四十六話 創造神、越後屋商会へ
俺はメネアと寮に戻る。
帰る途中にイザベラに襲われ、この問題を追及して糾弾してもいい。だが、こいつの親御さんに賠償を請求してもさらに話が長引き、面倒になるだけ。
かくして選抜大会は終わった。
大会というよりは騒動を終えた俺ら生徒に待っていたのは、三日間の休みである。
しかし、俺にはすることがない。
特に行きたい場所があるわけでもない。
いや、あるにはある。昔馴染みのやつらに会うことだ。だが、それは三日では行くことができない。この身体ではマーキングしていないため、行き方は記憶しているのだが、転移ではたどりつけない。
「主様、ぜひ来ていただきたいところが」
「どこ?」
「エチゴヤ商会でございます」
「そうか。そういえば、俺はメネアに武具や回復薬を渡していただけだったな」
「はい。ですから、私の成果を見ていただきたく」
「よし、じゃ、行くか」
メネアに連れられて学園都市のメインストリートにやって来た。朝から通りは人が溢れていて、一等地にある店はどれも繁盛している。屋台なんかも出ている。中でも群を抜いて人が多いのが、案内された商会だった。
「なぁ、メネアよ。ここはなんだ?」
「エチゴヤ商会ですが?」
「本店か?」
「いいえ、支店です」
そびえ立つ新築の豪華建築物。
そして入口には長蛇の列。並んでいる客も全て貴族かその関係者。一目でわかる上客ばかりだ。最後尾にはプラカードを持った店員が立っている。
「エチゴヤ商会を立ち上げたのってついこの間だったよな?」
「はい。今では、こうして支店を開けるほどになりました」
俺はメネアに連れられ、店に入る。俺は客として来たのではなく、初出社だ。任せっぱなしだからこの商会が俺の商会と言われても申し訳なさが少し出る。
最近、王都ではなく学園都市にいたのはそういうことだった。
王都の本店は代表を任せられる者に預けてこっちに来ているらしい。本業の王都の屋敷の方も任せられる位にはメイドたちを育てていたみたいだ。
「おい、ちゃんと並べよ。ここは、たとえ貴族様だろうと列に並ばなきゃいけないんだぞ」
「いえ、私は……」
列に並ぶ者からの声にメネアが弁解するよりも早く店員が気づく。
「代表、おはようございます!」
その店員の挨拶から次々と別の店員から声をかけられるメネア。俺の話題も出ている。
「何度も言いますが、私は代表ではありません」
「はい。わかっております、代表」
注意をしてくれた男は今も戸惑い、列に並ぶ貴族らしき者は関係を築くチャンスをうかがっている。
「すまなかったな、あんたがここの代表さんだったのか」
「いえ、私は代表を務めますヘルメス様の補佐役でございます」
「すみません。通してください」
少女は息を切らして人混みの中を搔い潜り、メネアの前で止まる。
「メネアさん、お帰りなさいませ。本日は会議の予定は入っていなかったと思いますが? それにそちらの少年は誰でしょうか?」
「この方はシオン様で私がお仕えさせていただいている方です。主様、こちらはカルナ。エチゴヤ商会で秘書をしています」
「シオンだ。よろしく」
「……カルナです。よろしくお願いします」
カルナは不機嫌そうに挨拶を返す。
「メネアさん、本日はどうしてこちらに?」
「私が来てはいけませんか?」
「いえ、そういう訳ではなく、会議やどうしても来なければならない日以外は滅多に来ないので……」
「まぁ、そうですね。今日は主様にこの商会を見ていただきたく来ました」
「はぁ、この少年にですか。わかりました。くれぐれも重要な物には触れないでくださいね! では、メネアさん、私はここで失礼させていただきます」
カルナはメネアに書類を渡して店の中に戻っていった。
「失礼しました。普段はしっかりしているのですが、どうもまだ他者への嫌悪が抜けていないようでして」
「彼女は奴隷だったのだ。無理もない。ここに馴染んでいるのなら少なくともこのエチゴヤ商会とお前は信用に値しているということだろう」
「ありがとうございます。では、エチゴヤ商会を案内しましょう」
「ああ。だが、かなり混んでいるな」
時々メネアに見せられる売り上げのレポートから考えて順当なのだが、ここまで繁盛しているとは思わなかった。
商会の一階は、嗜好品や生活必需品、工芸品、魔道具が中心。
内装は明るく、字の読めない者にもわかるように絵での説明も付いている。
従業員の一人が「私、絵描いてみたいです」と中々のやる気を見せていたので実力を見せてもらった。
こんなところに才能を持った者がいた。
「私、昔から地面に絵を描くのが好きで……」
絵描きは貴族がお抱えにしたりしているため、少ない。見つけられてよかった。
二階は武器の販売スペースになっている。
俺がメネアに渡しておいたそこそこのレベルの武器や防具やそれらよりも強力な武器も。当然強力な武器たちより高価な値段が付けられている。他に修理や相談の窓口も。
武器は殆どが王都の屋敷にいるドワーフ族のタイタンの作成。
三階は、回復薬や魔術が込められたアクセサリーとなっている。
ここはランク上位の冒険者か貴族、それに仕えている騎士が多い。アクセサリーは貴族。それ以外は回復薬。
調合の相談もある。今までの回復薬は苦かったり、不味かったり。しかし、その味の問題を多少の効果の低下の代わりに欲する者が結構いる。
四階は従業員用の休憩室や執務室になっている。
ここも時に満員御礼状態になるらしい。どういうことかと聞いた結果、トップに挨拶したいという者が多いらしい。
顔を繋ぎたいということだそうだ。メネアの評価では、店の繁盛振りに危機感を覚えた連中で、直後に行動する行動力は評価してもいいが、過小評価し過ぎてここまでになるまで焦る様子もなかったため視る眼がないということで評価が下がっている。
俺はメネアの案内で各階を周り、四階の執務室で互いにソファーに向き合って座り、作業をする。執務室は奥に仕事机があり、その手前にソファーが向かい合ってその間に机が置かれている。
扉の向こう側では従業員が聞き耳を立てているため部屋全体に防音の魔術をかける。
「カルナさんから受け取ったさっきの紙は何だったのだ?」
「これは完売してしまい、追加しまければいけない物です。それとこれは、どうやら主様の資料のようですね」
「……そうか。最初のに書かれているのは、アクセサリーや宝石が多いな」
「はい、貴族の奥様方がよく買われていきます。追加の補充はまだか、と問い合わせと予約が来ています。次に多いのは、武器ですね。希少級の方ではなく、特上級です。これは冒険者が多いですね」
「なぜだ?」
「理由はここの都市の冒険者のランクが低めであることでしょう。この都市のギルドの平均ランクは、Cランク。これはエインリオ様やネーヴァ様がここで登録し、主様の効果で少しばかり平均が上がっているようでして、主様たちを除けば、平均Dランクになります。そして、多くの街には特上級が多くあるだけでも珍しいらしく、通常Dランクでも一般級を使っているそうで、希少級ともなればA、Bランクの僅かな者が持つ武器のようです」
特上級の武器は大銀貨一枚でも飛ぶように売れるらしい。希少級も金貨5枚でもすごく売れるみたいだ。
「そうか。宝石類の方はこの間、選抜戦があったからだな」
「その通りでございます。自分たちの子の雄姿を見に来る貴族の方や将来を見越して見に来る方が、ついでにここに訪れ、買っていかれました。特に売れたのは、宝石の中に絵柄が入ったものが人気でした」
「わかった。それらは追加を用意しておこう。職員の方はどうなっている?」
「はい。従業員は私が拾ってきた者となっています。以前に話した少女たちをリーダーにいくつかの部門に分かれ、仕事をしております」
「商会の防衛はどうだ?」
「主様からもらったゴーレムを使っています。初めは忍び込もうとした者がいたそうなのですが、ゴーレムによって排除に成功。次の日の夜襲では、増員したようですが、同じく排除に成功。以後、エチゴヤ商会は狙われなくなりました。夜襲を行った者は、衛士に引き渡しました」
「あのゴーレムで事足りたか。一応まだゴーレムはいるのだが。ここの警備をしているゴーレムより強い……」
「では、他の支店で一部の防衛を冒険者にしているところに配備させていただきます」
「わかった。念のために作業員たちに防御系の魔道具を渡しておこう。形は腕輪か指輪なら装備しやすいだろう」
「わかりました。装備を義務付けます。ところで、武具やアクセサリーの生産はどのくらいになるでしょうか?」
「とりあえず、明日には一通り200ずつ用意しておこう。他の所もこんな感じなのか?」
「はい。ここまでじゃないにしろ、似たような売れ行きです」
「王都に200、他は50~100ってところでいいか?」
「それで十分かと」
「回復薬はそのうちに俺の生産からスラムの者に移し、仕事を与えようと思う」
「わかりました。そちらの準備も進めておきます。それと住宅街の修復の件ですが、援助を進めております」
「あれ? メネアに言ったっけ?」
「いえ。これは黙示録様の提案です。主様ならこうするだろう、と私に勧めてくれました。現状で4割ほど修復できています」
「そうか。エルは役に立っているか?」
「黙示録様がエチゴヤ商会の経理や総務、人事をやっていらっしゃるので私としても助かっています」
エルの貢献度がすごいことをメネアに細かく説明される。
これで魔道具でもいいからこれだけ文明の利器が行き渡れば、これに近い発明が生まれるかもしれない。それに生物の強化ができ、人の質も上がるはずだ。
「それとエチゴヤ商会に就職を希望する商人、職員、学者が売り込みに来ていました。審査をすでにしたのですが、あとでリストを渡すので最終チェックをお願いします」
「ああ、見ておく。俺もそのうちヘルメスで挨拶とかしようと考えているのだが……」
「そうですね、一度トップの顔をお見せしてもよいでしょう。しますか、今日?」
「今日か!? この後の用もないから構わないが。従業員の迷惑になるだろ」
「いえ、今日は聖女の商会参加を伝えるため終業の後に皆を集める用意をしていたのです」
「で、それに追加でヘルメスの紹介か」
「はい。その予定です」
「わかった。それと俺の方からも一つ提案がある」
「提案など仰らずとも主様は好きにこの場所をお使いになっていいのではないでしょうか?」
「俺にだって間違いはある。そのようなことを言うな。ここはお前たちが立ち上げた立派なお前たちの居場所だ。それを俺は非議したくない」
「っ! ありがとうございます」
「それで話を戻して、俺は学園を見てきたわけだが、今の子供の知識レベルはひどい。だから、知育玩具の発売もしようと思う。これも会議の内容に付け加えておいてくれ」
「はい!」
テンション上がってんなぁ。いきなりどうした?
「この後、俺は他の店の様子を見に行くが、メネアはどうする?」
「私はもう少しここにいますので、用があれば呼んでください。失礼な者がいれば私が教育しますので」
ちょっと金を稼ごうとしただけなのに、こうも繁盛するとは。何かの前兆か!?
他の店はどんな感じなのだろう。
「あ、ああ、その時は任せる。それと忘れていたが、カルナさんの調べた俺の資料には何と書かれているんだ?」
「そうですね。ほとんどが空白です。家族構成の欄にヘルメス様の名が。それと戦歴ですね。大したものは無いかと。罰を与えますか?」
「いや、何もするな。よっぽどお前を心配しているのだろう。信頼されているな。だが、越後屋の諜報機関が一人の勝手な意思に使われては腐敗の一途をたどることになるぞ俺が言えたことではないだな」
俺は執務室を出て、階段を降りる。




