五十三話 創造神、森に出かける
ヘルメスに姿を変え、越後屋商会に入っていく。ちゃんと従業員に認識されている。階段を上がり、四階の執務室に入る。
「主様、先日の活躍に感銘を受けたという貴族たちからシオン様と主様に多数の面会を希望する手紙が届いております。中でも公爵家からの手紙には早めに返信をする必要がございます――」
「私は会うつもりはない。メネアは――」
シオンはメネアの顔を見るが、彼女は拒否の表情だ。感銘を受けたとか言って、何かを強請だったり、とかに決まっている。
「だろうな。では、私たちの次に権限の高い者を遣わせばいいだろう」
「かしこまりました。おそらく貴族家の中には我々の商会を手に入れようとする者も現れると考えられますが、それにはどう対処いたしますか?」
「いつも通りに処置してくれ。従業員に練度はあるのか?」
「はっ! 作業員には、週に二度、魔物の討伐をさせ、レベル上げをしております。同時に技術も教えておりますのでなんとかなるかと」
「なら、いい。メネアの渡してくれた各国の情報はすごいな。もうここまで進んでいたとは。今のところ問題はあるか?」
この短期間に諜報部隊を組み、実動できるまでに鍛えていたとは。【固有スキル マップ探査】を使って諜報系スキルを活用すれば、俺にだって少なからず情報は集められる。だが、俺個人ではここまで事細かに調べ上げることはできない。他国の要人の情報なんて以ての外だ。
「はい。現在、このエチゴヤ商会の防犯をしているのは、主様より賜ったゴーレムです。荷運びにもゴーレムを使っております。これを一部変更し、人を雇うという意見が出ております詳しくは、こちらでやっている経理や事務処理、商会内の区画で奉仕を行う使用人が不足しております。また、商会内に侵入を試みる間者が増えているので、それに対処できる人員の増員をお願いしたいという意見が」
乞食にもしっかりと仕事を与えようと言うのにこれでは本末転倒か。
「ふむ。人を雇うと言ってもな。商会に侵入を試みた者だっていたんだろう。雇う人物を信用ができるなら構わない。引き入れるならちゃんと調べておけ。私の方でもある程度視ておこう」
メネアから渡された書類を処理する。
そもそも実力の無い者に防衛はさせられない。俺の作ったゴーレム以上でないと安心できない。
その最中に茶を入れに来たカルナが入ってきたりした。ちゃんと私だって働いてるぞ。
書類仕事の他には、ヘルメスの固有スキルで武器の複製。普通に調合して上級回復薬の追加分の制作。アクセサリーなどに魔術付与。
俺はメネアに連れられて倉庫に行き、薬品や受注生産の武具を並べていく。
ここの倉庫にもゴーレムは配置してある。それも店を守るゴーレムと同等以上のゴーレムを。
紹介していこう。
狼型オリハルコンゴーレム。世界で最も硬い金属で、主に相手の肉体に噛みつき、壊すという攻撃を行う。
騎士型ミスリルゴーレム。魔術が通りやすい性質を持つミスリルを使ってできたゴーレム。盾と槍を持ち、盾役を務める。付与魔術も入りやすい。
弓兵型青銅ゴーレム。前二つの金属より強度はかなり劣るものの、加工性に優れ、錆びにくく、長持ちで低コスト。前線に出ないために強度にこだわる必要もない。
ミスリルゴーレムよりは軽いため着地の際に二回転の捻りを加え、ポーズを決めたりできる。
その重いミスリルゴーレムはボディビルのポージングを決めている。
一匹と二人のポージングも完璧だな。あとは、後ろに爆発を。
本当はこれに地中に潜るワーム型ゴーレムや探査に優れる蛇型ゴーレム、水を媒介とする変幻自在の流水ゴーレムも追加しようとしたのだが、流石にやり過ぎ感があるので止めた。
尚、今はゴーレムたちにパントマイムを仕込んでいる。
いずれも裏の世界に生きる者をブラックリストに入れて、越後屋に侵入した際にはフルボッコのコースを叩き込むように設定している。
ただし、昼の時間帯であるなら、侵入不可領域以外での行動は許している。裏の人だって買い物くらいはしたいだろうし。
だからまぁ、倉庫前は如何にも戦場後のような風景になっている。
倉庫の中身には、確かに重要な商品が入ってはいるが、越後屋のほとんどの商品が俺が持っているのでたとえ侵入しても僅かな成果にしかならない。
「この玉鋼のインゴットはどうした?」
「それは、以前商人の寄り合いで知り合ったエルフ族の方から譲っていただきました」
「商会の寄り合い所にエルフが?」
「護衛依頼だったそうです」
「そうか。テスタの知り合いかもな」
玉鋼。刀の制作に必要とされ、この上質な鋼。テスタの使っている武器も刀だ。もしかしたら、本当にそうなのかも。
・・・
今日からはまた学校が始まる。
三日連続で休みっぽい事をしていない気がする。最終日も越後屋商会で仕事をしていた。休日最後の日に従業員から認めるという言葉が出てきた。
選抜の大会が終わり、休みに入って初めの授業は、森への遠足だった。目的は、自然への対処の慣れらしい。訓練期間は四日間。
小さい迷宮持ってんだからそっちでやればいいのに、とか思っていたら、説明があった。ダンジョンと森は違う。これは野営訓練。必要なのかはともかくとして、ダンジョンでは魔物との遭遇率が高いため野営訓練には向かない、とのことだ。
そして、今日の装備は、ノースリーブの軽い簡素なシャツとズボンに武器の短剣二本となっている。色は変わらず、黒い。細かく言えば、漆黒。
そもそも服に防御力は、いらないのだ。何故なら、俺自身の防御力が高いから。それに固有スキルに【再生】があるので、怪我をしたとしても、すぐに治る。
よって、今回の服装は防御力は全く無い。しかし、他のステータスはその分拡大に上昇している。
先日着た魔術師系ローブのような服でもよかったのだが、あれは魔術威力上昇に特筆しているために気軽に魔術を使えなくなってしまう。
事前に対処の授業は行ってはいるが、授業だけでなく、実地指導もやるようだ。遠足といっても魔物の討伐も兼ねている。学生だけでは危険なため冒険者に護衛に付いてもらうそうで。
「事前に調査はしたが大した魔獣はいない、だが油断はするなよ」
行動はクラスごとにやることになっている。この中でもパーティを決める。俺はいつも通りアルマ、ルウ、ルーファス、オーランド。そして、オーランドの要望でスミスも追加されたパーティになろうとしたが、教師のフレイヤがすでに班決めはしているみたいだ。ルーファスたちもばらけてるようだ。
俺の班は、貴族のボンボンの班だった。うわぁ、睨んでるぅ。
そういえば、アスカロンもこの授業に参加してる。精神が立ち直ったようで、よかった。どうか身の程を弁えていて欲しいものだ。
彼の隣には、先日襲ってきたイザベラもいる。精神がタフだな。人は不可能であれば諦めてしまうが、それが復讐や憎悪ではどんなに過酷であろうとも揺るがない。
これだから人という生物は面白い。
学生六人の一パーティに冒険者が二人付くことになる。
この依頼を受けた冒険者にライオスとその仲間がいる。しかも、王都で活動しているはずのカルタナやキース少年たちもいて、今はライオスと談笑している。何故にいる?
これには、摩耶やウル、テスタロッサ、ゼノビアの四人に聖女のリンが増えた五人パーティで参加している。リンの配属先は、まだ決まっておらず、今のところは摩耶たちと一緒に行動させている。元々注目されていたパーティがさらに注目されたくらいの変化だった。
そして、この森には問題がある。
【固有スキル マップ探査】で眼を通した結果、闇ギルドの者が潜んでいる。しかも、それなりに強い。おそらくさっきから俺を見てにやけているアスカロンが仕込んだことだろう。懲りないのか。
だが、真犯人に興味はない。出てき次第にボコって恐怖を叩き込み、うちの従業員に入れこもう。
ん? さらに少し離れた場所に子供の獣人族がいる。
どういうことだ?
「よっ! 久しぶりだな、シオン。お前、ここの学生だったんだな」
俺を見つけたキースが話しかけてきた。
「まぁな。キースたちはあれからどうだ? ランクは上がったのか?」
「ふふん、上がったぜ。Cランクだ。お前は最近どうよ」
「俺はBランクをもらった」
「うわぁ、負けた。やっぱ、すげーな。もうBランクかよ! そういえば、聞いたぞ。お前、ここでの異名たくさんあるんだな」
「俺、それ、知らない」
「えっ? 本人が知らないのか?」
「ああ。ところで、その異名ってのは?」
「完璧に何でもこなすことってことで学園の先生たちからは【完全無欠】で、化け物騒動の時に鉄の剣を持って闘っていた黒ずくめの子供ってことで【黒鉄】。これは、ライオスさんから聞いたけど、シオンをよく思わない奴らが皮肉で付けたみたいだ。他にも、その化け物を一掃してたから【撃滅】ってギルドや街中では呼ばれてたけど、聞いてないのか?」
「まったく」
二つ名とかなんか恥ず。しかも、多くね。俺って一部では嫌われてたんだ。
「それとお前に助けられた人は、【聖者】って呼ばれてたぞ。またあるところでは、黒の貴公子やら王子様やらもあったな。お前はどれがいい?」
そりゃ神殿が俺を引き入れようとするわけだ。自分たち以外のところで聖人が出ているようなことになったら、教会のメンツを潰すようなもんだしな。
「もうシオンが二つ名持ちになったのか。これじゃあ、同じランクの私も追い抜かされた気がするよ」
「カルタナさんか。ジータとキリカはどうしたのだ?」
みんな、行動範囲広くない!?
「彼女たちなら王都で依頼をこなしてるよ。彼女たちもCランクになってる。しかし、この都市はすごいな! 強者が多いぞ。特にあのエチゴヤに所属してるというマヤ率いるチームが目立つな」
話していると、出発の時になり、集合がかかった。
森に徒歩で進む生徒の中には、体を鍛えてない生徒は途中で力尽き、訓練するまでも無くリタイヤする事になる。ただ疲れただけで後ろの馬車で休憩するだけ。
リタイヤ者は、後ろで一緒に進む馬車の中で休憩となる。
「聞いているのか? そこの下賤な輩ども」
同じパーティのボンボンが冒険者に生意気を言っている。一人だけが豪勢な装備で目立つ、いかにも甘やかされて育てられた少年だった。
「聞いているのかと聞いておるんだ! 貴様等は私を馬鹿にしているのか!!」
「弱いガキに興味はない」
「魔術がちょっと得意かもというだけの坊ちゃんに何が出来るんだい? 正直に言って、ゴブリン相手に必死に戦う姿しか思い浮かばないんだけど、君は戦場経験があるとか? 無いなら余計な事は言わないでほしいなぁ~」
「貴様等、私を誰だか知っているのか!」
「「全然」」
ふふふ、足蹴にされてるなぁ。
「見てろ……この屈辱、必ず晴らしてくれる……」
「エドワード君……止めた方が良いよ」
「エドワード様と言え!! あんな冒険者どもは、父上の権威でいくらでも……」
ビクつく彼の友だちの忠告を振り払い、まだ吠える。彼はシャナーク同様にアスカロンの取り巻きの一員のようだ。態度で分かる。
うーん。権力を使うことが当たり前になっているな。
「自分の力で無く、親の権威に縋るから坊やなんだよ。悔しければ自分の力で生き残れる強さを見せる事だねぇ。所詮この世は弱肉強食だぞぉ?」
ふーん、意外とちゃんとしたこと言えるんだ。この時代に来て俺の会ってきた者たちがそれほどひどい人種だっただけかな?
「黙れ! 私は次期国王と成られるアスカロン様の側近になる男だぞ! 貴様など、父上に掛かれば……」
シャナークくんがいなくなってもまた出てきたよ。
「そこまでだぞ、エドワードとやら。我々は彼らに護衛をしてもらう側なんだ。その言葉使いは如何なものか」
「うるさいぞ、シオン。平民は黙ってろ!」
未だにこういったものが出てくるのだな。
「では、もし君が窮地に陥るようなことがあっても、彼らは君を守ることも捨てることもできるんだ。君の生死は彼らに掛っているとは思わないのかい?」
「黙れ、私は貴族だぞ!! 守るのが当たり前だ!」
「だから、なに? 貴族の生まれってだけで、坊ちゃん自体は何の責務も権威も無いでしょ? 答えてあげる必要性は無いしねぇ。もう少し考えて発言や行動しないと……君、いつか死ぬよ?」
冒険者の最後の一言は、どこか底冷えするような酷薄的な冷たい気配が含まれていた。
意外と勘が鋭かったエドワードは、背筋に冷たい汗が流れる。
そんなこんなでシオンたちのいるパーティーは、少しづつだが目的地の森の奥へと進んで行く。
時折、何処のパーティーからか魔法の炸裂音や剣戟の音も聞こえたが、何故かこちらには魔物に出てこない。アスカロンの放った刺客が倒してくれているのか?
「くそ! 魔物が一匹もいないじゃ無いか」
「そうだよなー……。これじゃ訓練にならないよ」
魔物に出くわさず、学院生は次第に警戒心が薄れて行く。
よし、こういうところで人の水準を少し高めるのも悪くないかな。彼らも魔物が出てこず、飽きてきているようだし。
シオンは【マップ探査】で少し離れた場所にマーキングして、その座標に【創造】を使う。ギルドで魔物の標本を見させてもらったのでこの時代に合った魔物を創れる。
創造によって生まれたのは、ランクBの魔物である牛頭人身の怪物で身体が頑丈なミノタウロス。
同じくランクBで動きは速く、肉体は魔力で包まれて魔術を妨害する獰猛な獣のハザードライガーを5匹ずつの集団だった。他の所にもおすそ分けしてやろう。




