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六十三話 創造神、体術勝負

 体術にも知識は必要だ。どこを攻撃すれば、相手は弱体化するのか、人や魔物の急所を壊し方を知っていれば勝つことは容易になる。最低限の力は必要だが。


 ただ殴って相手を倒せばいいというものではない。如何に相手の行動の先を読み、付け入る隙を与えず、一発でも喰らえばそこから流れを持っていかれて隙が生まれる。躱すのに大袈裟な下がり方はいらない。間合いを読み、少し下がるだけ。ただそれが難しくある。

 それほどに体術とは奥が深い。他の武術に至っても同じようなものだが。武器を失っても、格闘があるという風にしておくと万が一の時も助かる。

 戦いには常に流れが存在する。その流れを如何に支配するのかでチャンスが生まれる。


 彼が演習場にいる騎士たちに中心を空けるように言ってくれている。

「では、審判は自分が」

 騎士の中から一人審判役を買って出てきてくれた。


「この試合、魔術の使用は一切不能ということでよろしいですね」

「おう」

「はい」

「それ以外にルールはどうしますか?」

「いらないだろう。精々、相手を殺すな・相手が再起不能となるような攻撃は厳禁。ただし、神聖魔術で試合後回復するのである程度は許容範囲だ。それでどうですか?」

「私はそれで構いませんよ」

「コホン。双方準備はいいですね。それでは、――――始め!」

「おぉぉぉ」

 【剛毅】は開始と同時に殴りかかってくる。彼は普段使うのは槍だそうだが、今は持っていない。素手で闘うようだ。

 彼は一歩踏み出し、左足で地面を蹴りその反動で一気に距離を詰める。


 なら、俺も同じ条件でやってやろう。

 連続でくるパンチを同じく拳で【剛毅】の手首に当てて拳を止め、流れを制する。蹴りも混ぜてくるが、半ばの所を足裏で踏み当てて止める。


 最後の一発を深めにガードして彼の重心が前に来たところで腕を掴み、一本背負いで投げ飛ばす。

 彼が空中で態勢を整えている間に走って追いつき、ドロップキック。

 そのまま彼の身体で地面をサーフィンする。


 地面で押さえつけていても体重差や筋力差がある。意味は無いだろう。

 一旦離れて仕切り直しにする。


「どうですかな、このくらいで」

 この戦いは私が始めたわけではない。彼が十分と判断した場合に終わる。

 ちゃんと身体を使えている。子供のシオン時の体格とヘルメスの体格ではズレも出てくるが、しっかりとスムーズな一連の動きになっている。


「いえ、これでちゃんとしないといけない相手だとわかりました」

相手を見くびる気持ちはすでに無く、自分が相手にするに相応しい者であると認めたようだ。

俺としては侮っていてくれた方が楽でいい。

楽しむために下界に降りたが、制限のかかった相手で楽しむほど俺は不粋ではない。


「そうか。では、再開するとしよう。次からはスキルを使わせてもらうぞ」

 私は警戒をしながら頷き、それを聞いていた見学の騎士たちは引いていた。騎士たちの反応から彼は普段からスキルを使わずに心身を鍛えているみたいだな。スキルもレベル高いんだろうな。


「ヘルメス殿も使ったらどうです?」

「俺は別に」

 見学者たちが私を変な物を見ているような顔で振り向く。

 ヘルメスのステータスに戦闘系のスキルはあまり多くない。


 ここで【剛毅】も息と整える。呼吸を落ち着かせると同時に【スキル 威圧】で私の動きを制限しようとする。


 周りで見ていたイスタールや修練中だった騎士たちも息を整える。息を止めて見ていたようだ。呼吸の音すら邪魔なようで少しでも音を出した者は後ろの他の者からキツイ目で見られていた。前の者は、目を離せないために心の中では思っていても振り向かない。


 ヘルメスが右手でパンチを繰り出し、【剛毅】が掌でガードされたが、一歩前に出て空いたところに左手で打ち込む。大きくは振りかぶらない。細かく速く相手に流れを掴ませない。


 互いに決め手を各所に入れた拳戟の応酬が続いた。

「スゲェな……何者だよ」

「あの人と対等にやり合ってるぞ……。恐ろしいまでの技量だ」

 見物人たちは息を吞む。

 手練れ同士の手合わせは、言葉を失うほどの鮮烈な光景として映った。

「笑っている……」

 騎士の誰もが二人に魅入られていた。その二人は終始拳を撃ち合う度に笑う。


 苦しくも【剛毅】が出した一撃は右に側転で回避される。

 上下反転しながらもヘルメスは彼の側頭部を左足で蹴って彼の右目を潰す。

 その足でまた顎を蹴って後方倒立回転で戻る。後で治してやるからな。


 彼の方は目をやられて少し下がっていた。

 反撃のスキルを使ってはいたが、距離が離れて反撃が届かない。

 その怯んだところを連打で殴る。


 途中、果敢にも良く見えない目でパンチをしてきたが、その腕を掴んで内側に入り、肘打ちで彼の身体に攻撃。【剛毅】はまたも下がる。


 攻撃をしながら身体機能を奪っていく点欠を打っていった。点欠は全身に存在する特定の経穴を衝いて、経脈を遮断する技。内力の循環を止め、各種の身体機能を封じたり、命を奪う作用がある。


「いやはや、その格闘術、王国式軍隊格闘術ですか。その他にも色々と織り交ぜていますね。なぜ、ヘルメス殿が知っているのですか?」

 今頃はうまく力が出せていなくて戸惑っているだろう。それでも話せる気力があるとは。


「それは答えても何も変わりませんよ」

「だから、何も答えないと?」

 それでも一発でも当てようと殴ろうとする。

 しかし、朦朧とする意識で殴ろうとしてもヘルメスにとってその動きは遅い。

 【剛毅】の腕を左手で掴み、右腕で彼の腕を絡み取り、地面に転ばせる。


「満足したかい? 先王の側近だからかな、つい力が入ってしまう」

「ふふ。すげぇな。こんなにも強い奴がいたのか」

「終わりにする?」

「いや、もう少しだけ。一発くらいは当ててみたい」

【スキル 闘争】を使ってステータスの上昇と精神向上を行い、彼は戦う方針を変えたようだ。

 まともに見えない・動けない。なら、捕まえて殴るスタンスに変えた。

 休む暇を与えない連撃を打つ。


 そして、私の蹴りが来たタイミングで、身体で受けて止め、手で足を掴む。

 その程度じゃ、ヘルメスは止められない。

 ヘルメスは足が捕まった状態で身体を横に一回りして【剛毅】の頭を蹴る。

 蹴られた衝撃でヘルメスを足を放してしまう。

 と、彼は後ろに倒れた。


 まぁ、ここまでやったんだ。そりゃ、倒れるな。

「勝者、ヘルメス殿」

「ありがとうございました」

 試合が終わり、騎士もイスタールも深い息をする。


「両者、見事だった。誰か彼を医務室へ」

 彼の身体は、この試合でかなりボロボロになってしまった。


 ただ敵を倒すだけなら、近づいて掌底一発で昏倒させられる。世界は衰退した。それに伴ってか生物の身体も俺にとっては脆い。

 しかし、そういうのがご所望ではなさそうだし、長々と彼の拳の打ち合いに付き合ったわけだが。


「先王陛下、私は彼の闘いを受けた身ではありますが、これをしたのは私です。ですから、回復薬は私の方で用意させてください」

「ふむ。其方の所は回復薬も取り扱っていたのだったな。品質もいいのだろうな?」

「はい。かなりの品質だと自負しております」

「そうか。では、其方に任せよう」

「はっ!」

 イスタールにお辞儀をして彼の下へ。


 私の、というよりは、シオンの方だが、【空間魔術 格納庫】には越後屋で扱っている回復薬がある。しかし、これは工場の方で作った物。こっちは止めて、私の方で創った最上級回復薬を使う。

 体力・魔力を同時に完全な状態に戻す回復薬だ。


「あれ? 医務室じゃないのか?」

 一瞬で治癒したことに騎士たちは変な顔になる。


「私が回復薬で癒しました」

「そうか。ありがとう」

「いえいえ」

「代金を払おう。いくらだ?」

「お代はいりませんよ。私がしてしまったことですし」

 完治させるために最上位の回復薬を使ったのでそれに釣り合うだけの金額を彼が持っているかはわからない。結構な金額になると思うぞ。


「『してしまった』か……。だが、それでは私も納得がいかない」

「では、情報を一つ教えてもらえませんか?」

「それはいいが。そんなものでいいのか?」

「はい」

「聞きたいことは何だ? 先王陛下の手前、大したことは言えないぞ」

「私が聞きたいことは、貴方の名前です」

「は?」

「私はまだ貴方の名前を知らないのです。先王陛下の側近、【剛毅】であることは存じておりますが……」

【固有スキル マップ探査】でなら勝手に名前を調べることくらいは簡単に出来る。だが、手合わせした仲だ。ちゃんと聞いておきたい。


「ははは、なんだ、そんなことか」

「大それたことを聞かれると思いましたか? 宮殿や王城の不利益な情報など私は必要ありません。何故なら、敵対をしているということでも無いのですから」

「そ、そうか。じゃあ、対価を払おう。俺の名前は、アーク。国王直轄近衛の十一聖典が一人【剛毅】、アーク・シュヴァルツリーゼです」

「改めて、越後屋商会代表のヘルメスです」

「また勝負を挑んでも? 今度は槍で」


「ははは。ご勘弁を」

 今回は彼がこちらの体格やステータス差を見て油断してくれた。それに試合前に多少の舌戦で彼の意識がぶれたことも勝利の理由だ。次の闘いではそうもいかないだろう。さらに次は彼の得意とする槍の闘いを所望だ。勝率は体術勝負に比べて低くなる。

 挨拶が終わると拍手をして女性がメイドを連れて近づいてくる。













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