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四十八話 創造神、神殿へ

 シオンがベンチに座り、目を閉じてから十分ほどの時間がたっていた。


 そして、その様子を観察する者がシオンの周りに集まっていた。

 主にこの神殿に所属する神官や巫女だ。

 それも位の高い者まで増えてきているように見て取れる。

 シオンの現在行っている姿勢や捉え方は、神殿に伝わっている正式な方法ではない。とはいえそれはさほど重要ではない。


 神殿に伝わっている方法と違うだけで、祈りの仕方は人それぞれだ。

 目を開いたシオンがほとんど動く様子を見せない中、それを見ていた聖職者たちが、目線をシオンから近づいてくる人物に移してざわめきだした。


 彼らは一様にある方向を見ていた。

「大神官様」

「おお、今日もお美しい……」

 神官長を目にして幸福に満ちた表情を浮かべている。


 その人物は神官でもないシオンの方に近づいてきていたのだから。

「はじめまして、私はエカテリーナ。ここの神殿で神官長をしている者です」

 俺から目を離さないその女性は、この神殿を統括する神官長だった。言われるまでもなく、神官長の身に着けている巫女服を見て、高位の聖職者だと推測できる。


「そうか。俺の知ったことではないな」

 ただの自己紹介への感想に神官長の後ろに控える神官たちから睨まれる。

 視線を神官長に戻し、「もういいぞ。下がれ」


「あら、そう邪険にしないでくださいな」

 神官長は頬に手を当て、首をかしげる。

「お前は俺に興味を感じさせない。無いものにどうやって意識を割けと言える」

「私はあなたに用件があります。言わなくともわかってくださると思っていたのですが?」

「さぁ、俺には何のことだかさっぱりだな」

「そうですか、この内容はここでは話せません。別室を用意しているので続きはそこで」

「なんでわざわざ俺がお前たちの言う通りに行かなくちゃならないんだ?」

 さらに神官たちの怒りは高まる。手に持つ武具をこちらに向けるほどだ。冷静さを欠けばお前たちの未来が消え去るとは……思えないか。


「そう言わずに。私たち教会は各地に教会の教えを説いています。もし、あなたが私たちに背くのであれば、様々な手段を使わせていただきます」

 うわ、めんどくさいやつ来た。神官長の言葉に後ろの神官たちもニヤケてんじゃん。お決まりの常套手段なんだろうな。

「どうせ俺の関係者を襲って俺に罪をきせたり、殺害して後悔させるとかだろ。これだから、教会は面倒なんだ。行ってやるよ、案内しろ」

「こちらです」

 別室に移動することになった。やはり協会は嫌いだ。


「では、言わせていただきます。あなたは勇者ですね」

 ……ふふ。聖女を取られたから仕返しかと思ったら、俺が勇者とは。


「いえ、違いますよ」

「そんなわけがありません! 先程までのあなたは神々と交神していたはずです」

「あなたの勘違いなのでは? それに俺は勇者ではないぞ」

「あくまで隠すのですね。もし、あなたが勇者でなくとも何かしらの交神するための魔道具をお持ちなのではありませんか?」

「結局は何だ?」

「では、この神殿に所属しませんか? もしくは、あなたの魔道具を渡してもらえないか? あるいはその両方です」

 教会は、ヒューマンこそが神に選ばれた種族でこの世界の支配者だという教えを説いている。

 そんな説法をしている教会を神たる俺が気に入るはずもない。

「嫌です」

 考えようともせず即決で拒否するシオンに神官たちの厳しい視線が刺さる。

「どうしても……?」

「俺はどの神にも膝を地に付けることはない。それに信じるだけで幸せになれるだの、純粋な者の足元を見る胡散臭い甘言で人を集め、寄付と称する金集めをしている詐欺集団に加担するつもりは毛頭ない」

 さらにさらに神官たちの怒りは高まる。


「傲慢ですね。あなたは自分が何を言っているのか、きちんとわかっているのかしらね?」

 エカテリーナのその言い分に、シオンは苦笑するしかない。


「どうでしょうね」

「そうですか。では、最後に本当に魔道具を持っていないのですね?」

「ああ」

「もういいですよ、嘘は。何の補助も無ければ、貴方ごときが神々と交神できるわけがありません。交神系の魔道具を保持しているはずなのです」


「なるほどな。つまり、神官長が俺に話しかけた理由は嫉妬ですか」

 シオンは薄く笑い、神官長の心の内を言葉にする。

「っ!? なんてことを! この私が嫉妬!? あなたなんかに誰よりも信心深い私が嫉妬? ありえない。神殿騎士よ、この不届きな者を捕らえよ」

「だから嫌いなんだよ」

「私の慈悲にあふれた言葉があなたには通じなかったようですね。あなたが今、ここで話したことは、私たちのような者にとっては、とても見過ごせないものよ。教会に逆らう異教徒は私たちで浄化します。これであなたも無垢な魂へと還れるのです」

 周りの神官や神殿騎士たちは慈悲であると思い、軽蔑するような顔で座るシオンに武器を向ける。


「そういう文句で。だが、これらは悪手だぞ、エカテリーナ」

「………どういうことかしら?」

「さぁ、どういうことでしょうね。俺の安寧のためにもそれは止めといた方がいい。彼らでは、俺が遊ぶ程度の力も出させることはできない。収集しようとさえ思えない。

 それを踏まえてこいつらのこの行動を止めないのかな?」


「彼らは、ただ単に異教徒の始末のためにいるだけです。これは神に選ばれた私たちに間違ったことなど在りはしないのです」

 エカテリーナは毛ほども表情に出さずに悠然とした顔を浮かべた。


「なるほど。異教徒か」

「そういうことです」

 別の目的があるのは明らかだったが、それでも目の前のエカテリーナは、笑顔を浮かべているだけである。


「一つ質問いいか?」

「なんですか?」

「ここは神殿でたまに神は神殿の様子を見ることがあるそうだ。そして、神はおそらくこの神殿を見始めると思う。ここからが質問。神殿の者たちや祈りを捧げている者たちはもし、今この時に神が現れたらどうする?」

 神は神殿なんて視ない。価値を見出せない矮小な生物に一々時間をかけて眺める趣味など人であっても持ち合わせていない。視るとするなら神殿など関係なく世界全体どこでも視れる。

 今ここを見ているのはここに俺がいるからだろう。


「「「は?」」」

 神官たちやエカテリーナは俺の発言の意味がわからなかった。最初から。


「まぁ、例えばの話だから」

『我らノ至高ノ創造神ニイチャモンヲツケルノハドイツダ!』

 何もない空間から乱入してきたのは、黒く禍々しい杖を持った【魔の神 タナトス】だった。今のタナトスの喋った言葉は下界の者には通じない。そういう特殊な言語で大切な情報が漏れないようにしてある。

 だから、神官たちには天から光を纏って現れたタナトスが怒鳴っているように聞こえ、神官たちはタナトスに平伏している。


 神の力の所為でタナトスを見ることができない。神の息吹がそうさせる。

 直視しようとするには、よっぽどの強い意思が必要なのだ。近づけば近づくほどに恐れ多いという感覚が強くなり、身体が震えるらしい。昔も俺がちょっと神の気配を出してみたら生物の直感的に平伏す状況になってた。

 後日、理由は聞いた。


「あー、まさか俺の言葉がぁ、真実になってしまうとはぁ、神が降臨なされたぁ」

 シオンは棒読みにタナトスが来たことを言葉にする。


「「――――なっ!?」」

 驚く神官たちを尻目に、シオンが含み笑いをしながらエカテリーナに対して言った。


「悪手だって忠告してやったのにな、エカテリーナ?」

「おぉ、神よ、この少年に天罰を与えるというのですね」

 俺の言葉を無視してエカテリーナの独り舞台状態で喋っている。ただひれ伏し、土下座もしくは跪いたままで。


『ネェ、創造神。コイツ、何言ッテイルノ? 私ハコイツラガ創造神ノ邪魔ヲシテルノヲ見タカラムカツイテキテンダケド。ソレニ今、創造神ヲ無視シタヨネ』


 ああ、やっぱり、アリファールのやつが俺と会ったことでそれを自慢して周ったな。

 それで対抗心からタナトスが来たというわけだ。わかっていたが。そして、ムウサ、今頃は他の神たちから何かしらをされているんだろうな。可哀想に。


 神の喧嘩は怖いからな。

 昔、下級神がミスをして下界の者を殺してしまったことがあった。ミスは誰にだってある。問題はその後、下級神はその死亡した者を神界に召喚し、願いを叶えようと言った。

 それの答えに下界の者は、『異世界に行きたい』と言った。そこも問題は無い。だが、さらに要求は続き、『異世界に行くにあたってスキルが欲しい、自分だけの』とも言った。


 そこで要求したスキルが問題だった。

 下界の者が望んだ力は、【創造】。その世界の書物、まぁ、ライトノベルなのだが、創造さえあればその他はいらない、と行きついたらしい。

 それを下級神が許諾したことでその下級神は消された。跡形もなく。下級神が許可を出したからといって創造は与えられない。だから、上級神に創造神への拝謁を頼んだ。理由も添えて。

 その瞬間に一柱の矮小な神が滅ぼされた。復活もできないように。


 そして、そんな愚劣で身の程を弁えない要求をした下界の者も消した。

 俺も神に対して不遜かな? と思った。人間如きが器に見合わないことをほざいて増長していることも消した要因の一つ。

  人などでは処理しきれない常時更新され続ける情報。必要なのは、世界という膨大な情報を管理しても余りある容量。

 一分の可能性もない。


 それ以来下界の者が神界に来た場合は愚鈍な要求をして口に出すようなことがあるのか、と神界でのタブーになっていた。

 その後、俺が神欲しいな、と思ったら、その瞬間から神が一人増えていた。いくらでも替えが効く。

 今回のことでそこまではしないだろうが。


『そうだな、お前が来たことでこいつの許容量を突破して頭がおかしくなったんだろう。それよりもこんなのが今では高位の神官になるとは。じゃあ、軽ーく呪いでもかけてくれないか?』

『イイノデスカ? コイツラハ創造神ヲ卑下シテイルノデスヨ。モット苦シミヲ与エタ方ガイイト思ウノデスケド?』

『そんなのこいつらには耐えられないだろ。何事も適度な行いがいいんだ』

『創造神ガソウ言ウナライイデスケド』

『じゃあ、神の言葉を伝えてやって。俺のことには触れずに』

 タナトスは特殊な言語から下界の者にも通じる言語に切り替え、跪く神官たちに口を開く。


「お前たちは多少教えが違うからと他人に刃を向け、傷つけるのか? 異教徒・無神論者であれば、どう扱ってもいいというのがお前たちの教えか! これはお前たちへの罰であり戒めだ。お前たちが真に改心したなら、罰を解くとしよう」


 それだけを言って、【魔の神 タナトス】は光と共に消えていった。タナトスの呪術の内容は、五時間ごとに全身に刺すような痛みと壮絶な吐き気。これくらいはどの神でも使える呪いだ。唯一使えないのが、【武の神 ミロク】とその配下たちだけだ。彼らは魔術は使おうとせず、魔力を身体に纏うだけに使用する。


 祝福も呪いも中身は同じ。それが対象者にとって幸運か不運か感じるだけ。

 祝福だろうと対象者が望んでいなければ、呪いに変わる。つまり祝福とは呪い、呪いとは祝福。なら、呪いをかけても何の問題にもならない。何故なら、生物の感情はわからないんだから。対象者の主観で決まるのだから。


 感謝してほしいものだ。君たち聖職者が望み、欲したものが今、君らの中にあるぞ。













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