四十七話 創造神、迷惑をかける
階ごとに色々と揃っており、珈琲やら化粧品やらも置かれている。
「ん? あれ、おかしいな?」
会計をする所に見たことがある顔が二人。
「ここで何してんの、イニシア、アリア?」
「えっ! シオンじゃない! なんでここに?」
イニシアは大声で俺の質問に繰り返す。『それはこっちのセリフだぁ』とか絶対ツッコんでやらん。
「俺はここの代表の人と知り合いだから。で、俺の質問は?」
「えっと、私たちは……なんだろ? アリア、説明できる?」
「う、うん。たぶん。でもその説明は短くはならないと思う」
「俺が王都に送ってからのことだな。なるべく短く頼む」
「そうね。そこからこの都市に行こうとしたんだけど、この商会が王都に建てられてね、そこに入ったら私たちの昔馴染みがいたの」
イニシアの言う昔馴染みとは、メネアが救ったという少女たちのことだろう。
「それで、私とイニシアとその子たちで話していたら、いつの間にかエチゴヤ商会で働くことなっちゃって、今こうしてここで働いてるの」
「学園は?」
「いやぁ、なんか学園よりもこっちにいたら学ぶこと多そうだなぁって思っちゃって」
「ギルドへは?」
「まだよ。つい最近来たばかりだから。先日までは王都のところで働いていたのよ。でも、ここで化け物が暴れてたのは知ってるわよ。私たちもここで炊き出ししたんだから。それよりもここってすごいのね、あの騎士たちが苦戦していた化け物をエチゴヤ商会を守ってるゴーレムが追っ払っちゃったの! それに代表のメネアさんも物凄く強くて麗しいんだから!」
「そうか。すごいのかもな。だが、そんなことより報告は早めにした方がいいぞ。親が心配してる」
俺が渡したあのゴーレムは過剰戦力だったかな? でも、破壊されるよりは別にいいか。
「そのうちにね」
出会いに驚きはしたが、それらは彼女たちの決めたことだ。それに口挟むのは間違いだろう。
従業員の仕事風景を見ながらシオンは外に出る。
エチゴヤ商会があるのは、学園のある区画ではなく、商店やギルドが設置されているエリアになる。
商会からの道を下っていくと開けた場所に出る。
ちょうど時刻は昼時で、広場では多くの屋台で賑わっていた。
「お、兄ちゃん。エチゴヤ商会の人だろ。オーク肉の串焼きはどうだい。タダにするぜ!」
「よくわかったな。しかし、いいのか、店主?」
「おうよ、あんたたちにはすげぇ助けられたからな。これくらいの恩は返さんとな」
一本もらって、一口食べてみることにした。
「うん、美味いな」
「だろ! なりは小さな屋台だが、学生たちに人気なんだよ」
「あんた、エチゴヤの人なのかい? ぜひ、こっちも見て行ってくれ! なんでも一つタダにするぜ」
参道沿いの露店を見て回る。
「ふむ、ここはエンプレサ商会か。確か以前に代表さんから俺に苦情があったという商会の一覧に名前があったな」
シオンがその商会に入ると、ひげを生やした男が怒鳴っている現場だった。その商会には、客はいなく、閑古鳥が鳴いている。
「どの店舗も、軒並み売上げが激減しておるのか!」
このエンプレサ商会は学生や冒険者などに人気があったこの都市一番の商会であったが、エチゴヤ商会が来てから売り上げは下がる一方。
「エチゴヤ商会のせいですね」
「忌々しい! 私たちの商会の本店があの災害に潰された今に! しかも、先の化け物による騒動のせいであいつらの評判はものすごいぞ」
うわっ、エチゴヤのことを喋ってんのか。【スキル 隠形】でバレないように見るとしよう。どうせ欲しい物なんてないだろうし。
どこから見ようか。ここはうるせぇし、二階を見てくるか。普通の商会はどんなものを売っているんだろうな。
「営業再開が異様に早いな。あそこは、あの化け物に襲われなかったのか!?」
「いえ、化け物はあそこも襲っていたそうですが、警備をしているあのゴーレムが全て退けていました」
「それほどに強いゴーレムなのか。まったくなんなのだ、あの商会は!」
エチゴヤ商会が創業されてより、様々な商会の売上は急落。大半の客はエチゴヤ商会に流れ、常連も移ろうとしている。
「クソ、どうすればいいんだ!」
「ドナルドさん、いい案があるんですが」
「なんだ、打開策があるのか?」
「いえ、そうではないんですけど、あの商会のトップのヘルメスの親族がいるみたいなんです。ですから、そいつを誘拐して脅せば、エチゴヤ商会の利益頂いちゃいませんか? 他の店だってあの商会に少しくらいは妬んでますからきっと協力してくれますよ!」
「ま、まぁ、最後の手段としては、いいかもな。しかし、その親族のやつは誰なんだ? ここにいなければ、奴を脅すなんてできないぞ」
「それがいるんですよ。名前はシオン。学園に通っているそうです」
「シオン? そいつはあの化け物を倒した奴じゃないか! そんな奴を捕らえるなど無理だろう?」
「確かにあの化け物を倒せたかもしれませんよ。でも、所詮は子供。しかし、その襲うのは、ヒューマン。人を傷つけるのを怖がって捕らえるのも簡単かもしれませんよ。それに、実際あの化け物を子供が倒せるなんておかしいでしょ。どうせヘルメスからもらった魔道具で倒したに決まっています。その他にも、毒殺してしまうなんていいかもしれませんよ」
「確かにな。あんなガキが騎士でも倒せねぇ化け物を倒せるとは考えにくい。その前に確認だ。本当にエチゴヤ商会は黒い事をしていなかったんだな」
「ええ、闇ギルドの連中に調べさせましたが、全くでした。それどころか商会の中に忍び込むこともできなかったそうです。全てゴーレムによってやられたみたいで。そして、この情報は普通に帰宅する店員の後をつけまわしたりして調べた結果です」
「そうか、どうして創業してから数日でここまで店を大きくできるんだ。絶対に何か大きな力が働いているはずだ」
「はい。それ以外にもエチゴヤ商会の悪評を何気なく広めようとしたのですが、住民たちやエチゴヤ商会が助けた者たちから店を出入り禁止などにされているようです。加えて、同じようにシオンの悪評も流そうと試みたのですが、シオン見守り連合なる組織にその場でボコボコにされたそうです。この他にもシオン積極会やエチゴヤ至上派などの組織があるそうです」
二階を見てきたが、何にもなかったな。あるのは、効力の低いポーションやすぐに壊れそうな魔道具。粗悪品ばかりだ。いや、今の世界の現状からすれば、いい状態なのかもしれないが。
今の商会状況はこんなものだったのかな。これならエチゴヤが繁盛するのも納得だ。むしろ、商会や研究者たちは何をしているのだ?
ここはもういいな。
一度、教会にでも行ってみるか。気は進まねぇな。
教会は、中央広場から少し南に向かった場所にあることを【固有スキル マップ探査】で確認し、移動する。
この学園都市で最高の神官はレベル40と高め。称号は神官長。大司教以上の位階、枢機卿と教皇、大司教は聖法国にのみ存在する。
聖職者系統の職業に教皇がある。ところが、この世界のどこにももういない。聖職者職業の一段階目が修道士。これは教会に入門しある程度修業することで第二段階のプリーストになる。三段階目の神官には誰も成り得ていない。称号のみ神官が付いている。
教会の位置はすぐに分かった。この街にしては、大きい教会だったからだ。
「この学園都市でこの規模の神殿が必要なのか?」
シオンは考えながら神殿に入る。正面すぐに教会の受付嬢が座っている。
「今日はお祈りですか? それとも治療――ではなさそうですね」
受付嬢は入ってきたシオンに声を掛けてきた。
「じゃあ、祈りで」
教会はこの世界の中心であり、中立。……と信者には認識されている。
そして、ヒューマン至上主義者の集まりでもある。
それ以外の種族は奴隷とすることを当たり前と考え、すでにいくつかの種族の集落を襲撃したりしている。
嫌いだ。自分たちを神の代行者だと思い込んでやがる。腹立たしい。
「お祈りは中銀貨一枚になります。あと、司祭様ですが、お約束がない方とはお会いにはなりません」
教会でのお祈りは、お布施であり、料金ではない。各個人の判断で金額は決められるはずなのに、この教会は金額設定していることに、シオンは疑問に思った。しかも一度の祈りで中銀貨一枚のお布施としては高額すぎだ。
「この教会では祈りをするのに、お布施の金額まで指定しているのですか? 他の街では、各個人にお布施の金額は委ねられているはずですが」
そういう決まりなのかもしれないが、一応言ってみる。
「私にそんなこと言われても困ります。司祭様からの指示に従っているだけですので。払えないのならお帰りください」
「そうですか。はい、中銀貨一枚」
シオンは金を受付嬢に渡して神像のある広間に入る。
相も変わらず教会は腐っている。もう少ししたら聖女がエチゴヤ商会に来るはずだし、その時にでも教会の内情を聞き出すとしよう。
神殿内はベンチなども用意されて、参拝者がその神像に向かって思い思いの格好で祈りを捧げている。
さて、俺はどうしようか。俺が他の神に跪くと、後々争いになりそうだし、神界で。
この神殿の神像は芸術や学問の二柱の姿をしている。芸術の神パラスも学問の神ムウサも中級神で賢神イヴのもとで働いている神だ。俺が二柱に祈りを捧げると、イヴに恨まれて仕事量を増やされたり、その他の神に目の敵にされたりする。二柱に迷惑をかけるわけにもいかない。
しかし、ここの神官たちに怪しまれないように祈りをしなければいけない。
シオンは多くの信者が地面で拝む中、ベンチに座り、足を組み、目をつむる。
神殿で祈ると、なんとなく神の気配というものが感じ取れるのだが、シオンはその神の気配を完全に捉える。これは信者の高位の神官が祈りを捧げてようやくそれっぽい気配が分かりそうというくらいだ。これは聖職者たちが修行の一環として行うものの一つであった。しかし、シオンはそれを軽々と成功させる。
『おーい、誰かいるか?』
『はいはーい、誰ですか、あなたは?』
『あー、シオンです』
中級神の女神が応対してくれる。
そういえば、最上位神にしか俺が下界に行っていることは知らなかった。
『で、何しに来たのです?』
『えーっと、……』
うわ、どうやって伝えればいいんだ!
ここで『創造神だ』なんて言っても信じてもらえそうにないし、信じてもらっても大騒ぎになりそうだし。
『はぁ、たまにいるんですよ。そうやって我々神に会ったら何かをしてもらえる、加護を与えられる、とか考えてる者が。言っときますけど、そういうのないですから。精々迷惑料としてスキルを渡す程度ですけど、あなたは自らここに来たわけですから何もありませんよ。もう最近の神託は聖女に伝えましたし』
なんか俺、説教されてね?
『ひゃっふー、アイゼンだー』
『これは、【風の神 アリファール】様。本日はどのようなご用件で』
『ああ、アイゼンに会いに来たの』
『それは我らが創造神様、アイゼンファルド様ですか?』
『うん』
『それで創造神様はどちらに?』
『目の前にいるよ?』
『それでこの少年と創造神様がどのような関係が?』
『え? この方こそがアイゼンだよ』
『はい? いや、この少年はヒューマン族ですよ』
『だって今は下界に降りてるんだもん』
『え!? そうだったのですか!?』
『でさ、アイゼンは何してるの?』
『神殿で祈り中。ここには、聖女の件を聞きに来たのだ』
『あぁ、聖女ね。それねぇ、私がやったの。アイゼンのためになったかな。ねぇ、私偉い? 偉い? 役に立った? 立った?』
純粋に笑顔で聞かれると、返答がしづらい。
実際にデメリットはあまりなく、聖女というメリットが来た。役に立ったか立ってないのかと言われれば、役には立っている。だが、事前に一言伝えてほしかった。
『まぁ、今聞けたし、そろそろ戻るとしよう。また今度神界に戻ろうと思っている。皆によろしく言っておいてくれ。それと君、今の俺は創造神ではない。だから、頭を地にふせるのは、やめてくれないか』
アリファールが俺を創造神だと言った時からずっとそうしている。
『いえ、私は創造神様に不敬を働いてしまいました。なので、どうか愚かなこの身にどうか罰を!』
『いいから、それよりもすまんな。ムウサよ』
彼女は【学問の神】で、俺が今いる神殿の神像は彼女を模している。ここが学園都市であるから、テスト前なんかは彼女に祈る者がいるらしい。
彼女より上位の神である【賢の神 イヴ】などは、学生向きでは無く、もっと高水準の学者向けなためにここではその下である中級神ムウサが祀られている。
『私ごときの名を!! それに私ごときに掛けるその慈悲深く御心。蒙昧なこの身にも掛けてくださるとは!! ごほんっ、申し訳ありません。それで何が、でございましょうか?』
『えっと、たぶんこの後に多くの神が君に押し寄せるだろうから』
彼女は俺の言葉をまだわかっていなかった。俺は前にそうなった状況を見てしまった。今回も同じような状況になるだろう。
『? この愚鈍なこの身に執行される罰であれば、受ける所存です。ですから、どうか創造神様、この身に罰を!』
ムウサは、マゾスティックなのかな?
『さ、ご命令を! まずは、魔族を滅ぼしますか? それともヒューマンの方で?』
『そうだよね! 私たちのアイゼンに舐めた口きいたんだから当然だよね。お前も下界のクソ共も』
こらこら。さらに状況を悪くするんじゃない。
『ダメだよ、アイゼン。全世界の支配者、神々や天使、悪魔、生物の頂点であり、全てにおいて完璧な創造神であるアイゼンが甘いと舐めてかかる馬鹿が増えちゃうんだから! 時々、「自分たちの上級神の方が優秀だ」なんて宣って昇神を私たちに訴える愚劣な神が出て来ちゃうんだよ』
へぇ、そういうのいるんだ。我が一から創造した他の最上級神から派生して出来た神々。性格も色んなのがいる。
だけど、共通しているのは、我が姿を現すと皆同じように平伏し、絶対の忠誠があることだ。
たまに間違いを起こしてしまうこともあるが、そこは親というか生み出した者の責務。間違いは正していく。その間違いも我のためにという理由から暴走してしまった結果だ。
ムウサの問いかけは丁重にお断りして何とか止めておいた。
・・・
「神官長様~!!」
「騒がしいですよ、何事ですか?」
「神官長様、騒動の後に聖女が受けた神託の内容を覚えていらっしゃいますか?」
「ええ、忘れるわけがありません。聖女様がただの一商会に派遣なさるという衝撃の内容でしたから」
「はい。その商会の一員がこの神殿に来ています!」
「そうですか。文句の一つでも言いましょうか?」
「しかし、もし反抗をしてきたらどうするんですか?」
「そうですね。もし、我々に楯つく様なことがあれば教会の力を見せるとしましょう。商会を壊すことや国同士の戦争にでもして国ごと後悔させてやればいいことでしょう。私たちは神に愛されたヒューマン。獣人族と親しくなろうとするようなこの国は汚れてしまっている。この国ごと浄化をするのです。神の意向に沿って行動する敬虔な信徒なのですから私たちの行いに間違いなどないのです」
その他にも神官は時々冒険者に付いていくということもある。もちろん回復要員として。そこで神官たちがこの国から去ることになれば、神官を利用していた冒険者から怒りを買うことになる。私たちに反抗するなんて愚かな真似をするはずがない。
「はい。さすがは神官長様。あなたのようなお方こそ聖者に相応しきお人なのですね」




