六十話 創造神、これからの予定を聞く
今日の平日だが、俺は休みを取った。そもそもすべての単位は取った、というより、「教えてくれ」と言われている状況なので出ても出なくとも良くなった。
テストはあるが、過去に優秀な生徒がいたのか、学園では申請さえしたなら好きな時期にテストを受けることが出来る。
それを最初に満点で合格したのだが、受けた教師が四つん這いになって項垂れていた。
なので、今日はヘルメスとして越後屋の支店で働いている。ヘルメスとシオンを繋げられる者などいないと思うが、こういうところで地味に姿を見せることも重要である。
「ヘルメス様、午後より面会を求められています」
「誰からだ?」
「一つは王家の方々から。これは今日でなくともいいとの許可を受けています。ただ事前に予定を教えて欲しいとも。もう一つは、スラムの長を名乗る者が。両方とも王都ですね」
「それは俺が出ないとダメか?」
「はい。王家の申し出ですのでトップのあなたが出なければ失礼に思われます。もう一つのスラムの方ですが、この紹介で雇っている元スラムの従業員がいるのでそのことだと予想されます。これもトップが出なければなりません。それとマヤさんからまたご依頼が来ています」
私を認めたカルナが私案件の面会を持ってくる。
「そうか。通達ご苦労だった、支配人」
最近はメネアも忙しい。メネアの肩書きは一つ繰り上げしてカルナを支配人に決定する。
「支配人? 私がですか!?」
「ん? だって私はこの越後屋商会のオーナーであるが、毎日来れる訳ではない。それに私は商品の管理と調達、経理少々をして居るに過ぎん。次席のメネアであっても私同様毎日来れているわけではない。だから、従業員や広告などの仕事を管理しているカルナにこそ相応しい」
「私が……支配人」
「ああ、私とメネアがいる時の権限は一つ下がるが、基本的には優先されるぞ。本店もトップは代理になっているんだろう。で、カルナは元々王都の職員で幹部クラスだったなら、支配人も合っていると思うんだが。一応言っておくが、その役職はここだけではないぞ。王都の方に戻ってからも支配人だ」
カルナのテンションが支配人という言葉で上がり、スキップで外に出て行った。珍しいものを見た。彼女は今は新たに出来た学園都市の支店の補助をしているが、安定してくれば元の仕事場である王都の本店の方に戻ることになっている。
ちなみに俺がここでヘルメスとして仕事をして居なくとも問題なくなった。
ヘルメスが商品を持ってきて、メネアが書類仕事などを行い、シオンがそのサポートをしている感じで浸透している。シオンの仕事は、他に訓練相手などもある。ついでに摩耶からの依頼で偶に広告のモデルになってほしいというのが来ている。
摩耶の今の仕事は冒険者も両立しているが、美容関係の仕事も行っている。摩耶が知恵を出して越後屋の工房と連携してこちらには無い彼女の出身である地球の美容グッズが出来始めた。といってもまだ少数だが。
現在は、それを工場で大量生産して越後屋商会で取り扱っているその美容グッズの広告に俺の絵を使うと元から結構売れていた物が売り上げが上がるようになったらしい。
要は、俺の仕事にマスコットが追加されたということ。
この三人が一人でもかけるとこの商会の裏方が終わるみたいだ。
これでメネアは王都の屋敷と管理してくれている。どう見ても荷重だ。メネア自身のステータスの高さで疲れはあまり感じていないだろうが、代理を立てた方が良さそうだ。
ただ屋敷の統率や管理をこなせる人材も少ない。イスタールに相談しよう。人が不足してないなら、優秀な者を借りたい。
現在もちょっと大きい街に出した支店から「助けて」という手紙が届くらしい。さすがに王都の本店や人口の多い此処ほど不味いということは、無いようだ。
皆忙しいから俺が代わりに書いておこう。
『こちら、余剰戦力無し。自力で対処されたし』
頑張りたまえ、顔も知らない従業員よ。
そして、メネアがこっちに付きっぱなしということは、王都の屋敷の方にメイドを統率する長がいなくなるということ。
たまに戻ったりはしているらしい。だから、メネアの代わりにホルスが警備を、フェンリルが家事の指示を出して回しているようだ。
「メネア、スラムの長は何を言ってくると思う?」
「そうですね、私も詳しいわけではありませんが、仕事に使う時間のことや今まで挨拶をしてなかったので勝手に引き抜いたことへの苦情ではないかと」
「え? 勝手に引き抜いたのか?」
「本人の了承は得ています。現在も辞めたい・辛いといった感情の報告は受けていません」
「じゃあ、なんで?」
「庇護下に入った者に仕事を渡すことをしていたために急に引き抜かれ、不安に思っているというような情報が届いています」
「そっか。もし、戻りたい者がいるなら、元の場所に戻してやってくれ。無理強いは、精神的にも肉体的にも負担になってしまうしな」
「いえ、そのような者はいないかと」
「何故言い切れる?」
「それが主様が来る前まで休みもなしに働こうとする者が相次ぎまして」
「え?」
「どういう感情からなのかは私もわかりません。休みを取り入れ、何とか働こうとする者を抑えていることが現状です」
この商会の従業員のほとんどがメネアに救われ、シオンの従業員に対して厚い手当や居場所を提供したことで何か恩を返したいと思う従業員が多く出て、より働ければ喜んでもらえると思っての行動で。
それが止められ、休みももらった今、どうすればいいのか悩んでいる最中だったりする。
スラム出の子供たちも毎日の仕事と安全な場所を貰えたことで同じような行動に出ていた。
さらには、メネアの「お仲間もいるのでしょう。連れてきなさい、まとめて面倒を見ましょう」と、言ったことでメネアの神格化が始まった。
・・・
俺、眠い。
この幼い身体とここ最近越後屋商会の仕事を夜遅くまでしていたため睡眠が疎かになっていた。元の身体である神の姿であれば、眠る必要すらないのに。
「シオン様ー。仕事持ってきましたよー」
あれ、シオン様、寝ちゃってる。むふふ、無防備に寝てますのぉー。
私は抜き足差し足でシオン様の傍らに移動する。
間違っても魔術やスキルを使ってはいけない。前にもこういうことがあって、【スキル 隠密】を使って寄ったら、すぐに見つかってしまった。
ゆるむ口元から零れた涎を袖で拭い、今、まずは頬に手を――
「何をしているのですか、マヤさん?」
「ヒャーー!! って、リンちゃんか。脅かさないでよ、もぅー。じゃ、これは私がシオン様に渡しておくからもう行っていいよ」
「流されませんよ。あなたは、子供が好きなんですか?」
あれれー、リンちゃんもシオン様をちらちら見ているなぁー。これは、……
「あはは。そうだよね、子供にはそんな風にしか見えないよね。良かったぁー。そうなんだよね、私子供好きなんだ。だから、あの柔らかそうな頬にちょっとだけ触れてみたいの」
「実は、私も気になっていましたの」
「あ、ゼノビアちゃんも来たんだ」
そうだよねぇ、シオン様の反応可愛いんだもん。完全には起きていないけど、無意識に手を払おうとするあのリアクションとかもぉー良いよね。
「ええ、私も仕事の報告に。で、触ってもいいんですの? いつもはガードが固くて触れられそうな気がないシオン様に?」
「うんうん。そうだよね、メネアさんが目を光らせてるもん。こんな時くらいしかチャンスはないよ!!」
「ダメですよ、お疲れなんですから安静に――って、何触っているんですか!」
ふふふ、私は誤魔化されないよ。そう私たちに言いつつも自分に言い聞かせているね。わかるよ、わかっちゃうよ。
「ふにふに――はぁー、なんだろうこの生物は」
「これであなたも共犯ですわね」
「何でですか!! 私は何も――」
「何言ってるの、私が触った時点でそれを見逃したあなたも共犯よ?」
私の一言でリンちゃんがショックを受けたような顔になる。
「ほれほれ~、いい匂いがするぞ~」
「おい、何をしてる」
「へ?」
「摩耶、セクハラか?」
起きちゃった。ゼノビアちゃん、助けて。――もう離れてる! ちょっと、共犯でしょ!
「うわっー!! シ、シオン様ー! 起きたんですか、いえ、私たちはこの資料をシオン様に私に来たんですよ」
「では、この状況は何かな? 聞くまでもないか。摩耶、くらえ!」
「いやーっ。それだけは、それだけはー!」
額に一発、デコピンの刑に処される。のぉぉぉ、結構痛い。床を転げまわる私を見ているゼノビアちゃんが顔を逸らして罰から逃れようとしている。
ここで私が告発したら次の機会にゼノビアちゃんを共犯にできなくなる。今回は私が生贄になろう。けど、次こそは……。
「ここがお前の元の地で無くて良かったな」
この職場、罰はちょっと痛いけど天国……グハッ。




