいる。
そういった相手は俺の方で【固有スキル マップ探査】を使って怪しい者を捉えるように指示する。研究を盗み出そうとする者がいるのだ。
「いやはや、素晴らしいですな。簡潔な報告で私には何の事かさっぱりでしたよ。伝達の魔道具にこういった使い方があったとは。これは王城にも取り入れてみたいものです」
俺が司令座りしている椅子の後ろで控えていた国王の側近【魔術師】の称号を持つランドルフが感心した顔でこちらに近づいてきた。
「いえ、まだ始まったばかりです。これからも精進したいと思います。そろそろ俺は自分の研究の所に行きますので、ここを任せます。ご協力ありがとうございます」
俺の今の感情に司令感が残っているのか言葉も司令官っぽく。
「どうぞ、私も後々見させてもらいます」
司令の言葉マニュアルをランドルフに渡して講堂に移動する。
出店とは日にちは被らなかったが、生徒会の仕事があった。アルマも大変なんだろうな。
「美味しい、クレープ! Aクラスの美味しいクレープですよ~! みなさん、一度召し上がってくださーい!」
街では、大人たちが。学内では、学生が。店を出している。
急ぎのところを足を止めて寄り道。
「一つくれ」
「! は、はい。どうぞ、シオン様」
「様?」
俺は彼女に『様』を付けられるようなことはしていないし、配下に置いた覚えもない。
「いえ! なんでもありません。お気になさらず! ありがとうございます。これって規定には引っかからないよね」
「? そうか。君がいいなら、俺は構わん」
そして、やっとのことで講堂に着いた。
「えー、お――私は製作者のシオンと言います」
俺の作品は二つ。場所も二つ。しかも、同じ日に。最悪だ。
今は馬車の前。
「この馬車の説明は私自身難しいので、実際に見ていただいた方がいいかと」
講堂の中は人が多いが、俺の作品の前はより人口密度が高い気がする。
どうやら選抜大会での活躍で俺の名が売れ、今回の研究発表会に俺の名前が出ていることを知り、集まっているようだ。
教師陣も腕を組んで説明待ちをしている。
俺が馬車に入ることを許可して見学者は一人一人入っていく。
その馬車に並ぶ者たちは段々と不思議に思っていた。列の先頭が入っていくのだが、すでに入った者が出てこないのだ。馬車の外見からすでにぎゅうぎゅうに人手詰まっているであろうに。
「シオン、ちょっと聞きたいんだけど……この馬車に何かした?」
「フレイヤ、これは異なことを言う。何か工夫するのが研究でしょう?」
「そうなんだけど、いや、しかし、これは……。これだけの人数が入れる馬車など聞いたことがない。さらには、散々馬車に乗ってきて見飽きているであろう貴族の方々が未だに出てこない。おかし過ぎるぞ」
俺にそう言いながら、ぎこちなく首を傾げたフレイヤ。その顔色は優れない。
「先生も中に入ったら、わかるのでは?」
「そうかもしれないな」
フレイヤもその後数時間出てこなかった。馬車を快適にし過ぎたのか。走らせてもいない馬車に大量に入り込む人。
「あの、ここの人の数が集まり過ぎて通行の妨げになっています」
対処班に言われてしまった。さっきまで司令だったのに。パターンは、グリーンかな。
先に馬車に入っていった見学者を出して今並ぶ者を入れて列を解消させる。なかなか消えない列。一度出た者がまた列に並びなおして入ろうとしていたからだ。
人がものすごく多くてもう一方の魔道具の作品の下に行けない。
「おい。この集まりは何の作品だ?」
凛然とした女の声が響き、馬車に並ぶ者たちやその周りにいる者に緊張感が走った。
それを発したのは、通路で立ち止まる職員に案内されている女。
……いや、待て。ちょっと待て。なぜ、奴がここにいる?
他人のそら似でなければ、あの女は――
「メルクーア様っ!?」
「えっ!? あ、あの伝説の使徒様……!?」
「学園に特別審査員としていらっしゃるとは聞いていたが……ま、まさか、初日にご尊顔を拝見できるとは……!」
そう。かつての俺の右腕のにして、大賢者。見た目は若く見えても、中身は残念だ。俺が驚いたのは滅多に研究室から出てこないメルクーアが外にいること。驚愕すべきことだ。




