六十一話 創造神、スラムへ行ってみよう
「エチゴヤがくるのは、いつだったか?」
「はい。庇護下にあった娘たちを多数雇ったという話でしたね。後二日後ですかね。その庇護下の娘たちは連絡が取れませんし、強行突入しますか?」
「いや、あのエチゴヤだ。しないだろう。それに闇ギルドの連中が侵入を試みたそうだが、誰一人として入れた例がないようだ。それでも突入しようとするなら、ただエチゴヤとの関係が話し合いの前に潰れる」
と冷静に言っていても俺の断り無しにスラムのヤツに手を出すようなよそ者には、今すぐ乗り込みたい。
手を出すのは、不味い。だが、こっちにも面子がある。
通す筋はしっかりと通して貰いたい。
しかし、相手は天下のエチゴヤ商会。商会を守る護衛は眠らず動き続けるまさに壁のような力を持つゴーレム。
ともなれば、狙うのは連中が街をうろついている時。
俺は部下に数人、見張りと俺たちの庇護下に居ない奴らを使って襲うように指示。
見張りがすぐに帰ってきた。けしかけたやつらは更生してエチゴヤで働くようになったらしい。その前の仕打ちがすごい怖かったらしい。
いくら優しい俺でも怒るぞ。
「その脅した奴と俺、どっちが怖いんだ?」
え?
「向こう? そんなに?」
俺、目の前にいるのにそれを躊躇せずに言えるくらいなの?
さすがに傷つくよ。
あ、話にならないくらいには向こうが怖いと。
「あと、脅されたわけではありません。こっちには気づいている様でしたが、何もされませんでした。けしかけたやつへの仕打ちを見ていたこっちに笑顔を向けていました」
あー、それ確かに怖いな。
わかった。
「今日はもう休んでいい」
エチゴヤがスラムに来る日。
「ここが王都のスラムか」
・・・
ヘルメスの姿で学園都市から転移で王都まで戻ってきました。
いきなりだが、顔合わせの場所がスラムと言ってもその中で相手の棲み処が分からない。
………
一歩目で躓いてないか、これ。
相手の名前も聞き忘れてた。【固有スキル マップ探査】でも探せない。
「おい、お前、貴族だな。ここに何の用だ?」
「私は貴族ではない。越後屋商会で代表をしている者だ。よろしく。で、君はここに詳しいのかな?」
「え!? エチゴヤさん!? あ、はい。このスラムなら、詳しいぞ…です」
「そうか。私はここの長に呼ばれたのだ。長をしている者がどこにいるのか案内してもらえないだろうか?」
「はい。お任せろ…です」
えらい素直だな。ナイフでも突きつけて来るかと思ったんだが。
「少年、なぜ私と丁寧に接してくれるのかな?」
「えっと、俺たちの食い繋ぐ方法といえば盗みか日雇いの安い仕事くらいだ」
今もそうなのかな? メネアにはスラムの者たちにも仕事を配るようにと指示していたはずだったんだが。
「だけど、そこで現れたのがあんたたちエチゴヤだ。エチゴヤさんは、俺たちみたいな奴らにも仕事をくれた。給料の誤魔化しもない良い所だ。だから、エチゴヤには俺たち頭が上がらねぇ―んだ」
ふむ、慈善活動をした甲斐があるな。俺たちを支持してくれる人が増えた。偽善だと笑われてもしない善よりはマシだ。
「ここだよ」
スラムの長がいるであろう拠点に来た。ベルは無い。どうやって来たことを伝えればいいんだ。
「あのぉ、越後屋の者ですがー、誰かいませんかー」
とりあえず大声で問いかけてみた。
「来い」
中から目つきの悪い青年が出てくる。拠点内部の案内をしてくれるようだ。
そして、着いた拠点内部の大き目の部屋に通される。
長は、ヘルメスがここに来たことにかなり慌てていた。会う約束はしている。しかし、大きい商会のトップが自らこんなごみ溜めに来ているのだ。
通常なら、下位の人物を遣わせて来るはず……。
俺はエチゴヤのトップを待たせている部屋に入る。
え、このお方がエチゴヤのトップ?
なんか身震いするほどの威圧を放ってるんですけど。歴戦の武者じゃないの? もしくは、ものすごい高貴な貴族だったり? このプレッシャーで一商会のトップなのか?
いや、ここで怖気づいたら、負けだ。
「よく来たな」
なるべく低い声を意識。
ふふふ、相手は確かに綺麗な人物ですごいプレッシャーだが、所詮は一般の人だ。俺たち裏側とは違う。
どうだ、ビビっただろう。
「ふむ、来させてもらった」
普通に挨拶返されちゃった。
俺が怖くないのか?
「で、そちらの言う路地生活の少年少女に成人した男性女性らを雇用した件についての話をしよう」
「あ、はい。できれば、雇用条件などを確認させていただければ……」
確認だ。
冒険者登録していれば、そのランクで判断できる。
「私は冒険者登録をしてはいませんよ」
俺に敬語で話してくれる。良い人そうだ。じゃなくて、強さが分からない。
となると、俺が使っている相手の強さ判定方法で知ることにしよう。
「ところで、王都でたまに行われる武闘会があるのは知っているのか?」
武闘会は年に二回ほどある。そこでの優勝者は金一封と国王の側近への挑戦権が与えられることになっている。武人なら、絶対にやりたくなる。
「そんな企画があったのか。知らなかった」
いよっしゃー、武闘会を知らない。つまり、腕自慢という訳ではない。このプレッシャーはよくわからんが、この人が強いということでは無ーい。
「で、それがどうしたのか?」
「いや、街の外で魔物とかと戦ったことがあるなら、参加してみるのも手だぞ」
「あー……いや、私はいいかな。私が参加すると、色々と迷惑かけちゃうと思うし」
よーしよし。参加する意思がない。一般人だ。
「そうか、残念だ」
「ははは。いやね、手加減が難しいんだよね。それに参加させるなら、うちの職員でも出してみようかな。たまに私も相手をしてるんだけど、いつも私に負けてばかりじゃ、自分の実力が分からなくなるね。良いことを教えてもらったよ。これで子供たちにたまには勉学以外のことも目にできるな」
………。
ん? 闇ギルド共が懸命に襲おうとして逆に殺しかけるような職員がこの男にいつも負けている?
マジか。
目の前の男は危険だ。
決して敵にしてはいけない。やっぱり俺の本能の危険信号は間違っていなかったんだ。
「ははは、そうですか。どういたしまして。雇用した奴らのこと、よろしくお願いします」
スラムのガキどもに勉学だと? ずいぶんと余裕があるのか。
ちゃんと笑えているのか? 乾いた笑いにしかならねぇぞ。
その後、迷惑賃の代わりとして魔剣が来た。
魔剣が来た時のみんなの動揺、よくわかるぞ。俺も現実逃避した。だって、魔剣だぞ。これを欲しがっている貴族たちが山のようにエチゴヤに予約を入れてるんだが……。こ、怖い。
と、とりあえず、厳重に保管しておこう。
・・・
捕らえた獣人の少女らを先にどうにかするとしよう。
忘れてずっと放置していたよ。
そろそろ空腹で限界かもな。闇ギルドの方は、大人だしもう少しくらい我慢できるよな。野垂れ死のうが構わないけど。
仕事の空いた時間に異界に入る。
小屋の中に少女たちが寝ている。部屋には抗ったような傷跡が。疲れと空腹で寝てしまったようだ。
首輪は外してっと。
リーダーだった少女らの一人を叩いて、起こす。
シオンに気づくと、ビクッと反応して少女は動き出そうとする。しかし、体力が減っている現状で体に力が入らず立てない。持ち物にナイフが無い事を確認し、這いずって距離を取ろうとする。
「ここに逃げ場など無いぞ。俺はお前を処分してもいいと思っている。だが、お前たちに価値があるなら、寿命が延びるぞ。では、質問を開始させてもらう」
淡々とそう告げると、首に手を置き、シオンは少女の仕草を観察する。
少女は怯えた様子でシオンのことを見ていた。
「お前の主人は誰だ?」
「……」
「首輪は外れている。ここはその主人でも手の届かない場所だ。安心すると良い」
少女は首の感覚を確かめるように顔を動かし始めた。
「うぇぇーん。ひっく、ひっく、ふぇぇぇん」
首輪が完全に外れていることを理解したのか、少女が泣き始めた。ひどい扱いでも受けていたのだろうな。その泣き声で他の少女たちも目覚め始める。
「あ、事情は後でこの少女から教えてもらうといい。今は俺に情報を伝えると命が助かるキャンペーン中だ」
目覚めた少女たちは、いきなりの言葉に小屋の壁側まで座りながら下がる。
「質問に答えてもらえるかな?」
「しゅ、主人は、アス…カロン様」
「あれ、そうなの?」
闇ギルドの方がアスカロンかと思ったんだが? じゃあ、あっちは誰からの指示で動いていたんだ?
「で、依頼内容は? 俺を殺すことか?」
「……」
黙ってはいるが、首を縦に振って答えている。
「では、助けて欲しいか?」
「っ……」
少女の曇った目にわずかに光が戻った。その目でどこか窺うような視線でシオンを見ている。シオンの考えを理解できないといった感じだ。
「選択肢は与える。でも、俺が差し伸べる手は一回だけだ。それ以上は一切関与しない。お前たちがどこで死のうが俺に関心は無い。奴隷の首輪は外れた。どこへでも行くがよい。獣人族の領域にまで進めばいい。しかし、俺は今人手を欲していてな。もし、俺の手を取るのであるなら、生を保証しよう。俺のために働くのであるなら、その分の金と食料をくれてやろう。さぁ、選びたまえ」
選択のつもりでも脅しに聞こえてしまうな。ここから獣人族のいる場所までは遠い。さらに彼女たちは金を持っていない。武器を持っていない。このまま放り出されれば、確実に死が待ち受ける。保護しておいて正解だろうな。
それでもどこかへ行きたいというのであるなら、自由にさせてやろう。
「行く。……ついていく。あなたは私たちを開放してくれた。それにどうせ獣人の国には戻れない」
「それは総意と取っていいのかな?」
「どうかな?」
リーダーの少女は後ろの壁際にいる少女らに意見を聞く。大まかな説明はしていないが、リーダーの彼女が納得して受け入れているなら彼女に付いていくようだ。
「一つ、質問」
「なんだ?」
「あなたは獣人を嫌わない?」
「何故そのような問いをする」
「前の…主様が…私たち獣人を嫌っていたようだから」
「お前たちの見ていた世界がそれではそのような質問も理解できるな。答えよう。嫌う理由がない。ただそれだけだ」
自分で創り出した数ある中の一つの成功結果を嫌うわけもない。
天使だろうと、悪魔だろうと、人であろうと、魔物であろうと、俺が望んで創り出したんだ。嫌う必要がない。
「わからない」
「ヒューマンも獣人も等しく生物だ。なら、何故同じ生物を多少違うからと言って嫌う理由になる? それにヒューマン種は君たち獣人種を亜人と揶揄していることは聞いた。ならば、君たちからはヒューマン種だって亜人となるだろう」
ヒューマン種は自分たちの身体こそが基本としている。そこから違いが出ている別の種を亜人と言っている。
なら、獣人種の身体を彼女らが基本とし、考えるのであるとヒューマン種こそが亜人でもある。
個性を嫌っていては、生物は成長しない。誰もが同じ存在であるなら、俺が創る意味がない。多くの生物がいて、その中の希少な存在だからこそ俺に収集される価値があり、コレクションしているんだ。
「難しい」
「とにかく、俺は獣人を嫌っていないということだ」
「わかった」
「よし。では、食料などをここに置いておいておくので各自で食べて待っているように。また戻ってくる」
後日、メネアを彼女たちの監禁している世界に呼び、紹介する。そのあとに越後屋で働いてもらう。生活に慣れるまでの準備期間も与える。冒険者になりたいと言うのであれば、摩耶たちに訓練を任せよう。
俺は次に闇ギルド員たちを捕獲していた枯れ果てた地である荒野に転移した。
闇ギルド員たちは太陽の日照りで苦しそうにしている。
「生きてますかー」
あ、睨まれた。睨む元気はあるのね。でも、まともな精神が残ってなさそうだ。目が虚ろになっている。
人数が少し減っている。死んだわけではなく、この場所がどこなのか探索しているようだ。だが、この世界には何もない。食料も日照りから身を守る屋根も。
でも、意外だった。状態が飢餓になって共食いでもしてる頃合いかと思っていた。
「暑いな」
気候を変えるか。それなら、彼らもまともな頭に戻ってくれるだろう。
その前に散った暗殺者を空間魔術でこの場に引き戻す。からの、世界を極寒帯に変更。
「じゃ、話をしようじゃないか――あっ」
暗殺者たちが倒れた。
急な温度変化に身体がついていけず膝から崩れてしまった。いきなり身体が凍り付くような地に飛ばされればこうもなるか。
「【神聖魔術 蘇生】」
眠ってしまった暗殺者を起こす。
いきなりの出来事に即蘇生したことで暗殺者たちは死んだことにも気づいていない。
「じゃ、今度はちゃんと話をしようか。まずは質問から」
「……」
「お前たちは誰からの指示で動いた?」
「……」
「さすがは暗殺者。依頼人の情報は吐かないか。ちゃんとしてるじゃないか」
「……」
あら、気絶してる。
まぁ、いいや。これは選定で不要と判断した者から聞き出せば。
俺からのお話の内容は、このまま死ぬか俺の選定試験を受けるかの選択肢。
こっちは暗殺者たちの生死がかかっている話なので無理やりに起こす。
話している間は、変な顔をされていた。
有能なら条件付きで生かしてやる。役立たずなら、不要と判断する。殺しはしない。天使に拷問好きがいる。ただそいつに渡すだけ。
「で、試験内容はこの後お前たちを一時的に自由にする。そして、闇ギルドに行ってそこからチンピラやらなんやらを全て集めて俺に襲わせるように。とにかく闇ギルドに人を集めろってことだ。逃げてもいいが、俺の眼はお前たちを見失うことは無い。このくらいの注意勧告はしておいてやる」
寒そうだな。さっきまでいた場所と今いる場所が変化しすぎて頭が回らなくなってるのか、誰も異論反論を唱える気配がない。
「では、よーいスタート」
暗殺者たちを元の世界の元の場所である森に開放する。
全員が一斉に走り出した。
元気あるなぁ。極暑の地からの極寒の地に一回の死亡。いきなり走りたいと思えないほどに疲労しているのに。
こんな世界の話を他者にしても信じてもらえ無いだろうから特に枷もつけない。
さぁて、誰が一番に目的を達せるか。




