四十九話 創造神、神官を脅してみたり
「…………」
エカテリーナは表面上は変化がないように気を付けながら、内心では冷や汗を流している。
自身が、シオンを害するような手配を取ったわけではないが、この神殿に所属する誰かが取ったであろうことは、それこそトップに立っている以上、思い当たる節がありすぎるのもまた事実なのだ。
「あーあ、神は全てお見通しのようですね。教会が各種族を見下して裏から手をまわし、違法な奴隷売買をしていたり、貴族位を持たない者たちから金を搾取したり。ああ、これはあくまでも俺の想像ですから。まさか、教会がそんなことをしてるなんて? よし、こんな時は越後屋商会に調べてもらおう」
シオンは持参した契約書を【空間魔術 格納庫】から取り出す。
エチゴヤ商会が人身売買に携わっていた者たちの家を侵入、もとい、家宅捜査をした時に奪ってきた売買契約書。売主は、教会。
俺やメネアが倒した盗賊の役割は、違法奴隷の仕入れだった。
「ところで、あなた。あなたはとある小さな教会の土地を売却しましたね。それにその前からも教会の破壊行為が度々あったそうですね」
シオンはエカテリーナの後ろで平伏している男に声をかける。
「馬鹿な! 神に仕える者や神の代行者が神の土地たる教会を売却するなどあり得ない!」
エカテリーナが黙る神官の代わりに怒りの声を上げる。
神の代行者。殺したくなる。しかし、ここは耐えろ、俺。
「ええ。俺もそう信じたかった。ですが事実、教会は地の持ち主として、シスターに対して猥褻な行為をした挙句、教会の破壊行為に及び、そこに住む子供たちとその地を売りましたね」
「う、嘘よ。そんなでたらめを言わないでください。神に仕える者を疑い、あらぬ罪をかけないでください」
冷静を保とうと俺に対しても丁寧な口調に戻ろうとするが、もう遅い。
「だから、調べたんですよ。ある領土の税収だったり、土地の所有者や収益、資金の流れ、様々なことを徹底的に調べました。そして、結果はすごい出てきましたよ、違法な行いの数々とそれを行っている者たちの名が。まぁ、詳しくはこのリストを見てくれればいいです」
シオンは教会関係の違法行為リストをエカテリーナの前に投げる。
このほかにも他国の貴族や王族のリストもある。
「これを処分しても意味はないから。同じものをたくさん用意していますので。それからこれを虐げられてきた者に渡すとどうなるでしょう?」
天のお告げと称して冤罪の者や異教徒を殺害、人身売買、違法薬物の密入、詐欺、教会の総本山である聖法国や各国の人々は暴動を起こし始めるだろう。そして、国も参加して聖法国は滅びる可能性が高い。滅びなくとも、消されはするだろう。この証拠の真実性は確認すれば、すぐに判明するように証拠が集められていた。
俺としては暴動が起きて、多くの者が死のうとまた生物は増えるのでどうでもいいのだが、腐ったものを放置していると、他のものまでもが腐ってしまう。
「話は長くなってしまいましたが、俺の話は以上です。これの重要性を踏まえて、どうかあなた方――教会や聖法国には身の振り方を考えて欲しいですね」
聖法国は信教でどの国からも侵攻がなく、攻め込みでもすればその国で教会に属する者によってそこで内乱が発生。これのおかげで聖法国は攻められることがない。
だが、このリストは流れた時には、聖法国は多くの怒りを買うことになり、反乱が始まる。
つまり、聖法国の有無はシオンの手にある。
シオンは部屋を出ていき、神官たちは俺の渡したリストを確認して自分たちのことが事細かに書かれていることに膝をつく。さらには、上層部のことまで書かれている。
「こんなものか。これで聖法国はいくらかは動きづらくなるだろう。聖女の保護もしやすい」
これらの情報を調べることのできない民衆に与えてれば、民衆は不信感を感じて徐々に噂は広がり、人の眼は疑心の眼になり、どのみちどの勢力も動きづらくなるだろう。
「楽しかった」
愚者を見ているとどうも面白くなる。
どうしてこんなになったのか。どこまで堕ちていくのか。どう恐怖して絶望して何も成さぬままに死んでいくのか。その終わりに何を犯すのか。興味は尽きない。
ゴミがゴミらしく死んでいく。ハッピーエンドで楽しいな。
シオンは神殿を出て、エチゴヤ商会に戻る。
だが、シオンは忘れていた。教会は反省などしないことを。教会は懲りないことを。何をしてもシオンを傷つけられる存在はいないのだが。
「しかし、よくもまぁ、こんなに情報を集めたもんだ。他国の情報もあるじゃん。これは、メネアじゃないな。エルかな」
エルであれば、ちょっとした情報からあらゆる情報を入手し、真実にたどり着く。それは、未来予知に限りなく近いほどの性能だ。
でも、これだけの情報を集めたのは、越後屋の諜報部だそうだ。本来は他の商会の状態を調べるために作った組織なのだが、思った以上に出来るらしくどこまでいけるのか試したくなったらしい。
そしたら、国家レベルまで行けてしまったようだ。俺の望むレベルには達してはいないようだが。
素晴らしい活躍を果たした諜報部には、給金の別でボーナスを渡そう。メネアからも給金とボーナスが貰えているだろうから、俺は金ではなく、隠密・暗殺系に特化した忍者の衣装でも渡すか。喜ばれる気はしないが、仕事の役には立つ。これで仕事が少しは楽にこなせる様になるな。
暗殺もあるかもだし、役立つ武器も渡しておこうかな。この世界には無い銃とか。狙撃とかしたら、殺害方法が分からないままなんだろうな。よし、止めておこう。
まだ時間はあるし、次はギルドで暇をつぶすか。どうか絡まれませんように。絡まなければ、俺の方からは何もしないから。
・・・
私はとある信者だ。
この世には神が実際に存在していることを存じていますか?
いるのです。
知らない、見たことがないと言われても困ります。
あなたはそうかもしれませんが、私は見たのです。
だから、とりあえず居るという前提で話を聞きなさいな。
神にも順位があり、簡単に最上級神、上級神、中級神、下級神がいると思いなさい。
上位神は恐れ多くて直視できないレベルの存在。
それ以上の最上級神は言葉では言い表せない。かと言って、言葉以外でも表現することは出来ないんだけれども。とにかく平伏したくなる。神の中の神。
「例?」
まぁ、ぱっとわかるのは、創造神様とか時空神とか、普通に神様と言われて思いつく有名所は最上位神だから。
でね、私見たんですよ!
ある少年を取り囲んでいる神官を止めに入ろうとしたのですが、天から光がさして私の足を止めたのです。その次の瞬間から私はひれ伏していました。
さっきも言いましたね。そうです、あの方はきっと最上級神ですよ!
それでも神官たちは言葉を発そうとしたのですよ!
信じられますか!?
不敬にも程があります。神のお告げを一字一句心に刻むことがその時に必要な事なのに! あんなのが神官だなんて!
あの後、あまりにも酷い神官はクビにしました。
さすがにここの神官長をクビには出来ませんでした。意外とあの人も必要なもので。
中で何があったか聞きたい?
ダメですよ。せっかく信者たちを神殿から出したのに。こんな所でバラしてしまっては。
あぁ、私も困ってるんですよ。最近の教会は、信仰を何か間違えていると思うのです。なので、改革をしたいと思っているのですが、何せ長い間この調子だったので中々変えられなくて大変なのです。
私、これでもそれなりの地位に就いているのですよ。詳しくは教えられません。
でも、神官長をクビにすることが可能な立場です。わかったら、酒を注ぎなさい。
・・・
ギルドには、何があるかなぁーっと考えているうちにギルド到着。まだ何をするか決めてないのに。
お昼ちょい過ぎてる時間帯だから冒険者が増えているピークタイム突入の真っただ中だった。
入り口からロビーにあたる部分に入っていくと、こっちを見てぎょっとする人がいる。俺ここでは特に何もしてないんだが?
「あいつか、あの化け物を倒しまくっていたのは!?」
「あの精鋭ぞろいの集団の一員なのか、すげぇな」
「エチゴヤさんな」
「くっ、ものすごい覇気を感じるぜ」
「いい加減、そのキャラやめろよ。後々恥ずかしくなるぞ」
「おや、お前、もしかして経験者か?」
うーん、視線が痛い。さっさとやること決めよう。
でも、何しようか? 魔物討伐、お使い、採取、護衛とある。
護衛はまずないな。護衛任務はどれも別の街への移動となる。護衛任務だけで何日もかかってしまう。
採取、取りに行きたいっていう気分でもないしなぁ。
お使いか。なんか面倒だな。
討伐もこの辺りのじゃ、面白そうなのはいなさそうだし。
ああ、なんか事件でも起きないかな。
「おや、君は駆け出しの冒険者かな? 依頼は決めたのかい?」
依頼表の前で唸っていたら、ギルド職員の声をかけられてしまった。
「いえ、この中にしたいことがなかったので」
「ふむ。どういうことがしたいんだい?」
これはこの人、俺を小さな子供かなんかと勘違いしてるのか? まぁ、今はたしかに子供だが、心配される程幼くはないだろう。
「じゃあ、魔剣に関係してるもので」
この世界の魔剣が低レベルなのかは気になる。作れる奴もあまりいないようだし。
「おやおや、駆け出しなのにもう魔剣か。まあ、色々なことに興味を持つのはいいことだけどね。ええと、魔剣ね……」
いや、言うほど駆け出しでもないはずだけどね……いや、冒険者になってまだ二か月も経ってないしまだまだ駆け出しか? 一応ランクはBまで上がっているんだが、でも、どうでもいいか、そんなこと。
「これはどうだい? 内容は魔剣を使える者を探しているとか。依頼主はゴンツ……ゴンツだって、あの人、依頼出してたのか!」
職員が知らないって職務怠慢じゃないのか?
「なんで魔剣を使えるやつを探してるんだ?」
「ああ、えっと、これには理由とかは書いてないね。魔剣関係だし、行ってみたら?」
「……そうしよう」
依頼を発行してもらってギルドを出る。
「おっ、シオンじゃねーか!」
声をかけてきた冒険者はゴリラ……ライオスだった。
「久しぶりだな。何故ここに? 依頼の内容は王都の方がいいものばかりだと思うんだが」
「この時期はいつもこっちに来てんだよ。化け物騒ぎで中止になっちまったけどあの選抜大会とかその後の親善大会とかも見に行ってんだ。将来のパーティーメンバーを発掘するために」
「ふーん。で、いい人はいた?」
「ああ、まあまあかな。でも、一番はすぐに決まったぞ」
「Aランク冒険者のお眼鏡にかかる人がいたんだ」
俺もそいつと闘えばよかったな。決勝ぐらいで当たっていただろうし。
「名前は?」
「は? お前、気づいてないのか?」
「何に?」
「あの会場でまず注目を集めていたのは、お前だ。どの試合も圧倒して相手に勝っていただろ。俺はそのつもりがあっての行動だと思ってたぞ」
「で、一番はってことは二番もいるんだろ。誰だ?」
「それだけかよ! まぁいい、二番はアルマっていう少女だな。あとは試合を見て印象に残ったのは、ルウ、オーランド、エンリってところかな」
エンリが入ったか。兄のアリオット同様に優秀らしい。先日の俺の指導も一番に理解していたのが彼女だ。
「まだ代表選手はいるだろ。ルーファスとか」
「いやいや、その人は王族だろ。自分の所に引き入れるなんて無理だよ」
「じゃあ、他の代表選手は?」
「確かにいい奴はいた。例えばスミスやロヴェルかな。でもな、お前を見ちまうとなんか霞んじまってんだよな」
スミスは俺に突っかかってくる少年だったか。前に姉を見つけたいと言われた気がする。もう片方のロヴェルとやらは、前夜祭の時に調べたレベル10以上の武術も魔術もできるという少年だったな。
「もう声はかけたの?」
「まだだ。試合の最中に化け物が現れたじぇねーか。それで大会は中止になっただろ。だから、声をかける機会を失ったんだよ。………お前、代表選手だよな。もしかしてオーランドとかアルマに連絡できたりするのか?」
「アルマやルウ、エンリは貴族の令嬢だから無理だろうけど、オーランドなら大丈夫だと思うぞ」
「そうか! アルマはサリアの奴が育ててみたいって張り切っていたんだがな。ま、オーランドに予定聞いておいてくれないか? 俺たちもそれに合わせるからよ」
そういってライオスは彼のパーティメンバーとギルドを出て行った。




