四十四話 創造神、戻る
周囲を見ながらシオンは学園に向かって歩く。
歩きながら救助活動をしていく。瓦礫を【空間魔術 格納庫】に仕舞っていき、【固有スキル マップ探索】に映る負傷者を見つけ出していく。
ある程度瓦礫を除去してから【風魔術 浮遊】で負傷者たちを空中に浮かせていき、軽傷者には【神聖魔術 治癒】を、重傷者には【神聖魔術 上位治癒】をそれぞれかけて癒していく。ここに居ない者たちにも治してほしいので、越後屋商会の回復薬を配る。
周囲の人たちから歓声や感謝の言葉が聞こえるのは想定内なのだが、中には膝をついて俺に祈りを捧げる人たちまでいた。
そういうのは、正直に困る。どう対処していいのかがわからない。悪人の対処の方が楽だ。
そうしてシェルターに向かっていると、教会の近くで神官たちが住民の傷を治そうとする。
学園長がサテュロスの全滅を確認したらしく、教会に住民の治癒をお願いしたようだ。だが、すでにほとんどの者の傷が越後屋商会の薬によって治っている。
ついでに住民の食料や住宅の支援も越後屋商会でやっておこうかな。
「これだけの被害を受けているのに怪我をしている方がいらっしゃいませんね」
「ええ、そうですね――」
どこかで聞いたような声が聞こえる。
「おや、久しぶりだな。お前はリンだったな」
「あれ、あなたはたしか私が盗賊に捕まった時に……」
「リナ様! このあたりに怪我をしている者がいません!」
リンと一緒にいた神官のリナが護衛騎士の一人と共に怪我人の探索から帰ってくる。戻ってきてすぐに俺を見て値踏みするような視線を向けてくる。
「本当ですね。これだけの被害を受けているのに怪我をしている方がいらっしゃいませんね」
「ええ、そうですね。越後屋商会が回復薬を住民に配ったそうですよ」
「なんですか、それは! その商会、教会の権力で潰しましょう! リン様の施しを奪うとは、何事ですか!!」
相も変わらずこの人はどうかしているようだ。リンも彼女の言葉にため息が出ている。
「聖女様、周囲の家があれだけ壊れているのに、街路に瓦礫一つありません」
「ええ、王都の騎士たちはよほど優秀なのですね」
歩みを進めながら護衛騎士の一人が感心したように、リンに話しかける。
騎士たちが優秀かは知らないが、それは俺がやったことだ。
さすがに、事件収束から少しの時間で都市中の瓦礫撤去をするには人手が足りない。
公園では何かしらの列が出来ていた。
リンが列に並ぶ主婦に声をかける。
「これは何の列ですか?」
「ああ、これかい。これはね、エチゴヤ商会の炊き出しと物品の安売りだよ」
まだ本調子ではない住民たちの中には、すぐに食事の支度をするのは辛そうな者がいたし、食欲的にも体調的にも食事が摂れる状態ではなかった者も多く、皆、空腹であったのだ。だから、用意させた。
「物品ですか?」
「そう。回復薬とか嗜好品とかが多いね。この事件のせいでどこの商会も潰されちまってそんな余裕なんてないだろうにこの商会だけはこうして炊き出しをしてくれるんだ。大した利益にもならんだろうに。この商会の人たちがあの化け物たちを退治していたのを見ていた奴らもいるみたいだね。まったくすごい商会が出来たもんだ」
その主婦の声を聞いて、近くにいた他の市民たちも顔を上げて口々に商会の自慢をはじめた。照れる。
まぁ、他の商会は、この騒動で多くが潰されて本店の方も俺のやった魔術で壊滅状態だ。他人を気遣う程の余裕がないだろう。
「儂は銀髪の兄ちゃんの回復薬で瀕死のところを助けていただいたんじゃよ。こんな老いぼれに高級な回復薬を使っちまうなんて慈悲のあるお方じゃ」
「凄かったのぅ。お姿も見えないほど速い動きで、騎士たちでも苦戦していたあの化け物どもをあっという間に倒してしまわれた」
「俺なんかヘルメス様から素晴らしい武器たちの入ったマジックバッグを頂いた、そのおかげで部下たちも守ることができたんだ。だから、その頂いた武器を返すためにこうしてこの列に並んでんだ」
「私たちがこうして生きていられるのは、エチゴヤ商会のおかげなんだ」
両手を合わせて祈り始めたのを見て、周囲の人たちも祈り始めてしまった。
むぅ、反応に困るぞ。その対応はどうすればいいんだ。注意は出来ないけど、その対象が目の前にいるなんてわからないだろうし。
だけど、メネアたちはうまくやっているようだな。ここで炊き出しをやっているのは、メネアが雇った者たちだそうだ。
少し迷宮に冒険しに行ったら盗賊に囚われていた少女たちを発見。即時に盗賊を撃退。その少女の一人は、貴族家の娘で兄弟たちの陰謀で殺されかけていたそう。そこで家を従者と共に出て行ったが、盗賊に捕まった。もうその家には帰りたくないそうでメネアが働き口として越後屋商会にスカウトしたらしい。
他の少女たちも似たような理由で越後屋商会に所属するようになった。その少女たちは今では秘めていた才能を発揮し始めるようになり、メネアがいなくとも立派に紹介を動かせるようになったそうだ。
「あっ、兄ちゃん!」
一人の少年が少女と母親を連れて俺の前に来る。
「俺たちを助けてくれてありがと!」
「もうあの化け物はいない。だから、安心しろ」
少年の家族から感謝の言葉が伝えられ、その後も俺が救援に行ったところから感謝が伝えられる。
「何ですか! リン様が来ているんですよ、聖女様です! なぜそんな商会風情に礼を言うのですか!」
うわーお。公衆の面前でまさかそれを言ってしまうとは。すごいな。
「何を言っているのですか、あなたは! 皆様、誠に申し訳ございません。彼女は先の事件で精神がおかしくなってしまったようですので、何卒ご容赦を」
リンが失言をしたリナのフォローに入る。
すぐに入ったことで住民たちは怒りではなくその神官に対してドン引きし、リンにはこんな従者をつけられて可哀想にという哀れみの視線をむけられる。
その後、俺は学園に戻り、リンは富裕層の怪我人を治癒しに行くそうだ。
富裕層のエリアには、人員が多くゴーレムや使用人がいるので俺は手を加えていない。人手があるんだから、自力でなんとかしてくれ。
・・・
シャナークをきっかけとした騒ぎも終わり、選抜大会は決勝を行わずに学園での成績上位10名で決定した。
もともと進出した時点で代表選手入りが確定している為、一部の観客の間で決勝戦を行う必要性や私たちが適当に流すのではという意見も出ているようだった。
上級生もこれと同じように選抜される。選抜戦を次の日に控えていた先輩は自分のアピールする機会を失って大変そうだな。
リリス会長やアリオットは、これがなくとも生徒会ということで進学は免除されるみたいだからそこまで重要視してなかったみたい。
親善大会の選抜戦は新しい年の一回目はトーナメントで上位10名、二回目は学園の成績上位10名が選ばれる仕組みになっているが、この騒ぎで都市が傷付き、もう一度選抜戦を再開させるのも時間がないために今回は今までの選抜戦と成績を見て決めるそうだ。
そして、騎士たちの業績をたたえるため、疲弊している生徒たちの余興を兼ねて後夜祭は開催されるそうだ。
結局、俺が副学園長に見せたサテュロスの死体は没収となった。
学園も騒動の化け物を倒したという証拠がほしいそうだ。
学園長も自分から言うことはできないが、アレを欲していそうだったので何も言わず副学園長が俺から取るのを待っていた様子だった。
だが、かなり高額で売ってやった。副学園長は怒りまくっていたが、『他国にでも売ろうかな』と言ったら歯ぎしりして買った。
ふふふ、馬鹿が悔しがる姿は、いつも面白い。他人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだ。何故だろう、クズがどうしようもない脅威に成すすべなく敗北する姿は本当に楽しい。
騎士団が倒したサテュロスは王家が管理し、協力してくれた冒険者にはイスタールからの褒美があるそうだ。
そして、イスタールの提案で単独であの化け物を倒したという功績から男爵位が与えられるらしい。
「初代様、申し訳ありません。男爵以上になると領地が付いてきてしまうので、今余っている領地を取り仕切ってもらうことになるかもしれません。しかし、一代貴族となるのでご安心を。それと、男爵位の授与は王国会議の時に行いますので、ここに迎えに来ます」
そうイスタールは嬉しそうに行っている。俺が爵位を上げることにノリノリなイスタール。
一代貴族、個人に付与される名誉であり、世襲することのないものだ。これなら無理やりにでも縁談を組ませようとする者は出てこない。
申し訳なさとか無いだろ、お前。
元々ワイバーンを大量に倒してしまったせいで騎士爵は決まっていたので、今更少し位が上がったところで我儘は言わない。もうやってしまったことだ、諦めている。
後夜祭が行われるのは、イスタールたち――王家の別荘でやることになっている。後夜祭のパーティーの参加者は、来賓と貴族、越後屋商会の代表、そして、親善大会に選ばれた各学年の上位10名ということになっている。
越後屋商会から出る代表というのは、メネアだけになっている。
メネアから用意されたスーツに着替えたシオンは、臨時の越後屋商会の特設会場からイスタールの別荘に向かう。
俺は私服でいいらしいからスーツなんていらないと言ったのだが、メネアに着せられてしまった。
メネアたちはその後、別荘での準備があるらしく俺より先に出ていった。
別荘への道を歩きで行く。
もう夜だ。
事件は終わり、首謀者と思しき薬売りの所在は不明。王家の情報部が手がかりを掴むべく動いているらしい。
「おいおい、兄ちゃん。こんなところで寝ないでくれよ飲み過ぎだぜ」
「いーから酒持ってっこいやぁー。すぅー……」
道には屋台が出て、人が賑わっている。大きな事件があっても、彼らの心は折れない。大したものだ。
イスタールの別荘に着くと、もう後夜祭が始まっており、イスタールのスピーチも今ちょうど終わったようだ。
食事は立食形式。すでに貴族たちがひしめき合い、選抜戦の話や復旧の話に華を咲かせている。
選抜戦の話の内容は活躍した選手のスカウト、復旧の話は越後屋商会と寄付金や教会の聖女だ。
ここに居る貴族はまとものようでただ自分の子供の試合をお忍びで見に来ていたそうだ。
たまに自分の子が負けた相手だと分かり、睨む者もいるが絡んでは来ない。そこまで愚か者ではないようだ。
睨む者、妬む者はメネアを見ている。
この一件で越後屋商会の株はものすごく上がっている。加えてどこの商会の本店も不幸なことにつぶれてしまっている。
この場にヘルメスがいないのでメネアを睨みつけている。
中には、メネアに対して別の感情を抱いている者の目線も見かける。
遅れてきた俺には好奇の視線を向ける。相当に目立ったということだろう。これなら越後屋商会のアピールはうまくいったということだな。
すでに始まっており、女子生徒をダンスに誘っている男子生徒も見える。了承をもらった生徒は中央で踊っているのか。何組かいる。
「おー、やっと来たのか、シオン」
「オーランドか。生き残ったようだな」
「おうよ、これからもお前から色々と学ばせてもらうぜ。ところで、なんでそんなにちゃんとした格好をしているんだ?」
俺を見つけたオーランドが服に疑問を持つ。
「これか。着せられたんだ、メネアに」
「あのメイドさんか。今日はいないのか?」
「いや、いるはずだ。商会の代表として来ている」
「商会? もしかしてエチゴヤか?」
オーランドの質問に首を縦に振る。
「その今や大商会の代表であるメイドさんがお前の従者なのか!?」
「まぁ、そうだな。ヘルメスさんとは親戚でな」
自分で自分のことを『さん』付けするのは、何か変というか嫌な気持ちというか、よくわからん感情だな。そういう風にしたのは、俺自身なのだが。
「あの黒髪の少年がシオンさんというの?」
「ええ、姉さま。この事件の解決の立役者でもあります。そして、次の王国の式典で男爵になる方です」
既にイスタールから貴族たちに俺の昇爵について伝わっているようだ。親御さんについてきた貴族家の少女たちが遠巻きにヒソヒソと話している。
こういう所でも将来が決まったりするので縁決めが行われたりするみたいだ。
しかし、俺はまだ無位無冠の小僧。爵位が与えられるまでの平穏の時間を楽しむとしよう。
「ちょっと怖いけど、話かけてみようかしら」
「だ、だめよ! 殿方に近づいたら、襲われてしまいますわよ」
「で、でも、ちょっと、いえ、かなりカッコいいですわ……あんな綺麗な殿方は社交界でもお見かけしませんでしたわ」
そんな遠くのご令嬢から聞こえる声にオーランドが隣りで俺をからかう。
……ああ、視線が痛い。
あからさまにこちらを凝視してくることは無いが、横目でちらりと視線と意識がこちらに向けられている。この会場に入ってきた時からずっと注目されているのが肌で分かる。
「人気もんだな、シオン。羨ましいぞ。しかも、さらに上級生の中にも狙っている人がいるらしいぞ」
「そんなことはいい。お前はどうだったんだ?」
「女の子じゃなくて貴族のスカウトが来たよ。まぁ、嬉しくはあるんだが……」
「シオーン! ひしっ! むふー」
オーランドと喋っていると、アリスが腰に抱きついてきた。
「シオン、この子は?」
「お前、知らないことが多くないか? 彼女はアリス。アリス・フォン・シルファリオンだ」
「…………お前、それって、この国の王女様じゃね?」
「ああ、その通りだ」
「『その通りだ』じゃねーよ! 王女様だろ、この国のお姫様だよな。あれお姫様って何だっけ? とにかくシオン、お前何してんだよ!」
「王族だからな、手を出すんじゃないぞ」
「むぅー、うるさい。やっぱり、シオンは、シオンだぁ」
意外とアリスが人前でも話せているみたいだ。俺と出会った当初はイスタールの後ろに隠れていたのに。
「教会から派遣してくださった聖女様が到着されました!」
リンもここに参加するらしく後夜祭司会者が拡声の魔道具で入室を拍手で迎える。




