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閑話 学生、疎む①

アスカロンは気にくわなかった。


あいつは編入時から何かと注目を集めていた。

あいつが平民であることや試験の時に起こした学園の訓練場破壊騒動によって多くの生徒はあまり関与しようとしなかったはずだ。


なのに、あいつは多くの授業で教員を驚愕させるような結果を出していき、多くの生徒を引き付けている。


そして、あいつに選抜大会で数々の強者たちは悉くあいつにやられていった。

教員や他の貴族が集まる選抜大会でこれだけの活躍を見せれば、シオンに関心がなかった奴は興味を引くだろうし、関心が合った奴はさらにあいつに惹かれていくだろう。

それだけあいつは自分の実力を見せつけ、理解させたことだろう。


選抜大会の初戦から生徒や貴族の話題に出るのは、当然優勝が予想される者たち。稀に僕が出てくる程度、だというのにシオンの名前は頻繁に呟かれる。


目の前でシオンが行った現実とは受け入れがたいほどの闘いを思い出し、僕の率いる一団は熱のこもったやり取りをする者、あまりの格の違いに顔色を悪くするものなど、生徒たちの反応はそれぞれだ。


僕もこの公爵家に伝わる指輪がなければ、彼らのようになっていたかもしれない。逆に言えば、これさえあればあいつ程度なんてどうにでもなるということ。


この指輪、ルイン公爵家の宝――名をトゥジュール。これは装着者と契約をした者から魔力を供給できるという国宝の中の特質級に匹敵する希少級の指輪。これを僕の父上はこの大会のために貸してくれた。


渦中のシオンは、あいつの周りにいる奴らに選抜大会に備えた訓練のために奔走していたと聞く。これは勝負が見えたか。


次の試合はあいつと僕の闘いだ。

「さぁー、次の試合はシオン選手対アスカロン選手の対決です。両者ともに非常に優秀な学生と聞き及んでいます。シオンくんは数々の授業で上位の成績者として名前が挙がる生徒だそうです。色々な戦い方ができるということでしょう。対するは、アスカロン・ルイン様! ルイン公爵家の神童であり、術者として最も評価されている魔術師であります。そして、なんとアスカロン様は公爵家に伝わる秘術を使用することができるそうです。私もぜひとも見てみたいものですね」

大会進行者が僕の紹介をする。ふっ、この僕の力、あいつよりも僕の方が勝っていることを証明してやる。


「シオン。僕はね、とても悲しいよ。この選抜戦はそれぞれの学園から最も強い生徒が親善試合に出場するための戦い。王国の才能ある者たちの神聖な戦い。それなのに……」

そうだ、こんな平民がこの舞台に立つこと自体が間違っているんだ。ここであいつを引きずり降ろしてやる。


「アスカロン様は俺が親善試合にはふさわしくないと?」

シオンが当然のことを聞いてくる。何が違うというのか。


「その通りだ。本当に選出されるべきものが誰かを皆に知らしめるために僕がお前を倒す」


「精々俺を愉しませてくれよ、お坊ちゃん」

減らず口を。この僕の力を見せて絶望させてやるよ。


僕は指輪に魔力を通し、みんなから魔力を受け取る。すごい、みんなの力が僕に来るのがわかる。この程の力を持つことも出来ないとは、あいつは残念なことだ。せめてこの強大な力で叩き潰してやるからな。


「お前ごときが親善試合の代表として出場することはあってはならない。そして、お前が代表としての実力がないことをこの僕が証明してやろう」


「それでは、双方用意はいいな。はじめ!」

司会者の合図が出た瞬間に僕はあいつに魔術を唱える。さぁ、慄け! 自身が間違っていたと悔い、跪け!


「◆◆ ◆。【火魔術 火の矢】」

この指輪の効果で魔術も強化されている。これが僕の力。下級魔術も中級並みにまで強くして使うことができる力。目の前には、憎たらしい相手と十本の火の矢。


それに対し、あいつが使おうとする魔術は基本中の基本、最低位の魔術の魔力の矢だ。

そんな魔術で僕を止められると思っているとは、実力の差も測れないなんて。あぁ、この僕が身の程を教えてやろう。僕に教わるなんて栄誉なことだぞ。


あいつの魔力の矢と僕の火の矢の衝突によって鼓膜を震わせる破裂音と衝撃が連続し、発生した衝撃が僕の頬を打ち、髪を震わせた。


「ばかな。あり得ない。僕の火の矢を最低位の魔力の矢程度の魔術で相殺だと! あり得ない! あってたまるか!!」

落ち着け。落ち着くんだ、アスカロン。僕は神童だ。天才なんだ。こんなところで負けていい人間ではない。


「いささかお前を侮っていたよ。畑を耕すことしか知らぬ土臭い者が、まぐれでこのアヴァントヘルム学園に来れるわけもないか。しかしだからこそ余計に目障りというもの。分を弁えたまえよ」


『お前は間違えていない。間違っているのは、あいつの方だ。お前は選ばれた人間なんだ』


そうだ、それでいい。僕は間違ってなどいない。


「代々我が家にて洗練された魔術、ルイン家の力をとくと見たまえ。さて同じ芸ばかりではせっかく集まってくれた皆を飽きさせてしまうな。僕のとっておきだ」

この指輪さえあれば、上級魔術も唱えることができるようになる。


「◆ ◆◆ ◆……。【火魔術 紅焔光輪】」

僕の周囲の熱量が上昇し、豪炎が生じたかと思えばそれらは蛇の群れの如く動き、アスカロンの両手の間に集中し、ぐつぐつと沸く溶岩のような塊が巨大な球体を作る。

くくく、観客たちも驚いているな。そうだ、僕はすでに上級魔術を制御し、使うことができる。


「死ね!!」

僕の放った紅焔光輪はシオンの手前で爆裂し、シオンの身体を焼き尽くしてボロボロにするだろう。まぁ、それでも身代わり人形が何割かは防いでくれるだろうが、それでも上級魔術に加えてこの指輪の力だ。身体に何かしらの悪影響は与えるだろうな。


そして、審判はこちら側だ。僕の攻撃を中断させようとはしない。後悔しながら僕の力に跪け。


「ん? あの水は何だ? あれも魔術なのか?」


僕の火魔術を消していく水の側に無傷のあいつがいる。

いくら火魔術は水魔術に弱いからといって上級魔術であり、僕たちの魔力を注ぎこんだ火魔術が消されることはおかしい。


こっちは何十人分の魔力が乗った火魔術なんだぞ! 他の上級水魔術でも消すことはできない。それをたった一人の行使した魔術で相殺だと!! いや、相殺どころか、あいつの魔術は今も残って僕を見ている気がする。いや、まさか、魔術が意思を持つなど在りはしない。


「そんな、僕の最強の上級魔術だぞ!? 身代わり人形を使わずに自力で防いだのか! なんだんだ、その水は!? そんな魔術を僕は知らないぞ!!」


「ふむ。知らないか。ではせっかくだ、教えといてやろう。これは、【水魔術 大瀑布(メイルシュトローム)】という。古よりあらゆるものすべてを引きずり込み飲み込む渦潮という逸話が残る海域を魔術にしてみたというものです。これは実に厄介な魔術でしてねぇ。まぁ、俺が自分で使っといてなんだがね」


「大瀑布? それが僕の上級魔術が消した魔術か! お前はそんな魔術をたった一人で使っているのか!! ふざけるな! なんなんだ、その魔術は!? そんなもの魔術ではない!! ……」

なんだ、急に喋れなく……。視界が! 見えない、何も見えない! それどころか何も感じない! 僕の身体はどうなったんだ!


気が付くと、僕は白い空間にいた。

足を一歩踏み出そうとする。しかし、いきなり無数の白い手に捕らえられた。息ができない。苦しい! これはいったいなんなんだよ!


腕、足、頭、胴体をしっかりと固定され、身動きができないアスカロン。

そして、そのアスカロンに近づく人の形をした何か。

その人らしき何かが触れた至る場所に激痛が走る。激痛で身体に力が入り、背中を反らせ苦しむ。












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