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六十七話 創造神、下手に出てみる

「ヘルメス殿は居られるか!? 来てやったぞ!」

 先日来た太った中年男性が店に入るなり、またも大きな声でそう言ってきた。

 他の商会の店主たちも一緒のようだ。


「本日はようこそおいでくださいました。本日、あなた方のご要望通りこれからの商いについて話すために参りました、ヘルメスと申します。以後お見知りおきを」


「ふん。礼儀ぐらいはまともに出来る頭はあるようだな。だが、こちらが変わることは無いぞ」


「ええ。この程度で皆さまの主義主張を変えようとする気概はございませんのでご安心を」


「どうだかな。まぁ、いい。我らのバックには公爵家がいるんだ。その態度が当たり前だ。そんなことより話し合いを始めようじゃないか、ヘルメス殿」


「えぇえぇ、そうしましょう。ご配慮が足らず申し訳ございません」

 あ、メネアが殴り込みかけようとしてる。


「では、こちらの会議室へどうぞ」

 詰め寄ろうとする前に彼らには入ってもらい、席につかせた。


「では、まず何から話し合いましょうか?」


「そうだな。そちらの商会が我々の商売の邪魔をしていることへの弁明と謝罪を聞かせてもらおうか」


「はぁ? 弁明と謝罪と申されましても我々はあなた方の邪魔をしているということに心当たりが無いものでして……」


「何! ふざけるな! この商会の所為で俺の商会は利益が減らされたんだ」


「そうだ! 俺の所もだ!」


「そう言われましても何分こちらの不手際であなた方のご迷惑になったというような証拠はございませんので、私からはなんとも……」


「落ち着きなさい、君たち」


「これで弁明と謝罪の件は終わりましたね。では、次の議題にいきましょう。何ですか?」


「まだ話は終わっていない!」


「しかし、証拠も無しに問い詰められてもこちらも困惑いたします。言いがかりでは無いのですか?」


「我々が嘘をついているとでも!!」


「いえいえ、そんなことは。しかし、商人たる者常に疑ってかかるべきだと私はそう思っていまして、ついこのような癖が。ですが、無いのですよね、裏付けが」


「ちっ! では、貴方は何故このような立ち合いの場を設けたのですか!?」

 意外そうだな。私が貴族にビビると思っていたようだな。まぁ、それが普通か。


「ええ。それはですね、私たちの商会は多少利益を上げ過ぎてしまったようで周りの皆様方にご迷惑をお掛けしているのでは? と思いまして、どこかに詫びをしたいを考えていたのです」


「詫び、だと!?」


「はい。越後屋商会で取り扱っています商品の製造レシピを売ろうと思っているのです。流石に販売中止はご理解を頂きたく。中止になったその日からお客様に問われて例えば『エンプレサ商会によって謂れの無い理由で脅されたから』などと言えば、あなた方に非難が飛ぶでしょう。それにどのことにも言えますが、商人は舐めれらるようなことをしないようにするのは、商人の皆さまならご存じのはずだと」


「……結局は我々に渡すんだな。まぁ、いい心がけだ。では、そのレシピを早速渡してもらおうか、この商会全ての、な。何回も言うが、我々の後ろには貴族様がいるんだ。私に逆らうとタダでは済まないからな」


「いえいえ、私たちは商人です。なら、取引をするのが定石でしょう。それとも、暴力でのご解決ですか? それも貴族を頼っての。であるなら、私たち越後屋商会は全力で対応させていただきます。もちろん、暴力という名の交渉で。例え貴族だろうと始まれば、その貴族の領地まできっちり潰すことも視野にいれさせて頂きますがよろしいですか?」

 全面戦争も辞さないつもりだ。貴族の領地だけじゃない。仕掛けたお前らも同じだ。

 その意を伝える。


「「「なっ……!!」」」


「この商会にはシオンくんが居ますからねー。彼に頼むとしましょう。殺害を幼い子供に頼むのは気が引けますが、彼には許可を貰っていることですし」

 自分で言っておいて何を言っているのかわからなくなってきたが、シオンもこの商会の戦力に俺は数えているので仕方ない。


「ですが、私たちは慈悲をあなた方に与えているのです。今回は貴族を置かれ、大変奮闘したことでしょう。ですから、その皆様の頑張りに応えようと私たちは準備しているのです。下級回復薬の製造レシピ、銀貨一枚と大銅貨五枚の150000CLでいかがですか?」

 越後屋で売られている下位ポーションの値段は大銅貨一枚の500CLだ。


 ただ質が良く味もいいらしいので『なんでもう少し高くしないんだ!』という問い合わせが客から来たらしい。

 平民にも手の届く値段であるために買う人は多く、騎士なんかも買いに来る。よって、越後屋はかなりの儲けを得ている。

 そういえば、私はイスタールから商業許可証を貰っていました。貴族相手でも使えるような物でしょう。なんせ王族印なのですから。


「どうでしょうか?」


「その五割にしろ!」


「五割というと75000CLですか。ダメですね。これでも譲歩した金額なのですよ」


「先日我々がここに来た時には客に五割引きで商品を売っていただろう。それを我々にもその計らいをしろと言っているんだ!」


「あれはあなた方が私たちの邪魔をしたからですよ。そうですね。我々の商売の邪魔をしたのですから、弁明と謝罪を聞かせてください。これはあなた方が自分で言ったことですよ。言うということは、言われてもあなた方は出来るのでしょう。さぁ、弁明と謝罪を」


「あれはそもそもお前たちがもうけを独占していたからだろう」


「そもそもで言うのでしたら、あなた方の商会が元から品質が悪いのが原因では? 質が良ければ、客を取られることも無かったでしょうに」


「う、うるさい!」

 図星か。


「150000CLでいいですね。で、どこの商会に渡しますか?」


「何だと!? 我々全員じゃないのか!?」


「私はそれでもいいですが?」


「皆様は独占をしたくは無いのですか?」

 手を組んでいた彼らが途端に周りの他商会の役員を睨み牽制し始めた。


「ふむ。では、この集まりの代表である私の商会が頂きます」


「「「待ったぁぁぁ!!」」」


「何を抜け駆けしているんですか、ドナルド殿!」


「交渉は共に行く、という話だったでしょう!」

 これが交渉のつもりだったのか。この人商人何年やっているんだ?


「商売は、商人の才覚と時の運、巡り合わせ。そして、早い者勝ち。商人の常識でしょう」

 彼らの中で勝手争いを行い、自壊し始めた。


「じゃあ、この商品の製造レシピに最も高値を付けた商会の物ということでどうでしょう」

 提案してみた。


「いいでしょう」

 全員が頷いてくれる。

 協力して安値で買い叩こうとする者もいるだろうが、人とは独占して人より上にと出し抜こうとする。協力関係も無駄になる。


「最初は5000CLから」


「私は5100CLだそう」


「俺の所は7000CL出すぞ」

 ほら、いきなり跳ね上がった。それが来れば、後はもう……。


「9000CL」、「9500CL」、「11000CL」、「11050CL」………「13060CL」、「14000CL」………「16000CL」………

 始めに言った金額を超えた。


 結果、200000CLの銀貨二十枚でエンプレサ商会に売れた。下位ポーション一つでこれならもっと上の商品はどのくらいの金額で売れるんだろう。


 結局、越後屋に金が転がり込んでくる。

 金を収容する蔵を作っていたのだが、その蔵が増えすぎて困っている。その蔵の中には、金貨は勿論のこと銀貨や宝石なんかも入っている。宝石に関してはよくわからない。

 売った以上もうこれからは彼ら内の事情。越後屋商会は手を出さない。

 レシピを渡して帰ってもらった。


 これで越後屋商会には何も言えない。攻撃対象が越後屋商会一つではなく、エンプレサ商会もこれから利益を上げるようになる可能性があるため中々攻撃できずらくなる。

 彼らの後ろ盾になったという貴族の意向とは違うようになったと思うが。


「あの回復薬、本当に売ってよろしかったのですか?」

 メネアが不安そうに俺を見る。


「ああ、あの回復薬はもう十分に稼いだし、それにあの回復薬が少し問題になっていてな。教会が越後屋で回復薬で多く利益を出していることを知りだして、乗り込んで製法やらなにやらを聞き出そうとしているということを耳にしたんだ」


「それはそれは」


「でも、今その回復薬はすでに別の商会のもの」


「しかし、越後屋の回復薬はあれ一つではありませんよ?」

 彼女が言いたいのは、教会が越後屋にあるまた別の回復薬を狙うのではないか、ということ。


「むしろ越後屋よりも向こうの方が確実に権力が効くからあっちに行くさ。攻撃の材料である下級回復薬はここにはない、俺たちを攻撃したくともできないからな」

 一度目は不信感を抱いたかもしれないが、二度目からはわかっていく。

 教会が越後屋に回復薬の製造方法を渡すように言ってきた。ならば、教会の力は弱まっているのではないか? と。だから、二度同じことは出来ない。


 きっと今頃は売った商会に脅しをかけているんじゃないかな?

 まったく、金を落としていってくれるだけじゃなくて、面倒事まで引き受けてくれるなんて。ありがたい話だ。


「しかし、この一件で越後屋商会が甘く見られるのでは?」


「大丈夫。教会には楔を打ち込んでおいたし、他の商会はしばらくこちらに手を出さない」


「それはどういう?」


「彼らの中で裏切者が出たんだ。まずは、そっちを片づけてからかな。その後は、うちの諜報部が集めた彼らの裏の情報を流して混乱を誘えばいいでしょう。なるべく彼らの関係が壊れるようなものを中心に。あ、急がなくてもいいから」

 回復薬を買った商会だって少しは抵抗するだろうから時間は稼げる。


 一回の前例があるからお互いが疑いあう。

 そして、その中から二人目の裏切者が出たなら、疑いはさらに加速する。

 潰しあいが始まる。楽しみだ。


「客への対処は、買っていった商会が貴族の名を盾に商品をぶん捕っていったと説明しておいてくれ」

 間違ってはいない。俺のあの時の態度を見れば、その説明も納得してくれるだろう。

 説明を受けた越後屋に反発していた商会のやり方に従業員やお客さんが怒りの声を上げている。越後屋以外の紹介がみんなで堕ちている。


 このまま味方を増やし、訴えを起こすのも良い。

 人は群れる生物。中には例外もいるが、多くが数によって相手に圧力をかける。さらに、人は数に弱い。その習性を利用させてもらう。


「やはり貴方様は私の敬愛する主です。権謀を読めなかった愚かな私をお許しください」

 その説明を受けたメネアが称賛している。


「たまたまだ。基本、俺はうるさく寄っている蠅は潰す。権謀なんて在りはしないさ」


「では、私と似ていますね」

 彼女の言葉を肯定したら、急に顔を赤らめた。『似ている』の部分かな? メネア的には冗談のつもりだったのだろう。

 まだまだ若いな。
















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