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六話 創造神、ハイエルフに会う②

 シオンは王城の内の塔に向かっていた。

 ときどき徘徊している騎士に剣を抜かれたが、なんとか塔の入り口に着いた。


 扉を開けると、氷の矢が飛んできた。

 即座に回避し、【スキル 魔力感知】を発動させる。と、声が部屋の奥から聞こえた。


「あなたは、暗殺者ですか~?」


「久しいな、アリシア」


「今度は知り合いのふりですか~?」


「アシュタロトだよ、覚えているだろ。イスタールからここに来る許可は貰っている」


「小僧が~? って?! アシュはもういませんよ~。失踪したんですから~。それに~、アシュはそんなに若くないぞ~」

 アリシアは今でもイスタールを小僧と呼んでいたか。我々からしてみれば、そうなのだがな。

 そういえば、その時の旅がもう終わったから失踪したってことにしたんだった。


「前にも話しただろ、大賢者アシュタロトはヒューマン族ではない!」


「でも、種族は~、なんでしたっけ~? 彼の言った冗談の答えが君の回答、同じであれば信じてもいいよ~」


「冗談ではない! お前が勝負をして負けた方が何でも一ついうこと聞くことをかけの対象にして俺が勝ちすぎて泣き出したからわざと負けてやったら、それはそれで怒ってくる。しかも、一応は負けたということでしつこく『君は何者だ~』とか聞いてきたから仕方なく答えただろ。『俺=神』だと!! さらには、お前を眷族に迎え入れようと誘っただろ!」


「そうなんだよ! アシュはそんな冗談を言ったんだよ~。そんな冗談を普段は言わないのにね~。ん~。じゃあ、本当にアシュなの~?!」

 アリシアが俺の腹めがけて飛びついてきた。


「どうして、失踪したの~!! 心配したんだよ~!!」


「いやぁ、あの旅は、あそこで終わりだったから、神界に帰っただけなんだけど」


「なんで嘘をつくの~!!」


 うーん、どうしよう。どうしても信じてくれない。もうでまかせでいいや。

 シオンは信じてもらえず、どうでもよくなった。


「魔王戦で大けがを負ったから療養してた」

 魔王相手にけがなど負っていないが、適当に言ってみた。


「そうだったのね~。でも、その姿は何~?」


「あ、ああ。けがを治した時の代償」


「そっか~大変だったんだね~」

 まさか、信じるとは。


「ところで、この世界の衰退について何か知らんか?」


「さぁ? 私、ほとんど研究をしてたから世間がどうとかわかんない~」

 こいつは、魔術バカだし、聞いても無駄か。


「そうか、研究ばかりしていたのか。じゃあ、どのくらい強くなったか確認させろ」


「いいね~。ついに勝てっちゃったしするかもよ~」

 アリシアとの戦歴は788戦中788勝0敗で俺が勝っている。俺はそんな戦歴に必要性を感じないが、アリシアが毎回記録を付けている。


 俺はアリシアと王城の訓練場に移動した。


「む! き、貴様。なぜここにいる。ここは誇り高き騎士が鍛錬をする場であるぞ! なのにお前のようなやつがくることは許されることではないぞ!」


 こいつ誰だっけなぁ?見覚えはあるんだけどなぁ。

 周りの奴らもこいつに同調してうるせぇし。空気を汚すんなよ。


「もーそういうのいいから。貴族や騎士が偉いのわかったから」


「はやく試合やろ~」


「すまん、アリシア。こいつらがここを占拠してるっぽい。別の場所でやろう」


「これは、これは。賢者アリシア殿。数日前のパーティーで私とお話させていただいたこと、覚えていらっしゃいますか?」

 うわ、こいつ、自分がアリシアにモテてると思い込んでるやつか。なんて残念な男なのだ。アリシアにそんなことを求めるなんて無謀にもほどがあるだろう。

 アリシアは勇者パーティでも興味を持った相手のことしか覚えてなかったからなー。どうなんだろ?この騎士の人に興味を持っていてくれたらどんなに楽だったか。


 あっ、この騎士、王子とギルドに来ていたやつの片割れかー。やっと思い出した。


「あなたは~、――――――――誰~?」

 長考の末、やっぱり覚えてなかったな。


 俺がバレないように小さく笑っていると、

「貴様、何を笑っている」


「いや、だって、笑うしかないでしょ。偉ぶっていたやつが玉砕くらったんだぞ。笑うだろ。後ろのやつらも笑ってるぞ」

 騎士は振り向かえるが、誰も笑っていない。というか、この騎士の位が高いために笑ったら報復が後々あることを知っている。

 親のコネで入ったとかかな。


 俺に顔を戻して怒りの表情をしている。

「全部、貴様のせいだ。殺してやる。俺と決闘しろ! この俺、バンテーガ伯爵家3男のグラーフ・バンテーガが貴族として決闘を貴様に申し込む!!」


「別にいいけど、ルールは?」


「どちらかが降参をするまで」


「それでいいんだな」

 バカ騎士が部下の男に審判をさせる。


 どうせ、この決闘もギルドでの一件と同じだろう。おそらく俺はなめられている。ならば、身の程を教えてやってもいいだろ。


「あーあ、アシュって身の程を知らないバカのこと嫌いだもんね~」


「アリシア、今の名はシオンだ」


「はいはい~」


「これより歩兵騎士団副長グラーフ・バンテーガ対冒険者シオンの決闘を始める!」

 王国の騎士団には、一般の騎士が集まった歩兵部隊、地を走る魔物に乗った騎乗部隊、飛行系魔物に乗る飛行部隊、医療に詳しい者で集まった補給部隊、遠方より魔術を放つ魔術部隊、情報を行き届かせる通信部隊、敵の陣地作成妨害や要人暗殺などをする工作部隊、がある。

 これだけの金食い虫がいても国の財政は、今のところ問題はないらしい。普段はそれぞれの部隊の主とすることを街で仕事にしているようだ。


 いつの間にか人が集まってきたな。近くで茶をしていた夫人らや先代国王と王子、それから、あれは王女か? 王子の背中に隠れているようだが。


「始めぇー」


 バカ騎士が一直線に俺の頭へ剣を振るってきた。

 それをかわし、鑑定をする。


≪なぁ、エル。こいつは強くもないのになんで挑んできたんだろうな?≫


≪それは、このゴミが自分のことをさも強いと傲慢な思い違いをしているからじゃありませんか?≫



 ステータス

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 [名前] グラーフ・バンテーガ

 [年齢] 26

 [レベル] 38

 [種族] ヒューマン

 [職業] 騎士

 [HP]  9402

 [MP]  1862

 [力]  8403

 [器用]  963

 [敏捷] 3624


 [スキル] 【剣術LV.3】【社交LV.3】【鉄身LV.1】【礼節LV.1】

      【怪力LV.2】【賄賂LV.2】【騎乗LV.2】【闘争LV.2】


 称号 フェンサー、バンテーガ伯爵家3男、脳筋、騎士



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



【称号 脳筋】はHPと力のステータスが上がるが、その他の値が成長しにくくなる。


≪これも低いな。騎士団のそれも副長でこれくらいか。しかも称号に脳筋とは。よくもまあ副長になれたものだ。むしろ、他が低すぎたのか。これでは、アリシアが興味を持たんのも無理はない≫


≪ゴミにはその程度で十分なのです。マスターに相手をしてもらっている時点でゴミには過分な報酬です≫


≪ここで改めさせるのも一興か≫


≪立場の違いを骨の髄まで思い知らせるために抹殺するのではないのですか?≫


≪いやいや、死んだらそこまででしょ。拷問なら殺しても思念から情報を引き出せるからいいけど。これは、試合だからね≫


≪別にいいと思うのですが?≫


≪そういう訳にもいかないの!≫


 意識をグラーフの方へ移し、一撃目がようやく通り過ぎたのを確認した。

 シオンは仕舞っていた刀を取り出し、観客のため剣を刀で受け流し始めた。


「おぉ、あれがお爺様の言っていた刀、神刀天羽々斬(しんとうあまはばきり)か。色は黒いようだが。」

 国王であるイスタールは孫のルーファス同様に刀に見入っていた。この家族は、剣バカなのだ。


 10手ほど片手で受け流していると、

「どうした。貧相な剣で受けるだけかぁ、平民?」

 アリシアと剣バカである先王と王子以外にこれがどれだけ綺麗に受け流しているのか気が付けなかった。


「では、そろそろ」

 そう言い、刀でグラーフの鎧を切り剝がしていった。


「なっ?!」

 皆が驚いてくれたところでシオンは、切った。

 ヒュン、という音の後に何かが落ちた音がした。


「しまった、あまりにも弱いから殺してしまったではないか。これくらいは反応してほしかったなー」

 シオンはグラーフに対して残念そうに言うが、聞こえていない。


 グラーフの首から上が、なくなっている。

 そして、その場がいきなり静かになっているなか、アリシアは腹を抱えて笑っていた。

 夫人たちが叫ぼうとした瞬間、光が生じてその光が止むとグラーフの首が繋がり、生き返っていた。


 シオンが禁術【神聖魔術 蘇生(リヴァイブ)】を使って生き返らせたのだ。

 蘇生。それは神にのみ許された妙技の一つ。

 死んだらもったいない。如何に愚者であろうと、要は使い方。この俺が無知蒙昧な貴様を使ってやろう。俺のため、世界のため、その身を使うことを許してやろう。


 これも意味のある死になると良いな。馬鹿は死ななきゃ治らないという言葉がある。ならば、何度も死ぬことで自分の愚かさを改めようとして治るかもしれない。


 いきなりのことでグラーフは動揺している。

 しかし、段々と自分が殺されたことをなんとか理解し始めたグラーフは本当の死を経験したことで、シオンに恐怖し、泣きじゃくる。


「――嫌…だぁー、グスッ、ずびまぜんでしだ。お願いしまず、も、もう――」

 そして、グラーフは命乞いを始める。


「早いよ。もっと苦しめて俺への無礼を教えてあげないといけないんだからさ。でも、俺は優しい。だから、俺はお前が生きることを許してあげよう。だからもう一度死んでね」


 その姿に騎士団や夫人たちが言葉を失った。しかし、誰一人その姿をとがめる者はいなかった。

 あれほど強かったグラーフ副長が軽くあしらわれていたことに気づいてしまった。知りたくなかったシオンという子供の化け物じみた力に恐怖した。


「汚い」

 そんなグラーフの必死の懇願にシオンはそんな言葉を返して踏みつぶし、また【神聖魔術 蘇生】で復活させる。


「ところで、この蘇生の魔術にはある謎がある。蘇生で復活した存在は、元の存在なのか、元の存在の全ての情報を再現して全く新しい存在として作られたのか。どっちだと思う?」


「ば、化け物」

 誰もシオンの問いに答えず、ただ恐怖から呟いた。


「人とは知らない理そのものを化け物と呼ぶ。そして、それは己の無知を告白すると同じことだ。無知とは、時に幸福であるが罪である。事象を知らねば、決定的な選択を大いに間違える。故に強者とは、知者だ。知識があるからこそ、生き残ることができる。そこの君、猛省しろよ」

 化け物と言った騎士は怒られるでもなく忠告され、身体をびくつかせる。


 シオンは、禁術の記憶を消さなかった。

 裏でどれだけあくどいことをしても、殺され、復活するという拷問という名の地獄が待っていると思い知らせた。死ぬような痛みが何度も繰り返され、死にたいと思っても死ぬことを許されない。


 俺はグラーフの身体を切り刻んでいく。死ぬたびに蘇生をして降参の声を上げようとすれば、首を切り落とすことを俺が飽きるまで続けた。


 ちなみに、禁術について言いふらさないようにシオンは【闇魔術 魂の束縛】と精神の低下を促す【付与魔術 マインドジャマー】を合わせて新しく魔術を作る。その魔術、【付与魔術 ソウルスレイブ】を騎士団と夫人らにかけた。


「これで有象無象の馬鹿貴族がいなくなるといいなぁ。さぁ、今日はもう終わり。審判、終わりの合図を」


「しょ、勝者 ぼ、冒険者シオン」

 審判が狂気に怯えて声を出す。


「やっぱり、君はアシュタロトだ。こんな真似ができるのは、アシュタロトだけだよ。本当に帰ってきてくれたんだね」

 まだ信じてなかったのか。しかも、キャラづけまで忘れる始末。


「はいはい、話はまた今度。で、国王陛下、楽しんでいただけましたか?」


「あぁ、けっこう面白かったぞ、シオン」


 夫人らと一緒だった王妃のフロレンティアは、ほくそ笑んでいた。

 王妃は、俺が賢者アシュタロトの頃に会ったことがあり、その時一緒にいたイスタールが初代国王であることを酔って話してしまった。

 普通はこんな話を信じることはないのだろうが、王妃であるフロレンティアはなぜだか信じたのだ。


 王妃が笑っているのは、恐怖をしている夫人らを見てのことだった。流石に手で口元を隠して堪えてはいるようだが。

 あの夫人らとは王妃の知り合いのようだが、肝心の王妃は面倒そうな顔をしていた。

 そういう関係も作っておかなければいけないのだろう、たとえそれがどんなに面倒でも。

 大変だな、王妃って。

 俺はそういうのはとらなかったし、次代国王はスラムの子を養子にして国王にしたしさ。


 そして、アリシアとの闘いを公にならないようにイスタールたちを誘い、異空間で戦うことになった。


 賢者と呼ばれているアリシアと戦うと、貴族に変なことを言われるからだ。


「そうだ! 儂の側近も連れてきて良いですかな?」


「まぁ、別にいいよ」














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