六十八話 創造神、祭りの前準備をする
「研究対抗戦では、越後屋も参加するんだろう?」
無事彼らにはお引き取りしてもらった。思った以上に高値で売れた。
「ええ。他の支部からも研究内容の報告がほしいという申し出を受けています」
「そうか。わざわざ、ここまでは見に来れないか」
「そうですね。各支店安定はあるそうですが、忙しいそうですから」
「休みは取っているよな?」
働きづめで仕事が終わり、ふとした時に空虚感に苛まれてほしくはない。
「はい。最初は不服そうにしていましたが、受け入れてくれました」
聞くところによると休みを取るように言った途端に絶望に染まったそうだ。
「回復薬を使っていれば大丈夫ですし、もっと働きます!!」と言ってきた者がいたそうだが、それはまだ良い方で中には麻痺薬で疲れを麻痺させようと企んだものがいた。そこでメネアは麻痺薬の使用制限を定めた。
「出来れば、直接見たほうがいいよなぁ」
ワーカーホリックは見えないところで何してるかわからん。メネアから聞いたことはそれだけ狂気をあのシオンに感じさせた。いくら訓練とレベルアップで体力が増えたからとはいえ、……。
「まぁ、それは、当人の思い描く物と差異があるかもしれませんしね」
やはり空間魔術を公にして繋ぐか?
「よし、まだ数週間の猶予があったな。なら、俺がちょちょいと来れるようにしよう」
「どうされるので?」
「魔道具の発明」
「でも、主様の発表作はすでに出来上がっているのでは?」
「それとは別の物。しっかりと自分の眼で見たほうがいい。それにこれからの越後屋にも使える物だ」
俺は越後屋の執務室と同じ階にある実験室に行く。
ここは従業員もたまに使用することがある。自分で考案した商品の作成を試したり、他商会の商品を解体して使える技術を調べたり。
馬車制作はここではできなかった。狭くなる。
そんなことより、転移による運送だ。
物はある。事前に作っていたのだ。決して神界が暇だったとかそういうのじゃない。
これを改良するのが今回の作業。
従業員でも気軽に使えるように座標指定のやり方を簡略化する。防犯面も考えて従業員にのみ使えるようにしたいところだ。
とりあえず一つの魔道具ではなく、二つで一組の魔道具にしてみる。これなら、座標指定をしなくて済む。
支部ってどのくらいあるのかな?
その数に合わせて組めばいいだろう。
「シオンさん、何してるんですか?」
同じように実験室にいた女性の従業員が俺の作業に食いついた。
「転移門を作ってる」
「ああ。転移門ですか。あの仮説上の」
「あんまり驚かないんだな」
「慣れましたね」
「慣れたんだ」
そんなにここで何かやってきたっけかなぁ? あまり意識していなかった。
「慣れちゃいましたねぇ。転移門を作るといわれても、あまり考えないようにしています。それにシオンさんなら通常営業のことなので」
「そう」
「しかし、転移門ですか」
「何か問題でも?」
「昔はそれなりに普及していた転移門なんですが、戦乱で大半が消失、もしくは廃棄されています」
そういえば、前まではあったか。俺はあまり使わなかったから気づかなかった。転移は便利なのにそれを自分たちで消すなんて。
「いつから無くなったんだ?」
「それはわかりません。私の読んだ書物に転移門があったということが読み取れただけでして……」
「ふーん。もったいないな」
「そうですね。ですが、戦時中には危険な存在になりますから」
部隊や食料を転移門で移動させると重宝するな。俺のこれから使おうとする理由と似ている。作った者は俺と同じような理由で作ったんだろうなぁ。表彰もんだよ、これ。
他は、敵国にこっそりと転移門を設置しておく、とかも。
「でも、あまり争いのない今日この頃には便利なものだろ。戦争が終わった後に復旧はしなかったのか?」
「扱いが難しく、作成者はすでに天寿を全うされていました。それに片方の門を壊すと、もう片方も使えなくなります」
「別の門同士を繋げたりは?」
「研究はされていましたが、不可能と結論付けられていました。作成者が稀代の天才だったようで、今では転移門は失われた技術の塊です」
「今もその門はあるのかな?」
「放置されているでしょうね」
そんな風に話していたら、あっという間に三つ一組に改良が完成していた。防犯は付属品として越後屋商会の印が入った宝石を指輪や腕輪にしたものを鍵として運用することでそれを持たぬ者には使用できないようにした。
もし、鍵が奪い取られた場合も考えて鍵の方に魔力の波長を利用して元の登録者以外には使えないようにしてみた。これで安心。
転移門と言うが、魔道具。形は台座が一つ、その上に水晶のような透明な球が一つ乗っかっている。
残りの分は、今作ったのをコピーして終わりになる。
ヘルメスの【固有スキル 武装複製】で全く同じ物を多数作ると簡単に。魔道具も武具に含まれている。魔術付与された投擲武器なんかも魔道具の一種だ。
あとは、この魔道具を各支部に送り届ければ良いだけのこと。……でも、この水晶を送るのか。不安が残る。高価に見える。実際に高値で売れると思う。
支部には俺行ったことないから転移では行けない。
今、越後屋の運送はどうなっているんだろうか?
「メネア、今って商品をどう運んでいるんだ?」
「私の方でゴーレム作成の魔道具と馬車を持っていましたのでそれを使っています。馬車に付けられている機能も守るには十分かと」
「そうだったのか。メネアの所から出させて悪かったな」
「いえ、運送には私も困っていましたので」
「この魔道具の各支部に配達を頼めるか? これで配達は最後になるかもな」
「お任せください。中身は転移門ですか」
「よくわかったな。組み立て式にして梱包してある。説明書も一緒に」
説明書には、組み立て方法といっても台座を立ててその上に水晶を乗せるだけ。他にまず最初は、小物などで実験をしよう。と書いてある。いきなり人は危なすぎる。指輪や腕輪のことも書く。
水晶に文字が浮かんでいるが、気にするな。人目のつく場所に配置しないでください。転移門に手をかざし、頭に浮かぶ場所の名前を選択してください。などなど。
・・・
俺の出し物は終わっている。そんな中、他の生徒はそれぞれで作業を一生懸命している。
出し物は完成してもそれで完全に終わりでは無かった。
自分の作品の説明とどういう物を作ったのかを申請書に書き、提出しようと、生徒会室に向かっていった。
それに気づくまでに二週間ほどかかった。その期間に越後屋の転移の魔道具などの作業をしていたので忘れていた。
残り一週間ほどで申請の締め切りが来るところだった。
「申請書を出しに来ました」
Sクラスは全員参加だが、申請書は作品発表の配置を決めるために必要なものだそうで。確かに俺も馬車っていう場所を取るような物だし。
「遅いぞ! 生徒会員なら、もっと早くに終わらせろ!」
「そういうアリオットはどんなネタにしたんだ?」
ちょくちょく生徒会には来ていて、始めはどう顔を合わすか困って普通に話したら、こんな感じになった。敬語もいらないみたいだ。
「おや、シオンくんじゃないか! 君は何を作ったのかな? 楽しみにしていたよ」
「それはこれを」
俺は書類を渡すとリリス会長が受け取って軽く目を通す。
「おぉ、二つも作ったのか。どれど――馬車?」
「馬車がどうかしましたか?」
「いや、馬車と書いてあるんだ」
「はい。馬車ですね。もう一つが魔道具です。アルマに言われたんですが、生徒会も忙しいのでしょう。何か仕事はありますか?」
「ああ、それはアリオットに――って、ちょっと、ちょっと待てー!!」
「何でしょう?」
「馬車とは何だ?」
「馬車というのは、馬が引っ張って荷物を運搬するものです」
「それ、私がそのことを聞いているんじゃないと分かってて言っているだろう。そうではなくて……」
疲れていそうな顔をしているのにちゃんと受け答えしてくれるんだ。
「被らないようにと考えた結果、馬車になりました」
「そう。じゃあ、アリオット、急ぎの仕事をシオンにも回して」
「はぁ、はい」
貴族相手には招待状などが必要なため書状を一々書かないといけない。特に今回はルーファスがいるので王族宛にも書かないといけないので文字の乱れとかの失敗が許されず、誰かがやってくれと後回しになっている。
その他にもパンフレット、装飾。派閥ごとに仕分けも必要な作業。それぞれの参加で将来のために研究職に就こうとする者がかなりの数が多い。それこそ派閥の問題もあるためにさらに面倒さが増す。
なぜこうも生徒会の仕事が多いのか。確かにこれだけの仕事をこなせる様になれば、責任感や自主性、判断力に決断力など社会に出た時に必要となるだろうし、文官としても能力値が上がるだろう。
しかし、こうも思う。
学生これだけやらすの? 王族とか貴族相手は教師の方がいいのでは?
そんなことを考えながらもそれらをさっさと終わらせる。これで生徒会の仕事も一通りやった。カタログ作りなんて物まであった。大多数が参加だぞ、そりゃ配置やらなんやらで忙しくなるはずだ。しかも、研究対抗戦当日には、警備の準備も苦情受付もあるのだ。
「こんなものかな」
「助かったよ、シオンくん。だいぶ片付いた。申請書は受理したからあとは配置が決まったら持ってきてね」
馬車も魔道具も常に俺の宝物殿に入っている。
「シオンくんは生徒会に加えてエチゴヤ商会の従業員としての仕事もしているんだろう。それにしても君は大変だな」
「そんなことないですよ。慣れてくれば」
「いや、そういうことでは無くて、これからだよ」
「え?」
「エチゴヤ商会の同僚とかに聞いてないのか?」
「何をですか?」
「カタログ作り」
「え、やったじゃないですか」
「学園のは、な。でも、今年から学園の外でやる祭りもカタログが出ることになっている。その作成を学園がエチゴヤ商会に依頼していると聞いたが?」
「マジですか」
カタログ作りは最初に原書を書いて魔道具で作成するだけなのだが、必要とされる量が多く大変面倒な作業なのだ。摩耶のいた世界であれば、数量も指定して勝手に作ってくれるのだろうが、こっちではまだそれが無い。さすがにこんな所でコピー機を創造したくない。
「気の毒だが、事実だ」




