四十五話 創造神、驚く
たまに【固有スキル マップ探査】でリンの動向を見ていたのだが、一般の住居はほとんどが越後屋商会の回復薬で治っているので聖女の治癒はいらず、富裕層の住居は騎士たちが必死に守って多くの負傷者は出なかった。
少ない負傷者は俺が騎士たちに渡したマジックバックに入っているこれまた越後屋商会の体力回復薬ですでに治っているためにそこまで仕事は出来ていなかった。
こういうところで教会は、住民たちからの支持を集めようとするのだが、今回は一つの商会が事件解決のほとんどをやってしまってすることがない。
それでも遅れてきているのは、如何にも住民たちの傷を治してきた感を出したいのだろう。
「それでは聖女様、何か一言いただければお願いします」
リンに拡声の魔道具が渡される。
「今日、ついさっきですね、教会にて祈りを捧げていると神託を受けました。その言葉をこれから話します」
『神託』と聞いて驚かない者はいない。特に神託について知っている者は。
俺たちが下界の者に言葉を伝える――神託。それは俺たちが世界を統括しているのであまり問題は出ない。
だが、それでも少しは問題が出てしまう。
そんなときに事の重大さや起きている問題に対する解決策を伝えるためのスキル。
このスキルは一般スキルの上位の特殊スキル。ただ固有スキル程のものではない。固有に設定したスキルの場合、そのスキルを得られるのは、たった一人になってしまう。
神託にはそれぞれの神にいるのではなく、全ての神の声が聞こえる聖女という存在が四人いる。その神の声を聖女たちがそれぞれ判別し、伝える。と、こうなっている。
同じように勇者も複数いる。というか、召喚したら、しただけ呼ぶことが出来る。ただ世界に設定した上限はある。勇者召喚には、それなりに多くの犠牲があるので定めた。
勇者が複数いるということは、魔王も複数いる。勇者召喚しただけ増えるという訳ではないが。
「神は神託でこう仰りました。
『エチゴヤ商会の主に手を出したら神罰。はい、決定!』と。
これが神からのお言葉になります」
リンから発せられた神の言葉に会場の誰もが絶句し、顔を引きつらせる。それはリンのお供と護衛も同じ。内容は今聞かされたらしい。
落ち着きを取り戻した者は、パッとメネアと俺を見る。
メネアは越後屋商会の代表としてここにいる。俺は越後屋商会を立ち上げたヘルメスの親類となっている。
「聖女様、それはエチゴヤ商会がいずれかの神の恩寵を受けているということですか?」
大商会の者の一人が恐る恐るリンに尋ねる。
「はい。この言葉がどの神かは私にはわかりかねますが、少なくともエチゴヤ商会は神の加護を得ているということになります」
問いに壇上にいるリンが周りを気にせず、スラスラ述べる。
一体誰だろうな、そんなことをわざわざ言う奴は多いから分からん。
最上位神では、竜神カリオス・武神ミロク・生命神アイズ・水神クリスト・商業神ムク辺りはしないだろう。
前二人は、そのあたりのことに興味はなく、武術のことを主に考えている。
アイズは仕事に一生懸命でこういうことをやりそうにない。
クリストは仕事はしっかりとするのだが、ほとんどの物事に興味がない。
ムクはこういったことを嫌う。真に努力している者にこそ加護を渡すことがある。
それでも最上位神の中で絞ることはできない。それ以下となると余計に分からなくなる。
神には、下級神・中級神・上位神・最上位神といる。最上位神は俺のステータスの加護欄に全てある。
上位神は、最上位神の補佐を担っているため最上位神の加護があれば、上位神の加護は吸収される。中級・下級も同じようなものだ。
俺の場合は俺は最上位神であり、他の最上位神と同じような存在だが、他の最上位神は俺が生み出したために俺の方が上位の存在になっている。
同じ最上位にしたのは神の組織でトップになってもらい、俺の仕事を多くしないためだったりする。
「そして、神託はもう一つあります」
リンは堂々と壇上からホールにいた参加者たちを一望した。
先ほど『神託』と聞いて驚かない貴族たちはいなかった。しかし、その滅多にない神託がこの日に二度も行われた。
そのことにも参加者たちを驚かせる。
「では、もう一つの神託の内容を伝えたいと思います」
あ、なんか嫌な感じがする。あいつら、変なこと言ってないといいんだが………。
「神からの神託はこうおっしゃりました。
『リンよ、そなたはエチゴヤ商会にいる最も加護が多い者に仕え、その者に奉仕せよ。これは聖女であるそなたただ一人で行え。決してその者に対して支配しようなどと考えぬことだ』
これが神からの言葉になります」
「「「…………」」」
また誰一人言葉を発することはなかった。ここにいる誰もがその衝撃的な神託に顔を引きつらせている。
だ、誰だーーーーーーー!!
シオンはさらに困ることになった。
口調で言えばある程度絞れる。しかし、わざわざ口調を変えているという可能性がある。回りくどい事をしよって。余程暇なのか。
むむむ、納得はあまりいってないけど、俺のためにしてくれたことだし無闇に怒れないなぁ。
「私は神からいただいた神託に従おうと思います」
言い切ったリンは笑顔で頷く。
その言葉に国王含めて貴族たち、教会の神官たちもこれまた絶句である。
聖女といえば、この世界の教えであるそれぞれの教会の神の次に讃えられている人なのである。
「せ、聖女様……。それは余りにも無理が……あるのではないかと……」
「我々はどうすれば……。教会に何と報告を……」
神官や貴族たちがリンに近づき、説得を試みる。イスタールは全て納得という顔をしていた。人々にとっては驚きのことがあったにもかかわらず、オーランドはいつも通りな感じで俺と話し続ける。アリエスはまだ俺の腰から離れない。
「これは神託です。それに従わないと?」
「そ、それは……」
リンはそんな貴族たちを一言で黙らせた。
メネアに集まる視線の元には、流石と称賛する者、嫉妬に満ちた顔をしている者がいる。
先ほど投下された爆弾であれば、誰もがそういう反応をするだろう。聖女が商会に付けば、その商会は神に認められていることをここにはいない者でもわかる
リンがこちら――メネアのところまで歩いてくる。
「メネアさん、これからよろしくお願いします」
「ええ、聖女様。こちらこそです。ところで、なぜ私の名を?」
「もうかなり有名ですよ。そちらのシオンさんも」
「先ほどぶりですね、リン様。まさか、あなたが聖女様だとは思いもよりませんでした。改めて私の名はシオン。越後屋商会のトップの人とは親類でして、メネアさんには多少面倒を見てもらっています。もしかしたら、越後屋商会で一緒に働くことになるかもしれませんので、その時はよろしくお願いします」
「はい。では、私はここらへんで協会に戻らせていただきます」
こうして越後屋商会はさらに注目を浴びることになっていった。
全員が引きつった笑顔のまま後夜祭の終わりを迎えた。
イスタールの別荘から参加者全てが退出した後、俺は一室でぐったりしていた。
「主様、これはどういうことでしょうか? ……神の方々は主様に聖女を預けるということでしょうか?」
「それが分からんのだよ、メネア。あいつらが何を思ってリンに神託を使ったのか、そもそも誰が使ったのかも分からん。きっと楽しそうだったからとかそういう気分的な理由だろうな」
「それで聖女をエチゴヤ商会に入れるのですか?」
ここで否定すれば、俺は神を否定したことになる。それをするのはまずい。なんだよ、嫌がらせか!? でも、あいつらが俺を思っての行動かもしれないし。
「まぁ、入れてもいいだろ。聖女という看板が出来たってことで。ただ重要情報は見せないようにな」
「承知しております」
リンにその意思がなくとも、あの教会のことだ。どこから情報を奪っていくか知れたもんじゃない。俺やメネアが管理していれば、そんなことは起こらないが。
今度、俺も神託のスキルを創ろう。たまには、あいつらのところに行くとしよう。




