五話 創造神、ハイエルフに会う①
シオンに野次馬の巻き添えから守ってもらっていた重要人物―――この国の王子、ルーファス・フォン・シルファリオンは、機嫌がよかった。
「あー、今日は面白いものが見れたなー」
ルーファスはギルドでの出来事を馬車の中で何回も思い返していた。
これを家族や友人、王城で働いてる者に聞かせたらどうなるか、を楽しみにしていた。
信じるのか、世迷言だと軽くみるのか、笑い話だと思うのか。
そんなことを考えながら、馬車に揺られていると、王城についていた。
「ルーファス様、国王陛下がお待ちです、こちらへ」
ルーファスは、勉強をほっぽりだしてギルドへ行っていたのがバレたのだ。
「失礼します。ルーファス様をお連れしました」
「うむ、入れ」
先代国王イスタールは孫のルーファスを真正面の椅子に座らせた。
「なんで呼び出されたのかは、わかっているな」
「わかってます。でも、収穫はありましたよ。ギルドでね、面白いことがあったんだ」
ルーファスは焦りながら言い訳をしたようだ。しかし、イスタールの表情は変わらなかった。
ルーファスはこの話の流れは不味いと思った。
「それは後で聞くとして、ちゃんと勉強せんか! もう10歳になり、アヴァントヘルム学園の入学試験があるのだぞ! 裏口入学など儂は認めんからな!」
「はーい。でさぁ、お爺様ー、ギルドで、ギルドでぇー、何があったと思う?」
「どうせ冒険者同士の決闘であろう」
「んー? まぁ、そうなのかなぁ?」
「なんじゃ、違うのか?」
「実は、僕と同い年くらいの子が、ギルドで冒険者登録をしていてね。Bランク冒険者が試験相手をしたんだけど、なんかよくわからないけど、野次馬たちやその相手の人がいきなり苦しみだしたと思ったら、その子の使った無詠唱の風魔術にあたりに行ったんだよ。わけわかんないよね。で、その子の持っていた剣がすごくきれ一だったんだよ。刀身は真っ黒で、魔眼を使ったら一瞬だけ見えたんだけど剣に魔力が纏ったら七色に輝いていたんだよ。もう一回だけでもいいから、見たいなぁ」
ルーファスがギルドでの事を興奮しながら早口で喋ると恍惚な表情をしていた。
ルーファスの祖父であり、先代国王でもあるイスタールは驚いていた。
孫の変わった表情にではなく、孫の言うその子の持っていた剣というのが子供の頃に読んだ絵本でよく目にしていた特徴と全く同じものであったから。そして、先々代国王、祖父の思い出話によく登場していたから。
イスタールはすぐに確かめようとした。
「その冒険者に至急、連絡を取り付けろ」
部屋の隅にいた老執事に命じた。
そんな父を見たルーファスは、
「どうしたのですか、お爺様?」
「その方、すごい人かもしれないぞ!」
「そうなの? でも、また会えるかもしれないんだね。やったー! 僕、すっかりあの人のファンになっちゃった!」
・・・
そんなことが話されているとは露知らず、シオンは宿に向かっていた。
≪マスター、そこの角を右です。その先直進20メートルです≫
≪お、あそこか≫
宿の扉を開くと、冒険者や商人がテーブルを囲って酒を飲んでいた。
「はいっ! いらっしゃい! お泊りですか? それとも食事?」
犬の耳と尻尾が彼女にはあった。どうやら彼女は獣人族のようだ。
「先に食事で、今空いている部屋ってありますか?」
「はい、空いてますよ、けっこう。それで何泊します?」
「銀貨1枚でどれくらいいけますか?」
適当に今ある金の600分の1の値を言ってみた。相場がわからん。
「そんなに使っていったい何泊するつもりなんですか――!」
え、そんな反応になるのか!
「うちは、一泊大銅貨1枚で泊まれますよ! 食事はだいたい一回中銅貨2枚くらいですし!」
獣人の子がぷりぷりと怒りながら言う。
「そうだったのか。では、とりあえず食事一回と一週間にするかな」
「はぁー、わかりました。食事一回と一週間の泊まりで8000コルですね」
疲れたようにため息をつきながら応対される。
「銀貨1枚で」
銀貨しかないから。なんかごめん。おつり大量になる。
「おつりの92000コルで大銅貨92枚ですね。えっと、えっと、ちょっと待ってくださいね」
やっぱり92枚ともなると、多くて大変になるんだな。小銭92枚って俺も嫌なんだが。
幸い空間魔術が俺は使えるが、この世界の人はどうしてるんだ?
「では、そちらの席でお待ちください」
シオンは、勧められた席で待っていると、ギルドで起こったこと同様、その場にいた女性がじーっとこちらを見ていた。そして、注文を聞きに来たウエイトレスの女性も頬を染めていた。
「えーっと、注文いいですか?」
「あっ! はい、どうぞ」
「肉と野菜のシチューと水をください」
酒も飲みたいところだが、明日があるから自制。
「はいっ! すぐお持ちしますぅー」
料理を待っていると、近くの冒険者たちが、
「なぁ、路地の方に冒険者が倒れていたんだが、お前たち何か知らないか?」
「はっ、どうせ、酔っぱらっただけだろうよ」
「そんなに珍しいもんでもないだろ」
「声をかけたらよー、気絶してるみたいだったんだよ」
「じゃあ、喧嘩でもしたんじゃないのか」
「まぁ、そんなところか」
聞いていたシオンは自分に心の中で「特になにもやってない、絡んできたからただちょっと殴ったら気絶しちゃっただけ」と言い聞かせていた。
考えているうちに料理がきた。
「お待ちどうさま」
・・・
食事を終わらせ、シオンは部屋に入ると、今日の出来事を振り返って、目立つことは特にしていないと、確信をしていた。
そして、翌朝、ギルドに向かうと、正面入り口に馬車が止まっていた。
ギルドのDランクの掲示板で仕事を探していると、カウンターから、
「はやく闘技場で暴れた冒険者を連れて来い」
と、うるさく叫ぶ貴族がいた。
「そんなことを言われても、冒険者の個人情報ですので、勝手に明かすことはできないのです」
「そんな規則はいいから、その冒険者を出せ!!」
「その冒険者の特徴とかはないんですか?」
シオンは貴族に怒鳴られてるオリガさんを助けようと助け舟を出す。
「なんだ! いきなり平民のガキが話に入ってくるな!」
「あー! 君だよね、昨日闘技場でBランク冒険者を倒したのって!」
俺のことだったのか!
「あっ、王子、このような汚い場所に来てはなりませぬ」
「お、昨日、闘技場にいたやつか!」
シオンは昨日、自分が魔術をかけた重要人物を覚えていた。
騎士が立ちふさがり、剣を抜き圧をかけて言う。
「無礼であるぞ、この方を誰と心得る!!」
普通に話したっていいじゃないか、同い年らしいし。
「ルーファス・フォン・シルファリオンでしょ。この国の王子の」
シオンは鑑定で調べたことをそのまま言った。
「?!―――それはそうだが、王族だぞ、ちゃんと礼儀をするべきだろう」
は? こいつは何を言っている? 王族だから敬え? ふざけてんのか、国を制御し、豊かにしているなら人は敬いもするが、こいつは、ただの王子、まだ政をしていないじゃないか。
していても、俺は相当な人物以外は敬いなどせんがな。
「で? なんか用があったんじゃないの?」
「貴様ぁ」
騎士の二人がキレているが、お構いなしだ。
「威圧するつもりなら、もっと強くなってから偉ぶるんだな。その威圧は不愉快だ。つい殺したくなっちまう」
シオンが威圧に殺気を混ぜて騎士たちに死を何回か体験させる。
「やめてよ、二人とも。この人は僕の客人だよ、失礼なことをしないでよ」
ルーファスや冒険者たちはシオンの騎士たちだけに向けられた威圧に気づかない。気づけない。
「はっ、すみませんでした」
俺じゃなくて王子に謝るのは別にいいけど、そんなに震えながら睨まないでほしいなぁ。
「この後は、暇かな? 暇なら王城に遊びにに来てよ!」
えぇ、これから何かを討伐しようとしてたのにぃ。でもまぁ、いいか、久々にあいつにでも会うとするかな。
「あぁ、大丈夫ですよ」
あまりに騎士たちに睨まれるから少し敬語にした。
馬車に乗り込み、シオンは、ルーファスや騎士たちと王城に向かった。
・・・
「開門――!!」
シオンたちは王城の門内に入り、門から歩いて王城の入り口に向かう。長い。
【空間魔術 遠見】で王城の状態を視る。王城では、貴族たちが喋っていたり、騎士が訓練をしていたり、美しく整えられた庭園で夫人らがお茶会などをしていた。この魔術なら、遠くに居ても見えるようになる。壁があっても見える透視とかはまた別の魔術で可能となる。
「シオン様ですね、国王陛下がお待ちです」
「えー、もう行っちゃうのー」
「申し訳ございませんが、王命ですので」
俺は執事に案内され、王の待つ部屋の前に着く。王城の配置されている家具などは変わっているが、構造は変わっていない。立て籠ったり、隠れて攻撃できるようになっている。
最初に建てた時、百人単位で敵が攻め込んで来るかもしれないという前提で作った。
防衛としての機能美が残っている。
「シオン様をお連れしました」
「入れ」
執事が俺に礼をし、去っていった。
「失礼する、イスタール。久しぶりだな」
「ん? わしはお前に会ったことはないぞ」
「あれ? 忘れちゃった? 数年前くらいにも会っているだろう。ほれ、元勇者パーティーがここにいる元パーティーメンバーの魔術師であるアリシアに会いに来ていただろ」
「あぁ!! いたぞ、成人したばかりのわしに酒をたらふく飲ませた者だな。しかし……、自分から神だと言うのですね。創造神でありながらこの国 シルファリオン王国を作り繁栄させた初代国王様」
あの若き好青年王が今は老い先短い爺になっているか。年月の流れを感じさせるな。
「ほぉー、俺のことを覚えていてくれたか? 忘れていると思ったぞ。しかも、よく俺が言ったことをすぐに信じるんだな。俺のことは聞かされていたか?」
「はい! 儂のお爺様によく思い出話をしてもらっていて話に度々出てくるので」
「しっかし、よく俺が来ていることに気が付いたな。あの王子か?」
「えぇ、昨日ギルドでのことを孫から聞きまして、もしやと思い、呼ばせていただいた次第です」
「なかなか愉快な子だったぞ、昔のお前に似ているな、たまに神界から見ていたぞ、我の次代の国王の子孫はどうなのかをな」
「それでですね、この度はどのような目的で来られたのですか?」
「アリシア殿には、お会いになりますか?」
「これから、どうされるおつもりで?」
「武術大会への出場ですか、それとも魔術の方で?」
イスタールが顔を近づけ、怒涛の勢いで聞いてくる。
「うるさい、近い。特には、決めていないが、とりあえず、旧友たちに挨拶回りと墓参りをする予定だ。あと、一応学園の様子も見ておこうかな」
「そうですか。しかし、なぜ学園へ? そういった場では動きに制限があるのでは? では、こちらから後々のために各地の領地を好きに移動できるように書状を作っておきます。それとは別でお願いがありまして、この王都に住んでみませんか?」
「なぜだ、神の力を使うつもりか?」
「いえ、先代たちや儂の守ってきたこの国を見てほしいのです。というのもありますが、英雄になったころの物語をお聞かせください」
「書状はありがたくもらうよ、話くらいならいいぞ。家はそのうち王都に買うとするか。それと学園に行くことは視察だ。次代の子らの成長を見に行く」
ありがたい物をもらったなぁー。これがあると、領地の検問に引っかからずに列を素通りできるから楽でいいんだよな。
「そろそろ、アリシアにも会うとするかな。ここでのアリシアの立場はどうなのだ?」
「アリシア殿には、大変助かっております。うちの老害どもよりも遥かにありがたい存在です。過去を知り、変化すべき時には手助けしてもらい、急すぎる変革には正確に理由を述べて止めてくださいます。今はご意見番としての役割を果たされています」
「そうか。しっかり居場所があることが分かり、安心した。では、俺は行くよ」
石貨 1円
小銭貨 5円
中銭貨 10円
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銅貨 1000円
銀貨 1万円
金貨 100万円
白金貨 1億円
黒金貨 100億円
通貨単位 1円=1CL
本文にはまだ合わせていないのでご注意を。
平民は月に銀貨15枚程度で生活しています。
「ああ、高いんだな」と感じてもらえれば幸いです。